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光あれ
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寝台でしっかりと体を休め、朝になったらリヒトをお風呂に入れて朝食を食べさせて……離れていた間できなかったリヒトの世話を存分に焼こう、と考えていたユリウスだったが、それは果たされないままに時刻は正午を迎えてしまった。
王城へ行く時間である。
ユリウスは眠り続けるリヒトの髪を撫でながら、う~んと頭を悩ませた。
リヒトをこのまま次兄の屋敷で寝かせておくべきか。
それとも、王城へと連れていくべきか。
リヒトは夜中にユリウスと会話をしたことを夢だと思っている。この子の目が覚めたとき、もしもユリウスの姿がなく自分しか居ないとなると、やはりあれは夢だったのだと結論づけて、ガッカリすることだろう。
それに、目覚めたリヒトがどのような行動に出るのか、予測がつかない。
またひとりで外に出て行こうとするかもしれない。
ひとりで、祈ろうとするかもしれない。
……ハーゼのように。
リヒトを置いていくことには不安しかなくて、それになにより、ユリウス自身がどうしても離れたくなかったため、どうするべきか散々悩んだ結果、ユリウスはリヒトも同行させることに決めた。
腕にリヒトを抱っこして玄関ホールに現れたユリウスを見て、クラウスが軽く眉を上げた。
ユリウスはその兄の視線からリヒトを隠すべく、リヒトを包んでいる毛布を引っ張って、顔を深く覆った。
「見ないでください。減ります」
「遠征前に王城で見たときも思ったが、大きくなったな。これまではおまえが頑なに会わせてくれなかったから、ちゃんと見るのは十二年ぶりか?」
「そうでしょう。これでも大きくなったんですよ。僕がこの子を拾ったときは、まだこの半分ぐらいの身長しかありませんでしたからね」
「半分は言い過ぎじゃないか? だが……まぁ確かに小さかった。ユーリ、意地悪するな。おまえのつがいを私にもしっかり見せてくれ」
「ダメです。兄上は近づかないでください」
ユリウスはアルファである次兄から距離をとり、クラウスの横で心配げな表情を浮かべているエミールへと会釈をした。
「エミール殿、昨夜は遅くに押しかけてしまい申し訳ありませんでした。おかげで快適に休むことができました。リヒトはまだ熱があるようですが、大丈夫ですよ」
「お疲れがとれたならなによりです。ですがリヒトは……食事もまだ」
「僕のオメガはお寝坊さんなので。いいんです、いまはゆっくり寝ていて。そのことについても後でちゃんと説明します。この子が起きるときには僕が隣に居てあげたいので、このまま連れて行きますね」
腕の中のリヒトを大切に抱え直し、ユリウスはリヒトも同行させることをクラウスとエミールに説明した。
「マリウス兄上にも会わせることになるが、いいのか?」
「背に腹は代えられません」
リヒトをひとりにしないということはすなわち、国王への遠征報告の席に同席させるということで、リヒトをマリウスにも見せるということになるのだが、離れるという選択肢がない以上仕方のないことだった。
ユリウスの返事を聞いたクラウスが、苦笑をじわりと口元に浮かべ、
「それでは行こうか」
と、面々を促した。
ユリウスはリヒトを抱っこしたまま馬車へと乗り込み、王城への道を揺られた。
ユリウスの側近のロンバード、そして万が一ユリウスがリヒトから離れなければならないときのリヒトの世話役として、テオバルドも同じ馬車に乗っていたが、二人ともユリウスに「代わりましょうか」とは言わなかった。
リヒトの抱っこ役をユリウスが苦に思うはずがなかったし、それを申し出たとしても譲るはずがないということは容易に想像できたからだ。
次兄ふうふの乗った馬車が先行し、続いてユリウスたちの馬車が王城の内門を潜った。ミュラー家の家紋の入った馬車なので中を覗かれるような無礼な真似はされないが、儀礼的に通行許可証の提示は求められる。
門番に御者が応対し、一度止めた馬の足をまた徐々に速めて居館に一番近いポーチまでユリウスらを運んでくれた。
ユリウスはリヒトを抱いたまま馬車を降り、城内へと入った。
軽やかな足取りで階段を上っていると、さすがに背後からテオバルドが、
「代わりましょうか?」
と問いかけてきた。
絶対に断られることがわかっていたが、侍従としては言わずにおれなかったようだ。
ユリウスは唇の端で笑い、
「この子は軽いから大丈夫だよ」
と答えた。
「もうちょっと体重を増やすにはどうしたらいんだろうね、ねぇ、僕のオメガ」
華奢な体つきはいつまでたってもそのままで、いくら小柄な体型が多いオメガといえどもやはり心配になる。
「僕がこうやって抱っこなんてできないぐらい大きくなればいいのに」
ユリウスは本気でそう口にしたのだが、ロンバードが鼻で笑うのが聞こえて顔を巡らせてそちらを睨んだ。
「なにがおかしい」
「いやだって、あんたはリヒト様がどれだけ太っても、絶対に抱っこするだろうなと思ったんで」
片頬で笑う父親の言葉に、テオバルドが「確かに」と同意する。
指摘されたユリウスも、確かに、と思った。
リヒトがどれだけ大きくなっても、到底抱っこできないほど真ん丸になったとしても、ユリウスは意地でもリヒトを抱っこすることをやめないだろう。
「ところで本当に会議の席にも連れていくんですか? 続き部屋で寝かせておくというのは?」
「却下だ。見えない場所に居ては、この子が目覚めたときに僕が気づけない。このまま連れていく」
「了解」
頷いたロンバードが、ひょいとユリウスを追い越して走り出した。巨躯のわりに足音がない。
ロンバードは先を行っていたクラウスに追いつくとなにごとか話しかけ、飛ぶように階段を上って見えなくなった。
「父はどこへ?」
「大方、リヒトの寝る場所を作ってくれてるんだろうね」
「うわ」
それは自分の仕事ではないか、と遅まきながら気づいたテオバルドは飛び上がり、父親の後を追って走っていった。彼の場合は騎士団で鍛え上げられたロンバードの動きと違い、バタバタと足音が賑やかだ。
ユリウスは苦笑でそれを見送り、自身も階段を上った。
マリウスへの報告を行なう場所は、談話室が選ばれた。
かつてユリウスが使っていた私室でもよかったのだが、リヒトと二人で過ごした思い出の詰まる部屋に兄とはいえ他のアルファを立ち入らせるのが嫌で、談話室にしたのだった。
ユリウスがそこへ到着したとき、ちょうど大きなカウチソファが運ばれてきたところだった。
丸いテーブルを囲んで一人用の椅子が置かれている。
その壁際にソファは配置された。
テオバルドがソファに毛布を敷き、枕代わりのクッションを置く。
ユリウスは侍従たちが整えてくれたそこへ、リヒトをそっと横たえた。
エミールがリヒトの体に大判のひざ掛けを三枚重ねて、ふわりと掛けてくれた。
リヒトの眠りは深い。
まだしばらく目覚めそうになかったので、ユリウスはリヒトに一番近い椅子に腰を下ろした。左隣にはエミール、その隣にはクラウスが座る。
右側にはロンバードが座った。テオバルドはリヒトの横に控えておくと言ったが、ユリウスはロンバードの横に座るよう指示を出した。
いまからする話は、テオバルドにもしっかりと聞いていてほしい。
全員が座るのを待っていたかのように、城の侍従が洗練された動作で淹れたての紅茶を配って回った。
お茶菓子もテーブルに並べられる。
きれいな包み紙に入っているのはチョコレートだ。
後でリヒトにあげようと思い、ユリウスは三個手元に置いた。
待つというほどの時間もなく、廊下側から恭しく扉が開かれた。
「皆、ご苦労。疲れも取れぬうちに呼び出して悪いな」
国王マリウスが労いの言葉とともに入室してくる。
全員が立ち上がり、一礼しながら彼を迎え入れた。
「まずは無事の帰還、なによりだ。おまえたちの土産話が早く聞きたくて、昨夜クラウスと会ってから俺は眠れなかったんだ」
はっはっは、と豪快に国王が笑った。
相変わらずの長兄にユリウスは苦笑いを浮かべ、
「遊びに行ったわけではないんですけどね」
と呟いた。
マリウスが「そうだな」と双眸を細めた。
「遊んできたわけではないのだから、成果があるのだろう。早速話を聞こうか、ユーリ」
威厳のある声でそう促してきたかと思うと、彼はユリウス越しにソファで寝ているリヒトを見つけ、子どものように両目を輝かせた。
「おっ! その子がおまえのオメガか! なんだなんだ出し惜しみしおって! どれどれ」
「兄上! 兄上、それ以上近づかないでください。絶対に、こっちへ来ないでくださいよ」
「ユーリ、意地悪を言うな」
次兄と同じようなことを言って、マリウスは眉を下げた。
「おまえの最愛を俺にも見せてくれ」
「ダメです。一歩でも前に出たら絶交ですよ」
子どもじみたユリウスの言葉に、マリウスが絶望したかのように目を見開き、助成を求めてクラウスを見る。
「クラウス。俺は、俺たちの弟のこころがこれほど狭いとは思わなかった! 見るぐらいいいではないか! なぁ!」
「兄上。味方をしてあげたいところですが、私もユーリに嫌われたくはない。諦めてください」
「なんだなんだ! おまえまで俺を邪魔者にするのか! ユーリ。俺に会わせるつもりがないのならなぜ連れてきたんだ」
当然の質問をぶつけられて、ユリウスは肩を竦めた。
「いまはこの子をひとりにしたくないんです。それに、リヒトの状況を兄上にも見てほしかった。兄上、僕のオメガに関する報告をさせてください」
ユリウスは今回の遠征で得た情報をひとつずつ思い出しながら、マリウスに向かって話しかけた。
国王は椅子にどかりと腰を下ろすと、皆に座るよう勧め、背もたれに深くもたれかかった姿勢でユリウスを見つめた。
「よし、話せ」
マリウスの声が、響く。
ユリウスは一度リヒトへと視線をやり、よく眠っていることを確かめてから、口を開いた。
王城へ行く時間である。
ユリウスは眠り続けるリヒトの髪を撫でながら、う~んと頭を悩ませた。
リヒトをこのまま次兄の屋敷で寝かせておくべきか。
それとも、王城へと連れていくべきか。
リヒトは夜中にユリウスと会話をしたことを夢だと思っている。この子の目が覚めたとき、もしもユリウスの姿がなく自分しか居ないとなると、やはりあれは夢だったのだと結論づけて、ガッカリすることだろう。
それに、目覚めたリヒトがどのような行動に出るのか、予測がつかない。
またひとりで外に出て行こうとするかもしれない。
ひとりで、祈ろうとするかもしれない。
……ハーゼのように。
リヒトを置いていくことには不安しかなくて、それになにより、ユリウス自身がどうしても離れたくなかったため、どうするべきか散々悩んだ結果、ユリウスはリヒトも同行させることに決めた。
腕にリヒトを抱っこして玄関ホールに現れたユリウスを見て、クラウスが軽く眉を上げた。
ユリウスはその兄の視線からリヒトを隠すべく、リヒトを包んでいる毛布を引っ張って、顔を深く覆った。
「見ないでください。減ります」
「遠征前に王城で見たときも思ったが、大きくなったな。これまではおまえが頑なに会わせてくれなかったから、ちゃんと見るのは十二年ぶりか?」
「そうでしょう。これでも大きくなったんですよ。僕がこの子を拾ったときは、まだこの半分ぐらいの身長しかありませんでしたからね」
「半分は言い過ぎじゃないか? だが……まぁ確かに小さかった。ユーリ、意地悪するな。おまえのつがいを私にもしっかり見せてくれ」
「ダメです。兄上は近づかないでください」
ユリウスはアルファである次兄から距離をとり、クラウスの横で心配げな表情を浮かべているエミールへと会釈をした。
