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2章 王族騎士、子育てお手伝い
幼馴染の騎士
しおりを挟む俺――エリウス・カニュアス・リンファドーレはカニュアス王国王都郊外にある孤児院に捨てられていた。
孤児院はところどころ穴を塞いだような跡のある、貧乏が目に見えるような場所。
雨漏りは当然だが、バケツに溜めてエルフの院長が[浄化]の魔法で飲み水にしてくれたり、隙間風を魔石に込めて夏の冷風、冬の暖風に利用したりとかなり自然とともに生活していたように思う。
それが可能だったのは、自然を崇拝するエルフの院長だったからこそ。
物心着く頃、同年代なのに一つ年上のフェリツェが俺をとても可愛がって、世話を焼いてくれた。
俺以外にも血の繋がらない弟妹、兄姉はいたから特別俺だけに優しいわけではなかったけれど、魔力の強い俺はまったく魔力のないフェリツェの側がとても居心地いい。
普通の人間も魔力は多少持っている。
強すぎる魔力は他者には毒で、当時制御できなかったもんだからフェリツェ以外の子どもにはどうしても距離を取られてしまったのだ。
フェリツェだけ。
フェリツェだけが、俺の手を握ってくれた。
院長に魔力の制御を教わり始めた十歳になる頃、俺を迎えにきたという者が孤児院を訪れる。
俺がいた頃も時々『どこどこの貴族が……』という貴族の落とし胤が預けられていたから、まさか俺も、と驚いた。
フェリツェと離れるのが嫌だ、と思ったけれど、使者はでっかい金貨の入った袋を院長に手渡したのを見て孤児院を出ることを決める。
あれは俺の今までの養育費、らしい。
院長は俺の様子を見て渋っていたが、俺の意思を尊重してくれた。
そうして俺は俺の本当の親に出会う。
俺の本当の親はこの国、カニュアス王国の前王陛下――現在は公爵様だった。
前王陛下は上級メイドである魔人サキュバスと密かに逢瀬を重ねていらしい。
しかし彼女はその生態的にどうしても生気を吸ってしまうため、王の身を案じた周囲により引き離されたという。
実際王族でなければ三日で衰弱死していたとか。
母はそんな事情もあり、親に無理矢理魔人国に連れ帰られることになった。
当時すでに胎に俺を孕んでいたが、父には黙って。
そして、産まれた俺はカニュアス王国王都近郊の孤児院に預けられた。
魔人の国よりも父に近い、王都の孤児院ならいつか息子――俺が実父に再会できるだろうから、と。
カニュアス王族の血を引く俺のことを、故郷とはいえ魔人の国で育てられないと思ったのもあるだろう。
おかげで本当に実父に引き取られ、魔力の使い方を学んで成長した俺には十代目王のハイエルフの高純度魔力で四属性すべての魔法が使える、先祖返りスキルが発現した。
だが、孤児院で血は繋がらないながらも仲良く雑魚寝したり、四六時中誰かが側にいる賑やかな生活から貴族の静寂を好む生活に心が冷めていく感覚に悩んだ。
父は一日の予定確認を兼ねた朝食と、予定を無事にこなした報告を兼ねた夕食時しか顔を合わせず、子どもであっても一人で寝なければならない。
着替えは使用人にやらせなければいけない。自分でできるのに……。
それに覚えることが多く、遊ぶ時間はない。
就寝時以外は無言の護衛や使用人、メイドが見張るように側にいて落ち着かなかった。
社交界デビュー後なんてもっと孤児院にいた頃が幸福だったと知る。
表面と腹の奥ではまったく違う人種の存在に恐れ戦いてしまった。
平民の時とまるで違う世界に、孤独でやせ細っていく自分の心。
父に俺の様子がおかしいことを見抜かれ、熱心に向き合ってもらって素直に本心を吐露してだいぶ気持ちは軽くなったけれど――それでも間違いなく、すでに俺の心には大きな穴が空いていた。
貴族学院で男女問わず俺に言い寄ってくる人間はいたけれど、彼ら彼女らの目は俺ではない、俺の肩書や地位しか見ていなかったから到底婚約者も作れない。
卒業して成人しても人間不信を拗らせてしまった俺を見兼ねた父が「騎士団に志願してみてはどうだろう」と勧めてくれた。
理由は役職が優先され、本人の出身をそれほど重視されないからだ。
確かに座って作業しているよりは、体を動かす方が好きなので「ひとまず見学から」と言って騎士団の訓練場に赴く。
そこで――騎士見習いになったフェリツェの姿を見た瞬間、騎士団に入団を決めた。
本当に、自分でも驚くほど即決だった。
魔力のないフェリツェは人の倍の見習い期間を経て、正式に騎士になった。
だが、俺は産まれる気魔力が多く引き取られて以降教養として剣も教わっていたので人よりも早く見習いから正規騎士になってしまう。
そこに今の立場や身分差を感じたが、フェリツェと過ごすうちに自分の心に空いた穴がどんどん埋まっていくのを感じた。
なにより、騎士団の風潮のおかげか孤児院にいた頃のように接してくれるフェリツェに本当に癒される。
問題はそのフェリツェ、騎士団に入団して同じ魔物討伐任務に出るようになってから知ったことではあるけれど……ものすごく魔物に好かれやすい体質であったこと。
特に人間を苗床にする系や催淫効果持ちで体液から魔力を喰らう食魔系に。
おかげでフェリツェに対する……“兄”や“弟”のような情はその事実に直面して三分で性欲を伴う“恋情”に進化した。
遠征や近場に魔物討伐任務に出向く度にそんな魔物に襲われるもんだから、毎度毎度理性を総動員して己を律する。
あまりにも毎回過ぎて部隊長や副団長にまでかけ合って、フェリツェを魔物討伐に連れて行くのはやめた方がいいのでは、と進言したほど。
だが返答は予想外。
騎士団長も副団長も部隊長も、みんなわかっていてその体質を“魔寄せ”として利用していた。
腹も立ったがフェリツェの“魔寄せ体質”は魔物討伐に非常に役立つものだったから、騎士の部分で納得もしてしまう。
それに、怒った俺に対して団長たちが「それならば『フェリツェの護衛役』を俺に任せる」なんて言うものだから下心が出てしまったんだ。
彼の乱れた姿を俺だけが見られる。
襲われる前に助けられるし、そうやって恩を売れば彼に“弟”ではなく一人の“男”として見てもらえるようになるかもしれない――とか。
そんな醜い部分を知られたくない反面、ぶちまけて嫌われてしまいたいような、でも嫌われたくないし……と、ぐちゃぐちゃになる。
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