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エピローグ
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「だぁ! だっ、だ……っ!」
はいはいしてやってきた赤ん坊を抱き上げて、シェリルは、その口の端から溢れ出た涎をガーゼで拭ってやっていた。
「……どうしてるかな」
大好きな母親に抱かれてきゃっきゃっと喜ぶ子供を抱き締めて、シェリルは何処か遠くを眺め遣る。
予定日より少し遅れて無事生まれてきた子供は、セスク待望の女の子で、日々すくすくと元気に育っている。
シェリルによく似た小さな女の子を、セスクはもはや目に入れてしまっているのではないかというくらい可愛がっていた。
「アイツのことだから、きっと海の向こうで今日も飄々としてるんじゃないか?」
小さな呟きの意味を正確に察したのだろう。
シェリルから赤ん坊を受け取ったセスクは、デレデレの父親の顔をしてその子をあやしながら、仕方ないなと苦笑する。
あの後、シェリルが目を覚ました時には、すでに男はいなかった。
生まれた子供を見せたかったと思うシェリルの気持ちは、セスクが両親に孫を抱かせたいと思う気持ちと似たようなものかもしれない。
「……そうね」
燦々とした太陽の光が差し込む窓の向こうを眩しげにみつめ、シェリルは広い空の下、何処かにいるであろう男の姿を思って静かに微笑んだ。
「……男の子が生まれたら……」
「……え?」
「アイツの名前から何文字か貰おうか?」
自由に動き回りたがるお転婆な娘を足元へと下ろしてやり、セスクはその代わりというわけでもないけれど、シェリルの腰を引き寄せた。
「……セスク……」
「アイツに関してはいろいろ思うところもあるけど、シェリルの命の恩人であることには間違いないし」
きゅっ、と優しく抱き締めて、悪戯っぽい瞳でシェリルの顔を覗き込む。
今だ胸に残る嫉妬はあるけれど、それでも今は感謝の気持ちの方が大きくはなっている。
「今、オレたちがこうしていられるのは、全部アイツのおかげだし」
母親になったシェリルは益々その魅力を増していて。
日々愛しさが募っていくばかりで、再現なく湧く愛情で溢れていく。
恐らくは、これから兄弟姉妹がたくさん増えていくだろう。
「……うん……」
優しく抱き寄せてくる腕に身体を預け、シェリルは小さく頷いた。
セスクの暖かな愛情に満たされて、これ以上ない幸せな日々が続いていて。
こんなに幸せで許されるのかと思ってしまうほど。
本当に。可愛い子供にまで恵まれて、幸せすぎて泣きたくなる。
「シェリル。オレは、シェリルに出逢えたことが、人生で一番の贈り物だよ」
まるで猫のように鈴の音が鳴るボールを追いかけてきゃっきゃっと遊ぶ赤子を二人で見守りながら、セスクはその耳元で甘く囁く。
「愛してる」
「ん……」
ちゅ、と、首筋へ優しくキスをされて、シェリルはくすぐったそうに目を細める。
「私も……」
いつか、死が二人を分かつまで。
この幸せが色褪せることはないだろうと、そう思う。
「……今、すごく幸せだから」
自分の人生は、きっとこの人に会う為にあったのだろう。
「貴方に会えて良かった」
暖かな抱擁に包まれて、シェリルは幸せそうに微笑んだ。
「もう、二度と離れない」
自分の居場所は、もうこの腕の中だと決めたから。
「シェリル……」
シェリルの綺麗な微笑みに、セスクもまた甘く笑う。
そうして午後の暖かな日差しの中で。
どちらからともなく、そっと唇を重ね合わせていた。
end....
はいはいしてやってきた赤ん坊を抱き上げて、シェリルは、その口の端から溢れ出た涎をガーゼで拭ってやっていた。
「……どうしてるかな」
大好きな母親に抱かれてきゃっきゃっと喜ぶ子供を抱き締めて、シェリルは何処か遠くを眺め遣る。
予定日より少し遅れて無事生まれてきた子供は、セスク待望の女の子で、日々すくすくと元気に育っている。
シェリルによく似た小さな女の子を、セスクはもはや目に入れてしまっているのではないかというくらい可愛がっていた。
「アイツのことだから、きっと海の向こうで今日も飄々としてるんじゃないか?」
小さな呟きの意味を正確に察したのだろう。
シェリルから赤ん坊を受け取ったセスクは、デレデレの父親の顔をしてその子をあやしながら、仕方ないなと苦笑する。
あの後、シェリルが目を覚ました時には、すでに男はいなかった。
生まれた子供を見せたかったと思うシェリルの気持ちは、セスクが両親に孫を抱かせたいと思う気持ちと似たようなものかもしれない。
「……そうね」
燦々とした太陽の光が差し込む窓の向こうを眩しげにみつめ、シェリルは広い空の下、何処かにいるであろう男の姿を思って静かに微笑んだ。
「……男の子が生まれたら……」
「……え?」
「アイツの名前から何文字か貰おうか?」
自由に動き回りたがるお転婆な娘を足元へと下ろしてやり、セスクはその代わりというわけでもないけれど、シェリルの腰を引き寄せた。
「……セスク……」
「アイツに関してはいろいろ思うところもあるけど、シェリルの命の恩人であることには間違いないし」
きゅっ、と優しく抱き締めて、悪戯っぽい瞳でシェリルの顔を覗き込む。
今だ胸に残る嫉妬はあるけれど、それでも今は感謝の気持ちの方が大きくはなっている。
「今、オレたちがこうしていられるのは、全部アイツのおかげだし」
母親になったシェリルは益々その魅力を増していて。
日々愛しさが募っていくばかりで、再現なく湧く愛情で溢れていく。
恐らくは、これから兄弟姉妹がたくさん増えていくだろう。
「……うん……」
優しく抱き寄せてくる腕に身体を預け、シェリルは小さく頷いた。
セスクの暖かな愛情に満たされて、これ以上ない幸せな日々が続いていて。
こんなに幸せで許されるのかと思ってしまうほど。
本当に。可愛い子供にまで恵まれて、幸せすぎて泣きたくなる。
「シェリル。オレは、シェリルに出逢えたことが、人生で一番の贈り物だよ」
まるで猫のように鈴の音が鳴るボールを追いかけてきゃっきゃっと遊ぶ赤子を二人で見守りながら、セスクはその耳元で甘く囁く。
「愛してる」
「ん……」
ちゅ、と、首筋へ優しくキスをされて、シェリルはくすぐったそうに目を細める。
「私も……」
いつか、死が二人を分かつまで。
この幸せが色褪せることはないだろうと、そう思う。
「……今、すごく幸せだから」
自分の人生は、きっとこの人に会う為にあったのだろう。
「貴方に会えて良かった」
暖かな抱擁に包まれて、シェリルは幸せそうに微笑んだ。
「もう、二度と離れない」
自分の居場所は、もうこの腕の中だと決めたから。
「シェリル……」
シェリルの綺麗な微笑みに、セスクもまた甘く笑う。
そうして午後の暖かな日差しの中で。
どちらからともなく、そっと唇を重ね合わせていた。
end....
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