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サーリーク王国のアルファたる者
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リヒトをひたすらに甘やかすというご褒美タイムも、しかし三日が限界だった。
四日目にユリウスは渋々登城した。
本当はいつまでもリヒトを腕に抱っこして、食事も入浴も排泄もぜんぶぜんぶ世話をしたいところだったが、そうも言っていられない。
ユリウスは国王陛下の謁見室でクラウスと合流した。
今日は兄弟三人のみでの会合なので、ある意味私的な要素の方が強かったが、ユリウスもクラウスも正装をしている。
ほどなくして長兄マリウスが姿を現した。
マリウスはまずクラウスをハグし、そしてユリウスを締め上げた。いや、恐らくハグなのだろうけど、あまりの力にユリウスの喉から呻き声が漏れた。
「よくきた、ユリウス」
満面の笑みでユリウスを抱擁した長兄が、鼻をくんと鳴らして、唇の端を上げた。
「蜜月、大変結構」
「……はぁ?」
「オメガの匂いがおまえにべったりと移っているな。仲良きことはすばらしいことだ!」
「うわ。僕のオメガの匂いを嗅がないでください。リヒトが穢れる」
ユリウスが顔をしかめてマリウスから距離を取ると、国王陛下がふっと真顔になって、男らしく濃い眉をひそめた。
「そのわりにおまえの匂いが薄いな。抑制剤は減らすと、クラウスに約束したんじゃなかったのか」
ユリウスはすかさずクラウスを睨んだ。
次兄は両手を挙げて、しずかに首を横に動かした。
「末っ子を心配する権利は、兄上にもある」
「その通りだユーリ。そうクラウスを睨むな。俺に隠そうとしたおまえが悪い」
二人の兄に諫められ、ユリウスは嘆息を漏らした。
「マリウス兄上にバレたら、僕に過干渉するでしょう」
「過干渉のなにが悪い! 可愛い弟のことだ。いかにおまえ自身といえど、俺の可愛い弟の体調を損なうことはゆるさんぞ!」
「ほら~。だから嫌なんですよ」
ユリウスは半眼になり、次兄へと文句を言った。クラウスが苦笑を浮かべながら、まぁまぁと長兄を宥めてくれる。
「だが兄上の心配も当然だ。ユーリ。抑制剤は」
「減らしました! ちゃんと減らしてます! ただ、この三日はリヒトにべったりだったので」
こちらにもやむを得ない事情があったのだ、とユリウスは弁明した。
クラウスに言われた通り、抑制剤はあれ以降きちんと減量していた。
しかしさすがに四六時中おのれのオメガと触れ合っていては、理性の限界だった。
これまでは夜中にこっそりと部屋を出て、体の奥に渦巻く欲望を発散させてきてはいたが、自分が離れたせいでリヒトがまたベッドから落ちてはかなわない。
ふだんは一度寝たリヒトが夜中に起きることなどなかったから、完全に油断していた。
だからこの三日、抑制剤の力を借りてユリウスは、リヒトから離れることなく過ごしていた。
「そういうわけで止む無く抑制剤を服用しましたが、ちゃんと自己管理はできていますので!」
心配無用、と二人の兄へ告げると、マリウスがガシっとユリウスの肩に腕を回し、耳元で囁いた。
「娼館の紹介が必要なら相談に乗るぞ」
「……アマル殿に告げ口しますよ」
「バカ言うな。俺が利用するわけないだろう。宰相たちの噂話でな。アルファに評判のいい娼館が」
「間に合ってます!」
ユリウスは肩の上の兄の顔を押しのけた。
マリウスが「なにっ」と目を剥いて、
「おまえ、誰か他にオメガが居るのか」
と食い下がってくる。
「兄上、ユーリにはユーリの事情があるのですから」
クラウスがマリウスを黙らせようとするが、長兄はしたり顔で頷いた。
