満月の夜にご注意を! 〜双子の兄弟から迫られて!?〜

姫 沙羅(き さら)

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本編

第四話 指切り②

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 ライトと会うのは、あの満月のパーティー以来――、否、その前日以来だ。
 けれどナイトとの記憶はそのまま目の前のライトへと重なって、思わず動揺してしまう。
 ――ライトのあの顔でキスをされ、身体を……、肌に触れられた。
「……ふ~ん……?」
 隣でおろおろし始めたルージュの様子をどう取ったのか、意味ありげな目を向けたアメリアがにこりと笑う。
「じゃあ、私は行くわね」
「え……、う、うん……」
「ごゆっくり」
 反射的に頷いたルージュへやはり意味深な声色を向け、アメリアはライトへもにこりと笑うとそのまま教室を後にした。
 するとアメリアと入れ替わるようにライトがルージュのすぐ傍までやってきて、酷く申し訳なさそうな表情かおを向けてくる。
「……ルージュ。この前のパーティーはごめん」
「っ、な、なにが……っ?」
 謝罪の言葉に、思わず声が裏返ってしまう。
 それは、ルージュにとって、“あんな行為ことをしてごめん”という意味にも捉えられてしまって。
「行けなくて」
「!」
 その言葉に、やはりあれはライトではなかったという現実を突きつけられて愕然とする。
 あれがライトではなくナイトだったということは理解しているつもりだった。それでも、とてもライトとは思えない言動をするライトと瓜二つの存在を、ライトだと思いたかったのだ。
 ――だって。そうでなければ、ルージュはライト以外の男性に……。
「う、ううんっ? 予定があったなら仕方ないもの……っ」
 どうしても消すことのできないあの夜の記憶に、思わず赤くなってしまった顔を慌てて横に振るルージュへと、ライトの不審そうな瞳が向けられる。
「? ルージュ? どうかした?」
「な、なにがっ?」
 後ろめたさからか、ルージュの顔を覗き込んでくるライトの綺麗な瞳をまともに見ることができずにうろたえる。
「……顔が……、赤い」
「えっ?」
「熱でもある?」
 心配そうな声色で、ルージュの額へと伸ばされるライトの手。
「っ」
 その掌がルージュの額へと触れる直前。
「ルージュ……?」
 びくりっ、と肩を震わせて僅かな拒否を示したルージュに、ライトの驚いたような目が向けられる。
「あ……、ご、ごめんね? なんでもないの……っ」
 本能的にライトに触れられることを拒んでしまったのは、あの日、ライト以外の男性に触れられてしまったことへの罪悪感からに違いない。
 あの夜の出来事は、やはり“浮気”……、ということになるのだろうか。
「あのパーティーも、結局すぐに帰っちゃったし」
「……そうなの?」
 正面からライトの顔を見ることができずに俯きがちに口を開けば、不思議そうな声が落ちてくる。
「……う、うん……。だって……、ほら……、やっぱりライトがいないと……、ね?」
 どうしてもその目を見られないながらも、なんとか顔を上げるとしどろもどろと小さな笑みを零す。
 例え一緒にアメリアたち友人がいたとしても、ライトのいないパーティーでルージュが早めに帰るのはいつものことだった。
「……そっか。ほんと、ごめん」
「そんな、謝らないでよ」
 心底申し訳なさそうに肩を落とすライトに、ルージュは「ううん」と首を振ると苦笑する。
 アメリアたち女友達とパーティーに顔を出すのは、それはそれでもちろん楽しいけれど、それでもやはり、その場にライトがいないと寂しいと思ってしまうのだ。
 そう感じてしまうのはルージュの我儘で、ライトのせいなどではない。
「この埋め合わせはちゃんとするから」
「そんな……」
 責任感の強いライトは、律儀にもそんな提案を口にするけれど、都合がつかなかったことももちろんライトのせいではない。
 けれど。
「今度の休日。前々からルージュが気になるって言ってたカフェデートにお誘いしても?」
「! ライト……」
 甘いウィンクと共にかけられたデートのお誘いはルージュの好みを熟知したもので、胸へとじんわりとした喜びが広がっていくと共に瞳まで潤んでしまう。
 真摯で優しいライトは、ルージュには勿体ないほど素敵な恋人で。
「先約でもある?」
「っううん……っ」
 悪戯っぽく笑われて、すぐに首を横に振る。
 先約などないことはもちろんのこと、ライトと二人きりのデートができることが嬉しくて堪らない。
 二人で出かけることはもちろん初めてではないけれど、友人の多いライトとは団体で出かけることの方が多く、そう何度も“デート”の経験があるわけではなかった。
「じゃあ、約束」
「うん……。約束」
 ライトと初めて出会ったあの時から。
 二人で“約束”を結ぶ時の暗黙の“決まりゴト”。
 小指と小指を絡め合い、密やかな笑みを交わし合う。
 ――あの日と、同じように。
「それじゃあ、またあとでね」
「うん」
 ぽかぽかと胸を満たす温かさを感じながら、自分の教室へと戻るライトの後ろ姿を見送った。

 ――その胸に、一欠片の罪悪感が残っていることには気づかないふりをして……。
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