16 / 71
OPは賑やかに。
他人の魔力は蜜の味?
しおりを挟む身体は疲れていましたが、ラーヴァとお友達になった風の精霊さんリピドの為のケーキやクッキーを作り、今日のお詫びを籠めたカップケーキを人数分ラッピングしていく。これは侍女のセシルにも手伝って貰ったので、可愛いのが沢山出来ました。
「リィ殿下に、いつものお菓子?」
「いえ、今日ご心配をおかけしましたから皆さんに…と」
「アリアのお菓子はラズ殿下もお好きだから、きっと皆喜んでくれるよ。明日はマーカサイトにも挨拶できそうだね」
「ええ、楽しみですわ。マーカサイト様の制服姿」
ラーヴァと仲良しなため、第二の弟のように思っているホーランダイト家のマーカサイト様は、公式で発表されてる五人の攻略対象者の最後の一人です。後輩枠ってやつです。お父様のホーランダイト伯爵様と同じで、ほわんとした癒し系の可愛らしい男の子です。一番穏やかで、幸せなエンドを目指せるのはマーカサイト様です。伯爵夫人エンドか宮廷魔術師エンドですからね。
(確かに安定しているし、マーカサイト様は可愛い雰囲気のとても優しい男の子なんですが、何が大変って、ゲームではラーヴァが邪魔をしにくるっていう驚きの展開ですよね。お陰で出会いイベントを起こすのが大変で張り付いてないと攻略できないっていう)
優しいマーカサイト様が、姉に騙されているんじゃないかって、ラーヴァに邪魔されるんですよ。騙すなんてとんでもないし、ラーヴァに睨まれるとか堪えられない…。幼い頃から弟の様にラーヴァとひっくるめて可愛がってきましたので、今ではアメーリア姉様と呼ばれるまでになりました!頑張った私!
「アイドクレーズ様、アメーリアお嬢様、此方の片付けは私が致しますので、お早めにお休みくださいませ」
「ええ、そうするわ。ごめんなさいねセシル」
「部屋まで送ろう、しっかり眠って魔力を回復させないとね。モルガ嬢にはもう、いきなり守護聖獣の世界に引っ張らないようにお願いしないとね」
王子様よりも王子様らしいと私が独断で思っている、アイクお兄様に微笑みを向けられたら、どんな人でもコロッと行く事間違いなしですわ!本当に、この人の妹で良かった、神様有難うございます。だって、妹じゃないとこんなに沢山の表情が見れないわけですし、何と言ってもアイクお兄様のショタ時代を知ってるどころか間近で見てたんですよ!何度ヨダレの心配をした事か……!
(アズラには可愛いの鼻血の心配で、アイクお兄様にはヨダレって、本当令嬢としてどうかと思いますわ自分でも。いや、でも。美少女なアイクお兄様とジャスパー様が並ぶと本当に絵になってね?何で此処に友達がいないの!?と叫びたくなったよ?)
「でも、流石に疲れましたわね…」
疲労感を感じつつ、ふかふかのベッドへ飛び込んだ。
いつもなら飛び込むなんて、はしたないと怒られるのでやりませんが、今日はそれどころじゃないくらいに疲れてましたのでね。美味しいご飯もお腹一杯食べたので、睡魔も早くこっちに来いと手招いてます。いざ、夢の国です。
ハウライトとオブシディアンは、私の足元で丸まって眠っています。寒い季節は私の布団の中へと入り込んでくるので、モフモフ温かな寒い時期の幸せです。
(朝方は冷える時は首元で寝ているから、それも幸せよね)
眠りに引き込まれる感覚は、ギベオンに呼ばれる時と似ているかもしれない。そんな事を考えていたからなのか、それとも、一度引き込まれた事で道が出来てしまったのか。眠っているのに、寝返りを打てない重みに零れる呻き声。
「…お、もい……」
「失礼な、そんな事はない」
「ん…ぁっ、ちょ、なに!?」
ぺろりと頬を舐める感触に、慌てて瞳を抉じ開けると、私の上に乗っかっていたのはまさかのギベオンだった。モフモフバージョンだったので、よっしゃ!ウェルカム!と言いたい所だけど、残念ながら、私の両腕は動かない様にギベオンの体重で押さえつけられている。
「は!?まさか、聖獣様が夜這い!?」
「……似たようなものか」
「冗談で言ったのに、肯定しないで下さいません事?」
「的確に言い当てたのは、アリアだろう?」
「夜這いしてくる命知らずなんて、お目にかかった事ありませんわよ」
自分でもおいおいと思いますが、私、混乱していましてよ。アズラが夜這いなんてしてきたら、其れこそ飛んで火に居るモフモフ。すかさずモフモフの刑にしますが、それよりもアイクお兄様のブリザードが怖いわよ。次の日の朝にはホワイトタイガーの氷漬けが、お屋敷の門の前に飾られているでしょう。って自分で想像してて怖いわ!!
「……ぶふっ!」
「ギベオン、笑いたいなら我慢せずに笑っても宜しくてよ」
「すまない、アリアは可笑しな方に混乱するのだな」
「ルチルレイ様は違いましたの?」
「どうだったかな、初めの頃は怯えていた様に思うが」
そうですよね、普通の貴族の令嬢様でしたらその反応の方が正解ですわよね。私ときたら『モフれないだと!?』ってそっちの衝撃の方が大きくてよ。それにしても、ギベオンも吹き出した後は、私の頬にモフモフとけしからん毛並みを擦り付けてきますのよ。どいてください、私に直にモフらせろ。
「アリアの魔力は、良く練られていて美味そうだ」
「まさかの餌判定を頂きましたわ」
「アリアの子猫達が、こうやって魔力を喰いに来ないのは、お前の作る菓子に魔力が籠められているからだな」
「……私の作る、お菓子にですか?」
「ああ、王子達や騎士の二人、あとはお前の兄からもアリアの魔力を感じた」
相変わらず頬に擦り寄って話を続けていますけど、餌判定を頂いた今となっては、その口が少し怖いですわよ。赤頭巾ちゃんになった気がするのは、私だけでしょうか?時折ぺろりと私の頬や唇を舐める紅い舌先が温かくて、怖がっていいのか安心していいのか戸惑いますわ。
「この姿では、魔力も取りにくいか」
「そもそも、魔力を取ってますの?じゃれているようにしか思えませんのですが」
「それもそうだ」
(あれ?これ、不味った!?)
何を思ったのか、私の身体から重みが無くなった瞬間、目の前には端正な顔をした人型ギベオンが現れてしまいました。これでいいだろうと、自分だけで満足なギベオンに腹パンしてもいいですか?膝蹴りしてもいいですか!?それとも回し蹴りいっとく!?
「何を物騒な事を考えている」
「何で、わざわざ人型になりますの!?」
「黙っていろ」
「んんっ!?」
文句を言う私の唇に、柔らかなギベオンの唇が重ねられ、そのまま開いていた咥内へと薄い舌先が差し込まれる。舌先を絡めて吸い上げられる熱さは、魔力を吸い取られる熱さなのか、それともこれは、背を伝っていく快感の所為?
不思議な銀色の瞳が、熱く甘く私を見つめ、ドキドキと胸の鼓動が煩くなっていく。息苦しさに零れる吐息まで甘くなっていて、自分が自分ではない感覚に、このまま沈み込んでしまいたくなる。
(だ、め…、このままは、駄目)
「……ふ、ぁ…っ、はな、してっ」
「極上だ」
「…っ、こ、の…変態狼!お前の躾はどうなってますの!?」
「ぐはっ!?」
全力でギベオンのお腹に膝蹴りをお見舞いした私、悪くない。
自分とは思えない甘い声を出してしまった事にも、顔が真っ赤になるくらい恥ずかしかったですが、アメーリアは侯爵令嬢ですよ!?いや、軽いちゅってくらいならアイクお兄様やラーヴァやハウライトとオブシディアンともやるけど!家族だしノーカンですよ!しかもギベオンは二度も舌を入れてきやがりましたわ!
「言葉が乱れているぞ、侯爵令嬢」
「あ、貴方に令嬢の言葉なんて、必要ありませんわよ!」
「この方が魔力を吸い取れるんだ、慣れろ」
「無理でしてよ!其の前に、魔力でしたらルチルレイから貰って下さいませ!」
「アリアの方が美味い。それに、ルチルレイは最近自分の望みを叶える気が無い。魔力が濁っていて不味い」
「おいこら、このエロ狼」
ぺろりと満足気に自分の唇を舐めるその仕草は、普通の令嬢ならば落ちたでしょう。真っ直ぐに見つめてくる温度を感じさせない銀色の瞳は、何処となく熱を帯び、ダークシルバーの毛並みの所為かやや浅黒い肌は魔力を取り込んだからか、上気して暖かい。深い藍色の髪も艶っぽく私へと落ちてきて、何でも許してしまいそうな程だ。
しかし、本来なら守護する相手から貰う魔力を不味いだと?ふざけんな。
残念ながら、私は普通の令嬢様じゃない!
「ま、」
「ま?」
「魔力が欲しいなら、モフモフの姿でこいやー!!」
火事場の馬鹿力ってどんな時でも有効なんですね。ギベオンの気が抜けていたのもありますが、見事私のグーパンはギベオンの顎にヒットしました。乙女(中身は違うけど)の唇を勝手に奪う不届き物には制裁は必要でしてよ!
「痛いぞアリア」
「自業自得ですわ!もしかして、ルチルレイにまでそうやって魔力を取ってますの?」
「当然だ」
ギベオンの言葉に絶句しましたよ、間抜けな顔を晒してぽかーんと見事にです。あんなに真っ直ぐな熱い瞳で自分だけにくるんですよ?並大抵の箱入り令嬢なら、恋に落ちていてもおかしくないじゃないですか。
触れ合うだけのキスでもなく、狼の姿でもない。しかも、それを守護聖獣となった日からやっているのなら、私にじゃれに来るギベオンをみて、ルチルレイが嫉妬しても当然としか…。
「そういえば、アリアの側に行くなといわれたな」
「やっぱりか…っ、夢から出て行って反省なさいませ!」
可愛いルチルレイとお友達になれる淡い期待が、ガラガラと崩れる音がした。ぷるぷると震える拳を握り締めて、私はギベオンを夢から吹き飛ばすイメージで拳を叩き込んだ。
次の日の朝、夜中に再び魔力を抜かれてしまった私が、ベッドから起き上がれる事は無く。泣く泣くアイクお兄様にお菓子を託し学園をお休みする事になってしまったのです。
(これは、ギベオンを直ぐにでも躾けないと大変ですわね)
46
お気に入りに追加
8,278
あなたにおすすめの小説
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
サブキャラな私は、神竜王陛下を幸せにしたい。
神城葵
恋愛
気づいたら、やり込んだ乙女ゲームのサブキャラに転生していました。
体調不良を治そうとしてくれた神様の手違いだそうです。迷惑です。
でも、スチル一枚サブキャラのまま終わりたくないので、最萌えだった神竜王を攻略させていただきます。
※ヒロインは親友に溺愛されます。GLではないですが、お嫌いな方はご注意下さい。
※完結しました。ありがとうございました!
※改題しましたが、改稿はしていません。誤字は気づいたら直します。
表紙イラストはのの様に依頼しました。
悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい
鍋
恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。
尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。
でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。
新米冒険者として日々奮闘中。
のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。
自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。
王太子はあげるから、私をほっといて~
(旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。
26話で完結
後日談も書いてます。
悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
闇黒の悪役令嬢は溺愛される
葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。
今は二度目の人生だ。
十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。
記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。
前世の仲間と、冒険の日々を送ろう!
婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。
だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!?
悪役令嬢、溺愛物語。
☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる