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プロローグ
気分はあの歌ですよ
しおりを挟む「ふふ、ラーヴァは可愛いですねー」
「ねーねー!」
「ねーさまですよー」
「ねーたま!」
あの大泣き事件から二年。
両親と兄を心配させるほどに泣いてしまった私ですが、前世は小さい子をメロメロに可愛がっていた実績がありましたので、弟にメロメロになりますとも。
だって、赤ちゃんには何も関係ないじゃないですか。泣きながらも只管に愛しい。可愛い。無垢な笑顔が愛おしい。
そうなると早かった。可愛い弟に転がり落ちた。立派なお姉様になるべく、乳母の仕事を奪う勢いで弟ラーヴァの世話をしています。たまに『お嬢様のする事ではありません!』と怒られますが、聞く耳は持ちません。
声を大きくして言おう!弟ラブ!
だけど、散々世話をしていた甲斐もあり、二歳になるラーヴァは完全に姉っこに育ちました。やったぜ!姉が乳母に勝った!
ミルクや離乳食だって厨房の仕事に口出しし(令嬢なので作らせて貰えない代わりに口出したのです)お父様にお強請りと言う名の説得をし、ラーヴァのお菓子は私の手作りです。(どやぁ!)
(大泣きしたのは今でも覚えてますし、夢が覚めないのも悔しいですが、可愛いものは可愛いのですよ。愛しくて仕方無いじゃないですか)
ゲームでは大きくなったラーヴァは、攻略対象の幼馴染として登場していた。本来のアメーリアは弟には興味が無くて、お兄様に比べると何処か余所余所しくて勿体無いと何度思ったことか。
きっと、可愛がられる末っ子にヤキモチを妬いていたのかもしれない。お母様もお兄様も皆、末っ子を可愛がっていたから。其れが拗れて引き摺って、余所余所しい関係になったんでしょう。
「ぷくぷくのほっぺに天使の笑顔、本当に可愛いっ」
「きゃー!」
ぎゅうぎゅうと抱き締めて頬を摺り寄せて、擽ったさに笑い声を上げるラーヴァに、お母様もラーヴァの乳母も私達を微笑ましく見つめていた。
この世界に転生したからには、小説とかでよく見ていた転生チートなるものがあるのかと思っていたけど、現在の私はゲーム前だからなのか確認できたのは親切にも、誰が誰であるというお名前表示のみ。今はラーヴァの横にふきだしがあって、ラーヴァ=アトランティと書いてあります。
「お嬢様、此方にいらしたのですね」
「セシル」
「お出掛けの準備が整いましたよ、本日は王宮へ向かうようにと旦那様の言いつけでしたので」
「ラーヴァが折角誘いに来てくれたのに…。どうしても行かないと駄目?」
折角可愛い可愛い弟と遊んでいたのに、私専用付きとなった少し年上の侍女のセシルが私を捜しに来てしまった。残念です。可愛く首を傾げて行きたくないと言って見ても、駄目ですと返されてしまいました。ちくしょう。
「ごめんなさいね、アリア。お母様が一緒に行けなくて」
「いいえ、アイクお兄様も一緒ですから大丈夫ですわ。お母様はゆっくりと身体を休めてくださいませ」
申し訳無さそうに眉尻を下げて見つめてくる母は、アイドクレーズお兄様と同じ髪と瞳を持つ、三人の子持ちとは思えない美しくて儚げな人だ。美魔女なのではないかと常々思ってしまうが、母はラーヴァを産んでから体調を崩しがちでした。最近は強制的に安静にして貰っています。
産後の肥立ちってやつです。安静にしたくても侯爵家夫人ってのは忙しいもので、本当に安静にしてほしくてお父様に立ち向かった事もあります。母親は健康と体力大事です、子育て舐めんな。
(お母様にもラーヴァのように食事改善が必要かもな、あと適度な運動も)
そもそも、何故か王宮へと御呼ばれしたのですが、これはお父様が原因です。
ラーヴァの為に手作りしていたクッキーを、お父様が勝手に王宮へと持ち出し、事もあろうか国王陛下が召し上がったそうな。何してんですかお父様。
それだけで終わればこの話は其処までだったのですが、国王陛下がそれを王妃様にお裾分けし、王妃様が偏食家の第二王子様に食べさせたところ、なんと第二王子様が目を輝かせて『もっと欲しい』とご所望されたそうで…。
(本当、何してくれたんですかお父様)
喜んだ王妃様から言われて、私作のクッキーやカップケーキ等がお父様経由で第二王子へと持っていかれ、私の手作りケーキを楽しみにしていたラーヴァは大泣きです。だって作っていたのを横でじーっと見つめて居ましたからね?キラッキラの瞳でめっちゃ見つめてましたからね?
熱々のままでは食べさせられないので冷ましていたら、それをお父様の命令を受けた執事に言われて、料理長が全部包んでしまったのですよ。いつもラーヴァ用に取り分けたら、残りは家用のおやつにしてたから。
ラーヴァ専用にってデコってたから余計にショックだったんでしょうね。
(ああ、でも…。拗ねて泣き喚いて『ねーねのもってちゃ、めっ!』ってお父様に怒るラーヴァ可愛かったー)
勿論何も言わずに持って行ったので、私もお母様も怒りましたとも。愛妻と愛娘に怒られ、末息子に泣かれ長男にも呆れられるという失態を犯したお父様。暫くしゅんとしてましたが、其処は許しません。
高価で強請るのも悪いかなぁっと思っていた、砂糖やバターだけでなく交易品一覧から見つけた日本に良く似た国にある調味料とかも強請ったった。このゲームは日本製なので、きっとあると思ってたんです。
「お嬢様、旦那様とアイドクレーズ様もお待ちになっていますので」
「解りましたわ。ラーヴァ、帰ってきたら又遊びましょうね」
「ねーたまぁ、ラーヴァもー!」
「ラーヴァ…っ、ねぇさまも連れて行きたいっ!」
「お嬢様、いけません」
涙目で両手を伸ばして抱っこを要求する弟をぎゅっと抱き締めていると、背後から冷静な侍女の言葉が私と弟を引き離す。(冷たい言い方ですが、セシルは仕事をしているだけです。有能な侍女です)乳母がラーヴァを抱き上げ、私は後ろ髪を思いっきり引かれつつ馬車へと向かいました。
手荷物にはラーヴァの分とは別に作った、手作りのカップケーキとクッキー。
なんとこれから、国王陛下と王妃様と謁見するのです。第二王子様と会わされるそうなんですよ、何てこった。攻略対象者にもう会ってしまうなんて。
(ヒロインの昔の出来事なんて分からないから、これがいいのか悪いのか何とも言えないなー)
揺れの少ない侯爵家の馬車に揺られ、私は小さく溜息を零しつつ外の景色を眺めて居ました。
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