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ⅩⅤ.Nine of Wands

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「シェリル様。セスク様がお呼びです」
「セスク様が……?」

 セスクが直接迎えに来るわけではなく、誰かに御使いを頼むなどということがあるだろうか。しかも相手は、当然ながらシェリルの知らない人間だ。――もっとも、シェリルが知っている人間など一人もいないのだから、それは当たり前のことだけれど。
 けれど、だからこそ。

「はい。本当はお迎えに来られたかったようなのですが、どうしても殿下の元から離れられないそうで」
「そう、ですか……」

 不審に思ったシェリルへと、セスクの遣いだと名乗った、一見人の良さそうな青年は、だからといってシェリルを強制的に外へと向かわせる気配もなく、ただその場に控えてシェリルが動くのを待っている。

「……どちらに行けば?」

 今セスクが呼ばれている相手はこの国の王太子だ。
 さすがのセスクも思い通りにならないことはあるだろうと、シェリルは男に付いていくことにする。
 人気のないところに行かない限りは、この王宮内でそんな恐ろしいことが起こることもないだろう。

「ご案内します」

 丁寧に頭を下げた男は、シェリルを王宮の外にまで促した。
 周りには、王宮から下がっていく招待客たちの姿がまだあちらこちらに見受けられる。

「馬車……?」
「はい。すぐに帰るので中で待つようにと」

 来た時は、この馬車だっただろうか。
 さすがに不審を抱いたシェリルは、やはり先ほどの場所でセスクを待とうと踵を返しかけ。
 不意に強い力で馬車の中へと押し込められ、中にいた男から引っ張り込まれていた。

「――っ!?」

 直後、鼻についた強烈な匂いに、くらり、と意識が遠退いた。
 これと同じ光景を、いつか何処かで経験したことがあるような……、何処かで覚えがあるような奇妙な感覚に囚われながら、シェリルはその場へ崩れ落ちていた。

 意識を失う寸前に。最後に頭に浮かんだのは、大好きなセスクの笑顔だった。
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