最恐の精霊姫様は婚活を希望します

梛桜

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乙女ゲームの王子様

大事なのは会話ですよ

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 簡単な嘘や張ったりは続きませんので、最初にアレク様と始めたのは『前世の情報の擦りあわせ』です。前世の情報と言っても、何処に住んでたとか私生活の話とかはどうでもいいのでしてませんよ。何処まで乙女ゲームの情報を持っているかです。其処だけで十分。
 『妹に手伝わされていた』との申告どおり、たいした情報は有りませんでしたが、それでも王族としての今までの記憶があるのは助かりました。

「結局宰相は自分の血族である、第二王子を王太子としたいんですよね」
「だろうな。俺は第一王子でも、母上は隣国の王女だし一ヶ月早く生まれたというだけだ。教育も第二王子に施されるものに比べればいい加減だし」
「それは、これからどうにでもなります。フローライト家が後ろに着くのですから、無様な真似はさせませんよ。覚悟なさってくださいね」
「厳しいなぁ…」

 顔を顰めてうーんと唸ってますが、肝心な部分も聞いておりませんでした。ゲームの趣旨のままで行くと、第一王子様は悪役令嬢ことイオフィエル=ジークフリード嬢に恋心を抱いているのですよね。

「で、イーフィとのご関係は?」
「幼馴染み」
「第一王子として他の御感情は?」
「……まぁ、いいな、とは…」
「婚約者の目の前で浮気発言ですか、良い度胸ですね」
「ちょ、まってよ!聞いたのそっちだよね!?」
「迂闊な発言をなさるからですわ。言っておきますけど、ハーレムエンドなんて血迷ったら物理的な血の海を見せますのでお覚悟なさってくださいませ。駆逐して差し上げますわ」

 にっこりと微笑みだけは儚げで可愛らしい令嬢のものを浮かべると、目に見えて顔を青から真っ白にさせるアレク様が面白いです。一応婚約者としての肩書きは容認しましたが、それは学園に通っている間だけです。それが、あの乙女ゲームの制限時間ですから。

「言葉と顔があってないし! 駆逐すんなし!」
「私は、私だけを見てくれる方がいいのです。乙女ゲームの攻略者とか論外ですわ」
「結構一途ってか、乙女志向なんだ?と言うか、俺だって当て馬王子だし、モブだし」
「失礼な、十分乙女でしょう?私は名もなき令嬢なのですがねー」

  打てば響くその受け答えに、クスクスと笑みを零し、ばしばしとテーブルを叩きながら文句を言うアレク様に『無作法ですわよ』と注意することも忘れない。躾は大切です。
  普通に笑っている私を見たのが初めてなので、目を丸くして凝視してますが、それも止めさせないといけませんわね。そして、一緒に二人で笑い合っていると、カサッと小さく草を踏む音が聞こえてきました。

(誰かしら…、ワザと音をさせるならクレイオ兄様でしょうけど)

  リアン兄様は気配を一切感じさせませんし、フォル兄様はガサツな音をあえて立てる方です。ルシアン兄様は瞬間移動なので、何も言いません。

「それにしても、宰相が父上に言っていたのとは全然違うよ。このフローライト領も、セラフィナも」
「何を言われていたのか、とても気になりますわね」
「名も聞かない、才能無しの無能令嬢だったかな?力が無いのなら、是非とも人質として俺の婚約者として確保しておくべきだと」

  ボキッと可愛くない音が手元から聞こえてきました。
  あら嫌だわ、お気に入りの羽ペンがいつの間にやら折れてました。手に馴染んで書きやすくなっていたのに残念ですわね。
  宰相の発言から、私の精霊使いの能力が王都に知られたのでは無いという事が解りました。ですが、まだ学園にも通っていない幼子に対して無能ですって?

「せ、セラフィナ?もしかして、何か不味い事言った、よな?」
「何でもありませんわ、それで?宰相は他になんと?」
「え、えっと…狂戦士バーサーカーだらけの考え無し一族なら、末の子供をとれば手出しは出来ない、弱体化させもう一度忠誠を誓わせるのもたやす……」

  次は最後まで言い切る事が出来ませんでした。
  ふわりと抱き上げられる私の体は、いつの間にかクレイオ兄様の腕の中に。私が座っていた椅子には、いつの間にかリアン兄様が微笑みを浮かべて座っています。背後には執事のアズナブルの姿もあります。

「来月以降の宰相の領地への、魔石は三倍に値上げだ。魔物の素材は二倍にしろ、文句を言うなら売る必要は無い。冒険者ギルドへはフォルスを向かわせた。今後一切、我が領地出身の冒険者が宰相の領地での魔物討伐を受ける必要は無い」
「はっ、畏まりました」
「セラフィナ姫は、暫く離れて下さい。とっても危険ですからね」

  素早いリアン兄様もですが、私を姫抱っこしてニコニコ笑みを浮かべているクレイオ兄様も怖いですわ。目が笑ってませんからね、二人共。

「リアン兄様、クレイオ兄様、落ち着いて下さいませ。どうせ学園へ入学してしまったら、いつかは知られてしまう能力です」
「我が一族への暴言は流せないよ、セラフィナ」
「それにつきましては、一切お止め致しませんわ」
「あ、ああああの、私はどうして」
「国王陛下の返事を聞かせて頂きましょうか、それにより此方の返答も考えさせて頂きましょう」

  ニコニコ笑顔のリアン兄様を正面に、蛇に睨まれたカエルってこんな感じかしら?と、暢気に考えて見守っていた私でした。


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