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本編

第三十三話 月の翳りを取り払って⑤࿇

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「……あ……っ」
 あっさりと下着を引き抜かれたかと思うと前回と同じように大きく膝を折り曲げられ、覆い被さってきたクロムの重みに甘い声が零れ落ちた。
 目の前の肌にしっとりとした汗が浮かんでいることがわかると、クロムの匂いを強く意識してしまい、お腹の奥がきゅんとなる。
「あ……っ!」
 蜜口に熱い屹立が触れてぞくりとする。
「あ……っ、あ……!」
「ぐちゅぐちゅですね」
 蜜口の割れ目を硬い熱棒が行き来して、辺りに響く水音に、クロムが可笑しそうに口の端を引き上げた。
「あっ、あ……っ、あ……っ」
「一緒に善くなりましょうね」
 ゆっくりだったのは初めだけで、クロムの腰の動きはすぐに大きく激しくなっていく。
「あ……! ぁあ……っ、ん……! あ……っ」
 アリーチェの愛液で濡れた蜜口は滑りが良く、ぐちゅぐちゅという音を響かせながら花芽を擦られて、すぐにあの感覚が戻ってくる。
「こんなに蕩けていたら……っ、間違って挿入はいってしまいそうになります……っ」
「ゃ、あ、あっ、あ……っ、ぁあ……っ、ん……」
 今も止めどなく愛液を零している蜜口ははくはくとした呼吸を繰り返し、物欲しげなその動きにクロムの口からは荒い吐息が洩れた。
「あ……っ、ぁあ、ん……っ!」
 互いのイイトコロを擦り合わせる行為は酷く心地よく、背筋をぞくぞくとした快楽が昇っていく。
「や……っ、ぁあ……っ! 気持ち、ぃ……っ、気持ちいい、の……ぉ……っ」
 すぐに白い世界に押し上げられ、アリーチェは涙を零しながら身悶える。
「これ、い……っ」
 クロムの硬くなった欲の証で花芽を擦られる行為は気持ちが良すぎて。
 内股をがくがくと痙攣させながら、アリーチェは自らも腰を振る。
「ぃ、い……っ! イっちゃ……ぅ……っ」
 けれど。
「ゃ……っ、クロ、ム……ぅ……!」
 絶頂がすぐそこに見えるほど気持ちがいいというのに、なにかが物足りなくて。
 先ほどクロムの指で胎内を擦られた時の快楽を思い出し、アリーチェの身体は勝手にソレを蜜口に導くような動きをする。
「だ、め……っ。クロ、ム……ッ、ほ、し……っ、ほしい、の……ぉ……っ」
 具体的になにが欲しいのかわからないまま物足りないと主張して、アリーチェの腰はクロムのソレを誘うように揺れ動く。
「! ……く……っ、それだけはだめ、です……っ」
 自ら淫らに腰を振り、ふしだらな願いを口にするアリーチェへ、クロムはなにかに耐えるかのように奥歯を噛み締める。
「俺が奪うわけにはいかないでしょう……っ」
 こんなにいやらしいことをしているというのに。
 最後の一線だけは、と距離を取られ、アリーチェは寂し気に潤んだを向ける。
「……どうして?」
 そう問いかけるアリーチェの顔は、どこまでも純粋なものだった。
 切なく疼くお腹の奥をクロムに埋めてもらったら、どれほどの至福を感じることができるだろう。
 物欲しげに蠢く蜜壁を、クロムの硬い熱で擦られたなら。濡れそぼる隘路を激しく突かれたら。
 きっと、天に昇るような快感を得ることができると思うのに。
「ほ、しい、の……ぉ……っ!」
「……っ……」
 クロムも同じ快楽を共有しているものだと思っていたのに、それはアリーチェの独りよがりだったのかと思うと悲しくて涙が溢れ出た。
「ゃ、ぁあ……っ!」
「だから、煽らないでください……っ」
 クロムの口から切羽詰まったような吐息が洩れ、その声にさえ官能を刺激される。
「あっ、あ……!」
 その間にも、アリーチェの身体を揺さぶるクロムの腰の動きが止まることはなく。
「……アリーチェさん」
 名前を呼ばれて顔を上げると、そこにはギラギラと瞳を光らせるクロムの顔があった。
「ん……っ」
 唇を塞がれて、すぐにぬるりとした熱が口腔内に潜り込んでくる。
「んっ、ん……っ、ふ、ぅ……っ」
 舌を絡め取られ、互いの唾液が混じり合う淫猥な水音が鳴り響く。
 上からも下からも響く水音は、もうどちらのものなのかもわからないほどで、ぞくぞくとした甘美な熱が背筋を昇っていく。
「ふ……っ、ぅ、んっ、ん……っ、ん、ぅ……っ」
 呼吸まで奪われそうな激しい口づけに、頭の奥が白くなる。
「……は……っ、アリーチェ、さん……っ」
「ん……っ、クロ、ム……っ、ん、ん……っ」
 一瞬だけ離れた唇は、またすぐに塞がって。
「んっ、ん……っ、ん……っ」
 クロムの首の後ろへ腕を回し、自ら舌を絡めてさらなる快楽を貪った。
「ん……、んん……っ、んぅ……っ!」
 花芽を激しく擦り上げられ、目の奥で光が散る。
「んっ、ん……っ!」
 限界を訴えてクロムの背中に縋りつけば、それに気づいたクロムが口づけの合間で薄く笑う気配があった。
「……俺も、もう少しです……っ」
 だからもう少しだけ我慢してほしいと告げられて、アリーチェは襲い来る快楽の波を、健気にも必死でやり過ごす。
「ん……っ、ん、ん……!」
 アリーチェの口の端からは飲み込めない唾液が溢れ出し、頬を伝い落ちていく。
「ん……っ、んんぅ……っ!」
 クロムの腰の動きはより一層激しくなり、絶頂が近いことをなんとなく感じた。
「んっ、ん……!」
 遠慮のない動きで蜜口を擦られて、溢れ出る快楽にがくがくと腰が揺れる。
「……は……っ……、っ、アリー、チェ……ッ、さ……」
 一瞬浮いた唇が、アリーチェの名を呼んだ……、気がした。
 その直後。
「んんん……ぅ……っ!」
 耐え切れず、溜まりに溜まった快楽が身体中を駆け巡った。
「ん――…………っ!」
 蜜口からどくり……っ、とした脈動を感じ、アリーチェのお腹の上に熱い飛沫が飛び散った。
「は……っ、ぁ……っ」
 やっと解放された唇から、まだ甘い吐息が零れ落ちる。
 そうしてそのまま無言で抱き合って、心地よい疲労の中、アリーチェはうとうととした眠りに誘われたのだった。




 ༓࿇༓ ༓࿇༓ ༓࿇༓




 髪や頬を優しく撫でてくる、心地よい覚醒に目を開けた。
 ぼんやりと顔を上げれば、そこにはもう見慣れてしまったクロムの顔がある。
 いつものように抱き込まれた素肌の感覚がとても気持ちよくて。
「……起こしちゃいました?」
「? クロム……?」
 寝ている間に触れていたことを謝られ、アリーチェの瞳は不思議そうに瞬いた。
「私……?」
 狭いクロムのベッドで抱き込まれるようにして眠るのはここ最近の日課になっていたものの、いつもと違う光景に、一瞬ここがどこかわからなかった。
 そうしてぼんやりと思考を巡らせて、ここがアリーチェの実家の客室であることを思い出した時。
「――……っ!?」
 自分が見せたあられもない姿や淫らな懇願までが蘇り、アリーチェは真っ赤になって言葉を失っていた。
(いやぁぁ――……っ!)
 自ら腰を振って快楽を貪った。ありえないほど恥ずかしい言葉を繰り返してクロムを困らせた。
 己のしでかしたことを後悔はしていないが、恥ずかしくて恥ずかしくて堪らない。
 全て魔力酔いのせいにしてしまえればいいけれど、あれらの恥ずかしい行為が自分の奥底に隠された願望であったことにはなんとなく気づいている。
 クロムに、触れてほしかったのだ。
 子供を宥めるような軽いキスではなくて、舌を絡め合う深いキスがしたかった。
 抱き込まれ、髪や背中を撫でられながら眠るのはとても心地よいけれど、もっと激しい快楽がほしかった。
 それは、紛れもなくアリーチェの本音だったから。
 むしろ、全てを魔力酔いのせいにして恥ずかしい願望を隠したといっても過言ではない。
(はしたない……!)
 自ら望んだこととはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしい。
 まさか自分がここまで淫乱だったとは思わなかった。
 ――『いいえ? 大歓迎です』
 クロムは、嬉しそうにそう笑ってくれたけれど。
「……っ」
 真っ赤になった顔でおずおずとクロムを窺えば、どこか楽し気な笑みを浮かばせているクロムと目が合って、ドキリと心臓が跳ね上がる。
 あんな姿を晒したというにも関わらず、そんなふうに自分のことを見つめないでほしい。
 と。
「……やっぱり、そこまでの効果は望めないですね」
「ん……っ」
 クロムの指先が肩口を辿り、アリーチェはぴくりと肩を震わせる。
 急速に成長しかけた呪いは昨日までの姿に戻っていたけれど、クロムが考えていたような“退化”にまでは至っていない。
 禍々しい文様を指で辿ってくるクロムはなんの嫌悪を見せることなく、むしろ悔し気な様子を滲み出しているものの、そんなふうに触れてこないでほしい。
「……クロ、ム……ッ」
 治まったはずの熱がまた燻り始めてしまいそうで、アリーチェはクロムの腕の中で身を引いた。
「俺の力が至らず申し訳ありません」
 思ったほどの効果が得られなかったことを謝罪して、クロムの指先はアリーチェの胸元に伸びてくる。
 胸の谷間の上の部分。そこでは、毒々しい呪いの華が咲き誇っている。
「こうなったらもう、強行突破しましょう」
「強行突破……?」
 決意の滲んだ声色に、それはどういうことだろうとアリーチェの瞳は瞬いた。
 クロムの言う“強行突破”の意味。
「準備が整い次第、遺跡に侵入します」
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