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試験開始です。
魔との初対戦
しおりを挟むずっしりと重い空気は魔力の大きさに比例しているのか、マウシット様は不快に感じる程度のようです。聖獣のギベオンは自分で防御してますし、私はハウライトが付けてくれた光魔法の防御壁があります。だけど、それを突き抜けてまでくる重力が、結構、かなりきつい。正直、膝をつきそうな重さです。
(ダンスのヒール履いてる時に、重力かけるのはやめてー!足痛いって!御令嬢達って本当に根性あると思います。ピンヒールむりー、脱ぎたいー!)
生徒の出入りで踏まれないようにと、オブシディアンとハウライトを二階席にやっていたのを後悔しました。せめて審査をしてくださる先生達の席の側にでも居て貰えばよかったです。二階席とは言っても、無駄に大きな学園ですので、実際は三階くらいの高さがあるんです。
聖獣でも子猫姿の二人に飛び降りて来いだなんて、恐ろしい事言えませんよ!危ない事禁止!いくら我が家の末っ子が空を飛ぶのが得意で、いつもオブシディアンとハウライトも連れまわしているといっても、危険な事だけはお姉ちゃん許しません!ちゃんと階段回ってきなさい!
(いや、まぁこれだから、ジャスパー様やラズーラ殿下にブラコンって言われるんでしょうけどね。ブラコン上等、アイクお兄様もラーヴァも大好きよ!って現実逃避してる場合じゃ無かったわ)
心配そうな気配は感じるけど、こんなに離れているとハウライトとの連携光魔法は使えない。光の聖獣のハウライトと一緒なら、光魔法の効果も絶大なのですが、私だけだと少し心もとないのです。まぁ良くて八十パーセントってとこですかね?
光の魔力を身に纏う私の視界を言えば、あんなに広いダンスホールが真っ黒です。ルチルレイの中に入り込んでいる『魔』は、どうやら周りの御令嬢達の嫉妬や諸々黒いものまで取り込んだようです。
効果は絶大だ!どこの元気を集めた光の玉だよ!ものは真っ黒だけどな!!
大きな塊になった魔が、私を見つけたのか真っ直ぐに飛んでくる。重力に逃げられないと目を硬く閉じた瞬間、ふわりと身体が宙に浮かんだ。めちゃくちゃな突っ込みでもないとやってられんわ!って、ほぼやさぐれモードに入りかけていた私の耳に届いた声、目の前が光で溢れて鮮やかに彩りだす。
「アリア!大丈夫!?」
「アズラ…?」
「アズラ、こっちだ!アリアを早く!」
「リィ様!?どうしてまだ此処にっ」
崩れ落ちそうな私を勢い良く引き上げる手、優しく包み込むように支えられる手、心配しているエメラルドグリーンの優しい瞳に、真っ直ぐに私を見つめるアメジスト・ゴールドの瞳。真っ黒に染まってしまいそうだった視界が彩を持ち、心が温かくなって顔に浮かぶ微笑み。
「結界を張る、アズラはアリアを守れ」
「はい!」
金色掛かった紫色の瞳が光の加減なのかキラリと輝いた。私と同じアメジストの瞳に、王家の威厳に満ちた威圧感。そして、清廉な空気。其処に居るのはいつもの可愛らしいふわふわとした優しげなリモナイト殿下じゃない。
身体中が淡く光だし、包み込む魔力は光魔法の力。
(え、え?公式設定に、リモナイト殿下の光属性って無かったよ!?)
「僕では、光の聖獣様とは比べ物にはならないけどね。『光の壁』」
ふわっと微笑みを向け放たれる光の壁は、私達三人を囲みしっかりと魔の進入を防いでくれる。あんなにあった重圧も無くなり、普通に立っていることが出来た。其の姿に安心したアズラがニコッと笑みを浮かべ騎士科で使っている木剣を構えた。
「ハウライト様が到着されるまで、アリアはリモナイト殿下の結界の中に居てね」
「アズラ…っ」
「私が守っているんだ、アズラはちゃんと意識を引寄せるように」
「はい、リモナイト殿下」
床を蹴って高い跳躍を見せたかと思えば、黒い塊を引寄せるよに隠しナイフを投げつけ反対側の壁へと降り立つ。黒い塊に顔は無いのに、今は挑発をしたアズラへと向いているのが分かる。黒い塊の成分は魔の引寄せた黒い感情。
(これは、火の魔法やラズーラ殿下の炎でも無理だわ)
「流石、武術は獣人が強いね。アズラに持っていかれたかなぁ…。アリア、『アレ』分かる?」
「はい、『アレ』は光の魔法で無い限り祓えません」
「僕では、その術はまだ無理なんだ。……守るって言ったのに、中途半端でごめんね?」
「リィ様…」
「ハウライトが来れば、アリアなら出来るから。それまでは守らせて」
『魔』と一人で対峙しているアズラも心配だけど、リモナイト殿下に儚い微笑みを向けられて、胸が苦しくなってしまう。この思いは罪悪感なのか何なのか、もう私には分からない。だけど、リモナイト殿下に、そんな顔はして欲しくない。今私が出来るのは、私の守護聖獣がたどり着くのを願うだけ。
(ハウライト、オブシディアンお願い、早く此処に来て!!)
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