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1章 魔力なし騎士、卵と出会う
アウモ、爆誕
しおりを挟む翌朝、いつも通り日の出前に目を覚ますと、添い寝していた卵にひびが入っていた。
え? 俺、寝ている間に卵割っちゃった……?
寝相には自信があったんだけれど、まさか……と起き上がってベッドに正座してしまう。
様子を伺っていると、卵に新たな亀裂が入った。
あれ? 新しい亀裂……? ってことは――もしかして!?
『ンピ』
「っ!?」
パキン、となかなか重々しい音ともにカケラがベッドの上に転がる。
そして開いた穴から鼻先が出てきた。
これが――ドラゴンの幼体……!
『プププププー』
「お、おは……おはよう」
おはようって。俺なに言ってんの?
自分で自分の言った言葉に謎の恥辱を感じながらも体が全部出るように殻を取り除く。
少し濡れた体。
角度によって薄い水色を中心に虹色に変わる鱗に覆われたその生き物――ドラゴンは、ぷぴー、ぷぴーと鼻を鳴らすように鳴きながら俺の膝の上にのっかかってくる。
お、重い。いや、背負っている頃から五キロくらいは余裕であるとは思っていたけれど。
「あ、そうだ……名前」
セラフに「名前は早めにつけてあげてね」って言われていた。
それを聞いてからずっと考えていた名前がある。
「お前に名前を考えておいたんだ。アウモ。ほら見てご覧」
抱え上げて、カーテンを開く。
狭い寮の部屋には窓が一つしかないんだけれど、そこから見える朝焼け。
この時間に生まれたのなら、この名前にしようと決めていた。
朝ぼらけの意味のある古語。
エルフの院長が教えてくれたので、古語が少しだけわかる俺から、生まれてきたドラゴンへ最初に贈ろうと思っていた名前というプレゼント。
「アウモ。お前の名前はアウモだよ。のんびりと開ける夜。一日の始まり。俺はフェリツェ。今日からお前のお父さん。よろしくな」
『パゥォン』
鼻先を鼻先にくっつけられた。
なんかそれだけで可愛いし、もしかしてもう言葉がわかるのだろうか?
ドラゴンって知性が高いというしな?
まあいいや、ドラゴンが生まれたら、とりあえず風呂。
ドラゴンといっても本物の竜種は自然を司る地水火風の妖精竜と、その眷属のみ。
他はデカくて強いトカゲの進化系。
この子も所詮はでっかいトカゲだ。
そしてトカゲは水浴びが好きらしい。
狭い簡易キッチンの桶に水壺から水を張り、熱を出す魔石を入れて一分。
それなりに温まったら、お湯の中から熱石を拾ってタオルを用意。
「綺麗にしようなー」
『パウウ?』
「お湯だよ。あったかくて気持ちいいんだ。ほらー」
『パウ、パウォァ……ウオオオォーーーン!』
「声でか」
耳イカれたかと思った。
「おはよう。なんかすげぇでかい声が聞こえたんだけれど」
「うおお、なんか生まれてる!?」
「え!? フェリツェのところの卵が孵ったのか!?」
「おお、本当だ!」
「え、なになに? 生まれたの!? 見れる!?」
アウモのでかい声に寮部屋に住む他の騎士たちがアウモの雄叫び? に驚いて俺の部屋にわらわら集まり、勝手に扉を開けて覗き込んでくる。
騎士団寮の部屋は緊急招集に備えて基本的に扉に鍵はかからない。
それをいいことに……どいつもこいつも。
「ええい、うるさい!」
「うわあ!」
「やば、寮長……!」
「フェリツェ、今何時だと思っている! 非番の者や夜間警備上がりの者もいるんだぞ! 安・閑・恬・静!!」
「すっ、すみません!」
寮長はまずい、寮長は!
アウモを抱えて廊下に出て寮長に頭を下げる。
寮長、眼鏡が作れるお金持ちのお貴族様――階級も第三部隊隊長。
個人の部屋に鍵がついていない騎士団寮、俺のような平のではマナーや礼節が足りていないのでそういう方面も教えてくれる鬼教官も兼任している。
寮に住む平民出身騎士や下級貴族騎士にとってある意味騎士団長、副団長よりも怖い。
変な汗がドバっと出ながらもペコペコするが、寮長にジト目で睨みつけられる。
「今のような大声を出すようなら厩舎に置いて育てなさい」
「え!? いや、今さっき産まれたばかりで……」
「そもそも、卵が孵るまではともかく生まれたあとのことはなにも決めていなかっただろう?」
「あ」
そう言われると、確かに。
なんとなく孤児院にいた頃のような感覚でいたが、騎士団寮に赤子を育てるような道具はない。
卵を拾ってからセラフに話を聞いてドラゴンの生育について勉強したつもりになっていたが、具体的に必要なものを買いに行ったり寮長に相談したりしていなかった。
俺の顔を見て深く溜息を吐きながら「なにも相談がないから、もう色々決まっているのかと思えば」と呟かれてしまうう。
ああああああ、それは本当にその通りーーー!
「も、申し訳ありません! あの、どうかこの子を俺の部屋で育てることを許可していただけませんか!?」
「こちらもドラゴンの育成などわからないのだから、せめて事前に相談しなさい」
「それは本当に、俺の落ち度で申し訳」
『ポアアアアアアアアアア!!』
……この小さな体のどこからこんな大声が出るのか。
突然バターン、と夜間警備を終えた騎士数人が部屋から飛び出してきて「魔物の声が」「魔物の強襲か!?」とタンクトップ、パンツ一丁で剣を持ち、廊下をきょろきょろ。
その姿と腕の中で暴れ始めたアウモを抱え直し、恐る恐る部屋の前に集まっている同僚たちを見回すとジッと睨むように見つめられて居心地悪くなる。
「今日だけならここで皆に頼み込めば許せるが、これが成長するまで続くのであれば引っ越しを考えなさい。すぐに入れるのは森の見張り塔の最上階がいいのではないか? 騒音があってもあそこなら問題になることはないだろう。自然も多いし、町へも騎士寮にも訓練場にも一本道。掃除は必要だが、君の日頃の手入れのおかげでそれほど汚れてはいないだろうから、必要なら家具もここから運ぶのを手伝おう」
「あ、う、あ……」
生まれて五分でアウモ、俺と共に寮から出ることになってしまった。
いや、まあ、これは俺が悪い。
素直に「はい、そうします」と即座に頷いた。
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