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魔法のお勉強
番外編 謀 (アイク視点)
しおりを挟む「リィとアメーリア嬢が、稀少な闇属性を…ね」
『ハッ、しかもアトランティ侯爵令嬢の魔力量は桁違いかと』
「分かった」
静まり返った部屋の中では、文字を書く音だけが聞こえて来る。いつもはどこか退屈そうに勉強をしているのに、今日は口元が楽しそうに弧を描いていた。
音も立てずに立ち去るその手腕は、毎回感心してしまう。先程の影の報告が、余程お気に召したらしい。問題を解くペンの動きが早くなって、それほど時間も経たずペン立てへと戻された。
(次の課題が面倒で、ゆっくりやってましたね)
「ラズ殿下」
「君の妹は優秀だね、アイク。是非とも王太子妃に欲しい人材だよ」
「お褒め頂き有難う御座います。ですが、アトランティ家としてはお受け致しかねます」
「手厳しいね」
勉強の監督役を仰せつかってはいるが、私が側にいても居なくても、ラズ殿下は気が乗れば忽ち片付けてしまうのだから、此処に居る意味があるのだろうか?
『王族の願い』をキッパリと断られたというのに、不敬だと怒る事はしない。きっと言われる事は予測していたんだろう。妹のアメーリアが遊びで試した魔力量検査で、ラズ殿下よりも多い値を出した日から、ラズ殿下の興味はアメーリアに向いていた。
(今まで言葉にはしなかったが…)
アトランティ家の嫡男や親戚筋の娘が王宮へ仕える事はあったが、本家筋の娘を王宮へは出す事はしていない。
ゆっくりと息を吐き、じっとラズ殿下を見つめた。楽しそうな瞳が私を見返している。
「家臣を出す事は出来ますが、妃を出すことは出来ません。これが我が家の答えです」
「アメーリアが望めば、それも覆るな」
「今は守護聖獣様に夢中ですよ」
溜息混じりに告げても、ラズ殿下の口元は緩んだまま。それどころか、呆れている私を眺めては楽しそうに笑っている。守護聖獣のギベオンが屋敷にきてからというもの、楽しそうに守護聖獣にブラッシングするアリアの姿を見ていると、王太子妃はもとより政略結婚などの婚姻関係もアリアの頭の中には無さそうに見える。
「なんですか?」
「アイクが表情を出すのが面白い」
「はい?」
「普段は顔に出さないようにしているだろう?それが、家族の事では顔に出るのが面白い」
「意味が分かりません」
採点は担当の教師がするので、置きっ放しの課題を片付けようとしたら、何故か腕を掴まれてラズ殿下のほうへと引寄せられる。
室内には護衛はいないから、実質二人なのにコソコソとするという事は、影の護衛には聞かせたくないということだろうか?でも、顔はどう見ても楽しんでいる。
「王太子妃としてなら、確かにアメーリア嬢は適任だ。だけどね、アイク?私の側にはアイクが居て欲しいよ。勿論ジャスパーも一緒ならとても嬉しいな」
「そ、うですか。我儘ですね」
「そうだよ。だから、今興味が持てるのは、王族で初めて闇属性を持った私の弟であるリモナイトと類稀な魔力量をもつアメーリア嬢、光属性を持った少女が教会に『隠すように』保護されているという事かな」
にっこりと浮かぶ笑みは、『友人』として側に居るようになったからこそ知っている。これは何かを企んでいる笑顔だ。
ラズーラ殿下が炎属性なのが不思議だと言った奴此処にきてみろ、全然不思議でも何でもない。
この方は、自分の狙った獲物は逃がさない。笑顔を見せる瞳の奥は、強い独占欲の炎が見える。
(リモナイト殿下に、アリアを付けたのは失敗だと思いますよ父上)
溜息を零しながら課題を片付けていると、ふと思い出した属性検査での騒動。きっとラズ殿下の耳には届いているだろうけど、会話がないので振ってみる。
「それにしても闇属性が二名に、光属性が一名。今年の属性検査では、水晶がまた割れたそうですよ」
「ああ、魔術師団の会計担当が泣いていたな」
「リモナイト殿下とアリアなら、水晶を割る予測ができたと思いますが?」
「それだけでは無いと言ったら?」
「え?」
今日の教会での属性検査はたった今報告が来たばかり、それなのにこの人はどんな情報を手に入れていたんだろう。リモナイト殿下から話を聞くにも、まだ戻ってきてもいない。今頃馬車に揺られているだろうしね。
綺麗に片付けられたテーブルには、優秀な王宮侍女によってお菓子と紅茶が用意されている。いつもならアリアお手製のお菓子が並んでいるとこだが、今日はリモナイト殿下がいないので、王宮の菓子職人の手のものだ。
「楽しい情報を一つ教えてあげるよ、アイク。教会の水晶も割れたそうだ」
「!? …きょ、教会の特大水晶が、ですか?」
「誰の手で、とは言わなくても分かっているだろう?」
「……我が家は、関係ありません」
「それで通してもいいよ。でも、やっとこれで教会の偉そうな顔を潰せるね」
ニコニコと本当に嬉しいのだとわかるラズ殿下の笑顔に、今日は家の用事で休みのジャスパーに八つ当たりをしたくなってしまった。
ラズ殿下の頭の中では、どんな謀略が巡らされているのか考えたくもない。だけど、今すぐにでは無いにしても、いつか私もジャスパーも巻き込まれる事になるんだろうと思うと、痛む頭と溜息だけは止められそうにもなかった。
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