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本編
第十七話 余命五日の初夜⑦࿇
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「あ……っ?」
大きく脚を開かされたかと思えば膝を折られ、あまりにも恥ずかしい体勢にアリーチェは真っ赤になって目を見開いた。
さらには。
「あれだけで達してしまうくらいですから、擦り合わせるだけでも充分気持ちよくなれるでしょうし」
「っ」
冷静に分析しながらクロムがズボンの下から取り出したソレが目に入ってしまって息を呑む。
知識として知ってはいても、アリーチェが男性のソレを見たことは生まれてから一度もない。
とても見ていられずに一瞬で目を逸らしたものの、なぜか喉がこくりと鳴り、お腹の奥がきゅんとなる。
蜜を零すお腹の奥は空洞を訴えていて、そこがソレで満たされたなら、どれほど心地がいいだろう。
一瞬そんなことを思ってしまい、勝手に腰が揺れ動いた。
「今度は一緒にもっと善くなりましょう」
「あ……っ!」
蜜口にソレを押し当てられて、びくりっ、と身体が震えた。
クロムがなにをするつもりなのかわからないが、敏感な部分に感じるクロムの熱に、さらなる快楽を期待して蜜が溢れ出た。
「貴女のイイトコロもちゃんと刺激してあげますから」
「ぁあ……っ、ん……!」
アリーチェの腰を固定したクロムが自らの腰を前後に動かしはじめ、またあの感覚が戻ってくる。
「あっ、ぁ……っ、あ……!」
目の奥が白くなり、クロムの動きに合わせて甲高い嬌声が喉の奥から突いて出る。
「ゃ……っ、なに、これ……っ?」
ぐちゅぐちゅと鳴り響く淫猥な水音は、アリーチェの秘花とクロムの屹立が擦れ合うことによって生まれたものだ。
「挿れたりはしませんから……っ。安心して溺れてください……っ」
前後に腰を動かしながら告げられる言葉は、少しだけ切羽詰まったようにところどころ掠れていて、妙に色っぽいその声色にぞくぞくする。
「あ……っ、あっ、ぁ、ん……!」
屹立の先端部分に、先ほど知ったばかりの花芽を擦り上げられてびくびくと腰が揺れる。
「あ……っ、クロ、ム……ッ」
蜜口の割れ目を無遠慮に行き来する硬い熱を感じるたびに止めどなく愛液が溢れ出て、内股がびくびくと痙攣する。
その、硬くて大きな熱が。
もし、そのままアリーチェの身体の中を貫いてきたとしたら。
「クロム……ッ、お願……っ、いい、から……ぁ……!」
ひくひくとお腹の空洞が切なく疼き、ソレを受け入れた時の善さを想像して無意識に誘うように腰が揺らめいた。
「気持ち、ぃ……っ、の……っ」
花芽をクロムの先端部分で擦られるたびに頭の中が白くなり、こんなふうに胎内を突かれたらどれほどの快楽を得られるのだろうと想像してしまう。
「お腹……っ、なんか……っ、おかしく、て……っ」
物足りない、と身体が叫ぶ。
在るべきものがないような、なにかが欠けているような。
きっと、クロムならば、足りないものを綺麗に埋めてくれるような気がして。
「たす、けて……っ」
クロムの背中に手を回し、涙を零しながら言っている言葉の意味もわからず訴える。
「あ……っ、や、だ……っ、ほし……っ」
肝心なところにもらえない刺激に、悲しくなって涙が溢れ出た。
もはや完全に理性の飛んでいるアリーチェは、本能のままに懇願する。
「もっと、ほし……」
もっと、気持ちよくなりたくて。
きっと、クロムの半身を埋め込まれたら、アリーチェの足りない部分は満たされる。
それは、本能的な叫び。
「っ、煽んな……っ!」
けれど、苦悩の表情で叱咤され、アリーチェの瞳からはぶわりと涙が零れ落ちる。
「だって……っ、お腹の奥……っ、なんか、切なくて……っ」
クロムの頑なさがよくわからない。
アリーチェがこれだけ「ほしい」と思っているのだ。
きっとクロムも同じように「ほしい」と思ってくれているのだろうという妙な確信があった。
それなのに。
「中に、ほし……っ」
「……っさすがにそれはダメ、です……っ」
泣きながら口にされた懇願に、クロムはなにかに耐えるように奥歯を噛み締め、苦しげに表情を歪ませる。
「俺だって我慢してるんです……っ。貴女も耐えてください……!」
我慢している、と言われたアリーチェの瞳は、不思議そうに丸くなる。
「……あっ、ぁあ……っ、ん……っ、ん、クロム……ッ、も……?」
なぜ、我慢する必要があるのだろう。
互いにほしいと思う気持ちは同じなのに。
「はい……っ。本当は、今すぐ貴女の中に入りたくて仕方ないのを必死で我慢してるんです……っ」
腰を動かしながら荒くなった吐息で訴えられ、また新たな蜜が溢れ出た。
――我慢しなくてもいいのに。
頭の中の遠いどこかがぼんやりとそんなことを考える。
「は……っ、ぁあ……っ、ん、ぁっ、あ……っ!」
けれどそんな思いも、陰核を擦られる刺激にすぐに溶けて消えてしまった。
「ぁあ、ん……っ、や、ん、ん……っ、も、ぅ……っ!」
またあの感覚がやってきて、アリーチェは快楽の涙を零しながらがくがくと腰を震わせる。
どこか物足りない気持ちはあるけれど、互いの秘所を擦れ合わせる行為は気持ちが良すぎて。
「あっ、ぁ、あ……っ、ぁあ、ん……っ!」
クロムの腰の動きに合わせて甘い嬌声が響き渡り、世界が心地好いだけの白い光に包まれる。
「クロ、ム……ッ、クロ、ム……ぅ……っ!」
「……く……っ」
泣きながらクロムの背中に縋り付けば、その肌がしっとりと汗をかいていることに気づき、クロムの匂いを色濃く感じて背筋かぞくぞくした。
「俺も、もう限界です……っ」
「は……っ、ぁあ……、ん、クロ、ム……ッ」
なにを言われているのかわからないまま、こくこくと頷いた。
頂が見えてきて、そこに一緒に昇り詰めることを想像すると、また大きな快楽に襲われる。
「クロ、ム……ッ!」
「……く……っ」
クロムの荒くなった吐息が耳を掠め、ぞくりと背筋が痺れた。
「あっ、あ……っ、あ……!」
意外にも爽やかなクロムの匂いに包まれるとくらくらする。
「……出、る……っ」
クロムが切羽詰まった息を呑み、ぎゅ、とアリーチェを抱き締めてくる。
「……ゃ、ぁぁあ……――っ!」
その強い抱擁とより強くなったクロムの匂いを感じながら、アリーチェは再び訪れた絶頂に白い世界へと意識を飛ばしていた。
༓࿇༓ ༓࿇༓ ༓࿇༓
「……?」
なんだかいつもと違う寝起きの感覚に、アリーチェはぼんやりと違和感の正体へ思考を彷徨わせる。
ここ数日はクロムの腕の中で抱き枕よろしく目覚めるのが日課になっていて、どうやら順応力の高かったらしいアリーチェは、すっかりそれに慣れてしまっていた。
今朝もまたがっしりと抱き締められている感覚があり、すぐ傍からは穏やかな寝息が聞こえてくる。
だが。
「!?」
昨日までとの違いに気づいたアリーチェは、そこで大きく目を見張ると上げかけた悲鳴を呑み込んだ。
(私……っ!?)
今、身体に感じている違和感。
そして、昨日までと明らかに違うもの。
それは。
(な、なんてことを……!)
