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本編
第三十一話 満月に祈りを込めて①
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ライトと二人で招かれたダンスパーティーで、ルージュはライトのリードに任せてステップを踏んでいた。
「ねぇ、ルージュ。この後二人で少し抜け出さない?」
「ライト?」
ダンスの合間でそう悪戯っぽく微笑んだのは、もちろんライトだ。
「……今夜は、満月が綺麗だから」
「!」
どことなく懐かしそうな目をしたライトが静かに口にした言葉の意味を理解して、ルージュは一瞬動揺する。
――今夜は、満月のダンスパーティー。
けれど、今こうしてルージュと踊っているのはライトだ。
満月の夜だというにも関わらず、ナイトが出てくる気配はない。
それは今夜に限ったことではなく、前回の満月のあの日から……――。ナイトが顔を出すことはなかった。
「うん……」
こくりと小さく頷いて、ルージュはくるりと青いドレスの裾を翻す。
ナイトが表に出てこなくなった理由――。そこに、思い当たることがないわけではない。
「行こうか」
「うん」
ダンスが終わると早速ライトに誘われて、ルージュはその手を取ると園庭へ繋がるガラス扉に向かって歩いていく。
あの日もこうして手を取り合って、二人で綺麗な満月を見上げていた。
あの時繋いでいた手はナイトのもの。
そして、今夜は。
「俺、こんなふうにじっくりと満月を眺めるのは初めてかもしれない」
月の光に緑と花々が美しく照らし出される中。夜空を見上げたライトが静かに微笑んだ。
幼い頃から満月の夜にはナイトが現れていたとしたならば、ライトが満月を目にする機会は確かになかったに違いない。
「綺麗だね」
「……うん。すごく」
振り向いて、優しい微笑みを向けてくるライトに、ルージュは切なさを覚えながらも笑顔を返す。
――もう、ナイトが出てくることはない。
なぜならナイトは、完全にライトの中に溶け込んで……、と、いうよりも、二つの人格が綺麗に一つに戻ったからだ。
ナイトとライトの両方の人格が出てくるようになった時から気づいていた。
少しずつ少しずつ。ライトなのかナイトなのかわからないことが多くなっていた。それは、二つの人格が一つになる前兆だったのだろう。
まるで本当にライトの双子の弟かのように現れて、ルージュを翻弄していったナイト。
ナイトに会えないことは少しだけ寂しいような気もするけれど、決して悲しいわけではない。
それはそうだ。ナイトは、ライトなのだから。
「ルージュ……」
満月の下。そっと腰を引き寄せられたかと思うと顎を取られ、キスの角度に傾けられた顔に、ルージュは一瞬ドキリとしながらも目を閉じる。
相変わらずライトは柔和で優しいけれど、ルージュを見る目の奥に、“ナイト”の存在を感じることが多くある。
今もそうだ。甘くルージュの名を呼びながら、口づけを拒否させない強引な空気を醸し出している。
「ライ……、ん……」
ライトの後方で輝く丸い月。
ルージュの目元に陰が差し、そっと唇を塞がれる。
「ん……っ」
舌の先で優しく唇をノックされ、おずおずと薄く口を開けばゆっくりと生温かなものが口腔内に潜り込んできて、それだけでぞくりと背筋が震えた。
「ん……っ、んん……っ」
優しく舌を絡まされ、ぴちゃり……っ、と、妙に艶めかしい水音が鼓膜を震わせる。
「んっ、ん……っ」
互いの唾液が絡み合う口づけは、まるでお酒に酔ったようにくらくらして足元から力が抜けていく。
「……は……っ、ぁ……」
そうしてそっと唇が離れていった後は完全に息が上がっていて、ルージュはくったりとライトに身を預けてしまっていた。
「……大丈夫?」
そんなルージュを意外にも逞しい腕でしっかりと支えながら、ライトが気遣うような目を向けてくる。
「立っていられないようなら……」
けれど。
「あっちの、ガゼボにでも行く?」
「!」
くす、と。
ライトの瞳と口元に意味ありげに浮かんだ小さな笑みに、ルージュは大きく目を見張る。
「あの日の、続きでもしようか」
