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届けられた書簡

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 『僕のリヒトへ

 リヒト。きみに碌な挨拶もなく慌ただしい出立になってしまったことを謝罪したい。ごめんね。
 本当は、僕が留守の間の準備をきちんと整えてから出かけたかったけど、物事はそうそう思うようにはならないみたいだ。
 きみに不便をかけないように、取り急ぎ諸々の伝達事項を別紙にしたためたから、あとはテオがなんとかしてくれると思う。


 リヒト、さびしくないかな?
 僕はきみが隣に居なくてすごくさびしいよ。

 サーリーク王国を出て今日で二日目。いまは天幕テントの中でこれを書いてる。兄上からは早く寝なさいと言われているけど、リヒトをお風呂にいれてあげることのできないさびしさを、こうして、手紙を書くことで少し慰めているんだ。
 

 リヒト。
 この手紙は誰が代読してくれてるんだろう?
 もしもテオだったらすぐにべつの者に代わってもらって。
 僕が綴った愛の言葉を、テオがきみに囁いていると思うと気分がとっても悪くなる。

 でも、テオじゃなくても他の誰でも嫌だなぁ。

 きみを想って手紙を書くのはすごく楽しいけれど、代読されるのは複雑な気分だ。きみに愛を伝えるのはやっぱり僕がいい。僕の声で、ちゃんとリヒトに伝えたい。

 ああでも百歩譲って、エミール殿ならまだ耐えられるかな。
 エミール殿には我が兄クラウスというつがいが居るから、僕の心情的にまだ、なんとか落ち着いていられる。
 読んでもらうならエミール殿にしよう。
 リヒト。まだこれをテオが朗読しているようなら、いますぐエミール殿を呼んでくるように厳命するんだよ。
 大丈夫。テオはきみの命令ならなんでも聞くはずだから。 


 リヒト。僕のオメガ。
 僕はいま、国境を越えて隣国の山中に差し掛かっているところなんだ。
 ここの景色は、きみと初めて会ったあののこぎりゼーゲ山に似ているよ。

 幼いきみを抱き上げたとき、あまりの軽さと可愛さに僕は雷に打たれたような気持になった。本当だよ。全身を電気が走ったんだ。

 リヒト、きみは二年間眠りっぱなしで、その寝顔があんまり可愛くて可愛くて、僕は休みの日は一日ずっと眺めて過ごしていたんだよ。

 リヒト。
 こうして離れていても、僕の中はきみでいっぱいだ。
 きみの中も、僕でいっぱいだったらいいのに。

 きみはいまなにをしてるんだろうか。
 今日も温室に行ってるのかな。
 きみが毎日草木の世話をしてくれるから、うちの温室はいつもきれいなグリーンで溢れているよ。エミール殿がこの場にいらっしゃるなら、ぜひ温室を見せてあげるといい。

 リヒト。きみが水やりをして育った木や花は、とても活き活きとしているよ。
 きみの毎日の頑張りのお陰だよ。

 
 リヒト、お風呂はちゃんと入れているかな?
 テオがきみを洗ってくれてるんだろうか? まずい。想像したらなんだかとってもモヤモヤした気持ちが湧いてきた。
 でも、ひとりで入ろうとはしないでね。お風呂は危険がいっぱいだ。濡れた床は滑りやすいし、お湯の温度だってテオに必ず確認してもらうんだよ。

 ああそれから、リヒトの皮膚はとても繊細でやわらかいから、あんまりゴシゴシ擦らないように注意書きをしておいたけど、僕が戻ったときにもしもきみの肌が真っ赤になってたら、テオにきつい罰を与えないといけないなぁ。

 お風呂上りに肌に塗るクリームの場所もちゃんと伝えておいたから、しっかりお手入れしてもらってね。
 昔のきみは肌がすごく荒れていて、とてもかわいそうだった。思い出すだけで泣きそうだよ。
 でもいまのきみの肌はピカピカだね。元気になった証拠だ。

 きみが健康でいることが、僕の喜びだよ。リヒト。
  

 そういえば、ご飯はちゃんと食べれているかな?
 リヒト。僕は食べているきみを見るのがなにより好きだよ。

 きみは味がわからないから食事はあまり好きじゃないだろうけど、でも、僕は知ってるよ。
 きみは塩辛いものより、甘いものが好きだってこと。

 だって、塩パンを口に入れたときよりも、クリームパンを食べたときの方が飲み込むスピードが速いんだ。塩パンは半分でやめたけど、クリームパンは四分の三も食べたんだ。

 きみはきっと甘党だね、リヒト。

 リヒト。きみの味覚は鈍いかもしれないけど、食事のときのきみがなんにもわかってないとは、僕は思わない。
 きみはいつだって、色んなことを全身で知ろうとしている。
 だから僕は、食事をしているきみが好きだよ。

 リヒト。いっぱい食べて、僕が戻ったときにびっくりするぐらい体重が増えていたらいいのに!
 

 リヒト。
 お寝坊さんな僕のオメガ。

 夜はちゃんと眠れているかな?
 きみはいつも寝つきが良くて、きみの寝顔を見ている内に僕もいつの間にか寝てしまっているんだ。

 たくさん寝て、たくさん食べて、きみが元気で僕の帰りを待っていてくれることを信じてる。
 

 リヒト。
 帰ったらきみに大事な話があるんだ。
 でもその話をする前に、まずはきみを抱きしめたい!
 おかえりなさい、と言ってくれるきみの笑顔を想像しながら、僕もそろそろ寝ようと思う。


 リヒト。
 愛してるよ、僕のオメガ。
 きみはその名の通り、まさしく僕のリヒトだ。
 

 それじゃあおやすみ。
 良い夢を。 



 きみのユーリより』

 
 


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