素肌に直接巻き付いたクロムの腕の感触と、そしてアリーチェの顔が押し付けられている意外にも厚い胸板の存在に、頭の中へと昨夜の出来事が一気に甦って真っ赤になる。
(……う、嘘、でしょう……?)
どちらからともなく惹かれ合うようにキスをして、あまりの心地よさに自らその先を強請って快楽を貪った。
恥ずかしすぎる一連の出来事は全てが鮮明で、アリーチェは動揺と混乱とに襲われる。
(あんな、こと……!)
そこへ。
「? 起きたんですか?」
クロムから寝起きのぼんやりとした目を向けられて、アリーチェの顔は湯気を噴きそうなほど沸騰した。
「あ……、あの……っ」
「おはようございます」
だが、どこか甘い笑みと声色で長い髪を掬われて、ドキドキと胸を高鳴らせつつ、アリーチェの口元は自然と綻んだ。
「……おはよう」
(……どう、しよう……)
なぜだか、とてもむず痒くてくすぐったい。
こんなふうに触れられていることが。こんな朝を迎えたことが嫌じゃない。
「どうしました?」
「ど、どうした、って……」
こうして素肌を触れ合わせていること自体は心地がよくて。けれどどうしても気恥ずかしさが拭えずに動揺するアリーチェへ、不思議そうな表情をしていたクロムが困ったように苦笑した。
「……後悔、してます?」
「え?」
後悔、とはなんのことだろうか。
「嫌でした?」
申し訳なさそうに下がった眉根に、別の意味で動揺する。
(……“嫌”……?)
嫌だった、とは。
問いかけの意味がわからず一瞬呆気に取られかけたアリーチェは、すぐにその疑問符を理解して息を呑む。
(……後悔、なんて……)
それだけでなく、嫌だった、だなんて。
昨夜起こった出来事は、こうして冷静になった今改めて思い返しても、恥ずかしいだけでそんなことは一切思わない。
むしろ。
「俺は……、とても好かったです」
「!」
ふわ、と甘えるような笑みを向けられて、ドキリと胸が高鳴った。
そのままドキドキとくすぐったい鼓動が胸を刻み、アリーチェはほんのりと顔を赤く染めながら気恥ずかしさでクロムから目を逸らす。
「……わ、私も……」
――すごく、善かった。
けれど、さすがに恥ずかしすぎてそんなことは言えなくて。
「い、嫌ではなかったわ」
代わりにツン、とした態度を返せば、アリーチェの髪を撫でながらクロムが顔を寄せてくる。
「そしたら定期的にしてもいいですか?」
「え?」
する、とは、なにをだろう。
「キスです」
「!」
くすくすと笑われて、アリーチェの瞳は動揺で大きく見開いた。
「貴女の唇、なんだか癖になってしまいそうで」
俯いていてよくわからないが、そう告げてくるクロムの唇が髪の上からあちこちキスを落としてくる感覚がするのは気のせいか。
そしてその感覚は、とても甘くて優しくて。
「……い、いいわよ?」
顔を上げ、心地よいその誘惑に逆らえずについ許可を出してしまえば、答えに驚いたように目を丸くしたクロムと視線が交わった。
「……いいんですか?」
「……したくないならもういいわ……っ」
恥ずかしすぎてクロムの顔をずっと見てなどいられない。
けれど。
「そんなこと言わないでください」
困ったように落ちてくるクロムの声にきゅんとする。
「こっち、見てください」
「っ」
声色は優しいにも関わらず、強引に顔を上げられて息を呑む。
そうして、クロムの赤い色の瞳と目が合って。
「……」
「……」
沈黙の中で見つめ合い、吸い込まれそうな赤の瞳に、どちらからともなく目を閉じて唇を寄せ合った。
「……ん……」
そっと触れるだけの唇は、それでもアリーチェを柔らかな気持ちにさせてきて。
ゆっくりと離れ、再度互いの目が合うと、やはりどちらからともなくくすくすと楽しそうな笑みを零していた。
大きく脚を開かされたかと思えば膝を折られ、あまりにも恥ずかしい体勢にアリーチェは真っ赤になって目を見開いた。
さらには。
「あれだけで達してしまうくらいですから、擦り合わせるだけでも充分気持ちよくなれるでしょうし」
「っ」
冷静に分析しながらクロムがズボンの下から取り出したソレが目に入ってしまって息を呑む。
知識として知ってはいても、アリーチェが男性のソレを見たことは生まれてから一度もない。
とても見ていられずに一瞬で目を逸らしたものの、なぜか喉がこくりと鳴り、お腹の奥がきゅんとなる。
蜜を零すお腹の奥は空洞を訴えていて、そこがソレで満たされたなら、どれほど心地がいいだろう。
一瞬そんなことを思ってしまい、勝手に腰が揺れ動いた。
「今度は一緒にもっと善くなりましょう」
「あ……っ!」
蜜口にソレを押し当てられて、びくりっ、と身体が震えた。
クロムがなにをするつもりなのかわからないが、敏感な部分に感じるクロムの熱に、さらなる快楽を期待して蜜が溢れ出た。
「貴女のイイトコロもちゃんと刺激してあげますから」
「ぁあ……っ、ん……!」
アリーチェの腰を固定したクロムが自らの腰を前後に動かしはじめ、またあの感覚が戻ってくる。
「あっ、ぁ……っ、あ……!」
目の奥が白くなり、クロムの動きに合わせて甲高い嬌声が喉の奥から突いて出る。
「ゃ……っ、なに、これ……っ?」
ぐちゅぐちゅと鳴り響く淫猥な水音は、アリーチェの秘花とクロムの屹立が擦れ合うことによって生まれたものだ。
「挿れたりはしませんから……っ。安心して溺れてください……っ」
前後に腰を動かしながら告げられる言葉は、少しだけ切羽詰まったようにところどころ掠れていて、妙に色っぽいその声色にぞくぞくする。
「あ……っ、あっ、ぁ、ん……!」
屹立の先端部分に、先ほど知ったばかりの花芽を擦り上げられてびくびくと腰が揺れる。
「あ……っ、クロ、ム……ッ」
蜜口の割れ目を無遠慮に行き来する硬い熱を感じるたびに止めどなく愛液が溢れ出て、内股がびくびくと痙攣する。
その、硬くて大きな熱が。
もし、そのままアリーチェの身体の中を貫いてきたとしたら。
「クロム……ッ、お願……っ、いい、から……ぁ……!」
ひくひくとお腹の空洞が切なく疼き、ソレを受け入れた時の善さを想像して無意識に誘うように腰が揺らめいた。
「気持ち、ぃ……っ、の……っ」
花芽をクロムの先端部分で擦られるたびに頭の中が白くなり、こんなふうに胎内を突かれたらどれほどの快楽を得られるのだろうと想像してしまう。
「お腹……っ、なんか……っ、おかしく、て……っ」
物足りない、と身体が叫ぶ。
在るべきものがないような、なにかが欠けているような。
きっと、クロムならば、足りないものを綺麗に埋めてくれるような気がして。
「たす、けて……っ」
クロムの背中に手を回し、涙を零しながら言っている言葉の意味もわからず訴える。
「あ……っ、や、だ……っ、ほし……っ」
肝心なところにもらえない刺激に、悲しくなって涙が溢れ出た。
もはや完全に理性の飛んでいるアリーチェは、本能のままに懇願する。
「もっと、ほし……」
もっと、気持ちよくなりたくて。
きっと、クロムの半身を埋め込まれたら、アリーチェの足りない部分は満たされる。
それは、本能的な叫び。
「っ、煽んな……っ!」
けれど、苦悩の表情で叱咤され、アリーチェの瞳からはぶわりと涙が零れ落ちる。
「だって……っ、お腹の奥……っ、なんか、切なくて……っ」
クロムの頑なさがよくわからない。
アリーチェがこれだけ「ほしい」と思っているのだ。
きっとクロムも同じように「ほしい」と思ってくれているのだろうという妙な確信があった。
それなのに。
「中に、ほし……っ」
「……っさすがにそれはダメ、です……っ」
泣きながら口にされた懇願に、クロムはなにかに耐えるように奥歯を噛み締め、苦しげに表情を歪ませる。
「俺だって我慢してるんです……っ。貴女も耐えてください……!」
我慢している、と言われたアリーチェの瞳は、不思議そうに丸くなる。
「……あっ、ぁあ……っ、ん……っ、ん、クロム……ッ、も……?」
なぜ、我慢する必要があるのだろう。
互いにほしいと思う気持ちは同じなのに。
「はい……っ。本当は、今すぐ貴女の中に入りたくて仕方ないのを必死で我慢してるんです……っ」
腰を動かしながら荒くなった吐息で訴えられ、また新たな蜜が溢れ出た。
――我慢しなくてもいいのに。
頭の中の遠いどこかがぼんやりとそんなことを考える。
「は……っ、ぁあ……っ、ん、ぁっ、あ……っ!」
けれどそんな思いも、陰核を擦られる刺激にすぐに溶けて消えてしまった。
「ぁあ、ん……っ、や、ん、ん……っ、も、ぅ……っ!」
またあの感覚がやってきて、アリーチェは快楽の涙を零しながらがくがくと腰を震わせる。
どこか物足りない気持ちはあるけれど、互いの秘所を擦れ合わせる行為は気持ちが良すぎて。
「あっ、ぁ、あ……っ、ぁあ、ん……っ!」
クロムの腰の動きに合わせて甘い嬌声が響き渡り、世界が心地好いだけの白い光に包まれる。
「クロ、ム……ッ、クロ、ム……ぅ……っ!」
「……く……っ」
泣きながらクロムの背中に縋り付けば、その肌がしっとりと汗をかいていることに気づき、クロムの匂いを色濃く感じて背筋かぞくぞくした。
「俺も、もう限界です……っ」
「は……っ、ぁあ……、ん、クロ、ム……ッ」
なにを言われているのかわからないまま、こくこくと頷いた。
頂が見えてきて、そこに一緒に昇り詰めることを想像すると、また大きな快楽に襲われる。
「クロ、ム……ッ!」
「……く……っ」
クロムの荒くなった吐息が耳を掠め、ぞくりと背筋が痺れた。
「あっ、あ……っ、あ……!」
意外にも爽やかなクロムの匂いに包まれるとくらくらする。
「……出、る……っ」
クロムが切羽詰まった息を呑み、ぎゅ、とアリーチェを抱き締めてくる。
「……ゃ、ぁぁあ……――っ!」
その強い抱擁とより強くなったクロムの匂いを感じながら、アリーチェは再び訪れた絶頂に白い世界へと意識を飛ばしていた。
༓࿇༓ ༓࿇༓ ༓࿇༓
「……?」
なんだかいつもと違う寝起きの感覚に、アリーチェはぼんやりと違和感の正体へ思考を彷徨わせる。
ここ数日はクロムの腕の中で抱き枕よろしく目覚めるのが日課になっていて、どうやら順応力の高かったらしいアリーチェは、すっかりそれに慣れてしまっていた。
今朝もまたがっしりと抱き締められている感覚があり、すぐ傍からは穏やかな寝息が聞こえてくる。
だが。
「!?」
昨日までとの違いに気づいたアリーチェは、そこで大きく目を見張ると上げかけた悲鳴を呑み込んだ。
(私……っ!?)
今、身体に感じている違和感。
そして、昨日までと明らかに違うもの。
それは。
(な、なんてことを……!)
素肌に直接巻き付いたクロムの腕の感触と、そしてアリーチェの顔が押し付けられている意外にも厚い胸板の存在に、頭の中へと昨夜の出来事が一気に甦って真っ赤になる。
(……う、嘘、でしょう……?)
どちらからともなく惹かれ合うようにキスをして、あまりの心地よさに自らその先を強請って快楽を貪った。
恥ずかしすぎる一連の出来事は全てが鮮明で、アリーチェは動揺と混乱とに襲われる。
(あんな、こと……!)
そこへ。
「? 起きたんですか?」
クロムから寝起きのぼんやりとした目を向けられて、アリーチェの顔は湯気を噴きそうなほど沸騰した。
「あ……、あの……っ」
「おはようございます」
だが、どこか甘い笑みと声色で長い髪を掬われて、ドキドキと胸を高鳴らせつつ、アリーチェの口元は自然と綻んだ。
「……おはよう」
(……どう、しよう……)
なぜだか、とてもむず痒くてくすぐったい。
こんなふうに触れられていることが。こんな朝を迎えたことが嫌じゃない。
「どうしました?」
「ど、どうした、って……」
こうして素肌を触れ合わせていること自体は心地がよくて。けれどどうしても気恥ずかしさが拭えずに動揺するアリーチェへ、不思議そうな表情をしていたクロムが困ったように苦笑した。
「……後悔、してます?」
「え?」
後悔、とはなんのことだろうか。
「嫌でした?」
申し訳なさそうに下がった眉根に、別の意味で動揺する。
(……“嫌”……?)
嫌だった、とは。
問いかけの意味がわからず一瞬呆気に取られかけたアリーチェは、すぐにその疑問符を理解して息を呑む。
(……後悔、なんて……)
それだけでなく、嫌だった、だなんて。
昨夜起こった出来事は、こうして冷静になった今改めて思い返しても、恥ずかしいだけでそんなことは一切思わない。
むしろ。
「俺は……、とても好かったです」
「!」
ふわ、と甘えるような笑みを向けられて、ドキリと胸が高鳴った。
そのままドキドキとくすぐったい鼓動が胸を刻み、アリーチェはほんのりと顔を赤く染めながら気恥ずかしさでクロムから目を逸らす。
「……わ、私も……」
――すごく、善かった。
けれど、さすがに恥ずかしすぎてそんなことは言えなくて。
「い、嫌ではなかったわ」
代わりにツン、とした態度を返せば、アリーチェの髪を撫でながらクロムが顔を寄せてくる。
「そしたら定期的にしてもいいですか?」
「え?」
する、とは、なにをだろう。
「キスです」
「!」
くすくすと笑われて、アリーチェの瞳は動揺で大きく見開いた。
「貴女の唇、なんだか癖になってしまいそうで」
俯いていてよくわからないが、そう告げてくるクロムの唇が髪の上からあちこちキスを落としてくる感覚がするのは気のせいか。
そしてその感覚は、とても甘くて優しくて。
「……い、いいわよ?」
顔を上げ、心地よいその誘惑に逆らえずについ許可を出してしまえば、答えに驚いたように目を丸くしたクロムと視線が交わった。
「……いいんですか?」
「……したくないならもういいわ……っ」
恥ずかしすぎてクロムの顔をずっと見てなどいられない。
けれど。
「そんなこと言わないでください」
困ったように落ちてくるクロムの声にきゅんとする。
「こっち、見てください」
「っ」
声色は優しいにも関わらず、強引に顔を上げられて息を呑む。
そうして、クロムの赤い色の瞳と目が合って。
「……」
「……」
沈黙の中で見つめ合い、吸い込まれそうな赤の瞳に、どちらからともなく目を閉じて唇を寄せ合った。
「……ん……」
そっと触れるだけの唇は、それでもアリーチェを柔らかな気持ちにさせてきて。
ゆっくりと離れ、再度互いの目が合うと、やはりどちらからともなくくすくすと楽しそうな笑みを零していた。
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