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アリア十五歳

小さな恋のお話 2

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 楽しそうに空を飛びまわるリピドに手を振って、セレナが運んでくれたソリを受け取った。僕も大きくなったのだから、自分で運ぶと言ったのに『コレはまだ重いですから』と微笑み付きで断られてしまった。確かに受け取るとまだ僕には重いし、セレナは獣人だから気にならないのか軽々と持ち上げている。

「僕の力って、いつまでたってもセレナに追いつけない…?」
「私はラーヴァ様の魔法の力の方が羨ましく思いますわ、獣人にはどうしても持てない力ですから」
「どうして、獣人は魔力を持てないの?」
「それは…、獣人は魔力を持つと、魔に捕われてしまうのです。ですから、もし魔力を持って生まれると封印してしまうんです」
「…封印?折角の魔力なのに?マウシットの家みたいに、魔力が現れないとは違うの?」

 まだ家の事しか勉強していない僕には、始めて聞く獣人の事だった。きっと学園に通っているアイクお兄様とアリアお姉様なら知っているんだろうけど、哀しそうなセレナの顔が胸に痛い。空色の瞳がどこか遠くを見つめている。

「セレナ?」
「あ、申し訳ありません。マウシット様は御家系なのだと思います、獣人が魔に憑かれますと大変な事になりますから」
「大変?僕も学園に通えば解るようになること?」
「それは…っ」
「学園って大きな図書室があるって、アリアお姉様が教えてくれたんだ。セレナも来年には入学だから、其処までは解らないかな」

 屋敷の図書室にも獣人関連の本はあるけれど、魔力の封印の話は無かったはず。アリアお姉様が色んな本を沢山集めて下さっていたけど、そんな話は何処にも無かった。学園の大きな図書室になら置かれている古い書籍なんだろうか?
 じっとセレナを見つめていると、段々辛そうな表情をするセレナに首を傾げてしまう。本当なら、こんな顔はさせたくないんだけど、知りたい事は聞いてしまうのが、末っ子の特権かもしれない。うちはアイクお兄様もアリアお姉様もしっかりと教えてくれたから。

「きっと、解らないと思います。この事は、クラスター王国にいる獣人だけの話ではありませんので。クラスター王国は魔法を持つ者が治める国、隣の国は獣人が半数は占めており武力の国でもあります」
「うん、知ってるよ。獣人が多いからそうなったんだよね」
「はい、隣の国がそうなったのは、遥か昔の時代に遡ると言われています。私の父が領主を務めておりますコルネル辺境領は、隣の国とも近いのでその伝説が色濃く残っています」

 セレナが聞かせてくれたのは、その昔の伝説だった。コルネル辺境領では、子供の為の寝物語となっているんだって教えてくれた。

―― 遥か昔、今は獣人が穏やかに暮らす土地には、魔を統べる者が支配していた。其の力は魔力を持たぬ獣人でさえも強固に、凶悪に染め、魔力を持つ獣人はその力を使い人を支配した。しかし、その力は、いつしか現れた人の聖女によって打ち消される。光の力と聖なる力を併せ持ち、聖女は魔に憑かれた者達を次々に解放していった。
 最後に聖女の前に現れたのは、魔を統べる者であり、魔に色濃く憑かれた者。獣人には持たざる強き魔力を内に秘め、その力故に魔へと憑かれた哀れな獣人であった。聖女の聖なる力と光の力により、解き放たれたが力を使い果たした二人はそのまま帰らぬ人となってしまった。――

「残ったのは、荒れ果てた大地ばかり。その様な悲劇を後の世にも残さない為に、獣人は魔力を封じる事になったと、伝え聞いてます」
「じゃあ、もしかしたらセレナも魔力を持っている可能性があるの?」
「…そうですね、ですが、私の父は魔力が弱いですし、母違いの兄姉もアリアお姉様達程でもありません」
「アトランティ家を比べる対象にしては駄目だよ、アリアお姉様は規格外だって言われてるし」

 そうでしたねとクスクス笑みを零したセレナに、漸く安心してしまった。獣人の話は、僕が知らなかっただけなのか、それとも、獣人の中だけにしか伝えられないものなのだろうか?

「ですから、私は昔から同じ獣人か、魔力を持たない家へ嫁ぐようにと決められています。私はコルネル家の中では末ですので、結婚以外は好きにしても言いと言われてますから、女性騎士を目指してみようと思っています」
「は!?」
「え?」
「婚約者…いるの?セレナ」
「はい、一応。親が決めた方が」

 辺境伯とはいえ、立派な貴族。それなのに、侯爵家の僕が頭から抜けてるとか、本当にどうかしてた。だって、アトランティ家は伴侶は王族以外なら、自分で探してもいいと言われていたから。セレナから聞いたその言葉に、僕は頭が真っ白になってしまった。

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