32 / 39
本編
第三十一話 満月に祈りを込めて①
しおりを挟む
ライトと二人で招かれたダンスパーティーで、ルージュはライトのリードに任せてステップを踏んでいた。
「ねぇ、ルージュ。この後二人で少し抜け出さない?」
「ライト?」
ダンスの合間でそう悪戯っぽく微笑んだのは、もちろんライトだ。
「……今夜は、満月が綺麗だから」
「!」
どことなく懐かしそうな目をしたライトが静かに口にした言葉の意味を理解して、ルージュは一瞬動揺する。
――今夜は、満月のダンスパーティー。
けれど、今こうしてルージュと踊っているのはライトだ。
満月の夜だというにも関わらず、ナイトが出てくる気配はない。
それは今夜に限ったことではなく、前回の満月のあの日から……――。ナイトが顔を出すことはなかった。
「うん……」
こくりと小さく頷いて、ルージュはくるりと青いドレスの裾を翻す。
ナイトが表に出てこなくなった理由――。そこに、思い当たることがないわけではない。
「行こうか」
「うん」
ダンスが終わると早速ライトに誘われて、ルージュはその手を取ると園庭へ繋がるガラス扉に向かって歩いていく。
あの日もこうして手を取り合って、二人で綺麗な満月を見上げていた。
あの時繋いでいた手はナイトのもの。
そして、今夜は。
「俺、こんなふうにじっくりと満月を眺めるのは初めてかもしれない」
月の光に緑と花々が美しく照らし出される中。夜空を見上げたライトが静かに微笑んだ。
幼い頃から満月の夜にはナイトが現れていたとしたならば、ライトが満月を目にする機会は確かになかったに違いない。
「綺麗だね」
「……うん。すごく」
振り向いて、優しい微笑みを向けてくるライトに、ルージュは切なさを覚えながらも笑顔を返す。
――もう、ナイトが出てくることはない。
なぜならナイトは、完全にライトの中に溶け込んで……、と、いうよりも、二つの人格が綺麗に一つに戻ったからだ。
ナイトとライトの両方の人格が出てくるようになった時から気づいていた。
少しずつ少しずつ。ライトなのかナイトなのかわからないことが多くなっていた。それは、二つの人格が一つになる前兆だったのだろう。
まるで本当にライトの双子の弟かのように現れて、ルージュを翻弄していったナイト。
ナイトに会えないことは少しだけ寂しいような気もするけれど、決して悲しいわけではない。
それはそうだ。ナイトは、ライトなのだから。
「ルージュ……」
満月の下。そっと腰を引き寄せられたかと思うと顎を取られ、キスの角度に傾けられた顔に、ルージュは一瞬ドキリとしながらも目を閉じる。
相変わらずライトは柔和で優しいけれど、ルージュを見る目の奥に、“ナイト”の存在を感じることが多くある。
今もそうだ。甘くルージュの名を呼びながら、口づけを拒否させない強引な空気を醸し出している。
「ライ……、ん……」
ライトの後方で輝く丸い月。
ルージュの目元に陰が差し、そっと唇を塞がれる。
「ん……っ」
舌の先で優しく唇をノックされ、おずおずと薄く口を開けばゆっくりと生温かなものが口腔内に潜り込んできて、それだけでぞくりと背筋が震えた。
「ん……っ、んん……っ」
優しく舌を絡まされ、ぴちゃり……っ、と、妙に艶めかしい水音が鼓膜を震わせる。
「んっ、ん……っ」
互いの唾液が絡み合う口づけは、まるでお酒に酔ったようにくらくらして足元から力が抜けていく。
「……は……っ、ぁ……」
そうしてそっと唇が離れていった後は完全に息が上がっていて、ルージュはくったりとライトに身を預けてしまっていた。
「……大丈夫?」
そんなルージュを意外にも逞しい腕でしっかりと支えながら、ライトが気遣うような目を向けてくる。
「立っていられないようなら……」
けれど。
「あっちの、ガゼボにでも行く?」
「!」
くす、と。
ライトの瞳と口元に意味ありげに浮かんだ小さな笑みに、ルージュは大きく目を見張る。
「あの日の、続きでもしようか」
「! ライト……ッ」
耳元で妙に甘い声色で囁かれ、顔が真っ赤になると同時にぞくりとした刺激が背筋を昇っていく。
「冗談だよ」
羞恥か期待か、潤んだ瞳で驚きの声を上げるルージュにライトは苦笑して、ライトは先ほどの言葉を否定した。
「でも」
と、ふいに真剣な瞳に見下ろされ、ルージュは思わず身構える。
「今夜はもう、帰すつもりはないんだ」
