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1章 魔力なし騎士、卵と出会う
帰郷の馬車の中で
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「あー、ずっるいなぁー! 竜の卵なんて拾ってくるなんてさぁー」
「えへへへー。いいだろー。いやぁ、今回も生気吸い取られて死ぬかと思ったけど、ドラゴンの卵を手に入れられるなんて俺の運勢も捨てたもんじゃないね」
「フェリツェが魔物を寄せつける体質のおかげで今回の目標討伐数も予定の二週間からたった一週間で済んだもんな」
「そうそう! さすがは“魔寄せのフェリツェ”」
「ぐぬぬ……っ! 不本意!」
翌日、帰郷の相乗り馬車の中で大きな卵を抱えたまま座る俺。
その俺の同期、マリス・キィムとディック・クラーカラーが馬車に揺られるのを利用して、左右からツンツンと突いてくる。
こいつら、普段は口喧嘩ばっかりしているくせに……!
俺をいじる時だけ息ぴったり!
まあいい、俺の腕の中にはドラゴンの卵。
他の歩兵騎士たちも羨望の眼差しで卵を見ている。
この卵が孵れば、魔力のない孤児の俺がエリート騎士一直線!
魔寄せ、なんて不本意な二つ名をつけられていたが、この卵が孵れば“竜騎士フェリツェ”になれる! はず!
「っていうか、団長には許可をもらったのか?」
「もちろん! 竜騎士はセラフしかいなかったから、うまく生育できるといいなって言ってくれた。まあ、ドラゴンの生態とか、王立図書館で調べてこいっていわれてめちゃくちゃ困っているんだけれど」
「ああ、お前文字の読み書きできないもんな」
「そう」
マリスは騎士爵の父がいるため裕福。ディックは子爵家六男。
二人とも文字の読み書きは幼少期から家庭教師を招いて教わったという。
しかし、俺は孤児院出身。
絵本で簡単な単語の読みくらいはできるが、ドラゴンの生態に関する本は間違いなく専門書。
俺、多分読めない。
「エリウスに読んでもらえば?」
「セラフにも聞いてみたりな」
「うん、そうだな。頼んでみるよ」
「なに? なんか喧嘩でもしたの?」
俺があからさまにテンション低く答えたので、マリスが心配して首を傾げる。
いやあ、喧嘩はしてないんだけれど……。
「ちょっと、頼りすぎかな、とか、思って」
「「ええ……?」」
「な、なんだよその反応! だって……!」
今回の遠征でも助けてもらったし、前回も、その前も、その前の前も……見習いから昇格して一年経つのに、年下で後輩のエリウスに毎回助けてもらっている。
十歳で孤児院を出ていくまでは、俺がエリウスに「フェリ兄、フェリ兄」と頼られていたのに。
いや、まあ、時々「どこどこの誰々様の隠し子がこちらの孤児院に~」っていうことはあった。
でもまさかエリウスが前王陛下――現在は公爵様のご落胤とは思わないじゃん?