「! ライト……ッ」
耳元で妙に甘い声色で囁かれ、顔が真っ赤になると同時にぞくりとした刺激が背筋を昇っていく。
「冗談だよ」
羞恥か期待か、潤んだ瞳で驚きの声を上げるルージュにライトは苦笑して、ライトは先ほどの言葉を否定した。
「でも」
と、ふいに真剣な瞳に見下ろされ、ルージュは思わず身構える。
「今夜はもう、帰すつもりはないんだ」
「……え……っ?」
ぎゅ、と肩を強く抱かれ、ルージュの瞳は驚きでさらに大きくなる。
自分がなにを言われたのか、一瞬理解できなかった。
ただ、思考が停止する一方で、心音はどんどん早くなっていって。
「ルージュがほしい」
「!」
真摯な言葉と共に真っすぐ見つめられ、ライトから目が離せなくなる。
「結婚はまだ先だけど……。もう、我慢できない」
それはきっと、ずっとライトが心の奥深くに抑え込んできた望み。
「ルージュを、俺のものにしたい」
雲一つない空には、美しく輝く丸い月。
その光を浴びて、ライトの金色の髪が綺麗に輝いた。
「……ライト……」
「嫌だ、って言われたらすごく困っちゃうんだけど……」
そんなことを言いつつも、ルージュが本気で嫌だと言えばライトが無理強いをしてくることはないのだろう。
「っそんなこと……っ」
けれど、ルージュがライトのことを「嫌」などと思うはずはなくて。
「うん。だから」
ルージュから返される応えをわかって、ライトは甘く優しく微笑う。
「今夜、ルージュを俺のものにしてもいい?」
「っ」
柔らかく確認され、ルージュの顔には一気に熱が昇っていく。
答えは、決まっている。
決まってはいるけれど、ドキドキしすぎてすぐには答えを返せない。
その想いをとても口にすることはできなくて、真っ赤になった顔でただこくりと小さく頷いた。
「ルージュ……」
嬉しそうに綻んだライトの瞳が、今度は愛おしそうにルージュを見つめてくる。
「ルージュ?」
優しく身体を抱き寄せられ、耳元に甘い声が落ちてくる。
「好きだよ。愛している」
トクン……、トクン……、と胸が鳴る。
「……私も……、ライトのことが好き」
「一生、離さない」
恥じらいながらも微笑み返せば、再度顔を上げられて、触れるだけの優しいキスに、胸へと幸せが広がっていった。
「ねぇ、ルージュ。この後二人で少し抜け出さない?」
「ライト?」
ダンスの合間でそう悪戯っぽく微笑んだのは、もちろんライトだ。
「……今夜は、満月が綺麗だから」
「!」
どことなく懐かしそうな目をしたライトが静かに口にした言葉の意味を理解して、ルージュは一瞬動揺する。
――今夜は、満月のダンスパーティー。
けれど、今こうしてルージュと踊っているのはライトだ。
満月の夜だというにも関わらず、ナイトが出てくる気配はない。
それは今夜に限ったことではなく、前回の満月のあの日から……――。ナイトが顔を出すことはなかった。
「うん……」
こくりと小さく頷いて、ルージュはくるりと青いドレスの裾を翻す。
ナイトが表に出てこなくなった理由――。そこに、思い当たることがないわけではない。
「行こうか」
「うん」
ダンスが終わると早速ライトに誘われて、ルージュはその手を取ると園庭へ繋がるガラス扉に向かって歩いていく。
あの日もこうして手を取り合って、二人で綺麗な満月を見上げていた。
あの時繋いでいた手はナイトのもの。
そして、今夜は。
「俺、こんなふうにじっくりと満月を眺めるのは初めてかもしれない」
月の光に緑と花々が美しく照らし出される中。夜空を見上げたライトが静かに微笑んだ。
幼い頃から満月の夜にはナイトが現れていたとしたならば、ライトが満月を目にする機会は確かになかったに違いない。
「綺麗だね」
「……うん。すごく」
振り向いて、優しい微笑みを向けてくるライトに、ルージュは切なさを覚えながらも笑顔を返す。
――もう、ナイトが出てくることはない。
なぜならナイトは、完全にライトの中に溶け込んで……、と、いうよりも、二つの人格が綺麗に一つに戻ったからだ。
ナイトとライトの両方の人格が出てくるようになった時から気づいていた。
少しずつ少しずつ。ライトなのかナイトなのかわからないことが多くなっていた。それは、二つの人格が一つになる前兆だったのだろう。
まるで本当にライトの双子の弟かのように現れて、ルージュを翻弄していったナイト。
ナイトに会えないことは少しだけ寂しいような気もするけれど、決して悲しいわけではない。
それはそうだ。ナイトは、ライトなのだから。
「ルージュ……」
満月の下。そっと腰を引き寄せられたかと思うと顎を取られ、キスの角度に傾けられた顔に、ルージュは一瞬ドキリとしながらも目を閉じる。
相変わらずライトは柔和で優しいけれど、ルージュを見る目の奥に、“ナイト”の存在を感じることが多くある。
今もそうだ。甘くルージュの名を呼びながら、口づけを拒否させない強引な空気を醸し出している。
「ライ……、ん……」
ライトの後方で輝く丸い月。
ルージュの目元に陰が差し、そっと唇を塞がれる。
「ん……っ」
舌の先で優しく唇をノックされ、おずおずと薄く口を開けばゆっくりと生温かなものが口腔内に潜り込んできて、それだけでぞくりと背筋が震えた。
「ん……っ、んん……っ」
優しく舌を絡まされ、ぴちゃり……っ、と、妙に艶めかしい水音が鼓膜を震わせる。
「んっ、ん……っ」
互いの唾液が絡み合う口づけは、まるでお酒に酔ったようにくらくらして足元から力が抜けていく。
「……は……っ、ぁ……」
そうしてそっと唇が離れていった後は完全に息が上がっていて、ルージュはくったりとライトに身を預けてしまっていた。
「……大丈夫?」
そんなルージュを意外にも逞しい腕でしっかりと支えながら、ライトが気遣うような目を向けてくる。
「立っていられないようなら……」
けれど。
「あっちの、ガゼボにでも行く?」
「!」
くす、と。
ライトの瞳と口元に意味ありげに浮かんだ小さな笑みに、ルージュは大きく目を見張る。
「あの日の、続きでもしようか」
「! ライト……ッ」
耳元で妙に甘い声色で囁かれ、顔が真っ赤になると同時にぞくりとした刺激が背筋を昇っていく。
「冗談だよ」
羞恥か期待か、潤んだ瞳で驚きの声を上げるルージュにライトは苦笑して、ライトは先ほどの言葉を否定した。
「でも」
と、ふいに真剣な瞳に見下ろされ、ルージュは思わず身構える。
「今夜はもう、帰すつもりはないんだ」
「……え……っ?」
ぎゅ、と肩を強く抱かれ、ルージュの瞳は驚きでさらに大きくなる。
自分がなにを言われたのか、一瞬理解できなかった。
ただ、思考が停止する一方で、心音はどんどん早くなっていって。
「ルージュがほしい」
「!」
真摯な言葉と共に真っすぐ見つめられ、ライトから目が離せなくなる。
「結婚はまだ先だけど……。もう、我慢できない」
それはきっと、ずっとライトが心の奥深くに抑え込んできた望み。
「ルージュを、俺のものにしたい」
雲一つない空には、美しく輝く丸い月。
その光を浴びて、ライトの金色の髪が綺麗に輝いた。
「……ライト……」
「嫌だ、って言われたらすごく困っちゃうんだけど……」
そんなことを言いつつも、ルージュが本気で嫌だと言えばライトが無理強いをしてくることはないのだろう。
「っそんなこと……っ」
けれど、ルージュがライトのことを「嫌」などと思うはずはなくて。
「うん。だから」
ルージュから返される応えをわかって、ライトは甘く優しく微笑う。
「今夜、ルージュを俺のものにしてもいい?」
「っ」
柔らかく確認され、ルージュの顔には一気に熱が昇っていく。
答えは、決まっている。
決まってはいるけれど、ドキドキしすぎてすぐには答えを返せない。
その想いをとても口にすることはできなくて、真っ赤になった顔でただこくりと小さく頷いた。
「ルージュ……」
嬉しそうに綻んだライトの瞳が、今度は愛おしそうにルージュを見つめてくる。
「ルージュ?」
優しく身体を抱き寄せられ、耳元に甘い声が落ちてくる。
「好きだよ。愛している」
トクン……、トクン……、と胸が鳴る。
「……私も……、ライトのことが好き」
「一生、離さない」
恥じらいながらも微笑み返せば、再度顔を上げられて、触れるだけの優しいキスに、胸へと幸せが広がっていった。
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