「エミール殿、昨夜は遅くに押しかけてしまい申し訳ありませんでした。おかげで快適に休むことができました。リヒトはまだ熱があるようですが、大丈夫ですよ」
「お疲れがとれたならなによりです。ですがリヒトは……食事もまだ」
「僕のオメガはお寝坊さんなので。いいんです、いまはゆっくり寝ていて。そのことについても後でちゃんと説明します。この子が起きるときには僕が隣に居てあげたいので、このまま連れて行きますね」
腕の中のリヒトを大切に抱え直し、ユリウスはリヒトも同行させることをクラウスとエミールに説明した。
「マリウス兄上にも会わせることになるが、いいのか?」
「背に腹は代えられません」
リヒトをひとりにしないということはすなわち、国王への遠征報告の席に同席させるということで、リヒトをマリウスにも見せるということになるのだが、離れるという選択肢がない以上仕方のないことだった。
ユリウスの返事を聞いたクラウスが、苦笑をじわりと口元に浮かべ、
「それでは行こうか」
と、面々を促した。
ユリウスはリヒトを抱っこしたまま馬車へと乗り込み、王城への道を揺られた。
ユリウスの側近のロンバード、そして万が一ユリウスがリヒトから離れなければならないときのリヒトの世話役として、テオバルドも同じ馬車に乗っていたが、二人ともユリウスに「代わりましょうか」とは言わなかった。
リヒトの抱っこ役をユリウスが苦に思うはずがなかったし、それを申し出たとしても譲るはずがないということは容易に想像できたからだ。
次兄ふうふの乗った馬車が先行し、続いてユリウスたちの馬車が王城の内門を潜った。ミュラー家の家紋の入った馬車なので中を覗かれるような無礼な真似はされないが、儀礼的に通行許可証の提示は求められる。
門番に御者が応対し、一度止めた馬の足をまた徐々に速めて居館に一番近いポーチまでユリウスらを運んでくれた。
ユリウスはリヒトを抱いたまま馬車を降り、城内へと入った。
軽やかな足取りで階段を上っていると、さすがに背後からテオバルドが、
「代わりましょうか?」
と問いかけてきた。
絶対に断られることがわかっていたが、侍従としては言わずにおれなかったようだ。
ユリウスは唇の端で笑い、
「この子は軽いから大丈夫だよ」
と答えた。
「もうちょっと体重を増やすにはどうしたらいんだろうね、ねぇ、僕のオメガ」
華奢な体つきはいつまでたってもそのままで、いくら小柄な体型が多いオメガといえどもやはり心配になる。
「僕がこうやって抱っこなんてできないぐらい大きくなればいいのに」
ユリウスは本気でそう口にしたのだが、ロンバードが鼻で笑うのが聞こえて顔を巡らせてそちらを睨んだ。
「なにがおかしい」
「いやだって、あんたはリヒト様がどれだけ太っても、絶対に抱っこするだろうなと思ったんで」
片頬で笑う父親の言葉に、テオバルドが「確かに」と同意する。
指摘されたユリウスも、確かに、と思った。
リヒトがどれだけ大きくなっても、到底抱っこできないほど真ん丸になったとしても、ユリウスは意地でもリヒトを抱っこすることをやめないだろう。
「ところで本当に会議の席にも連れていくんですか? 続き部屋で寝かせておくというのは?」
「却下だ。見えない場所に居ては、この子が目覚めたときに僕が気づけない。このまま連れていく」
「了解」
頷いたロンバードが、ひょいとユリウスを追い越して走り出した。巨躯のわりに足音がない。
ロンバードは先を行っていたクラウスに追いつくとなにごとか話しかけ、飛ぶように階段を上って見えなくなった。
「父はどこへ?」
「大方、リヒトの寝る場所を作ってくれてるんだろうね」
「うわ」
それは自分の仕事ではないか、と遅まきながら気づいたテオバルドは飛び上がり、父親の後を追って走っていった。彼の場合は騎士団で鍛え上げられたロンバードの動きと違い、バタバタと足音が賑やかだ。