文字の読み書きもろくにできない、亜人も人間も分け隔てのないこの国で魔力のない孤児の俺が、十五歳から騎士見習いとして下積みしてきて、人の倍の時間をかけてやっと正式な騎士になった俺とは身分も才能も実力も違う。
エリウスは公爵家の嫡男になって、五位だけど王位継承権ももらって王族に仲間入りして、当然教養も身に着け魔力も豊富。
うちの国、カニュフェス王族は基本的に人間だが、人間だけの国や亜人だけの国、魔人だけの国の王族にはない一度入った血は『先祖返りスキル』という形で子孫に発現する特性を持っており、亜人を妻に迎えることも多い、混血一族だ。
エリウスにも四代前のハイエルフの能力が先祖返りスキルという形で発現しており、高純度魔力で四属性すべての魔法が使える。
孤児院にいた頃しか知らない俺にとってエリウスはたった十年で雲の上に行ってしまった存在。
貴族に引き取られた子はだいたい二度と会えないから、王族に入ったエリウスなんてもう噂を聞いたり王城で姿を見かける程度だろうって思っていたのだ。
それなのに、俺が騎士になったら入団してくるし一ヶ月で見習いから正規騎士になるし、部隊副隊長になる話も出ているらしいし……いやまあ、七光りと違って実力も伴っているから誰も文句言わないのはわかるんだ。
でも、俺が魔物に捕まる度に助けてくれて、しかも……その……だいたい痴態を晒す羽目になっているから、これ以上そんなエリウスに頼るっていうのは、さあ……。
「えっと、その……身分差もある、し」
「まあ、それはあるけど騎士団内で身分よりも役職が優先されるじゃないか。今のところエリウスだけじゃなく俺たちにとってもお前の方が先輩だろ」
「そうそう。役職と在籍年数優先だからこそ、俺たちも普通に会話しているわけだし」
「でもそれはそれで年下の後輩に毎回助けてもらっている上フォローまでしてもらってるってことじゃん……?」
「「まあ、それはそうだけれど」」
否定しないんかい。
しかし二人とも「でもエリウスはフェリツェに頼られたいって思っているよ」とか「あいつが騎士団に来たのはフェリツェと一緒にいるためって言ってたし」とか急にフォローしてきた。
だから、お前らはいつも喧嘩しているくせにこういう時だけ息ぴったりなのなんなの。
「マジでエリウスは気にしないから、聞いてみろって。竜騎士になって出身孤児院に仕送りしたいんなら使えるモンは全部使うくらいのしたたかさがないとダメだろう」
「リンファドーレ公爵様が市井の孤児院に多額の寄付をするようになったていう話は聞くけどな」
「ばっか、余計なこと言うな」
「え、そ、そうなの? 聞いてなかった。今度の休みに行って院長に聞いてみよう」
ガタン、と車輪が大きな石でも踏んずけたのか、尻が長椅子から離れたから慌てて卵を抱き締め直す。
あ、卵があるから休日に孤児院に行くのは無理か。
「えへへへー。いいだろー。いやぁ、今回も生気吸い取られて死ぬかと思ったけど、ドラゴンの卵を手に入れられるなんて俺の運勢も捨てたもんじゃないね」
「フェリツェが魔物を寄せつける体質のおかげで今回の目標討伐数も予定の二週間からたった一週間で済んだもんな」
「そうそう! さすがは“魔寄せのフェリツェ”」
「ぐぬぬ……っ! 不本意!」
翌日、帰郷の相乗り馬車の中で大きな卵を抱えたまま座る俺。
その俺の同期、マリス・キィムとディック・クラーカラーが馬車に揺られるのを利用して、左右からツンツンと突いてくる。
こいつら、普段は口喧嘩ばっかりしているくせに……!
俺をいじる時だけ息ぴったり!
まあいい、俺の腕の中にはドラゴンの卵。
他の歩兵騎士たちも羨望の眼差しで卵を見ている。
この卵が孵れば、魔力のない孤児の俺がエリート騎士一直線!
魔寄せ、なんて不本意な二つ名をつけられていたが、この卵が孵れば“竜騎士フェリツェ”になれる! はず!
「っていうか、団長には許可をもらったのか?」
「もちろん! 竜騎士はセラフしかいなかったから、うまく生育できるといいなって言ってくれた。まあ、ドラゴンの生態とか、王立図書館で調べてこいっていわれてめちゃくちゃ困っているんだけれど」
「ああ、お前文字の読み書きできないもんな」
「そう」
マリスは騎士爵の父がいるため裕福。ディックは子爵家六男。
二人とも文字の読み書きは幼少期から家庭教師を招いて教わったという。
しかし、俺は孤児院出身。
絵本で簡単な単語の読みくらいはできるが、ドラゴンの生態に関する本は間違いなく専門書。
俺、多分読めない。
「エリウスに読んでもらえば?」
「セラフにも聞いてみたりな」
「うん、そうだな。頼んでみるよ」
「なに? なんか喧嘩でもしたの?」
俺があからさまにテンション低く答えたので、マリスが心配して首を傾げる。
いやあ、喧嘩はしてないんだけれど……。
「ちょっと、頼りすぎかな、とか、思って」
「「ええ……?」」
「な、なんだよその反応! だって……!」
今回の遠征でも助けてもらったし、前回も、その前も、その前の前も……見習いから昇格して一年経つのに、年下で後輩のエリウスに毎回助けてもらっている。
十歳で孤児院を出ていくまでは、俺がエリウスに「フェリ兄、フェリ兄」と頼られていたのに。
いや、まあ、時々「どこどこの誰々様の隠し子がこちらの孤児院に~」っていうことはあった。
でもまさかエリウスが前王陛下――現在は公爵様のご落胤とは思わないじゃん?
文字の読み書きもろくにできない、亜人も人間も分け隔てのないこの国で魔力のない孤児の俺が、十五歳から騎士見習いとして下積みしてきて、人の倍の時間をかけてやっと正式な騎士になった俺とは身分も才能も実力も違う。
エリウスは公爵家の嫡男になって、五位だけど王位継承権ももらって王族に仲間入りして、当然教養も身に着け魔力も豊富。
うちの国、カニュフェス王族は基本的に人間だが、人間だけの国や亜人だけの国、魔人だけの国の王族にはない一度入った血は『先祖返りスキル』という形で子孫に発現する特性を持っており、亜人を妻に迎えることも多い、混血一族だ。
エリウスにも四代前のハイエルフの能力が先祖返りスキルという形で発現しており、高純度魔力で四属性すべての魔法が使える。
孤児院にいた頃しか知らない俺にとってエリウスはたった十年で雲の上に行ってしまった存在。
貴族に引き取られた子はだいたい二度と会えないから、王族に入ったエリウスなんてもう噂を聞いたり王城で姿を見かける程度だろうって思っていたのだ。
それなのに、俺が騎士になったら入団してくるし一ヶ月で見習いから正規騎士になるし、部隊副隊長になる話も出ているらしいし……いやまあ、七光りと違って実力も伴っているから誰も文句言わないのはわかるんだ。
でも、俺が魔物に捕まる度に助けてくれて、しかも……その……だいたい痴態を晒す羽目になっているから、これ以上そんなエリウスに頼るっていうのは、さあ……。
「えっと、その……身分差もある、し」
「まあ、それはあるけど騎士団内で身分よりも役職が優先されるじゃないか。今のところエリウスだけじゃなく俺たちにとってもお前の方が先輩だろ」
「そうそう。役職と在籍年数優先だからこそ、俺たちも普通に会話しているわけだし」
「でもそれはそれで年下の後輩に毎回助けてもらっている上フォローまでしてもらってるってことじゃん……?」
「「まあ、それはそうだけれど」」
否定しないんかい。
しかし二人とも「でもエリウスはフェリツェに頼られたいって思っているよ」とか「あいつが騎士団に来たのはフェリツェと一緒にいるためって言ってたし」とか急にフォローしてきた。
だから、お前らはいつも喧嘩しているくせにこういう時だけ息ぴったりなのなんなの。
「マジでエリウスは気にしないから、聞いてみろって。竜騎士になって出身孤児院に仕送りしたいんなら使えるモンは全部使うくらいのしたたかさがないとダメだろう」
「リンファドーレ公爵様が市井の孤児院に多額の寄付をするようになったていう話は聞くけどな」
「ばっか、余計なこと言うな」
「え、そ、そうなの? 聞いてなかった。今度の休みに行って院長に聞いてみよう」
ガタン、と車輪が大きな石でも踏んずけたのか、尻が長椅子から離れたから慌てて卵を抱き締め直す。
あ、卵があるから休日に孤児院に行くのは無理か。
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