「俺はなにも責めているわけではないぞ。我が国のアルファたる者、おのれのオメガに尽くすのは当然だが、一夫多妻を認めていないわけではない。余所の国でもアルファが複数のオメガを娶るのが当然という文化を持つところもある。俺は可愛い末弟が二股をかけたとしても」
「兄上、いい加減怒りますよ」
ユリウスは長兄の言葉を遮って、にっこりと笑ってそう言った。
マリウスがそうっとユリウスの肩から腕をどけて、視線を逸らした。
「まずい。本気で怒らせた」
「久しぶりに見ましたね。ユーリの氷の微笑」
「あれは怖いんだ。母上によく似た顔で冷ややかに笑われると」
ぶるり、と胴震いをしたマリウスがクラウスと囁き合った後、わざとらしい咳ばらいをして、話題を変えた。
「よし! 真面目な話をしよう。デァモントの話を」
「僕たちは最初からその話をしにきたんですけどね、兄上」
「ユーリ。その顔をやめてくれ。母上に叱られている気分だ」
「兄上が僕を揶揄うのをやめると誓ってくだされば、いつでも」
「わかった、降参だ降参。俺が悪かった」
一国の王が勢いよく頭を下げる。
クラウスが眼差しだけで和解を勧めてきた。ユリウスはそれに頷いて、目元をゆるめた。
「兄上の謝罪を受け入れます。それで、デァモントですが、マリウス兄上は委細をどこまでご存知でしょうか」
「おまえたちの報告書はすべて頭に入っている。おまえはどうするつもりなんだ、ユーリ」
表情を引き締めたマリウスが、今後の動きについて問うてきた。
ユリウスは凛とした声で自分の考えを伝えた。
「僕の要求は二つです。一つは、僕のオメガの安全。今後永久にデァモントはリヒトに関わらせない。そしてもう一つは、五感を奪う秘術とやらの開示」
「だがそれを果たすには、教皇への接触が不可欠となる」
クラウスの指摘に、ユリウスは頷いた。
「はい。相手は一国の王にも等しい立場の人間です。僕の動機は非常に私的なものではありますが、相手が相手ですので、サーリーク王国の外交大臣の立場を大いに利用させていただこうと思ってます」
「おまえの行動如何で、国や兄上に迷惑がかかることとなってもか」
「はい。サーリーク王国のアルファたる者、おのれのオメガが第一です」
きっぱりと断言したユリウスに、マリウスとクラウスが同時に吹き出した。
兄たちは笑いながら顔を見合わせ、左右からユリウスの背を叩いてきた。
「おまえは真実俺たちの弟だなぁ」
「王家の血筋とは斯くや、と恐ろしくもなりますね。オメガに盲目的なところは確実に引き継がれるのですから」
くつくつと喉を鳴らして笑う二人の兄は、ユリウスの意見に全面的に同意してくれた。
ユリウスは兄たちへと、自分で組み立てた作戦の概要を説明した。
途中、クラウスが内容の補足や追加の提案をしてくれた。
マリウスはひとつひとつに頷きながら、疑義を差し挟み、三人はさらに推考を重ねた。
最終的に、外交大臣であるユリウスが国王の名代としてデァモントへ赴くこと、その警護をクラウスら第一騎士団が担うことが決まった。
ある程度の話がまとまり、肝心の決行はいつにするかという段で、クラウスがはたと手を打った。
「そういえば、ゲルトから今朝新たに聞いた情報がひとつ」
「なんです?」
「教皇は冬のある時期に、十日間の『冬ごもり』をする、と」
「冬ごもりとはなんだ?」
熊やウサギでもあるまいに、とマリウスが首を捻った。
クラウスがゲルトの言葉を思い出しながら語った。
「冬眠ではなく、特別なお勤め、と信者たちには理解されているようです。冬ごもりの間教皇は、信者たちの前に姿を現さず、中央教会の地下に籠り断食修行をされるのだ、とゲルトは申していました」
「教会の地下」
ユリウスはその単語を繰り返した。
「どうした」
長兄に問われ、ユリウスは指先で顎に触れた。
「そこに本当に教皇は居るでしょうか?」
「と言うと?」
「信者に賃金も払わず働かせて作った反物で、ひと財産築いているような男ですよ? 誰にも会う必要のない儀式など、絶好の機会ではないですか」
ユリウスは唇の端を皮肉げに持ち上げた。
「なるほど。こっそりと教会を抜け出して、どこかでひとり豪遊している、と」
クラウスが頷き、肩を竦めた。
「豪遊かどうかはわかりませんけどね。反物を売り捌くルートは築いているかもしれませんね。その冬ごもりはいつだと言ってましたっけ?」
「ちょうど今月の……新月を挟んで十日間とあの男は話していたが」
デァモントの神話によると、新月は月神デァモントの神力が弱る時期とされる。
新月の夜は、女神は月の神殿の最奥部に籠り、その姿を隠す。
そして冬が一段と深まるこの時期の新月が、もっとも女神の力が弱まっているのだという。
それに倣った儀式が中央教会で行われているのだろう。
「新月……」
ユリウスは室内をぐるりと見た。
ユリウスが暦を探していると、この部屋にはそれが置かれていないと知っているマリウスが扉へ向かい、
「誰か居るか」
と声を張り上げた。
扉はすぐに開き、近侍が姿を現した。
「月齢が表示されている暦を持て」
マリウスの命令に近侍が「はっ」と返事をして即座に出て行った。
ほどなくして、暦が届いた。
「ありがとう」
ユリウスは彼へ礼を告げ、受け取った暦を卓上に広げた。
三人で頭を突き合わせてそれを覗き込む。
「今月の新月……って、明後日じゃないかっ!」
ユリウスは思わず叫んでいた。
「猶予はないな。ユーリ、どうする」
クラウスが落ち着いた声音で問うてくる。
ユリウスは即答した。
「無論、いまから準備をして本日中に出立します。よろしいですね、陛下」
ユリウスの判断を聞いたクラウスが、近侍へなにか指示を出している。
それを横目にユリウスは長兄へと確認をした。
するとマリウスが大きく頷き、
「そうだな、やはり俺も行こう!」
と唐突に言い出した。
ユリウスとクラウスは同時に口を開け、「はぁ?」と気の抜けた声を漏らしてしまった。
四日目にユリウスは渋々登城した。
本当はいつまでもリヒトを腕に抱っこして、食事も入浴も排泄もぜんぶぜんぶ世話をしたいところだったが、そうも言っていられない。
ユリウスは国王陛下の謁見室でクラウスと合流した。
今日は兄弟三人のみでの会合なので、ある意味私的な要素の方が強かったが、ユリウスもクラウスも正装をしている。
ほどなくして長兄マリウスが姿を現した。
マリウスはまずクラウスをハグし、そしてユリウスを締め上げた。いや、恐らくハグなのだろうけど、あまりの力にユリウスの喉から呻き声が漏れた。
「よくきた、ユリウス」
満面の笑みでユリウスを抱擁した長兄が、鼻をくんと鳴らして、唇の端を上げた。
「蜜月、大変結構」
「……はぁ?」
「オメガの匂いがおまえにべったりと移っているな。仲良きことはすばらしいことだ!」
「うわ。僕のオメガの匂いを嗅がないでください。リヒトが穢れる」
ユリウスが顔をしかめてマリウスから距離を取ると、国王陛下がふっと真顔になって、男らしく濃い眉をひそめた。
「そのわりにおまえの匂いが薄いな。抑制剤は減らすと、クラウスに約束したんじゃなかったのか」
ユリウスはすかさずクラウスを睨んだ。
次兄は両手を挙げて、しずかに首を横に動かした。
「末っ子を心配する権利は、兄上にもある」
「その通りだユーリ。そうクラウスを睨むな。俺に隠そうとしたおまえが悪い」
二人の兄に諫められ、ユリウスは嘆息を漏らした。
「マリウス兄上にバレたら、僕に過干渉するでしょう」
「過干渉のなにが悪い! 可愛い弟のことだ。いかにおまえ自身といえど、俺の可愛い弟の体調を損なうことはゆるさんぞ!」
「ほら~。だから嫌なんですよ」
ユリウスは半眼になり、次兄へと文句を言った。クラウスが苦笑を浮かべながら、まぁまぁと長兄を宥めてくれる。
