最恐の精霊姫様は婚活を希望します

梛桜

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自称勇者様

話し合いをしましょう

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「心当たり?う~ん、あると言えば有るかなぁ?」

 あの後、自称勇者パーティをフォルス兄様に任せたルシアン兄様が、私と王子様を迎えに来てくれました。フォルス兄様達が此処へ入れないのは、もう成人してしまったからです。ルシアン兄様はまだ成人していないので入れます。

「まだ旋回しているので、ルビィを此方へ呼べませんの」
「警戒しているって感じだねぇ…、いっそルビィを呼んじゃってもいいんじゃないかな?オウガが言うには、もう一つ気配があるんだよね?」

 ルシアン兄様の言葉にオウガへと視線を向けると、こっくりと頷いて『んなー』と鳴いていた。んなーという鳴き声は、精霊使いの私には言葉として聞こえています。
 『そうじゃ』と答えて尻尾をゆらゆら揺らしています。

「小さいのがあるそうですわ、私ですと精霊様である黒いドラゴンしか分からなくて…」
「うん、きっと精霊じゃないからだねー」
「では、先にルビィを呼びますわ」

 此処にルビィが居た方が話が出来るだろうと、意識をルビィへと向け、こちらに来てくれるようにとお願いをしていると、ルシアン兄様がキョロキョロと何かを捜していました。首を傾げてルシアン兄様を見つめると、ルシアン兄様も同じ様に首を傾げます。
 この首を傾げる癖は、ルシアン兄様のがうつったんですよね。

「一緒に連れてきた王子様は~?」
「其処の結界で寝かせています、煩いのですもの」
「顔が見えなかったらノームに結界解いて貰わないとかー、ん~?あ、本当に第一王子様だね。アレクシス=ガーデンクォーツ第一王子だよ」
「あら、ボッチの第一王子は本当でしたのね」
「そうそう、ボッチってどういう意味?」

(あら?普通に理解してましたが、コレ前世の記憶でしたのね)

「誰も居ない一人ぼっちという意味ですわ、ルシアン兄様」
「へぇ~そっか、じゃあぴったりだね」

 にっこり微笑みを浮かべて説明したら、更に良い笑顔で返されました。ルシアン兄様通常営業ですね。まぁ前世でも猫精霊さん達が使う『方言』の差で、何を言っているのか分からないとか、コレが方言と思わなかったというのも有りましたからね。

(今後は気をつけた方が良さそうですわ)

 今まで薄らぼんやりとしていた私の脳内ですが、成長するに従って、何かに近付いているのか霧が晴れていると感じる時があるんです。

 其の一つが、此処に転がしている王子様を見つけた時。

 アレクシス=ガーデンクォーツ。その名前に引っ掛かりがあるのです。私の名前やお父様、お母様は勿論兄様達の名前には反応も引っ掛かりも無かった。国の名前を冠している国王の名前にも、引っ掛かることは無かったのです。

(一人ぼっちの王子様…、では、ちょっと違うようですね)

「セラフィナ様、ルビィ参りました」
「あの黒いドラゴンからは、何か聞けましたの?」
「怪我をしている女の子を連れているそうです。手当てをしたいそうですが、この場所に問題の人物が入ったと警戒しているようです」
「それって~、この王子様?」

 ルシアン兄様が結界に捕らえた王子様を顎で示すと、ルビィも何も言わずこくりと頷いた。辺境侯爵領に来る前に、何かをしたという事ですね。何余計な事をして、迷惑持ち込んでるんですか。

「ドラゴンに捧げてやりましょうか」
「セラフィナ様、あの黒いドラゴンは私と同じ精霊ですので、あのようなものを頂いても困るだけかと」
「ですわよねー、やっぱり躾のし直しが一番かしら?」
「一応王子様だからねぇ…、用件を聞いてからの方がいいよ?」

 面倒ごとはぶっ飛ばして無しにしてしまえ。な考えのルシアン兄様から、まともな意見が出てきて驚きました。それはもう。一緒にいたルビィを目を丸くしていたので、余程のことだといえます。

「驚いてるけど、ぶっ飛ばすと余計に面倒だからだよ?」
「え、ですわよね」
「では、先に黒いドラゴンと話しましょうか」
「ルシアン兄様、自称勇者パーティはどうなりまして?」
「フォル兄さんに頼んでるから、屋敷の地下にでもいるんじゃないかな?」

 物理行動が得意なフォルス兄様に、拳での話し合いをされていない事を願っておきましょう。

「セラフィナ様、来ます」

 ルビィの声に上空を見上げると、風圧と共に長い黒髪を靡かせた女性がセーフティエリアへと降り立ちました。足首まではありそうな真っ黒で真っ直ぐの髪、夜空の色をした体の線を強調したマーメイドドレス。腕には小さな子供を抱えて、心配そうに見つめるその黒曜石のような瞳は慈愛に溢れて居ました。

「久しいな、黒竜」
「……この場に、貴女が戻るとは」
「その腕のは?」
「途中で投げて寄こされた、銀狼の子じゃ」

 銀狼ということは綺麗な銀毛のはずなのに、ぼさぼさに薄汚れ所々泥までついている。少女という小さな身体は痩せ細り、今にも獣の姿に戻ってしまいそうだった。

「大変かなぁ獣人は獣の姿に戻ってしまうと、危険という証でもあるし」
「クオン、『無限収納』上級ポーションを!」
『あいよ、嬢ちゃん!』

 クオンからポーションを受け取り、慌てて走り寄った黒いドラゴンと目が合いました。銀狼の子供をとても心配している、心優しいドラゴンの精霊さん。
 其の腕の中で眠っている少女に、私が調薬したポーションを飲ませると、あっという間に傷が塞がり閉じられていた瞳がゆっくりと開く。

「こ、こ…は?」
「此処は何者も争うことを許されぬ場所ですわ、もう大丈夫ですよ」
「あ、り…が、とぉ」

 微かに揺れる尻尾と耳に黒竜が安堵の息を零し、すやすやと眠る少女を抱き締めた。黒曜石の瞳がじっと私を見つめ、精霊使いと知ったのか、赤い唇が弧を描く。

「この哀れな子狼を、このような目にあわせた愚か者を始末せよ」
「ええ、勿論ですわ」
「ならば、我も力を貸そうぞ」
「黒竜!?それは、我の役目!」
「炎竜ばかりは力足りぬときもあろう、貴女は攻撃特化じゃ」

 艶やかに微笑みを浮かべる黒竜さんは、きっとこの少女をボロボロな目にあわせた連中を自分の手で懲らしめたいのでしょう。私は頷き、そっと契約の名前を口にしました。

「私はセラフィナです。貴女の名前は『オニキス』私に力を貸して頂けますか?」

『是、妾はセラフィナを主とし、仕え様』



 セラフィナは精霊オニキスを仲間にし、銀狼の少女を助けた。




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