最恐の精霊姫様は婚活を希望します

梛桜

文字の大きさ
上 下
12 / 25
自称勇者様

黒いドラゴンと追いかけっこ

しおりを挟む



『否!我が従うのは、セラフィナ様のみ』


「ひっ」

「ルビィ、いけないわ」
『セラフィナ嬢さん、何かやってきたよ。上を見んさい』
『大きい精霊の気配やな、他にも小さいのがあるみたいやけど…なんやろか』
「上?何か大きな気配がするわ…。精霊と似ているけど…」

 気配察知をしているオウガに言われて上を向くと、クオンも不穏な気配を感じたのか上を見上げる。抜けるような青空に、不自然な黒い点が見える。しかも、大きな気配は消えるどころか、何かを見つけたとばかりに飛び込んで来ようとしている。

「な、何だ、アレは!?」
「精霊…いいえ、ルビィと同じですわ。黒いドラゴンです」

 ルビィとは違うけど、この精霊の中でも一際大きな気配はドラゴンしか考えられない。猫精霊も、妖精姿の精霊も、属性別に分かれているのなら、ドラゴンだってルビィだけとはいえない。

(やっぱり、ドラゴンもまだいるのね)

『セラフィナ様、私が威嚇してみますので、一旦お引き下さい』
『せやな、聖域に行こか』
「では、詳しくは聖域でに致しましょう。王子様は私が手を引きますわ」

 ギャオオオオオン!と空へ向かってルビィが咆哮を上げる。此方に気がついたのか、元から見えていたのか、黒いドラゴンから殺気に似た気配を向けられる。其処から逃げるように、私は王子様の手を掴み走り出した。

「ど、何処へ行くんだ!?」
「お静かに、ルビィが相手をしている間に、安全な場所へとご案内致しますわ」
「この森は危険な魔獣が…っ」
「今のルビィの咆哮で粗方蹴散らしていますわ。此処にいるほうが危険です」

 この王子様はフローライト辺境侯爵家を知らないのだと、十分に理解出来ました。そういえば、此方は挨拶をしたのに、王子様の方からは挨拶が有りませんでしたわね。自分の事を知っていて当然とでも思っているのでしょう。

『嬢ちゃん、後ろの王子さん着いてこれてへんでー』
『困ったねー。身体強化も出来んけぇ、着いてくるなぁ無理かな。置いていこうか?』
「クオン、オウガ。それは駄目ですよ」

 ルシアン兄様なら既に冒険者パーティを捕獲して向かっているはずですし、後から馬で追い駆けると言っていたフォルス兄様もクレイオ様と一緒でしょうし。
 何度も引いている手が逆に引っ張られて転んでしまいそうになるけど、後ろを振り返るたびに限界だと王子様の顔が言ってました。

(まぁ、無視しますよね。名乗ってませんし、私からすれば本物の王子様なのかも分かりませんから)

 オウガの鑑定を信じていないわけでは有りませんが、勇者が自称勇者で通ってましたので、自称王子様の線も捨て切れませんしね。

「まだ、走れますか?」
「…おまえ…っ!わたしを…誰だと」
「この国の王子様でしょう?で、走れますの?」

 運動不足ですと身体中で言っているのに、まだ悪態を吐ける精神力には驚きと言うより、感心してしまいますね。
 私が王子様を案内したのは、この森の『セーフティエリア』です。この場所ではいかなる種族でも争いは禁止されているそうです。決めたのはこの世界を作った神様らしいです。
 魔獣から逃げる動物、怪我をした魔獣。精霊さん達が素材を集めたりもする場所です。この場所で精霊さん達と仲良くもなれましたし、動物や魔獣達とも触れ合うことは可能です。

(話が通じない場合は無理をしてはいけませんけどね)

 精霊使いと呼ばれるようになって、精霊さん達との外出を認めてもらえた時に、クオン達に連れて来て貰った場所なのです。森の入り口ともいえる場所なのですが、子供しか入ることが出来ない場所なので、私達兄妹の遊び場でもありました。

「おい!お前聞いているのか!」

 そんな私達の秘密の場所に連れてきて差し上げたというのに、景色を見る事無く喚いて悪態を吐く。これが、この国の王子様とか終わってますわ。

「何か飲み物を出せと言っているんだ!気が気かないぞ愚図が!」
「森に入るのでしたら、荷物の確認は当然では有りませんか?そんな初歩的な事もやっていらっしゃらないの?馬鹿なのかしら」
「なに!?」
「ぎゃんぎゃん喚いてらっしゃいますけど、ご自分の体力の無さや、危機管理の無さを嘆くべきではありませんの?私は、呼び出されただけですわ。『王子様』のお世話係りなど、指名されていませんの」
「き、きさま…っ」
「先程から、お前や貴様など仰いますけど、わたくし、名乗りましたわよね?貴方様からはお名前はお伺いしておりませんが、まさか、もう記憶に御座いませんの?お・う・じ・さ・ま」

 私はきちんと名乗りましたが、アチラは名乗ってませんのですね。コレくらいの嫌味は許容範囲です。

『あかーん、嬢ちゃん切れてるわー』
『おかしいね、あらそいは禁止なはずなんじゃけど』

 疲れて座り込んだままの王子様と、仁王立ちになって言い合う私達を見ながら、猫精霊達はのんびりとその言い合いを眺めて居ました。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

滅びた国の姫は元婚約者の幸せを願う

咲宮
恋愛
 世界で唯一魔法が使える国エルフィールドは他国の侵略により滅ぼされた。魔法使いをこの世から消そうと残党狩りを行った結果、国のほとんどが命を落としてしまう。  そんな中生き残ってしまった王女ロゼルヴィア。  数年の葛藤を経てシュイナ・アトリスタとして第二の人生を送ることを決意する。  平穏な日々に慣れていく中、自分以外にも生き残りがいることを知る。だが、どうやらもう一人の生き残りである女性は、元婚約者の新たな恋路を邪魔しているようで───。  これは、お世話になった上に恩がある元婚約者の幸せを叶えるために、シュイナが魔法を駆使して尽力する話。  本編完結。番外編更新中。 ※溺愛までがかなり長いです。 ※誤字脱字のご指摘や感想をよろしければお願いします。  

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...