「だが兄上の心配も当然だ。ユーリ。抑制剤は」
「減らしました! ちゃんと減らしてます! ただ、この三日はリヒトにべったりだったので」
こちらにもやむを得ない事情があったのだ、とユリウスは弁明した。
クラウスに言われた通り、抑制剤はあれ以降きちんと減量していた。
しかしさすがに四六時中おのれのオメガと触れ合っていては、理性の限界だった。
これまでは夜中にこっそりと部屋を出て、体の奥に渦巻く欲望を発散させてきてはいたが、自分が離れたせいでリヒトがまたベッドから落ちてはかなわない。
ふだんは一度寝たリヒトが夜中に起きることなどなかったから、完全に油断していた。
だからこの三日、抑制剤の力を借りてユリウスは、リヒトから離れることなく過ごしていた。
「そういうわけで止む無く抑制剤を服用しましたが、ちゃんと自己管理はできていますので!」
心配無用、と二人の兄へ告げると、マリウスがガシっとユリウスの肩に腕を回し、耳元で囁いた。
「娼館の紹介が必要なら相談に乗るぞ」
「……アマル殿に告げ口しますよ」
「バカ言うな。俺が利用するわけないだろう。宰相たちの噂話でな。アルファに評判のいい娼館が」
「間に合ってます!」
ユリウスは肩の上の兄の顔を押しのけた。
マリウスが「なにっ」と目を剥いて、
「おまえ、誰か他にオメガが居るのか」
と食い下がってくる。
「兄上、ユーリにはユーリの事情があるのですから」
クラウスがマリウスを黙らせようとするが、長兄はしたり顔で頷いた。
「俺はなにも責めているわけではないぞ。我が国のアルファたる者、おのれのオメガに尽くすのは当然だが、一夫多妻を認めていないわけではない。余所の国でもアルファが複数のオメガを娶るのが当然という文化を持つところもある。俺は可愛い末弟が二股をかけたとしても」
「兄上、いい加減怒りますよ」
ユリウスは長兄の言葉を遮って、にっこりと笑ってそう言った。
マリウスがそうっとユリウスの肩から腕をどけて、視線を逸らした。
「まずい。本気で怒らせた」
「久しぶりに見ましたね。ユーリの氷の微笑」
「あれは怖いんだ。母上によく似た顔で冷ややかに笑われると」
ぶるり、と胴震いをしたマリウスがクラウスと囁き合った後、わざとらしい咳ばらいをして、話題を変えた。
「よし! 真面目な話をしよう。デァモントの話を」
「僕たちは最初からその話をしにきたんですけどね、兄上」
「ユーリ。その顔をやめてくれ。母上に叱られている気分だ」
「兄上が僕を揶揄うのをやめると誓ってくだされば、いつでも」
「わかった、降参だ降参。俺が悪かった」
一国の王が勢いよく頭を下げる。
クラウスが眼差しだけで和解を勧めてきた。ユリウスはそれに頷いて、目元をゆるめた。
「兄上の謝罪を受け入れます。それで、デァモントですが、マリウス兄上は委細をどこまでご存知でしょうか」
「おまえたちの報告書はすべて頭に入っている。おまえはどうするつもりなんだ、ユーリ」
表情を引き締めたマリウスが、今後の動きについて問うてきた。
ユリウスは凛とした声で自分の考えを伝えた。
「僕の要求は二つです。一つは、僕のオメガの安全。今後永久にデァモントはリヒトに関わらせない。そしてもう一つは、五感を奪う秘術とやらの開示」
「だがそれを果たすには、教皇への接触が不可欠となる」
クラウスの指摘に、ユリウスは頷いた。
「はい。相手は一国の王にも等しい立場の人間です。僕の動機は非常に私的なものではありますが、相手が相手ですので、サーリーク王国の外交大臣の立場を大いに利用させていただこうと思ってます」
「おまえの行動如何で、国や兄上に迷惑がかかることとなってもか」
「はい。サーリーク王国のアルファたる者、おのれのオメガが第一です」
きっぱりと断言したユリウスに、マリウスとクラウスが同時に吹き出した。
兄たちは笑いながら顔を見合わせ、左右からユリウスの背を叩いてきた。
「おまえは真実俺たちの弟だなぁ」
「王家の血筋とは斯くや、と恐ろしくもなりますね。オメガに盲目的なところは確実に引き継がれるのですから」
くつくつと喉を鳴らして笑う二人の兄は、ユリウスの意見に全面的に同意してくれた。
ユリウスは兄たちへと、自分で組み立てた作戦の概要を説明した。
途中、クラウスが内容の補足や追加の提案をしてくれた。
マリウスはひとつひとつに頷きながら、疑義を差し挟み、三人はさらに推考を重ねた。
最終的に、外交大臣であるユリウスが国王の名代としてデァモントへ赴くこと、その警護をクラウスら第一騎士団が担うことが決まった。
ある程度の話がまとまり、肝心の決行はいつにするかという段で、クラウスがはたと手を打った。
「そういえば、ゲルトから今朝新たに聞いた情報がひとつ」
「なんです?」
「教皇は冬のある時期に、十日間の『冬ごもり』をする、と」
「冬ごもりとはなんだ?」
熊やウサギでもあるまいに、とマリウスが首を捻った。
クラウスがゲルトの言葉を思い出しながら語った。
「冬眠ではなく、特別なお勤め、と信者たちには理解されているようです。冬ごもりの間教皇は、信者たちの前に姿を現さず、中央教会の地下に籠り断食修行をされるのだ、とゲルトは申していました」
「教会の地下」
ユリウスはその単語を繰り返した。
「どうした」
長兄に問われ、ユリウスは指先で顎に触れた。
「そこに本当に教皇は居るでしょうか?」
「と言うと?」
「信者に賃金も払わず働かせて作った反物で、ひと財産築いているような男ですよ? 誰にも会う必要のない儀式など、絶好の機会ではないですか」
ユリウスは唇の端を皮肉げに持ち上げた。
「なるほど。こっそりと教会を抜け出して、どこかでひとり豪遊している、と」
クラウスが頷き、肩を竦めた。
「豪遊かどうかはわかりませんけどね。反物を売り捌くルートは築いているかもしれませんね。その冬ごもりはいつだと言ってましたっけ?」
「ちょうど今月の……新月を挟んで十日間とあの男は話していたが」
デァモントの神話によると、新月は月神デァモントの神力が弱る時期とされる。
新月の夜は、女神は月の神殿の最奥部に籠り、その姿を隠す。
そして冬が一段と深まるこの時期の新月が、もっとも女神の力が弱まっているのだという。
それに倣った儀式が中央教会で行われているのだろう。
「新月……」
ユリウスは室内をぐるりと見た。
ユリウスが暦を探していると、この部屋にはそれが置かれていないと知っているマリウスが扉へ向かい、
「誰か居るか」
と声を張り上げた。
扉はすぐに開き、近侍が姿を現した。
「月齢が表示されている暦を持て」
マリウスの命令に近侍が「はっ」と返事をして即座に出て行った。
ほどなくして、暦が届いた。
「ありがとう」
ユリウスは彼へ礼を告げ、受け取った暦を卓上に広げた。
三人で頭を突き合わせてそれを覗き込む。
「今月の新月……って、明後日じゃないかっ!」
ユリウスは思わず叫んでいた。
「猶予はないな。ユーリ、どうする」
クラウスが落ち着いた声音で問うてくる。
ユリウスは即答した。
「無論、いまから準備をして本日中に出立します。よろしいですね、陛下」
ユリウスの判断を聞いたクラウスが、近侍へなにか指示を出している。
それを横目にユリウスは長兄へと確認をした。
するとマリウスが大きく頷き、
「そうだな、やはり俺も行こう!」
と唐突に言い出した。
ユリウスとクラウスは同時に口を開け、「はぁ?」と気の抜けた声を漏らしてしまった。
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