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1章 魔力なし騎士、卵と出会う

頼りにしよう

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 数日間、自室のベッドからシートを剥いでおくるみのようにして背負い生活した。
 セラフには「卵が孵る前から側にいると、親だと覚えてくれるよ」た教わったから、四六時中一緒にいるようにしたのだ。
 孤児院で幼児の世話もした経験があるから、まあなんとかイケるだろうとこの時はたかを括っていたと思う。
 
「フェリツェ、これから武器保管庫?」
 
 愛馬ロッテを連れたエリウスが、武器保管庫に向かう俺に話しかけられた。
 帰ってきてからあまり見かけなかったのに、急に気まずい気持ちになる。
 多分、昇進の話が進んでいるから忙しいんだろうな、と勝手に思っていた。
 日課の武器在庫確認……渡り廊下を進めばすぐに武器保管庫なので、わざわざついてきてもらわなくても大丈夫なんだけどなぁ。
 そう思いながらも当然のように隣に立って歩き出したエリウスに、悪い気はしない。
 
「うん。そのあと薬品保管庫に在庫の確認。次の遠征も早めに決まりそうだし」
「ああ、前回と同じ場所の奥地、魔物の数と種類が増えているらしいよね。ソーニャ部隊長は『強行してもよかったんじゃないか』って言っていたけれど、どれくらいの種類、数がいるのか冒険者協会に調査してもらってからの方が確実だし」
「なんなんだろうな? 魔物が急増するなんて……ちょっと気味が悪い。なにかでかい、ボス型の魔物が生まれた、とか?」
「多分」
 
 騎士団というのは、基本的に民間機関である冒険者協会で手に負えない魔物を討伐するのが仕事だ。
 冒険者は騎士団よりも苛烈。
 戸籍のないならず者でも身分証となる冒険者証を取得できるが、騎士団のように訓練を受けられるわけでもないのに、収入は完全歩合制。
 魔物と戦い、勝利しなければ生活ができない。
 徒党を組む者たちもいるが、商売敵となる新人は歓迎されず中には見殺しにされたり嘘の情報で陥れられたりもするそうだ。
 無法者が大多数ながらも、実力のある冒険者は英雄のように祭り上げられて庶民の憧れと尊敬を集める。
 冒険者協会を通して魔物の数や種類を調べ、徒党を組んでも冒険者では対処できない魔物の討伐に騎士団が派遣されるのだ。
 だが、基本的に騎士団は“国”を守るのが役目。
 前回のように騎士団が遠征に出てまで魔物の討伐を行うのは、魔物が“国”の脅威になると判断された場合だ。
 前回の遠征はあの地域の魔物の数が冒険者の手に負えないほど増えたため。
 一応、冒険者とは名ばかりで地元に根づいて地元を守る自警団みたいな冒険者が七割。
 本当に各地を渡り歩く冒険者二割。その他特殊例一割。
 市民に「騎士団は腰が重い」と文句を言われてしまうが、公僕なので仕方ない。
 俺が冒険者ではなく騎士団に入団したのはお給料が安定しているのと、孤児院の維持は国の援助で成り立っているから。
 十分とは言い難い支援で、貧しくても育ててもらったのは国のおかげ、税金を支払っている国民のおかげだと思っているからその恩返し。
 まあ、あとは今いる弟妹やこれからも預けられる弟妹のために、孤児院出身者が社会貢献しているところを周囲に見せていきたい――とかね。
 だから魔力がなくてその辺の冒険者よりも弱くったって前線に行くし、魔物とだって戦う。
 弱くて戦いの役に立てない自覚があるから、備品の整頓や手入れ、在庫の管理、軍馬の世話、訓練所更衣室の清掃とか後方支援を頑張らないとじゃん?
 簡単な単語、数字なら完璧に書けるし。
 
「っていうか、エリウスはロッテを厩舎に連れていくんじゃないの?」
「うん、まあ、そうなんだけれど……その……フェリツェがなにか困っていないかな、とか」
「え? いや、別になにも困ってないけど……?」
 
 在庫管理なんていつもやっていることだ。
 倉庫前までついてきて、つき合わされているロッテが迷惑そう……ではないけれど、休めないだろうに。
 あ、もしかしてマリスやディックからなにか言われたのだろうか?
 俺は大丈夫だけれど、卵が孵ったらなにか頼ることもあるかも、とだけ言って倉庫に入る。
 でもなんていうか、そうか。
 エリウスは、俺に頼られたいって本気で思ってるんだ……?
 
「ふーーーーん……」
 
 ちょっと嬉しく思うのはおかしいのかな。
 俺だって男だし、年上だし、昔みたいに頼られたい気持ちの方が大きいけれど……孤児院を卒業していった兄姉に「大きくなったね」「しっかりしてきたね」「頼もしくなった」と褒められると嬉しかったのを思い出す。
 弟妹にもそうやって褒めてやることも大事だからと思っていたけれど、エリウスもそういう感じなんだろう。
 そうだよな、エリウスももう成人してるもんな。
 俺も、もう何度も命を助けてもらっているし、その上結構な痴態を見られて助けてもらっているし……。
 うん、そういうことなら素直に頼ってみよう。

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