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本編
第四話 婚約解消の真実③
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全ての出来事は、アリーチェの元に王太子の名で届けられた首飾りから始まった。
「まぁ……。なんて美しい……」
今夜開かれる第二王子の誕生パーティー用にと贈られてきた箱を開けた侍女は、その中央で光り輝く装飾品を目にして感嘆の吐息を零していた。
「アリーチェ様っ、見てください……っ」
「本当に。素敵だわ」
誇らしげな顔で振り返った侍女が掲げて見せた箱の中身に、アリーチェは穏やかに微笑みながら眩しげに目を細めた。
雫の形をした赤い宝石は光を受けて美しく輝き、シンプルな作りだからこその気品が滲み出ていた。誰の目から見ても最上の一品だろうことは明らかで、侍女の瞳もきらきらと嬉しそうに輝いた。
「アリーチェ様によくお似合いになりますよ……!」
箱ごとアリーチェの胸元に首飾りを掲げた侍女は、そのままにこりとした顔を向けてくる。
「よろしければお付けしましょうか?」
「……そうね。せっかくだから」
試着を勧めてくる侍女に、王太子からの手紙を眺めながら頷いた。
そこには、今夜のパーティーに是非付けてきてほしいという旨と、プレゼントがぎりぎりになってしまったことへの丁寧な謝罪が書かれていた。
右肩上がりの少しだけ癖のある綺麗な文字は、間違いなくハインツの直筆だ。
「失礼します」
促され、手紙をサイドテーブルに置いて髪を上げた。
首の後ろで金具が留められた気配がして、胸元にほんの少しだけ宝石の重みがかかった。
「よくお似合いです……!」
素敵です……っ。とかけられる嬉しそうな声を聞きながら鏡の前に立った。
「ありがとう」
まるで宝石自身が発しているような光で、アリーチェの胸元は美しく輝いた。
今はまだ普段着だが、パーティー用のドレスを着れば、胸元の赤い光は一層眩く輝くに違いない。
「本当に綺れ……」
だが、その直後。赤い輝きの中に黒い染みのようなものが浮かび上がり、アリーチェは突然の息苦しさを覚えて胸を掴んだ。
「――……っ!?」
心臓が鷲掴みされたような感触を覚え、息の仕方がわからなくなる。
「!? アリーチェ様……!?」
すぐにアリーチェの異変に気づいた侍女が声をかけてくるが、返事をすることもままならない。
「……っ」
「アリーチェ様!? アリーチェ様……!?」
胸が締め付けられ、あまりの苦しさに口を開けても空気を吸えず、頭まで激しく痛み出す。
「……ぁ……」
「誰か……っ! お嬢様が……っ!」
か細い吐息を洩らし、どこか遠く侍女の叫びを聞きながら、アリーチェは意識を手離していた。
「まぁ……。なんて美しい……」
今夜開かれる第二王子の誕生パーティー用にと贈られてきた箱を開けた侍女は、その中央で光り輝く装飾品を目にして感嘆の吐息を零していた。
「アリーチェ様っ、見てください……っ」
「本当に。素敵だわ」
誇らしげな顔で振り返った侍女が掲げて見せた箱の中身に、アリーチェは穏やかに微笑みながら眩しげに目を細めた。
雫の形をした赤い宝石は光を受けて美しく輝き、シンプルな作りだからこその気品が滲み出ていた。誰の目から見ても最上の一品だろうことは明らかで、侍女の瞳もきらきらと嬉しそうに輝いた。
「アリーチェ様によくお似合いになりますよ……!」
箱ごとアリーチェの胸元に首飾りを掲げた侍女は、そのままにこりとした顔を向けてくる。
「よろしければお付けしましょうか?」
「……そうね。せっかくだから」
試着を勧めてくる侍女に、王太子からの手紙を眺めながら頷いた。
そこには、今夜のパーティーに是非付けてきてほしいという旨と、プレゼントがぎりぎりになってしまったことへの丁寧な謝罪が書かれていた。
右肩上がりの少しだけ癖のある綺麗な文字は、間違いなくハインツの直筆だ。
「失礼します」
促され、手紙をサイドテーブルに置いて髪を上げた。
首の後ろで金具が留められた気配がして、胸元にほんの少しだけ宝石の重みがかかった。
「よくお似合いです……!」
素敵です……っ。とかけられる嬉しそうな声を聞きながら鏡の前に立った。
「ありがとう」
まるで宝石自身が発しているような光で、アリーチェの胸元は美しく輝いた。
今はまだ普段着だが、パーティー用のドレスを着れば、胸元の赤い光は一層眩く輝くに違いない。
「本当に綺れ……」
だが、その直後。赤い輝きの中に黒い染みのようなものが浮かび上がり、アリーチェは突然の息苦しさを覚えて胸を掴んだ。
「――……っ!?」
心臓が鷲掴みされたような感触を覚え、息の仕方がわからなくなる。
「!? アリーチェ様……!?」
すぐにアリーチェの異変に気づいた侍女が声をかけてくるが、返事をすることもままならない。
「……っ」
「アリーチェ様!? アリーチェ様……!?」
胸が締め付けられ、あまりの苦しさに口を開けても空気を吸えず、頭まで激しく痛み出す。
「……ぁ……」
「誰か……っ! お嬢様が……っ!」
か細い吐息を洩らし、どこか遠く侍女の叫びを聞きながら、アリーチェは意識を手離していた。
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