ユリウスは苦笑でそれを見送り、自身も階段を上った。
マリウスへの報告を行なう場所は、談話室が選ばれた。
かつてユリウスが使っていた私室でもよかったのだが、リヒトと二人で過ごした思い出の詰まる部屋に兄とはいえ他のアルファを立ち入らせるのが嫌で、談話室にしたのだった。
ユリウスがそこへ到着したとき、ちょうど大きなカウチソファが運ばれてきたところだった。
丸いテーブルを囲んで一人用の椅子が置かれている。
その壁際にソファは配置された。
テオバルドがソファに毛布を敷き、枕代わりのクッションを置く。
ユリウスは侍従たちが整えてくれたそこへ、リヒトをそっと横たえた。
エミールがリヒトの体に大判のひざ掛けを三枚重ねて、ふわりと掛けてくれた。
リヒトの眠りは深い。
まだしばらく目覚めそうになかったので、ユリウスはリヒトに一番近い椅子に腰を下ろした。左隣にはエミール、その隣にはクラウスが座る。
右側にはロンバードが座った。テオバルドはリヒトの横に控えておくと言ったが、ユリウスはロンバードの横に座るよう指示を出した。
いまからする話は、テオバルドにもしっかりと聞いていてほしい。
全員が座るのを待っていたかのように、城の侍従が洗練された動作で淹れたての紅茶を配って回った。
お茶菓子もテーブルに並べられる。
きれいな包み紙に入っているのはチョコレートだ。
後でリヒトにあげようと思い、ユリウスは三個手元に置いた。
待つというほどの時間もなく、廊下側から恭しく扉が開かれた。
「皆、ご苦労。疲れも取れぬうちに呼び出して悪いな」
国王マリウスが労いの言葉とともに入室してくる。
全員が立ち上がり、一礼しながら彼を迎え入れた。
「まずは無事の帰還、なによりだ。おまえたちの土産話が早く聞きたくて、昨夜クラウスと会ってから俺は眠れなかったんだ」
はっはっは、と豪快に国王が笑った。
相変わらずの長兄にユリウスは苦笑いを浮かべ、
「遊びに行ったわけではないんですけどね」
と呟いた。
マリウスが「そうだな」と双眸を細めた。
「遊んできたわけではないのだから、成果があるのだろう。早速話を聞こうか、ユーリ」
威厳のある声でそう促してきたかと思うと、彼はユリウス越しにソファで寝ているリヒトを見つけ、子どものように両目を輝かせた。
「おっ! その子がおまえのオメガか! なんだなんだ出し惜しみしおって! どれどれ」
「兄上! 兄上、それ以上近づかないでください。絶対に、こっちへ来ないでくださいよ」
「ユーリ、意地悪を言うな」
次兄と同じようなことを言って、マリウスは眉を下げた。
「おまえの最愛を俺にも見せてくれ」
「ダメです。一歩でも前に出たら絶交ですよ」
子どもじみたユリウスの言葉に、マリウスが絶望したかのように目を見開き、助成を求めてクラウスを見る。
「クラウス。俺は、俺たちの弟のこころがこれほど狭いとは思わなかった! 見るぐらいいいではないか! なぁ!」
「兄上。味方をしてあげたいところですが、私もユーリに嫌われたくはない。諦めてください」
「なんだなんだ! おまえまで俺を邪魔者にするのか! ユーリ。俺に会わせるつもりがないのならなぜ連れてきたんだ」
当然の質問をぶつけられて、ユリウスは肩を竦めた。
「いまはこの子をひとりにしたくないんです。それに、リヒトの状況を兄上にも見てほしかった。兄上、僕のオメガに関する報告をさせてください」
ユリウスは今回の遠征で得た情報をひとつずつ思い出しながら、マリウスに向かって話しかけた。
国王は椅子にどかりと腰を下ろすと、皆に座るよう勧め、背もたれに深くもたれかかった姿勢でユリウスを見つめた。
「よし、話せ」
マリウスの声が、響く。
ユリウスは一度リヒトへと視線をやり、よく眠っていることを確かめてから、口を開いた。
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