攻略よりも楽しみたい!~モフモフ守護獣の飼い方~

梛桜

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幼少期を楽しみましょう

死んだ目の王子様?

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 王宮に連れてこられ、あまりの煌びやかさに眩暈を感じつつ。迷子にならないようにと、アイクお兄様の服の裾をしっかりと掴んでいたら、お父様の『アイクは第一王子の部屋に行くように』と無情なる御言葉。
 仕方無いので、お父様の背を見失わないように歩きます。たまにチラチラ振り返ってるけど、知りません。手を繋いでなんてあげません。お父様が勝手にお菓子を持ち出したのが悪いんですからね。
 若干しゅんとしているお父様ですが、怒ってる風なのを見せつつもマントの裾を掴んで歩くと嬉しそうにしてます。周りを歩いている文官の方々が幻を見たって顔をしてますよ。普段どんな顔してんですか。

 案内されたのは、謁見の間と言う場所ではなく王宮の中庭にあるガゼボでした。私がまだデビュー前の幼い子供という事もあったようで、子供を呼んだりするのには此処を使うことが多いそうです。
 中庭に咲き誇る花々はとても綺麗で、幾つか前世でもみた事のある花を見つけると、どこか嬉しく感じるのですが。

(ああ、でも…。この木を見つけるとやっぱりゲームなんじゃないか、夢じゃないかと思うよね)

 薄っすらと桃色の小さな花が集まる木は、日本で春によく見上げていた『桜』によく似ている。日本製のゲームなのだからと言いたいが、私は家族の温かさも愛しさも感じているので、どうしても現実なのは実感している。
 国王陛下と王妃様がいらっしゃるのに時間がかかるようで、お父様は部下の人と仕事の話をしていました。私は庭の花を見ようと、お父様に一声かけて散策に出ます。

「あまり遠くへ行かないようにな」
「はい、お父様」

 にっこりと笑みを浮かべて、お母様仕込の礼をすると満足気に微笑みを返してくれました。それを見ていた部下の人は目を見開いてお父様を見ていましたけどね。流石お父様。氷の宰相と呼ばれているだけありますね。だから聞きたい、普段どんだけ仏頂面なんですか?

(ゲームにはこんな細部まで設定されてなかったですもんねー。あ、でも。此処の中庭がオープニングの動画の場所かも?)

 ウキウキと心躍らせながら中庭を探索していると、花壇の向こうにふわふわと揺れる金色を見つけ首を傾げて近付いてみると、ちょこんと座っているお人形を発見した。
 天使のようにふわふわとした金髪が風に揺れてて、見た目は気持ち良さそうなのに激しい違和感。

(…誰?というか、目!目が死んでる!このお人形綺麗なのに、目が死んでますよ!?)

 遠くを見つめているのに何を見ているのか分からない瞳と、感情が零れ落ちたような無表情。アメーリアと似た紫色に金色が入っている珍しい色合いの瞳。キラキラと輝いていればもっと綺麗なのに、瞳が何も映していない。
 ちょっと、絵師さん!ハイライト!ハイライト入れるの忘れてますよ!

『急募:ハイライトを入れてくれる絵師さん!』

って、そうじゃないだろ私!

 軽くセルフ突込みを入れて、ゆっくりとそのお人形さんに近付く。
 ふわふわの金髪は近付いてみれば、鳥の巣のようにぼさぼさになっている。光を失っているくすんだ紫にたぶん金色かかった瞳、色白を通り越えて青白い肌に本来ならぷにっとしてるはずの頬はやつれている。
 王宮に居るはずなのに、まるで心が壊れてしまっているかの様な、小さな男の子。

「こ、こんにちは。あの、大丈夫ですか?」
「………」

 話しかけても返事が無い。
 動かない瞳、動かない感情。寝ているのかしら?と首を傾げたくなるくらい、反応が無い。

「もしかして、迷子になったの?誰か呼んできましょうか?」
「………」
「私の声、聞こえてる?もしかして、お話が出来ないとか?」

 お節介とは分かっているけど、ぽつんと一人取り残されたような姿が放っておけなかった。同じ目線になるように、ドレスが汚れるのも気にせずしゃがみ込んで何も映らない瞳を覗き込んでいると、小さく聞こえたのは『くるる…』というお腹の音。

「お腹空いてるの?これ、私が作ったクッキーなんだけど食べてみる?」
「…おか、し?」

 献上用にと持って来たお菓子だったけど、クッキーを一枚取り出して差し出したら、無反応から少しだけ反応を示した。それでもやっぱりハイライトはないままですよー、絵師さん修正箇所は此処です、はよ来て!

「うん、そう。弟も大好きでね、美味しいって食べてくれるの」

 差し出したままのクッキーをジッと見つめて、それだけで動かない。手を伸ばすことも無くて、光を点すこともない瞳もそのままで。もしかしたら、お母さんから知らない人から物を貰ってはいけませんって言われているのかもだけど、そんな葛藤をしているようにも見えないし。

(ここは、強行手段か)

「はい、あーん!」
「むぐっ」

 強引かと思ったけど、喉に詰めないように気をつけつつ口の中へと押し込んだ。もぐもぐと口が動いて、瞳にゆっくりと光が蘇る。

「おい、しい…」

 途端に、ふわりと天使の微笑みを浮かべた男の子。
 鳥の巣が天使のふわふわ金髪に、不思議な色合いの瞳が細められ嬉しそうな光を点した。頬はまだ少しやつれた感があるけど、ほんのりと赤味を浮かべてとても愛らしい。

(神絵師降臨したー!ヤバイ、鼻血出る可愛さっ!)

「もっと、ない…の?…ぼく、これすき」
「え?えっとー…」
「ない…?」

(あるにはあるけど、一応献上品として持って来た物ですしねー…。でも、お腹空かせた子を放置は嫌だ。幸い二種類あるし片方なら、ね?いいよね?うん、いいよ!)

 一人で葛藤すること0.1秒(短っ)男の子の可愛さにノックアウトされた私は、クッキーの包みを差し出してました。

 ワタシ、ワルクナイ。

 小さい子がお腹空かせてるんですよ!?幾らでも作ったるからたんとお食べ。

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