「……え……っ?」
ぎゅ、と肩を強く抱かれ、ルージュの瞳は驚きでさらに大きくなる。
自分がなにを言われたのか、一瞬理解できなかった。
ただ、思考が停止する一方で、心音はどんどん早くなっていって。
「ルージュがほしい」
「!」
真摯な言葉と共に真っすぐ見つめられ、ライトから目が離せなくなる。
「結婚はまだ先だけど……。もう、我慢できない」
それはきっと、ずっとライトが心の奥深くに抑え込んできた望み。
「ルージュを、俺のものにしたい」
雲一つない空には、美しく輝く丸い月。
その光を浴びて、ライトの金色の髪が綺麗に輝いた。
「……ライト……」
「嫌だ、って言われたらすごく困っちゃうんだけど……」
そんなことを言いつつも、ルージュが本気で嫌だと言えばライトが無理強いをしてくることはないのだろう。
「っそんなこと……っ」
けれど、ルージュがライトのことを「嫌」などと思うはずはなくて。
「うん。だから」
ルージュから返される応えをわかって、ライトは甘く優しく微笑う。
「今夜、ルージュを俺のものにしてもいい?」
「っ」
柔らかく確認され、ルージュの顔には一気に熱が昇っていく。
答えは、決まっている。
決まってはいるけれど、ドキドキしすぎてすぐには答えを返せない。
その想いをとても口にすることはできなくて、真っ赤になった顔でただこくりと小さく頷いた。
「ルージュ……」
嬉しそうに綻んだライトの瞳が、今度は愛おしそうにルージュを見つめてくる。
「ルージュ?」
優しく身体を抱き寄せられ、耳元に甘い声が落ちてくる。
「好きだよ。愛している」
トクン……、トクン……、と胸が鳴る。
「……私も……、ライトのことが好き」
「一生、離さない」
恥じらいながらも微笑み返せば、再度顔を上げられて、触れるだけの優しいキスに、胸へと幸せが広がっていった。
「ねぇ、ルージュ。この後二人で少し抜け出さない?」
「ライト?」
ダンスの合間でそう悪戯っぽく微笑んだのは、もちろんライトだ。
「……今夜は、満月が綺麗だから」
「!」
どことなく懐かしそうな目をしたライトが静かに口にした言葉の意味を理解して、ルージュは一瞬動揺する。
――今夜は、満月のダンスパーティー。
けれど、今こうしてルージュと踊っているのはライトだ。
満月の夜だというにも関わらず、ナイトが出てくる気配はない。
それは今夜に限ったことではなく、前回の満月のあの日から……――。ナイトが顔を出すことはなかった。
「うん……」
こくりと小さく頷いて、ルージュはくるりと青いドレスの裾を翻す。
ナイトが表に出てこなくなった理由――。そこに、思い当たることがないわけではない。
「行こうか」
「うん」
ダンスが終わると早速ライトに誘われて、ルージュはその手を取ると園庭へ繋がるガラス扉に向かって歩いていく。
あの日もこうして手を取り合って、二人で綺麗な満月を見上げていた。
あの時繋いでいた手はナイトのもの。
そして、今夜は。
「俺、こんなふうにじっくりと満月を眺めるのは初めてかもしれない」
月の光に緑と花々が美しく照らし出される中。夜空を見上げたライトが静かに微笑んだ。
幼い頃から満月の夜にはナイトが現れていたとしたならば、ライトが満月を目にする機会は確かになかったに違いない。
「綺麗だね」
「……うん。すごく」
振り向いて、優しい微笑みを向けてくるライトに、ルージュは切なさを覚えながらも笑顔を返す。
――もう、ナイトが出てくることはない。
なぜならナイトは、完全にライトの中に溶け込んで……、と、いうよりも、二つの人格が綺麗に一つに戻ったからだ。
ナイトとライトの両方の人格が出てくるようになった時から気づいていた。
少しずつ少しずつ。ライトなのかナイトなのかわからないことが多くなっていた。それは、二つの人格が一つになる前兆だったのだろう。
まるで本当にライトの双子の弟かのように現れて、ルージュを翻弄していったナイト。
ナイトに会えないことは少しだけ寂しいような気もするけれど、決して悲しいわけではない。
それはそうだ。ナイトは、ライトなのだから。
「ルージュ……」
満月の下。そっと腰を引き寄せられたかと思うと顎を取られ、キスの角度に傾けられた顔に、ルージュは一瞬ドキリとしながらも目を閉じる。
