13 / 25
自称勇者様
基本はスルーです。
しおりを挟む悔しそうに唇を噛み、何も言い返せなくなった王子様から視線を外し、ルビィの気配がどうなっているのか探っていると、先程感じていた大きな気配が此方に飛んできているのを感じます。
(戦いに来たとかじゃないのかしら?)
其れを追い駆けるルビィの気配もしますが、このセーフティゾーンに入るのなら、ルビィのように人型に変身しないと入れません。森なので翼が邪魔をしてしまうんです。兎も角、此処に降り立つというなら、話をすることも可能でしょう。
ただ一つ問題が。
「おい!私の話を聞いているのか!?」
「………」
「私は、この国の第一王子、アレクシス=ガーデンクォーツだぞ!」
(あ、一応王子様の名前でしたね。本物かは分かりませんが)
この喚いている馬鹿王子様をどうしましょうか?此処に一緒にいる精霊さんは無限収納をもつ無属性の猫精霊クオンと、探知能力系を得意とする火属性の猫精霊オウガ、何かあった時の為に結界を張れる能力を持つ土属性のノーム、そして、護衛役としてルビィを精霊の腕輪にセットしてきたのです。他の精霊さん達は、文句と哀しそうな瞳で見詰められましたが、お留守番して頂いたのです。
(こんな事なら全員連れてくるべきでしたかしら…?)
状態異常系の能力を持つリンディンや、捕縛系の能力のドリューでこの喚いている王子様をグルグル巻に出来たものを…。でも、この王子様の前で、精霊魔法を使い王都に私の能力を好き勝手にされるのも、私の望みではないのです。
(それにしても、どうして私の精霊魔法が王都に知られたのでしょう?そこも調べないといけないですよね)
『嬢ちゃん、あのにーちゃんなんか言っとるでー?』
『セラフィナ嬢ちゃんに相手されんで可哀想だけど、疲れんのじゃろうかぁ?』
『僕達の声は聞こえませんからね、セラフィナちゃんのお兄さんが来るのを待つしかないかと』
喚いている王子様の事は、勿論無視しています。大きな声で騒いでいるだけですし、何か行動したくても疲れてるのと、腰が抜けているので虚勢を張るしか出来ないんですよね。体力を回復させて、無謀に飛び出されても困るのです。
ギャオオオオオンー!
「ルビィ?」
「な、なんだ、この声は!?」
威嚇でもない、危険を教える声でもない。セーフティエリアにいるので、ルビィの声が聞きにくいですが、自称勇者パーティはルシアン兄様にお任せしているので、逃げているとは考えられない。ルシアン兄様みたいに、ロープでグルグル巻にしてやろうかしら?
「クオン、『無限収納』から眠りの粉をだしてください。そのまま投げて」
『おっしゃ!まかしとき!』
『え?大丈夫なんですか?アレを子供に使うんですか?』
「ノーム、結界をお願いしますわ。眠りの妨げにならないように音を消すものでお願いします」
見られるのも面倒なので、こうなったら眠らせる事にしましょう。クオンはノリノリで無限収納から調合で溜まりに溜まったアイテム『眠りの粉』を取り出して、野球選手上等なフォームで粉を王子様に投げつけました。あっと言う間に眠りに落ちる王子様に、ドヤ顔しています。可愛い。
ノームは眠りの粉の強さにオロオロしていましたが、眠ったのと同時に遮音の結界を張ってくれました。安心してニコニコ笑顔を向けてくれるのが、可愛いです。
(うんうん、うちの精霊さん達本当可愛い)
滑り込んだセーフティエリアですが、未だに黒いドラゴンは此方を警戒してエリアの上空を旋回しているようだと、オウガが教えてくれました。ルシアン兄様もいらっしゃるので、警戒されているのはちょっと不味いですね。
「ルビィを先に呼んだほうがいいかしら?」
『せやなぁ…、向こうさんの出方もわからんからな』
『黒いドラゴンさんだけじゃないんじゃのぉ、他にも誰かと一緒の気配がする』
「他にも…?そういえば、ドラゴンさんは自称勇者パーティや王子様を見て咆哮を上げてましたわね…」
『もしかして、此処に来る前に何かしたのかもしれませんね』
出てきた想像に、溜息を吐きたくなりました。
0
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

滅びた国の姫は元婚約者の幸せを願う
咲宮
恋愛
世界で唯一魔法が使える国エルフィールドは他国の侵略により滅ぼされた。魔法使いをこの世から消そうと残党狩りを行った結果、国のほとんどが命を落としてしまう。
そんな中生き残ってしまった王女ロゼルヴィア。
数年の葛藤を経てシュイナ・アトリスタとして第二の人生を送ることを決意する。
平穏な日々に慣れていく中、自分以外にも生き残りがいることを知る。だが、どうやらもう一人の生き残りである女性は、元婚約者の新たな恋路を邪魔しているようで───。
これは、お世話になった上に恩がある元婚約者の幸せを叶えるために、シュイナが魔法を駆使して尽力する話。
本編完結。番外編更新中。
※溺愛までがかなり長いです。
※誤字脱字のご指摘や感想をよろしければお願いします。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる