Collarに光の花の降る

夕凪

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 始めはさして自身のダイナミクスを気にしてもいなかった柚木だが、歳を重ねDomやSubについての理解が深まっていくにつれ、徐々に恐怖が膨らんでいった。

 検診が近づくたびに、どうしよう、と思う。

 今回も、Usualだったらどうしよう。

 だって、三隅はDomだ。
 DomはSubとパートナー契約を結ぶものだと、テキストにも書いてある。
 本能的欲求を満たすためにも、パートナーは必ず必要だと、書いてある。
 欲求が満たされない場合、死に至る重篤なケースもあるのだと、書いてある。

 つまり、三隅にはSubが必要なのだ。
 Usualではダメなのだ。

 三隅には現在、パートナー、と呼ぶ相手が居ない。居ない、と、思う。少なくとも柚木は知らない。
 しかし、いま居ないからと言って、この先ずっとパートナーを作らないということはないだろう。
 パートナーが居なければいのちに関わるのだから、きっと作るはずだ。

 柚木が九歳か十歳のときだったろうか、三隅が家に彼女を連れてきたことがある。
 あのときは子どもじみた独占欲で柚木が拗ねたから……三隅は以降二度と恋人を連れてこなくなったけれど。

 パートナーは、きっと、『恋人』よりも深い結びつきなのだろうと、想像がついた。
 そして、もうそれを邪魔してはいけないということも、柚木にはよく理解できていた。

 本能を満たせる相手がいなければ、三隅が死んでしまうかもしれない。
 それだけは絶対に嫌だった。

 柚木は三隅が好きだ。
 他の誰よりも好きだ。

 王子様への憧れや、「柚」と呼ぶ甘い声を独占したいという感情が、いつ頃から恋情に変わったのかはわからない。
 もしかしたら最初から、ほんの子どもの頃から、柚木は三隅に恋をしていたのかもしれなかった。

 三隅がこんな年下の、しかも同性の柚木を同じように好きになってくれる可能性はものすごく低いだろう。
 それでも好きという想いは際限なくこころの深い部分から溢れてきて……。
 いつか、なにかの奇跡が起きて両想いになれたらいいな、と柚木は空想の世界に浸っていたけれど。

 Usualでは三隅のパートナー候補の、スタートラインにすら立つことができないのだと、年を追うごとにわかってしまって、検査結果の『U』の文字を見るたびに柚木は打ちひしがれた。

 この字が、『S』であれば、とどれほど願っても、翌年も、さらにその次の年も素っ気ない用紙に刻まれる文字は同じだ。

 タイムリミットは刻一刻と迫ってくる。
 十五歳までに分化しなければ、その後は一生Usualのままだ。
 そうなれば柚木はもう、絶対に三隅のパートナーにはなれない。

 どうしよう。どうしたらいいのだろう。

 柚木の焦りを嘲笑うかのように、十五歳になった年の二回目の検査結果も、『U』とくっきりと印字されていた。



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