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デァモント教

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 その後数日を費やして、ユリウスは他の亡命者たちからの証言を集めて回った。
 ハーゼについて口の重かった彼らも、ひとりが話したと知れば(もちろんヤンスの名は伏せた)、怯えながらもおのれの知ることを語ってくれる者もまばらに出始めた。 

 しかし、彼らから出る話は、ヤンスのそれと似たり寄ったりだ。
 やはり幹部以上の者からでなければこれ以上は無理か、とユリウスは区切りをつけ、亡命者たちの証言をこうして国王マリウスへ提出する報告書としてまとめあげた、というわけだが……。
 

 最初から最後まで書類を隈なくチェックして、ユリウスは紙の束をトントンとデスクに打ちつけて整えた。
 とりあえず急ぎの要件は落ち着いたので、今晩からリヒトと過ごす時間をしっかり確保できるだろう。

 ユリウスは大きく息を吐いて、椅子の背もたれに深く体を預けた。
 壁掛け時計に目を向けると、行商人が来ると聞いていた時刻はとうに過ぎていた。

 あの子はなにを買ったのかな、とユリウスはリヒトに思いを馳せる。
 エミールと一緒に買い物をするリヒトを想像するだけで、可愛さに震えそうだ。

 見たかったなぁと、その場に居られなかったことがしみじみと悔やまれた。

 なにが欲しいかを聞いて、商品を一緒に選びたかったし、リヒトに似合いそうな異国の服も手に入れたかった。

 胸の中でつらつらと、できなかったことを数えてあげている途中、ユリウスはふと、もしかして買い物が長引いていればいまから駆けつけても間に合うかもしれないという可能性に気づいた。

 エミールは優柔不断な性格ではないが、リヒトは買い物自体が初めてだ。予定以上に時間を食うことは充分に有り得るだろう。

 よし、いまから走って屋敷に戻ろう!
 そう思い立ったユリウスは勢いよく立ち上がった。

 そのときだった。
 ドンドンドンという慌ただしいノックがしたと思ったら、入室の許可も得ずに扉がものすごい勢いで開かれた。

 ぎょっとしてそちらを見ると、ロンバードの息子テオバルドが息を切らしながら飛び込んでくるところだった。

 彼が血相を変えてここへ来た、ということは。
 リヒトになにかがあったのだ!

 なにがあった、とユリウスが尋ねるよりも早く、テオバルドが叫んだ。

「リヒトさまが倒れられましたっ!」

 ユリウスは息を呑んで大股で男の元へ歩み寄った。
 ツカツカツカと靴音を立てながらものすごい勢いでテオバルドへ迫り、その胸倉を掴む。

「状況を説明をしろ」

 ユリウスの命令に、「はいっ」と返事をしたテオバルドが腰の後ろで腕を組み、背筋を伸ばした。

「リヒト様は先ほどまで、エミール様とともに行商人の運んできた品々をご覧になっていました。その中に珍しい織物があり、興味を示されたエミール様が商人に織物について尋ねられたところ、ちょうどその織物を仕入れてきた者が来ているとのことで、その者を屋敷へと招き入れました」

 テオバルドがひと息にそこまでを話し、大きな息継ぎを挟んで続けた。

「織物を抱えたその男が、リヒト様を見るなり血相を変えて、大声で怒鳴ったんです。『なぜ生きてるんだ』、と」

 『なぜ生きてるんだ』?

 どういう意味だ、とユリウスは怪訝に眉を寄せた。

「男は突然リヒト様の胸倉を掴んで、なにごとか、我々にはわからない言葉で叫んでいました。即座に取り押さえたため、リヒト様にお怪我などはありませんでしたが、その後リヒト様が昏倒されて……」

 テオバルドの言葉を最後まで聞かず、ユリウスは執務室を出た。

 早足で廊下を進むユリウスを追い越して、テオバルドが城門の方へ走ってゆく。ここから屋敷まで歩けない距離ではないが、馬の方が早い。その準備に行ったのだ。

 ユリウスはテオバルドが用意した馬に飛び乗り、胴を蹴って駆けた。
 ロンバードがユリウスの隣にぴたりと馬をつけ、並走している。少し遅れて、テオバルドが続いた。

「デァモントの関係者ですかねっ?」

 馬を駆りながらロンバードが話しかけてきた。
 ユリウスは横目で男を見て、頷いた。

「欲しかった人物が向こうから来たね」 

 『ハーゼ』について識る人物が欲しい、と思っているところだったが……しかし、登場の仕方としては最悪だ、とユリウスは歯噛みした。

 デァモントの関係者をリヒトに合わせる気は微塵もなかったというのに。

 ヤンスから『ハーゼ』の話を聞き、リヒトに危険はないのかと案じていたにも関わらず、行商人を屋敷に招いたのはあまりに警戒心に欠けていただろうか?
 だがしかし、探しても得られなかったデァモント教団の(しかも恐らく中枢の)関係者が行商人に紛れているなど、誰が予想できただろう。

 なぜ教団の者がそんなところに潜んでいたのか、と疑問を抱きつつもユリウスは、できる限りの速さでリヒトの待つ屋敷へと戻った。

 



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