相変わらずライトは柔和で優しいけれど、ルージュを見る目の奥に、“ナイト”の存在を感じることが多くある。
今もそうだ。甘くルージュの名を呼びながら、口づけを拒否させない強引な空気を醸し出している。
「ライ……、ん……」
ライトの後方で輝く丸い月。
ルージュの目元に陰が差し、そっと唇を塞がれる。
「ん……っ」
舌の先で優しく唇をノックされ、おずおずと薄く口を開けばゆっくりと生温かなものが口腔内に潜り込んできて、それだけでぞくりと背筋が震えた。
「ん……っ、んん……っ」
優しく舌を絡まされ、ぴちゃり……っ、と、妙に艶めかしい水音が鼓膜を震わせる。
「んっ、ん……っ」
互いの唾液が絡み合う口づけは、まるでお酒に酔ったようにくらくらして足元から力が抜けていく。
「……は……っ、ぁ……」
そうしてそっと唇が離れていった後は完全に息が上がっていて、ルージュはくったりとライトに身を預けてしまっていた。
「……大丈夫?」
そんなルージュを意外にも逞しい腕でしっかりと支えながら、ライトが気遣うような目を向けてくる。
「立っていられないようなら……」
けれど。
「あっちの、ガゼボにでも行く?」
「!」
くす、と。
ライトの瞳と口元に意味ありげに浮かんだ小さな笑みに、ルージュは大きく目を見張る。
「あの日の、続きでもしようか」
「! ライト……ッ」
耳元で妙に甘い声色で囁かれ、顔が真っ赤になると同時にぞくりとした刺激が背筋を昇っていく。
「冗談だよ」
羞恥か期待か、潤んだ瞳で驚きの声を上げるルージュにライトは苦笑して、ライトは先ほどの言葉を否定した。
「でも」
と、ふいに真剣な瞳に見下ろされ、ルージュは思わず身構える。
「今夜はもう、帰すつもりはないんだ」
「……え……っ?」
ぎゅ、と肩を強く抱かれ、ルージュの瞳は驚きでさらに大きくなる。
自分がなにを言われたのか、一瞬理解できなかった。
ただ、思考が停止する一方で、心音はどんどん早くなっていって。
「ルージュがほしい」
「!」
真摯な言葉と共に真っすぐ見つめられ、ライトから目が離せなくなる。
「結婚はまだ先だけど……。もう、我慢できない」
それはきっと、ずっとライトが心の奥深くに抑え込んできた望み。
「ルージュを、俺のものにしたい」
雲一つない空には、美しく輝く丸い月。
その光を浴びて、ライトの金色の髪が綺麗に輝いた。
「……ライト……」
「嫌だ、って言われたらすごく困っちゃうんだけど……」
そんなことを言いつつも、ルージュが本気で嫌だと言えばライトが無理強いをしてくることはないのだろう。
「っそんなこと……っ」
けれど、ルージュがライトのことを「嫌」などと思うはずはなくて。
「うん。だから」
ルージュから返される応えをわかって、ライトは甘く優しく微笑う。
「今夜、ルージュを俺のものにしてもいい?」
「っ」
柔らかく確認され、ルージュの顔には一気に熱が昇っていく。
答えは、決まっている。
決まってはいるけれど、ドキドキしすぎてすぐには答えを返せない。
その想いをとても口にすることはできなくて、真っ赤になった顔でただこくりと小さく頷いた。
「ルージュ……」
嬉しそうに綻んだライトの瞳が、今度は愛おしそうにルージュを見つめてくる。
「ルージュ?」
優しく身体を抱き寄せられ、耳元に甘い声が落ちてくる。
「好きだよ。愛している」
トクン……、トクン……、と胸が鳴る。
「……私も……、ライトのことが好き」
「一生、離さない」
恥じらいながらも微笑み返せば、再度顔を上げられて、触れるだけの優しいキスに、胸へと幸せが広がっていった。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
会社の後輩が諦めてくれません
碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。
彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。
亀じゃなくて良かったな・・
と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。
結は吾郎が何度振っても諦めない。
むしろ、変に条件を出してくる。
誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる