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本編
第十五話 満月の真実②
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ナイトはライトで、同一人物だった。
明かされたその真実は衝撃だが、ルージュは混乱する頭の中でまた一つ別の答えを導き出す。
「え……? あ、でも……、それじゃあ……?」
ナイトがライトの一部分だというならば、ルージュのファーストキスの相手はナイトであると同時にライトだということにもなる。
それは、つまり。
ほんの少しだけ安堵の気持ちを覚えるルージュに、どうやらそんなルージュの思考に気づいたらしいライトはくすりと笑う。
「ルージュが今なにを考えてるかわかってるよ」
「!」
ルージュは思っていることが顔に出やすい。学年一位の秀才であるライトの前では、ルージュの考えていることなど筒抜けだ。
「ライトに、記憶があるように見えた?」
「……え……?」
そうして投げられた疑問符に、ルージュは途端動揺する。
ライトは、ナイトでもある。
けれど、ルージュが初めてナイトに会ったあの次の日。パーティーに行けなかったことを謝罪してきたライトは。
ナイトとのあれこれを告白したルージュに見せた、ライトの反応は。
なにも知らないふりでルージュに接しているようにはとても見えなかった。
つまりそれは。
「ずるいと思わない? オレは満月の夜だけしか出てこられないのに」
チラリと窓の外に浮かぶ満月へ視線を投げたナイトは、可笑し気にルージュを見つめてくる。
「その代わり、オレにはライトの記憶が全部あるけど、ライトにはオレになっている時の記憶がないんだ」
「――っ!」
だから。
幼い頃からルージュのことを影から見つめていたような話をしていたナイトは。ずっと、ライトを通してルージュのことを見つめ続けてきたということなのだろう。
その一方で、ライトの方は。
「それこそ小さい頃からくそ真面目だったライトは、翌朝になって自分が夜の間にしたことを聞かされて、青くなってたもんだ」
子供の悪戯程度ではあったけれど、なかなかにやんちゃぶりを発揮していたナイトは、満月の夜を迎える度に様々な問題を起こしては家族を困らせ、ライトを落ち込ませていたという。
「オレはアイツだからな。アイツの思っていることは手に取るようにわかる。ライトにはわかってたんだよ。どんなに“いい子”を演じていても、“ナイト”のやっていることが、自分の隠れた願望だ、って」
幼い頃から大人びていて、周りに一切手を焼かせることのなかったライト。そんなライトにだって、子供らしい好奇心や悪戯心はあったのだろう。けれどそれを、周りの迷惑になるからと、手を煩わせてはいけないという優しい心から我慢していた。
その結果、抑えられたその欲求は、もう一人の人格が担うようになっていた。
元々二つの人格があったのか、成長過程で“狼男”の血が覚醒した結果が“多重人格”となったのか、それは誰にもわからない。
そして、ライトがとても自分自身の中で認められない醜い願望を知った時。まず恐怖したのがその欲望がルージュへ向かうことだった。
「だからライトは、あの手この手を使って、オレがルージュに近づかないように画策してた」
ナイトにはライトの記憶がそのままある。そして、ナイトはライトの“欲”を抑えることなく表に出す人格だ。
ライトは自分自身の中に、ルージュに対する確かな欲望があることを自覚していた。
触れたい。キスをしたい。一度でも触れてキスをしたならば、それ以上のことを抑えられる自信がない。
けれど、ルージュを傷つけたくはないから。
なんとか理性で抑え込んでいるそれらの欲求を、ナイトは簡単にルージュに向けてしまうだろう。
学園に入るまではまだよかった。互いの家にいさえすれば、そう簡単にルージュの元へ行くことは叶わない。
だが、問題は、成人して全寮制の学園に入った後。
男子寮と女子寮は互いに行き来が禁止されているとはいえ、会いに行こうとすればすぐに行けてしまう距離にある。
ライトとは違い、ナイトにとっては規則などあってないようなもの。なにをしでかすかわからない。
だから満月の夜が訪れる度、ライトはナイトがどんな手を講じてもルージュの元へは行けないように作戦を練っていたらしかった。
「オレが……、理性が緩んだ自分がルージュになにをしようとするか、よくわかってたからな」
「っ」
その答えは、初めてナイトがルージュの前に姿を現したあのパーティーでの出来事を考えれば明白だ。
ルージュを人気のないところへ誘い、キスをして。それから、それ以上のことも……。
「わかっただろ? ライトはお優しい聖人君子なんかじゃない、って」
それらは元々ライトの願望なのだとくすくすと笑われて、ルージュは顔が火照るのを感じた。
まさか、あのお堅いライトが。本音ではそんなことを思っていたなど、驚くとともに恥ずかしくて仕方がない。
「本当は、ルージュのことをいつでもどこでも押し倒して犯したいと思ってる狼なんだよ」
「!」
刹那、熱のこもったギラギラとした瞳で見つめられ、ルージュはぞくりと背筋が痺れるのを感じた。
それが、ナイトの……、ライトの本当の気持ち。
「……っ、だから、今まで隠してたの……?」
優しくて甘い、紳士なライトはルージュのために。
幼い頃に語った可愛らしいルージュの夢。
ファーストキスは女の子の夢。
好きな人の“お嫁さん”になることも女の子の夢。
そんなルージュの甘い夢を叶えるために、ずっと自分を抑え込んで我慢して。
「ルージュに嫌われたくないばかりにな」
全ては、ルージュのことが好きだから。
「……そんなの……っ」
自然と瞳に涙が浮かび、多幸感に満たされる。
「……嫌うわけ、ないのに……っ」
好きな人に触れられて。キスをされて。嫌だなんて思うはずがない。
初めてのキスもウェディングドレスも乙女の夢には違いはないけれど、今のご時世、結婚まで純潔を守らなければならないという考え方は古いものになっている。
大好きなライトと抱き合うことに、抵抗感などあるはずがない。
「本当に?」
「っ当たり前でしょ……っ」
くす、と挑発的に向けられる瞳にじとりと恨めし気な目を返す。
幼い頃からずっとライトのことだけを一途に想っていた。その想いをなめないでもらいたい。
「だったらこっち来いよ」
「え?」
けれどそう言って手招かれ、ルージュは一瞬動揺する。
「ライトの裏の顔も受け入れてくれるんだろ?」
「……っ」
ライトがずっと隠していた、本当の欲望。
ふらりと誘われるままに足が動き、ナイトのすぐ近くまで歩を進めた時。
「――っ!?」
ぐい……っ、と腕を引かれたかと思うとそのまま抱き寄せられ、ふわりとライトの薫りに包まれた。
「んん……っ!?」
そのまますぐに塞がれた唇。
「ん……っ、ん……!」
性急に唇を割り開かれ、ナイトの舌が口腔内に潜り込んでくる。
「ん……っ、ぅ……っ」
逃げようとしても絡み取られ、執拗に蹂躙される。
呼吸がままならずに苦しくて涙が滲む。
「……は……っ、ぁ……」
やっと唇が離された時には、酸欠もあり、ルージュの身体からはくたりと力が抜けてしまっていた。
「……ルージュ……」
そんなルージュを抱き留めて、ナイトの手が胸元へ伸びてくる。
「……ぁ……っ」
服の上から柔らかな膨らみを確かめるように揉まれて小さな吐息が洩れた。
けれど。
「っ!? だ、だめ……っ!」
ルージュはハッと我に返り、思い切りナイトの胸元を突き放していた。
明かされたその真実は衝撃だが、ルージュは混乱する頭の中でまた一つ別の答えを導き出す。
「え……? あ、でも……、それじゃあ……?」
ナイトがライトの一部分だというならば、ルージュのファーストキスの相手はナイトであると同時にライトだということにもなる。
それは、つまり。
ほんの少しだけ安堵の気持ちを覚えるルージュに、どうやらそんなルージュの思考に気づいたらしいライトはくすりと笑う。
「ルージュが今なにを考えてるかわかってるよ」
「!」
ルージュは思っていることが顔に出やすい。学年一位の秀才であるライトの前では、ルージュの考えていることなど筒抜けだ。
「ライトに、記憶があるように見えた?」
「……え……?」
そうして投げられた疑問符に、ルージュは途端動揺する。
ライトは、ナイトでもある。
けれど、ルージュが初めてナイトに会ったあの次の日。パーティーに行けなかったことを謝罪してきたライトは。
ナイトとのあれこれを告白したルージュに見せた、ライトの反応は。
なにも知らないふりでルージュに接しているようにはとても見えなかった。
つまりそれは。
「ずるいと思わない? オレは満月の夜だけしか出てこられないのに」
チラリと窓の外に浮かぶ満月へ視線を投げたナイトは、可笑し気にルージュを見つめてくる。
「その代わり、オレにはライトの記憶が全部あるけど、ライトにはオレになっている時の記憶がないんだ」
「――っ!」
だから。
幼い頃からルージュのことを影から見つめていたような話をしていたナイトは。ずっと、ライトを通してルージュのことを見つめ続けてきたということなのだろう。
その一方で、ライトの方は。
「それこそ小さい頃からくそ真面目だったライトは、翌朝になって自分が夜の間にしたことを聞かされて、青くなってたもんだ」
子供の悪戯程度ではあったけれど、なかなかにやんちゃぶりを発揮していたナイトは、満月の夜を迎える度に様々な問題を起こしては家族を困らせ、ライトを落ち込ませていたという。
「オレはアイツだからな。アイツの思っていることは手に取るようにわかる。ライトにはわかってたんだよ。どんなに“いい子”を演じていても、“ナイト”のやっていることが、自分の隠れた願望だ、って」
幼い頃から大人びていて、周りに一切手を焼かせることのなかったライト。そんなライトにだって、子供らしい好奇心や悪戯心はあったのだろう。けれどそれを、周りの迷惑になるからと、手を煩わせてはいけないという優しい心から我慢していた。
その結果、抑えられたその欲求は、もう一人の人格が担うようになっていた。
元々二つの人格があったのか、成長過程で“狼男”の血が覚醒した結果が“多重人格”となったのか、それは誰にもわからない。
そして、ライトがとても自分自身の中で認められない醜い願望を知った時。まず恐怖したのがその欲望がルージュへ向かうことだった。
「だからライトは、あの手この手を使って、オレがルージュに近づかないように画策してた」
ナイトにはライトの記憶がそのままある。そして、ナイトはライトの“欲”を抑えることなく表に出す人格だ。
ライトは自分自身の中に、ルージュに対する確かな欲望があることを自覚していた。
触れたい。キスをしたい。一度でも触れてキスをしたならば、それ以上のことを抑えられる自信がない。
けれど、ルージュを傷つけたくはないから。
なんとか理性で抑え込んでいるそれらの欲求を、ナイトは簡単にルージュに向けてしまうだろう。
学園に入るまではまだよかった。互いの家にいさえすれば、そう簡単にルージュの元へ行くことは叶わない。
だが、問題は、成人して全寮制の学園に入った後。
男子寮と女子寮は互いに行き来が禁止されているとはいえ、会いに行こうとすればすぐに行けてしまう距離にある。
ライトとは違い、ナイトにとっては規則などあってないようなもの。なにをしでかすかわからない。
だから満月の夜が訪れる度、ライトはナイトがどんな手を講じてもルージュの元へは行けないように作戦を練っていたらしかった。
「オレが……、理性が緩んだ自分がルージュになにをしようとするか、よくわかってたからな」
「っ」
その答えは、初めてナイトがルージュの前に姿を現したあのパーティーでの出来事を考えれば明白だ。
ルージュを人気のないところへ誘い、キスをして。それから、それ以上のことも……。
「わかっただろ? ライトはお優しい聖人君子なんかじゃない、って」
それらは元々ライトの願望なのだとくすくすと笑われて、ルージュは顔が火照るのを感じた。
まさか、あのお堅いライトが。本音ではそんなことを思っていたなど、驚くとともに恥ずかしくて仕方がない。
「本当は、ルージュのことをいつでもどこでも押し倒して犯したいと思ってる狼なんだよ」
「!」
刹那、熱のこもったギラギラとした瞳で見つめられ、ルージュはぞくりと背筋が痺れるのを感じた。
それが、ナイトの……、ライトの本当の気持ち。
「……っ、だから、今まで隠してたの……?」
優しくて甘い、紳士なライトはルージュのために。
幼い頃に語った可愛らしいルージュの夢。
ファーストキスは女の子の夢。
好きな人の“お嫁さん”になることも女の子の夢。
そんなルージュの甘い夢を叶えるために、ずっと自分を抑え込んで我慢して。
「ルージュに嫌われたくないばかりにな」
全ては、ルージュのことが好きだから。
「……そんなの……っ」
自然と瞳に涙が浮かび、多幸感に満たされる。
「……嫌うわけ、ないのに……っ」
好きな人に触れられて。キスをされて。嫌だなんて思うはずがない。
初めてのキスもウェディングドレスも乙女の夢には違いはないけれど、今のご時世、結婚まで純潔を守らなければならないという考え方は古いものになっている。
大好きなライトと抱き合うことに、抵抗感などあるはずがない。
「本当に?」
「っ当たり前でしょ……っ」
くす、と挑発的に向けられる瞳にじとりと恨めし気な目を返す。
幼い頃からずっとライトのことだけを一途に想っていた。その想いをなめないでもらいたい。
「だったらこっち来いよ」
「え?」
けれどそう言って手招かれ、ルージュは一瞬動揺する。
「ライトの裏の顔も受け入れてくれるんだろ?」
「……っ」
ライトがずっと隠していた、本当の欲望。
ふらりと誘われるままに足が動き、ナイトのすぐ近くまで歩を進めた時。
「――っ!?」
ぐい……っ、と腕を引かれたかと思うとそのまま抱き寄せられ、ふわりとライトの薫りに包まれた。
「んん……っ!?」
そのまますぐに塞がれた唇。
「ん……っ、ん……!」
性急に唇を割り開かれ、ナイトの舌が口腔内に潜り込んでくる。
「ん……っ、ぅ……っ」
逃げようとしても絡み取られ、執拗に蹂躙される。
呼吸がままならずに苦しくて涙が滲む。
「……は……っ、ぁ……」
やっと唇が離された時には、酸欠もあり、ルージュの身体からはくたりと力が抜けてしまっていた。
「……ルージュ……」
そんなルージュを抱き留めて、ナイトの手が胸元へ伸びてくる。
「……ぁ……っ」
服の上から柔らかな膨らみを確かめるように揉まれて小さな吐息が洩れた。
けれど。
「っ!? だ、だめ……っ!」
ルージュはハッと我に返り、思い切りナイトの胸元を突き放していた。
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