満月の夜にご注意を! 〜双子の兄弟から迫られて!?〜

姫 沙羅(き さら)

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本編

第二十四話 ライトとナイト③

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 そして、たまたま休日だった次の日の朝のこと。

「ルージュ……ッ!」
 ルージュが姿を現すや否や走り寄ってきたエレノアの顔は焦燥に満ちていた。
「ライトが……っ!」
「え……?」
 ただならないその様子に、ルージュの心臓はドクリと跳ね上がる。
「……ライトに……、なにか……?」
 昨夜、ナイト・・・が目を覚ました。つまり、ライトがそのまま眠り続けるようなことがあったとしても、身体的にはなんの問題もないはずだ。急変、などという万が一のことがあるとは考え難い。
「それが……っ」
 緊張に表情を強張らせたルージュへ、エレノアが口を開きかけた時。
「よぉ、ルージュ」
 エレノアの後方から颯爽と歩いてきた人物に、ルージュは大きく目を見開いた。
 片手をポケットに突っ込み、ニヤリと口の端を引き上げて笑う人物は。
「……ナ、ナイト……ッ!?」
 ライトの綺麗な所作とはほど遠いそれらの言動は、間違いなくナイトのもの。
「……ど……、うして……」
 なぜ、満月の夜ではないにも関わらずナイトがここにいて。
 ライトではなく、ナイトが目を覚ますのか。
 エレノアも困惑しているらしく、ルージュの隣でおろおろとの行動を見守っている。
 だが、そんな二人の動揺など気にするふうもなく、ナイトは楽しそうにくすりと笑う。
「デート、しようぜ?」
「え?」
 そうルージュに声をかけると同時にすぐ傍までやってきたナイトに肩を抱かれ、ルージュはその言葉の意味がわからず瞳を瞬かせる。
「こんな昼間に出てこられるなんてこと、これから先あるかどうかわからない」
「!」
 くす、と自嘲気味に洩らされた呟きにハッとする。
 こうしてライトではなくナイトが目覚めたからといって、このまま明日も明後日もナイトが目を覚ますとは限らない。
 いつ元のように戻るかもわからない上、最悪の場合、また深い眠りについてしまうかもしれない。
「だったら今のうちに、やりたかったこと全部、ルージュとしておきたい」
 そう言って強引に外へ連れ出そうとしてくるナイトに逆らえない。
「……っナイト……!」
 そんなナイトにエレノアの咎めるような声が上がるが、ナイトはちらりと視線を投げただけで、ひらひらと後ろ手に手を振った。
「じゃ、そういうことだから」
 ナイトも紛れもなくエレノアので、成人した立派な大人だ。しかもナイトには、きちんとライトの記憶もある。
 そういった意味では一人で出かけたこともない子供ではないのだ。だが、それでもエレノアが心配するのは、ナイトが自分たちの目の届かないところでなにをしでかすかわからないから、かもしれない。
「お姉様……!」
「ルージュッ」
 すでに半分以上玄関の扉を潜りながら、ルージュは背後へ振り返る。
「ナイトのことは、ちゃんと私が見ていますから……!」
「ナイト……ッ! ルージュ……!」
 どうしたものかとおろおろするエレノアの姿は、すぐに閉められた扉の向こうに消えていた。


「なんだよ、さっきの」
「?」
 どこに行くつもりなのか、とりあえず街中に向かって走り出した馬車の中。
 不貞腐れたようなナイトが不満気な目を向けてきて、ルージュはきょとん、と瞳を瞬かせる。
「“ちゃんと見るから”、って。子供じゃねぇんだから」
「……それは……」
 確かにナイトは子供ではないけれど、ライトの家族たちにとっては問題児に違いない。
 ナイトが外でなにかをやらかしたなら、それはそのままライトの悪評となり……、ウィーズリー家の評価にも繋がってくる。
 昔からやんちゃ・・・・を繰り返してきたというナイトの行動に、エレノアが心配してしまうのも仕方がないことだろう。
「言っておくけど、オレだってライトなんだからな? ルージュよりよっぽど出来る・・・からな?」
「! 失礼ね……!」
 だが、くすりとからかうように笑われて、ルージュは恨めし気な目を向ける。
 ライトは学園一の秀才だ。頭の中身が同じなのだから、ナイトが優秀でないはずがない。だが、きっとナイトは勉強があまり好きではないのだろうと思えば、ナイトだって狡いのではないかと思ってしまう。ナイトが頭がいいとしたら、それは全てライトが努力したことの恩恵だ。
「ルージュだって充分優秀だろ?」
「もう……っ」
 そんなルージュの内心を知ってか知らずか、からからと楽しそうに笑うナイトに頬を膨らませる。
 首位をキープし続けているライトからはほど遠いけれど、ルージュだって女子では十位以内に入るほどには優秀だ。
 元々は平均並みだと思うけれど、ライトに相応しくありたいために、ルージュは影でかなり努力していたのだ。
「……ありがとな」
「? なにが?」
 そこでふいに柔らかな瞳で見つめられ、ルージュはぱちぱちと瞳を瞬かせる。
「“デート”。してくれて」
 その目は驚くほどいでいて、ドキリと心臓が高鳴った。
「……そ、れは……」
 ずっとしてみたかったことをしたいと言われ、それを止めることはできなかった。
 それはナイトの純粋な願いだと思えたから。
 ライトを通していろいろな経験をしていても、それはナイトの意思ではない。
 なぜライトではなくナイトが目覚めたのか。ライトはこのままどうなるのか。心配でないはずはないが、それでも今はナイトのささやかな願い事を叶えてあげたいと思えた。
 ――『……多分、オレならライトを起こせる気がする』
 ナイトはそう言っていたのだ。
 だから、少なくともライトは無事・・なのだと信じられた。
 それならば、今はせめて。
「同情?」
「っ」
 くす、と自嘲気味の笑みを向けられて言葉に詰まる。
 この感情が同情だと指摘されても否定することは難しい。
 ナイトがしたいことをして満足してくれたなら、ライトを呼び起こしてくれるかも……、などという下心があることも。
 ナイトも間違いなくライトだ。こうして一緒にいれば、その強引さにライト以上にドキドキさせられることもあるし、やはり好きだとも思う。
 同一人物ながら違う人格。複雑すぎて、自分でも自分の気持ちがわからない。
「それでもいいんだ。こうやってルージュと出かけられるなら」
「ナイト……」
 純粋に嬉しそうに笑われて、胸の奥へじんわりとしたものが広がっていく。
 やはり、ナイトは間違いなくライトなのだ。
 こうしてルージュに対する気持ちを赤裸々に告げ、甘く笑いかけてくる。
「オレ、今、めちゃくちゃ幸せかも」
「……っ」
 そこはライトとは違い、子供のような笑顔を見せるナイトに息を呑む。
 朝、普通に目覚めて本気で驚いたのだと語るナイトは、昨夜、ルージュとの間に流れた気まずい空気など完全に忘れている。
 驚いた後にまず思ったことが「ルージュとデートをしたい」だったと告げられてしまえば、もうナイトを拒否することは難しい。
 例えそれが、どちらかと言えば“同情”に近い感情だったとしても。
「どこ行きたい?」
「……私?」
 そこで楽しそうに問いかけられ、ルージュは不思議そうに瞳を瞬かせる。
 自分が経験したことのないことを体験したいと言っておきながら、こんな時でさえナイトの優先順位はルージュが先だ。
 だから。
「……ナイトの行きたいところ」
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