攻略よりも楽しみたい!~モフモフ守護獣の飼い方~

梛桜

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幼少期を楽しみましょう

契約は速やかに

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 向けている黒い鼻先は、触ったらきっと冷たくて気持ちよさそうです。ぴんと立っている大きな耳もモフリ甲斐がとてもありそう。色々と興味は惹かれますが、まずは応えないと触れないですよね!

「私の魔力…だけ、ですか?」
『ああ、お前から感じる魔力はとても良質だ。其れならば我はより力を付けることができよう』

 不思議と『断る』という選択肢は頭に中に浮かばなかった。ゲームを知っているという所為なのでしょうか?それとも真っ直ぐに私を見つめてくるギベオンの銀色の瞳の所為でしょうか?一緒に居てくれるなら、私の魔力なんてお安いものだと頷いたのです。
 近付いてくる鼻先が私の鼻に触れ、冷たいと思っているとぺロリと唇を舐められた。『うひゃ』っと思っているとギベオンをキラキラした黒い靄のようなものが囲んで、姿が見えなくなったしまう。

「ギベオン…?」

『これほどとは、思っても見なかった』

 黒かった靄がキラキラと光を増して、月の光のような淡くて綺麗な銀色の光になっていく。
 じっと声の方へと視線を向けると、其処に立っていたのは背が高く程よく筋肉のついた体格。髪は長めで色は夜空のような濃い青かな?藍色と言った方がいいかもしれない。頭の上には三角の耳が生えていて、私を見つめてくる涼やかな瞳は銀色。服装は軍服のような黒のジャケットで、アクセサリーとして銀の鎖が付いている。背後にはふわふわとした大きな尻尾が揺れていた。

(も、もしかして、人型のギベオン!?)

「アメーリアの魔力は素晴らしい」
「……」
「どうした?何を呆けている?」
「そ、そんな姿…、反則ですわ」
「何がだ?」

 リモナイト王子様の時のテンションなら『神絵師キタコレー!!』って叫んでますが、言葉を失います。最推しと同じ獣人の姿で、しかもモフモフの尻尾はそのままとか!他にも涼やかな目元とか微笑みを浮かべる口元とか色々あるだろと突っ込みを受けそうですが、其処はスルーで!私だからと諦めてくださいな!
 なんてモフリ甲斐のありそうな豊かな尻尾、柔らかそうな毛並み!人型でなくても全然いいのですが、強調される事で更に素晴らしいですよ!

「まぁ、我に見惚れるのは無理もない。これからお前の魔力は我が有効に…」
「ちょっとお待ち下さい、私、モフモフにしか興味ありません。人型で無く狼の姿のほうが良いのですが」
「おい」
「対価交換と言ったのはそちらですわ、私は貴方をモフりたいのです。その為の対価である魔力はお渡しいたしましょう。狼の姿になって私に撫でさせて下さい!直ぐに戻れないのなら、そのふわふわな尻尾でも宜しくてよ!」

 ビシッっと指差し、ふわりふわりと浮かんでいる尻尾を見つめていると、今度は犬が嬉しそうな時にするようにブンブンと振られていく。人型には興味ないとか、話をぶった切ってモフらせろとか言ってるのに喜ぶとか。
 よく見れば笑いを堪えているのか、ギベオンの肩が微かに震えていた。

「気に入った、アメーリアと言ったか」
「はい、仲の良い家族は皆アリアと呼んでくださいますわ」
「では、アリア」
「はい」
「契約だ『我闇の守護聖獣ギベオンの名の元に、我はアメーリアと共に願いを叶えよう。その対価として魔力を貰う』是か非か」
「勿論『是』ですわ。闇の守護聖獣の主となるべく、今後も精進いたします」

 にっこりと微笑みを浮かべ応えると、目の前を真っ暗闇が一瞬にして蔽い隠し、再び目を開くと今までお茶会をしていた王宮の中庭だった。

「アリア!良かった、無事だったんだね」
「アイクお兄様…」
「『契約』は成った、これから我はアリアの守護聖獣となろう。我が姫君に忠誠を」

 突然現れた私と共に、狼獣人の男性が現れたかと思えば、その男性は私に跪き私の足を自分の膝に乗せるとキスを落とした。どんな忠誠の示し方だ!と突っ込みを入れたかったですが、きゃあああー!と聞こえる甲高い叫び声に私の苦情は消え去ったのでした。

(叫び声にびっくりした…)

「守護聖獣の忠誠を勝ち取るなんて、流石アリアだね」
「ら、ラズにいさま、アリアが…っ」
「心配しなくてもいいよリィ、アレは飼い犬のようなものだからね」
「で、でも…」

 突然現れた見知らぬ大人に、警戒心の強いリモナイトは動揺と不安を隠せない。よしよしとそのふわふわな金色の髪を撫で、アリアを抱き上げて中庭を去っていくアトランティ家の兄妹と守護聖獣を見送った。
 上位属性、しかも稀少な光と闇の守護聖獣は、そう易々と人の前に姿を現すことは無い。とても気紛れで、とても尊厳高い者。契約をした者はそれなりに名を残しているけれど、忠誠を誓わせたのはアリアが初めてかもしれない。

「やっぱり、欲しいね。王家に」
「にいさま?」
「何でもないよ、じゃあ残りの挨拶を終わらせないといけないね。今日はこのままお茶会も終わりに出来そうかな?母上と相談してくるから、リィは此処で待っていて?マウシットとマーカサイトも一緒だから大丈夫だよね?」
「はい」
「お任せください、ラズーラ殿下」

 ニコリと王子としての微笑みを貼り付け、未だ喧騒の残るお茶会の中心へと向かっていく。そして、その王子の背を小さな拳を握り締め見ていた少女がいた。風に靡くストロベリーブロンドの揺るやかにウェーブした長い髪、怒りを灯した空色の瞳はジッと王子とアトランティ兄妹に向けられ、噛み締められた薄紅の唇からは微かに血が滲んでいた。

    
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