離縁を申し出たら溺愛されるようになりました!? ~将軍閣下は年下妻にご執心~

姫 沙羅(き さら)

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第一話

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 夫婦の寝室であるはずの大きなベッドに座ったシャーロットは、そのままぼんやりと虚空を眺めていた。夫であるはずのゼノンとこの部屋で朝を迎えたことはない。
 だからといって、夫婦の営みが全くないわけではない。月に一度。恐らくは、世話係の者からシャーロットの体調を計算した上で、妊娠しやすい日を選んでゼノンは顔を覗かせる。
 ――嫁いだ女性がまず求められることは、世継ぎとなる男子を産むこと。
 ゼノンも例に漏れず、後継者を求めているのだろう。的確にその日を選び、一度だけシャーロットの胎内ナカへと子種を注ぐ。
 ――にも関わらず、嫁いで二年。シャーロットに妊娠の兆しはない。
 さすがに回数が少なすぎるのか、それとも、どちらかに問題が……、とは考えたくないけれど。
 そんな、的確に日を選んで月にたった一度交わるだけで。
 そんな、最低限の義務を果たす以外、シャーロットには触れたくもないということなのだろうか。
 ――……そんな、こと。
 ここで、初めてゼノンと触れ合った日のことを思い出す。


『……っ痛……ぁ……っ!』
 思わず口から突いて出てしまったシャーロットの悲痛な叫びに、ゼノンはぴたりと動きを止めていた。
『……今日は、ここまでにしよう』
 今にして思えば、新婚初夜のあの日。ゼノンのソレ・・は、半分も入っていなかったに違いない。
 初めての行為に翻弄され、余りの羞恥におかしくなりかけていたシャーロットは、思った以上の衝撃に混乱し、反射的に身構えてしまっていた。
 しっかりと濡らして貰ったソコは、ゼノンをきちんと受け入れる準備ができていたというのに。
 まだ、子供だったのだ。
 余りの緊張感から、少しの恐怖が全ての感情を上回ってしまっていた。
『……今夜は、一人でゆっくりここで休めばいい』
 そう言って隣の自室へと姿を消したゼノンは、次の日も寝室に訪れる気配はなかった。

 ――もし、あの時、ゼノンを最後まで受け入れることができていたならば。今とは違う未来が待っていたのだろうか。


 次にゼノンが寝室に足を運んだのは、それから一ヶ月が過ぎた頃。
『……最後までするのは次回にしよう。今日はただ、オレを受け入れてくれ』
 普段言葉少ななゼノンの、淡々とした低い声。
 閨の知識などまるでなかったシャーロットは、この日もただゼノンにされるがままひたすら恥ずかしい嬌声を上げて悶えていて、なにがなんだかわからなくなっていた。
『……破瓜の瞬間は痛いという。少しだけ耐えてくれ』
 その言葉の意味もよくわからないままに頷いた。
 大きく脚を広げられたその格好が、ただ恥ずかしくて恥ずかしくて。
 それなのにシャーロットのソコは愛液を溢れさせていて、ゼノンの男性の証を求めていた。
 それでも。
『……い……っ、ぁぁあ…………っ!』
 きっと、ゼノンの半身ソレは、小さいシャーロットの身体には大きすぎたのだろうと思う。男性のソレを見たことなどもちろんないが、後になんとなく得た知識で、ゼノンのソレが平均よりは大きいのだろうと感じられていた。
 そのためか、身体の奥までソレを突き立てられた瞬間、シャーロットはその痛みだけで意識を失いそうになっていた。
『……すまない』
 痛い思いをさせて申し訳ないと、ずるりとシャーロットの胎内ナカから引き抜かれたゼノンの半身。
『……一人で横になった方が落ち着いて眠れるだろう』
 恥ずかしがって嫌がるシャーロットの身体をいつもの無表情で全く顔色を変えることなく軽く清めた後、ゼノンはその日もそう言って寝室を出ていった。
 ――一人で、というのは。それは、ゼノンがそうだから?
 ゼノンは、一人の方がよく眠れるのだろうか。

 ――あの時、そんなことはないので傍にいてほしいと。ちゃんと最後までしてほしいと言っていたならば。
 なにか、変わっていたのだろうか。


 本当は、“慣らす”という意味でいうのなら、そのまま連日でゼノンを受け入れるべきだったのだろう。
 今にして思えば、ゼノンにもそのつもりがあったのかもしれない。
 ただ、次の日から、シャーロットは熱を出して三日間ほど寝込んでしまっていた。
 シャーロットはその小さく華奢な身体つきから、一見すると儚げな印象を持たれがちだが、実際は滅多に風邪もひかない超健康優良児だ。にも関わらず寝込んでしまったのは、環境が変わったことによる無意識の緊張感や疲れのせいだろうと医者は言っていた。
 そうして体調が回復した頃には月のものが来てしまい、その後はゼノンの方が忙しくなってしまうような擦れ違いが続いていた。
 結果、次にゼノンが夫婦の寝室に顔を出したのはやはり前回の行為から一ヶ月がたとうとする頃で、シャーロットはその時の激痛を思い出して緊張感でいっぱいになっていた。
 それでもゼノンは丁寧にシャーロットの身体を開いていって、男を受け入れるべきソコはたっぷりの蜜を溢れさせていた。
『……よく、ほぐさないと』
 シャーロットのためを思ってしてくれている行為が、とにかく恥ずかしくて堪らなかった。
 指を入れられ、くちゅくちゅと響く淫猥な水音に、勝手に喉から溢れ出す嬌声。
『これだけほぐせば大丈夫だろう』
 だが、そう言ったゼノンがシャーロットの蜜壺から指を引き抜き、蜜口へ大きな屹立を押し当てた瞬間。シャーロットはぎくりと身体を強張らせてしまっていた。
 ――あの痛みがまた訪れるのかという、純粋な恐怖。
 温室育ちのシャーロットは、年齢だけは成人していても、まだ子供で無知だったのだ。
『……今日はもう止めておこう』
『……え……』
 シャーロットの怯えを察したゼノンが身を引いた気配がして、ぎゅっ、と固く閉ざしていたを開けた。
 そこには、シャーロットから視線を外し、ローブを羽織って手早く身支度を整えるゼノンの姿があった。
『……悪いが、私は別室で休む』
 今日もまた一人で残されるのかと、そんな我が儘は口にできなかった。
 彼を受け入れることができなかったのに、一緒に眠ってほしいなどと。
『……ゆっくり休んでくれ』
 パタン……、と閉まった扉。
 消えてしまったゼノンの後ろ姿を呆然と見つめつづけていたシャーロットの瞳からは、いつしか涙の筋が伝わっていた。


 それでもゼノンは、また一ヶ月がたった頃に、抱いてもいいかと尋ねてきた。
 シャーロットもその時ばかりは真っ赤になりながらも大きく頷いて、どこか必死さの滲み出る妻の様子に、ゼノンもなにかを感じていたようだった。
『……っぁあ……っ!』
 シャーロットを気遣うとても慎重な挿入だったはずなのに、身体の中心を押し拡げられる感覚に息が詰まった。
『っ、力を抜け……っ』
 ゼノンも苦しいのか、その息はかなり荒くなっていた。
『! や……っ、ぁあ……っ、無理……っ、で……』
 一度固くなってしまった身体は、自分の意思ではいうことをきかなかった。どう力を抜いたらいいのか、どうしたら力を緩めることができるのかわからない。
 混乱し、ポロポロと涙が滲み出る。
 そこでゼノンはなにを思ったのか、そのまま唇を重ねてきた。
『ん……っ!? んっ、ん……っ、んんぅ……!?』
 口を開かされ、すぐにぬるりとしたゼノンの舌が潜り込んでくる。歯列の裏をまさぐられ、舌と舌とを絡める淫猥なキスをされ、気づければ口腔内の心地好さに肩から力が抜けていた。
『……そう……、いい子だ……。そのまま……』
『ひぁ……っ!? あっ、あ……っ!』
 ゆっくりと。けれど確実に奥まで押し入られて悲鳴が上がる。
『あ……っ、ぁ……っ』
 今まで何者も侵入を許したことのない場所を暴かれる感覚に、蜜道はひくひくと収縮した。
『あ……っ!』
 ぐ、と強く腰を押しつけられ、びくんっ!と身体が仰け反るのと同時に、その衝撃で涙の雫が宙を舞った。
『……全部……、入った……』
 どこか安堵したようにも感じられる、荒くなった低い吐息。
『……痛くないか?』
『……っ』
 なぜか眉を寄せた苦し気な表情と声色で尋ねられ、一瞬息を呑んだ後に、それでもこくりと小さく頷いた。
『……っは、い……』
 痛くないわけではなかったが、耐えられないほどではない。
 それよりも、身体の中に異物があるという違和感と、その圧迫感の方が大きかった。
『……少しだけ動く。ゆっくりするから、辛かったら言ってくれ』
『え……?』
 全て収まったことでほっと身体の力を抜いていたシャーロットは、その言葉の意味がわからずにきょとん、と純朴なを向ける。
 直後、少しだけ腰を引いたゼノンがぐちゅり……っ、とまた自身を根本まで埋め込んできて、シャーロットは予想外のその衝撃にまた悲鳴を上げてしまっていた。
『ひ……っ、ゃ、ぁあ……っ! あっ、あ……っ、あ……!』
 それはきっと、とてもゆっくりした動きだったのだろうが、知識も覚悟もなかった子供のシャーロットには、充分衝撃的なことだった。
『や、ぁ……っ! 苦し……っ、痛……ぁ……っ! 無、理……ぃ……っ』
 自分の意思とは関係なく揺さぶられ、無意識にふるふると首を横に振っていた。
『ゃめ……っ』
 反射的に突いて出た制止の声。
 ――ぴたり、と動きが止まり、涙で滲んだ視界になんとも言い難い表情をしたゼノンの顔が映り込んだ。
『……痛い、か?』
『……ぁ……』
 その瞬間、これで終わりにされるのだろうと理解した。
 ――止めないで。続けて。最後まで。
 そう、言えれば良かったのだろう。
『……今日は、ここまでにしよう』
『……ぁ……っ』
 案の定、出ていく時までゆっくりと気遣いながら引き抜かれていく感覚に、どこか物寂しそうな吐息が洩れた。
『……ん……っ』
 ずるり、とソレが抜け出た瞬間、ふるりと身体が震えた。
 胎内を満たしていたものがなくなって、お腹の奥と蜜口がひくひくと切なく痙攣していたが、その意味はシャーロットにはよくわからなかった。
『……悪いが、今日も……』
 手早く身支度を済ませたゼノンは、チラリとシャーロットに視線を向けたものの、すぐに気まず気に顔を背けていた。
『……は、い…………』
 “悪いが”、と、前回も聞いたその謝罪。
 本来であれば妻と共に眠るべきだという認識はあるのか、らしくなく口ごもるゼノンへ、シャーロットは頷く以外のことはできなかった。
『……おやすみなさいませ……』
 ゼノンが出ていく後ろ姿を見たくなくて、くるりとこちらから背を向けると、広すぎるベッドの中へ潜り込んだ。
『……あぁ、お休み』
 少しだけ躊躇する気配も見えた気もするが、相変わらず感情の乗らない低い声でそう言って、ゼノンは寝室から出ていった。
 ――いい夢を。
 最後に告げられた静かな声に、涙が溢れた。
 ずっと独り寝のこんな夜に、とてもいい夢など見られるとは思わなかった。
 それでも。
 ――せめて、夢の中でだけは。
 ゼノンの逞しい腕に包まれて眠る幻想に逃げられるだろうかと、シャーロットは溢れそうになる涙を耐えるように、固く目を閉ざしていた。


 そして、後にも先にもその時だけ、ゼノンは三日間続けて寝室に姿を現した。
 根気よくシャーロットの身体を宥め、ゆっくりと奥まで潜り込んで。
『……苦しい、か……っ……?』
 ゼノンの方こそ苦し気な表情かおで荒い吐息を吐き、必死でなにかを耐えているようだった。
『……大丈夫……っ、で……っ、ぁあ……っ、ん』
 覚悟を決め、広い肩を掴んでいた指先に少しだけ力を込めると、それが合図になったかのように、ゼノンは緩く腰を突き入れてきた。
『あ……っ、ぁあ……っ!』
 ゆるゆると揺さぶられ、悲鳴とも歓喜ともつかない嬌声が突いて出て、生理的な涙だけが次から次へと溢れ出た。
 さすがに三日目ともなれば、大きな圧迫感と違和感はあっても、痛みは感じられなかった。
『っこのまま……っ、最後まで……っ』
『は……っ、っい……! して、くださ……っ、ぁあ……っ!』
 こくりと頷いた瞬間、腰を掴み直され、今までになく大きく突き上げられた。
『もう少し……っ、耐えてくれ……っ』
『ぁああ……っ!』
 激しさを増していく律動に、シャーロットはただなされるがままの時を過ごしていた。
 激流に呑み込まれ、もはや自分ではどうにもならなかった。
『……く……っ』
 しばらく揺さぶられ、ゼノンが息を詰めた瞬間に、身体の奥に熱い飛沫が迸った感覚がした。
 それは、ゼノンの子種がシャーロットの身体の中へ注がれたことの証。
 今日までの行為で“達する”ということを教えられてはいたが、その時一緒に昇り詰めることはできなかった。
 それでも、これでやっと本当の“夫婦”になれたのだと思えば、じんわりと滲んだ涙は幸福感からのものだった。
 それなのに。
『……悪いが……』
『……ぇ……?』
 今日もまた軽く身支度を整えたゼノンの口から零れ落ちた謝罪に、さすがのシャーロットも目を見開いた。
『……このまま休んでくれ』
 苦し気に歪んだ横顔は、一体なにを思っているのだろう。
 今日こそは、共に朝を迎えられると思ったのに。
 満たされたと感じた時間はほんの一瞬で、シャーロットはその落差もあって、ずっと続いている独り寝の夜に枕を濡らしていた。
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