離縁を申し出たら溺愛されるようになりました!? ~将軍閣下は年下妻にご執心~

姫 沙羅(き さら)

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第三話

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 次の日。今夜はいいかと尋ねられ、いつものように頷いた。
 月のものの周期から計算しても、恐らくはこの数日間のどこかで声をかけられるだろうと思っていたため、特に驚くこともない。
 さすがに昨夜は慣れない社交パーティーに参加していて互いに疲れていたことを考えれば、今夜だろうかと予測もできていた。
 “妻”に求められる一番重要な役目は、世継ぎを生み、育てること。元々シャーロットに拒否権など存在していない。
 だから今夜も、ただ与えられる熱に溺れるのだ。
 彼の子供を身籠ることは、シャーロットへ与えられた義務。だから、彼の腕に抱かれている時だけは、愛されているのだと……、そう勘違いすることくらい許されるだろう。
『……シャーロット……』
 どんな時でも冷静沈着な態度を崩すことのないゼノンだが、ベッドの上でシャーロットを組み敷くその時だけは、普段冷たく低い吐息は少しだけ荒くなって熱を持つ。
 ――否。
『ぁ……っ、ぁあ……っ!』
 シャーロットの身体中を這う掌。伝う唇。それらがこの時だけ持つ熱を、彼女たち・・・・も知っているのだろうか。
『あ……っ、や、ぁ……っ、そ、こ……っ』
 長い指先がもたらす快楽を。肌を舐める舌先が生み出す快感を。
『……濡れているな』
『や、ぁ……っ、ぁ、あん……っ』
 こんな時でさえ無口なこの人が、そう蜜口を確認してからそっと指を潜り込ませる優しさを。
『ぁっ、ん……っ』
 ゆっくりと差し入れられた指先は、的確にシャーロットの弱いところを責めて意地悪く蠢く。
『あ……っ、ぁ、あ……っ! だ、め……っ、イっちゃ……ぅ……っ!』
 処女おとめだったシャーロットは、全て、ゼノンの手で性的な快楽を得ることを教えられた。
 始めは恥ずかしくて怖くて仕方のなかったこの行為が、いつしか快楽が羞恥を上回り、気持ちが良すぎて怖くなっていた。
 ゼノンの掌に唇に指先に。翻弄されて、わけがわからなくなっていく心地良さ。
 それを、彼女たちも知っているのだろうか。
 ――……この手で、あの人を抱いたの?
 ――こんなふうに……、自分と同じように触れたの?
 嫉妬でおかしくなりそうだった。
 それは、とてもとても醜い嫉妬心。
 この人のことを愛してしまったのだと。あの瞳に見つめられたあの瞬間に、自分はすでに囚われてしまっていたのだと。こんな時に再確認させられる。
 いっそ、これはただの政略結婚で自分はお飾りの妻なのだと。そう割り切れていればよかったのに。
『……れるぞ』
『……は、い……っ』
 少しだけ乱れた低いその吐息が、シャーロットはとても好きだった。
『ぁ……っ、ん……』
 あれだけ恐ろしく痛かったこの瞬間が。胎内を押し広げられるこの感覚が、今は心地好くて堪らない。
『……く……っ』
 熱く、硬くなった欲望の塊。それが、例えお飾りの妻相手だとしても、自分にきちんと欲情してくれている証なのだと思うと、いつも涙が溢れるほどに嬉しかった。
『あ、ぁん……っ』
 迎え入れた屹立に、シャーロットの蜜道は媚びるように喜んで絡み付く。
 それは、ゼノンのことが大好きなのだと。子種が欲しい欲しいと叫んでいる。
『ぁあ……っ!あっ、あっ、あ……っ!』
 揺さぶられ、胎内の奥を穿たれる歓びに酔い痴れる。
『……く……っ』
 うっすらとゼノンの顔を見上げると、そのこめかみには薄く汗が滲んでいた。それが、とても色っぽく、野性味溢れていて。
 ――こんな姿を、自分以外の何人の女性が知っているのだろうか。
 ……過去なんて、関係ない……?
 ――『是非また・・御寝所に呼んで下さいませ」
 これだけ素敵な男性ひとならば、今までも、これからも、遊びでも構わないと声をかけてくる女性は多いだろう。
 ――だから、もしかしたら、シャーロットとの婚姻後だって。

 限界かもしれない……、と思ったのはこの時だ。
 この人のことを心から愛してしまった。
 だからこそ。

『ぁあ……っ!』
『……っ……』
 身体の奥に、熱い飛沫が放たれるのを感じて涙が溢れ出た。
 これだけは、シャーロットだけが知っている熱だと信じたい。
『……シャーロット……』
 口づけの前振りにを閉じる。
『……ん……』
 共に昇り詰めた後のキスはとても優しく温かくて。
『……ゼノン様……』
 心から愛する夫を見上げ、シャーロットは泣き笑いの表情を浮かべていた。




 ◈◈✼◈◈┈┈┈┈◈◈✼◈◈




 それから、三か月。
 その間、共に過ごした夜は三夜。
 抱かれる度に心と身体はバラバラになって、もう、限界だった。
 愛する人の妻であることに幸せを感じられないなど、なんて贅沢で我儘なのだろうと思う。
 それでも、いっそ。妻でなければ良かったと。遠くから眺めているだけの距離感だったならば良かったのにと。本気でそう思ってしまう自分がいる。
 お飾りの妻、という立場が苦しくて堪らない。
 たった月に一度でも、抱かれることが辛くて堪らない。
 愛する人に、形だけ愛されるのは虚しさが募るだけ。
 ……子供も、いない。
 子供ができていれば、また違っただろうか。
 けれど、離れるならば、まだ身籠っていない今だと思った。
 王命の婚姻を解消することは難しいが、それでも今ならば、子供ができないために離縁したのだと、対外的な理由を作ることが可能だ。
 ――約二年。月に一度の交わり。
 一度、ゼノンは三か月ほど仕事で家を留守にしたことがあるから、抱かれた回数など簡単に数えられてしまうほど。いくら妊娠しやすい頃合いに子種を注いでも、身籠る可能性はそれほど高くはないだろう。
 前々から予定していたシャーロットの二十歳の誕生祝賀会は盛大に行われ、それが済んだ今。
 ――『今夜、いいだろうか』
 いつもとは違うタイミングでかけられたその誘いに、シャーロットは驚きつつも、これはちょうどいい機会かもしれないと思い直して頷いていた。
 ――今夜は、ゼノンに抱かれるためではなく。別れを切り出すために夫婦の寝室へと足を運ぶ。

 二十歳の誕生パーティーは、立場上招かなければならない貴族も多く出席していたが、それでもシャーロットの両親や、他にも近しい者たちも顔を揃え、とても楽しいひと時を過ごすことができていた。
 楽しそうに笑うシャーロットの隣には始終ゼノンの姿があり、仲睦まじいものだとからかわれるような場面もあった。
 真実は違っても、公式の場ではゼノンはいつも傍にいてくれた。それが体面を気にしてのことだとしても、少しだけ嬉しかった。
 だから、盛大に祝って貰ったこの楽しい思い出を胸にして、シャーロットはゼノンから離れる決意をした。
 二十歳のお祝いにと、ゼノンからはシャーロットの瞳と同じ色をした、珍しい鉱石から作られたネックレスをプレゼントされていた。
 それを、ぎゅっと握り締めて。それを餞別に、この家から出ていこうと思っている。

 ――ココン……ッ。

 と、扉を叩く音がする。
「……はい」
 今夜は、もう、いつものような夫婦の時間が訪れることはない。
 ゼノンを迎え入れたシャーロットは、雰囲気に流される前にとこくりと息を呑むと口を開く。
「……今日は、旦那様にお話があります」
「……なんだ」
 いつもと違うシャーロットの雰囲気に気づいたのだろう。無表情の中に、それでも少しばかり訝し気な空気を滲ませて、ゼノンは先を促していた。

「……離縁……っ、してくださいませ……っ」
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