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幼少期を楽しみましょう
もう一人のヒロイン
しおりを挟む―王宮の庭園でお茶会が繰り広げられる中、その華やかな場を無視して歩いて行く少女が居た。
(信じられない、なんなの、最低!!)
貴族の令嬢としては行儀がなっていないが、足に絡まってくるドレスの裾を邪魔だとたくし上げ、急ぎ足でざかざかと大股で歩いていく。
目指しているのはこの乙女ゲームのオープニングの場所である、中庭の隠れた一角。そこで少女は高貴な少年と出会い、未来に向かって光を繋げて行く。-
待ちに待った今日という特別な日だったのに、あのライバル令嬢が私よりも先に守護聖獣を手に入れるなんて!其の後に出逢うオープニングの一場面など、輝かしく記憶に残るなんて無い。
(ラズーラ王子を攻略するのは私なのに!私が王子を攻略して、この国の王妃になるのよ!なんでこんな日に守護聖獣と契約なんてしてるのよ!あのライバル令嬢はもう悪役と同じよ!)
折角設定の甘い初心者用ヒロインルチルレイ=モルガを選択したのに、攻略難易度の高いアメーリアに先を越されるなんて堪ったもんじゃない。きっと記憶が蘇ったのが、お茶会の話を聞いた時だったから遅かったんだ。本当に使えない父親だわ、もっと早くから招待状や話を手に入れてくれば良かったのにっ。
「私にだって光の守護聖獣が付くんだからっ、そうなったらアメーリアなんて追い抜いてやる。複数攻略だってルチルレイなら可能なんだから」
苛立ちのままに歩いてきた中庭は、男爵家の庭よりも断然広く、自分が何処から来たのかさえも解らなくなっていた。このまま迷子になっていれば、不審者が居ると報告を聞いたラズーラ王子がやってくるはずだった。そして、助けて貰ってお茶会の会場へ戻るのだ。
「父親に捕まれてて真っ先に挨拶に行けなかったけど、ラズーラ王子は遠目からでも素敵だったわ。隣に居たのが多分リモナイト王子だろうけど、おどおどしてて何だか可笑しな感じよね…。攻略相手を考え直したほうがいいかしら?」
頭の中に浮かんでくるのは、攻略対象者となっている五人の姿。第一王子ラズーラ、第二王子リモナイト、護衛騎士ジャスパーに未来の宰相候補マウシット、年下枠のマーカサイト。
第一王子と仲のいい第二王子なら一緒に攻略しやすいかと考えていたけど、気の弱い感じを見ると自分の好みじゃない。前世でしていたゲームでも、集中して攻略しないとデレを見せないリモナイトと優しいだけの年下枠のマーカサイトは論外だった。
(年下のマーカサイトは放置でもチョロかったから、この際攻略は二の次でいいわ)
「やっぱり、メインのラズーラ王子と護衛のジャスパー様とマウシット様は外せないわよね。それに攻略さえしてれば、ルチルの隠しキャラは出てこないし。私、あの隠しキャラは胡散臭いから嫌だったのよねー。あ! それを思ったらアイドクレーズとか攻略したいよね、あとアメーリアの隠しキャラも欲しい」
独り言を聞かれるのは不味いが、今は誰も居ない庭の一角。王子様やそのお友達が遊べるように迷路になっているのか、先程から何度も同じ道を歩いているように感じる。
段々と不安と焦りが出てきたけど、耳に聞こえて来るサラサラとした水の音に、私は顔を上げて走り出した。
(迷宮のような中庭を通って抜けた其の先、綺麗な噴水の側で出会うのよ!)
何度も見て覚えている。この迷路を抜けると、噴水を眺めている少年がいる。ヒロインは涙目で景色はぼやけていたけど、人を見つけて飛びつくように抱きついたのだ。
金色の髪の少年を見つければ、こっちのものよ!このまま抱きつけばいいだけ。
「これは驚いた、今日のお茶会の参加者かな?」
「はいっ、私、迷子になってしまって、此処から出れなくて…っ」
顔を伏せてるので誰かは確認出来ないけど、雰囲気が第一王子だと物語っている。前世のゲーム画面でも、きっと第一王子だと私は確信している。他にもジャスパー様やマウシット様では?とかいった声はあったけど、メインなのだから第一王子で決定でしょ!
「それは大変だったね、誰か人を呼んであげよう。お茶会の会場へと戻るといい」
「は、はい…。ありがとうございます」
顔を確認したいけど、其れをすると困ってると思われないし、か弱い設定にまってるルチルレイのイメージが壊れるから出来ないし。何でルチルレイは男爵令嬢なのかしら。アメーリアみたいに侯爵令嬢だったら王子様の幼馴染みとかになれたのに!そこは失敗したわね。
王家で使っているのは良い香りのする服と、綺麗な手がゆっくりと私の髪を撫でて手を繋いでくれる。手を引かれて連れて行かれたのは、少年を護衛する騎士の下だった。
恭しく礼をして私に手を差し出す騎士に自分の小さな手を乗せ、もう一度お礼を言おうと振り返るが、其処に少年の姿はなかった。
(素早すぎでしょ、背中くらい見せてくれてもいいのに)
不満に頬を膨らませながら、騎士に手を引かれて中庭へと戻る。もう直ぐに中庭というその時、木陰の中から白い子猫が飛び出てきた。慌てたような感じでにゃーにゃー鳴いてるけど、私に解るわけもなくドレスに爪を立ててきた。
「ちょ、止めてよ!折角のドレスが破れるでしょ!」
「ニャー!ニャー!」
「煩いわね!何で王宮に子猫なんているのよ」
(でも、確か光の守護聖獣は白い猫だったのよね。もしかしたら、この子猫かも?)
違っててもいいやと軽く考え、私は子猫を捕まえた。ニャーニャーと鳴いて暴れているけど、騎士に籠を借りて其処へと入れて、私を探してウロウロしていたお父様に声をかけ、引き摺られるように家えと帰ったのだった。
目論見どおり、その子猫は光の守護聖獣ハウライトと名乗り、契約をして私の従者となるんだけど、其れをお披露目できるのは学園に入学してから。ゲーム開始まで長いのが今の不満だけど、仕方無いので我慢するわ。
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