1 / 127
プロローグ
プロローグ
しおりを挟む
「結婚してくれ」
蒼い瞳がひたとエミールを映し、低くなめらかな声がそう言った。
エミールよりも五歳年上ということだから、若干二十歳か。それなのにすでに貫禄の備わった容貌は男らしく整っており、うっかり見惚れそうになる。
しかしエミールはまばたきのついでに半眼となり、飽き飽きとした溜め息を漏らした。
「お断りします」
もう幾度目になるのか数えるのも面倒くさい求婚を、冷たい声でにべもなく撥ねつける。
握られた両手も邪険に振り払った。途端に男がかなしげに眉を曇らせた。
こういうわかりやすいアプローチは、貴族の娘にすればいいのに。
ここにはこの男の無骨な口説き文句を喜ぶ女が、山ほど居ることだろう。
エミールにすげなく振られた男が、行き場をなくした手を無意味に開閉しながら、
「なぜだ」
と問いかけてきた。
この問答も何回目だ、と二度目の溜め息がこぼれる。
「あのですね、ご自分の身分を考えてから物を言ってください」
エミールの返事に男の鼻筋に軽いしわが寄った。
「身分? 私の身分ではきみの結婚相手に相応しくないということか」
至極真面目な顔でそう言った男の肩を、エミールは反射的に、思い切り突き飛ばしていた。
「逆だろっ! このクソ王子っ!」
ついうっかり素の言葉遣いが出てしまう。
エミールはハッとして口を押さえ、それからニッコリと微笑んで頭を下げた。
「あなたの身分と釣り合っていないのは野蛮な田舎育ちのこのオレの方です。庶民のオレが一国の王子と結婚など、誰がゆるすでしょう。というわけでお断りさせていただきます。それでは御機嫌よう」
一礼を終え、踵を返すと追ってきた手に肘を掴まれる。それを叩き落して、エミールは部屋を出た。
背後でドアが閉まる直前、
「また断られた……」
という呟きが聞こえてきて、思わず笑いそうになる。
それをこらえながらエミールは、絨毯の敷き詰められた長い廊下を歩いた。
いったいなぜこんなことになったのか……。
歩きながらエミールは、ここ……サーリーク王国の中枢も中枢、王国のシンボルともいえる王城へ来る羽目になった経緯を思い出していた。
蒼い瞳がひたとエミールを映し、低くなめらかな声がそう言った。
エミールよりも五歳年上ということだから、若干二十歳か。それなのにすでに貫禄の備わった容貌は男らしく整っており、うっかり見惚れそうになる。
しかしエミールはまばたきのついでに半眼となり、飽き飽きとした溜め息を漏らした。
「お断りします」
もう幾度目になるのか数えるのも面倒くさい求婚を、冷たい声でにべもなく撥ねつける。
握られた両手も邪険に振り払った。途端に男がかなしげに眉を曇らせた。
こういうわかりやすいアプローチは、貴族の娘にすればいいのに。
ここにはこの男の無骨な口説き文句を喜ぶ女が、山ほど居ることだろう。
エミールにすげなく振られた男が、行き場をなくした手を無意味に開閉しながら、
「なぜだ」
と問いかけてきた。
この問答も何回目だ、と二度目の溜め息がこぼれる。
「あのですね、ご自分の身分を考えてから物を言ってください」
エミールの返事に男の鼻筋に軽いしわが寄った。
「身分? 私の身分ではきみの結婚相手に相応しくないということか」
至極真面目な顔でそう言った男の肩を、エミールは反射的に、思い切り突き飛ばしていた。
「逆だろっ! このクソ王子っ!」
ついうっかり素の言葉遣いが出てしまう。
エミールはハッとして口を押さえ、それからニッコリと微笑んで頭を下げた。
「あなたの身分と釣り合っていないのは野蛮な田舎育ちのこのオレの方です。庶民のオレが一国の王子と結婚など、誰がゆるすでしょう。というわけでお断りさせていただきます。それでは御機嫌よう」
一礼を終え、踵を返すと追ってきた手に肘を掴まれる。それを叩き落して、エミールは部屋を出た。
背後でドアが閉まる直前、
「また断られた……」
という呟きが聞こえてきて、思わず笑いそうになる。
それをこらえながらエミールは、絨毯の敷き詰められた長い廊下を歩いた。
いったいなぜこんなことになったのか……。
歩きながらエミールは、ここ……サーリーク王国の中枢も中枢、王国のシンボルともいえる王城へ来る羽目になった経緯を思い出していた。
459
お気に入りに追加
785
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる