満月の夜にご注意を! 〜双子の兄弟から迫られて!?〜

姫 沙羅(き さら)

文字の大きさ
上 下
18 / 39
本編

第十七話 夜明けの真実①

しおりを挟む
 結局その夜は、その後、エレノアに呼ばれた両親が顔を出し、ナイトを含め、これまでの経緯をルージュに説明してくれた。
 それは大昔のことだと言うが、かつて、ウィーズリー家の御令嬢が狼男と恋をして子を成した。当時、ウィーズリー家には後継者となる嫡男がいたものの、子供には恵まれず、姉であるその御令嬢の子供を後継者として迎え入れたという話だった。
 異種族間での婚姻は特段禁忌とされてはいないが、今でもそうよく聞く話ではない。今より大昔の当時を思えば、かなり珍しく、異種族間で生まれる子供については未知の生き物だったに違いない。
 記録によれば、数代は狼男の血筋らしい特徴を持つ子供が生まれるようなこともあったらしいが、そのうちその血も薄れていき、今ではそんな先祖の話などお伽話に近いくらいの感覚で語り継がれていたという。
 ――そう。ライトの人格が満月の夜にだけ変貌するようになるまでは。
 ナイトが表に現れたのは、ルージュが初めてライトと会う少し前のこと。
 ある満月の夜、突然部屋の中の玩具を全てひっくり返したかと思うと家中を駆け回り、ライト――否、ナイトを追い駆けまわす使用人たちを相手に、邸全てを使った追いかけっこ兼隠れんぼを始めた我が子に、ライトの母親などはライトがおかしくなってしまったのかと気を失いかけたという。
 だが、それはその一晩だけの出来事で。
 あれはなにかの間違いだったのかと落ち着きを取り戻した頃。再び訪れた満月の夜に、またライトは豹変した。
 初めはなんの奇病かとも思ったらしいが、そこに“満月の夜”だという共通点を見つけた時、代々語り継がれてきた先祖の話を思い出したという。
 ――満月の夜にだけ、本来の狼の姿となる“狼男”。
 ウィーズリー家には、確かにその血が脈々と受け継がれてきたのだ。
 何代も時間をおいてから表に現れた先祖の血。
 異種族間で生まれる子供については様々で謎が多い。すっかり狼男の血など薄れてしまったウィーズリー家だ。ライトが狼に変化するのではなく、別の形の変化をしたとしても不思議はない。
 それが、ライトの中に生まれた、ライトとは正反対の性格をしたもう一つの人格。
 家族は満月の夜にだけ現れるライトのもう一つの人格のことを“ナイト”と呼び、問題児としか思えない行動をするライトの中のその存在を隠し続けてきたのだ。
 そしてそれは、ライト自身の強い希望でもあった。
 自分の中に、欲にまみれたそんな人格がいることを誰よりも嫌悪していた。
 清廉潔白なライトの性格を思えば、自分の中のナイトの存在を認められないのも当然のことだろう。
 ずっと、罪悪感に駆られながらも隠してきた。
 きっと、誰よりも、大切で愛するルージュに気づかれたくないと怯えながら……。

『ねぇ、ルージュは大きくなったらなにになりたいの?』
 幼い頃によく交わされる、子供同士のそんな会話。
『……おひめさま』
 それに、そんな幼すぎる答えを返したことを思い出す。
『お姫様?』
『……ライトのね。おひめさまになりたい』
 初めて会った時からライトのことを好きだったルージュは、ほんのりと頬を染め、恥ずかしそうにそう口にした。
『お母様が言ってたの。真っ白なウェディングドレスを着た女の子は、みんな“おひめさま”なんだって』
 ルージュの両親は、ルージュの目から見ても互いのことを想い合う、とても素敵な夫婦だった。
 だから、自分もそんなふうになりたいと思っていた。
 そして、夫のことを想い、想われるルージュの母親は、幸せそうに自分たちの結婚式の一幕をルージュに語って聞かせてくれたのだ。
『ライトのおひめさまになって、かみさまの前でアイをちかうの』
 まだ幼いルージュには、その意味はよくわからなかったけれど。
 きっと、ライトにはわかっていたのではないかと思う。
『愛を、誓う?』
『うん……。大好きな人とね。キスをするんだって』
 意味はよくわからないまま、大好きなライトにドキドキとそれを告げていた。

 ヴァージンロードを、真っ白なウェディングドレスを着て歩き、大好きな人の元へ。
 神様の前で永遠の愛を誓ってキスをする。

 そんな、幼い頃に語ったルージュの夢を、ライトはずっと叶えようとしてくれていた。
 ライトは、そんなふうにとても優しい人だから。
 だから。

(……ライトのことが、好きなの)
 それは、間違いないルージュの想い。
 けれど。

 ――『オレもライトなのに?』

 ナイトも、ライトだ。
 赤裸々で情熱的な想いを向けられて、嬉しくなかったといえば嘘になる。
 ナイトはライトとは別人格だけれど、ライトの一部であることは間違いない。
 ルージュがナイトのことを拒否できなかったのは当然だ。ナイトも、確かにライトなのだから。
 ライトであれば絶対にありえないだろう行動で求められ、心の一部は歓喜していた。
 誠実すぎるライトの態度は、ほんの時折、自分に魅力がないのだろうかとルージュを不安にさせていたことも確かだったから。
 それが、ルージュのことを大切に想ってくれているからだとはわかっていても、恋する乙女心は複雑で欲張りだ。

(……ライト……)
 ライトの両親の気遣いで、その日はそのままウィーズリー家の客室に宿泊させてもらえることになったルージュは、煌々と輝く満月を見つめ、“二人のライト”へと想いを馳せていた。




 ◈◈✼◈◈┈┈┈┈◈◈✼◈◈




 次の日。一緒に朝食を取ろうと、それよりもかなり早い時間にルージュを呼びに来たライトの顔はとても重いものだった。
「……ごめん」
「? ライト? どうして謝るの?」
 開口一番謝られ、ルージュの方が動揺してしまう。
 静かに頭を下げたライトは、間違いなくライトだ。
「……ナイトの、こと」
 ルージュからの問いかけに、ライトは言いずらそうに口にする。
「……ずっと、隠してた」
「っ、……それを言うなら……、私だって」
 ライトは、この十数年、自分の中にいるナイトの存在を。
 ルージュは、ここ数か月のナイトとの逢瀬を。
 互いに隠していたことを、おずおずと懺悔する。
「……うん」
 神妙に頷くライトに、
「……ね?」
 困ったように眉を下げてその顔をみつめた。
「……お互い様、かな、って」
 互いにナイトのことを隠していた。
 だから、“おあいこ”。
「っでも……!」
 けれど、そう苦笑いを零すルージュに、ライトは悲痛の面持ちで顔を上げる。
「ナイトは……っ、オレは、ルージュに酷いことを……っ」
「“酷いこと”?」
 綺麗な顔を罪の意識で歪めたライトに、ルージュはきょとん、と瞳を瞬かせる。
 自分はなにか、ライトに……、ナイトに、なにか酷いことをされただろうか。
「……っ、その……っ、ルージュの、意に沿わないことを……っ」
「……“意に、沿わない”……」
 その意味を察してぶわりと全身が熱くなる。
 ナイトには、キスをされてそれ以上のことを……。身体を繋げる一歩手前までと言えるような、かなり恥ずかしいことをされてしまった。
 確かにそれらの行為は、ルージュの意に沿わないものであったと言えばそうかもしれないけれど……。
「……でも、本気で嫌だったわけじゃない」
「え……?」
 あまりの恥ずかしさから俯きがちに零した小さな声に、ライトの目が驚いたように丸くなる。
「……好きな人に触れられて、嫌だなんてことがあるわけないじゃない?」
 それを口にするのはとても恥ずかしくて。
 だからといって誤解されたままでいるわけにもいかず、顔を朱色に染めたルージュはちらりとライトの顔を窺った。
「ライトに触られて、嫌だなんて思うはずがない」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。 彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。 亀じゃなくて良かったな・・ と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。 結は吾郎が何度振っても諦めない。 むしろ、変に条件を出してくる。 誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小野寺社長のお気に入り

茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。 悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。 ☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...