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自称勇者様
無茶と無謀と調子に乗った勇気 ???視点
しおりを挟む小さな手に引かれて、薄暗い不気味な森の中を只管必死になって走っていた。
私よりも華奢な背中なのに、足元がふらつく事も無く真っ直ぐに走っている。それなのに、私は時折足を草に取られては躓き、転びそうになる度に同じ年齢くらいの少女に助けられる。
そう、『弱者である少女』に助けられることが、不愉快で気分が悪い。
道を探すためか少女の足が止まった隙に、繋がれていた手を振り払い肩を上下させて乱れた呼吸を整えていた。呼吸を乱してもいない少女に苛立ちを覚える。
「まだ、走れますか?」
「…おまえ…っ!わたしを…誰だと」
「この国の王子様でしょう?で、走れますの?」
淡々と無表情で告げられた言葉に、激昂したくなった。だけど、整ってない息では話をすることすら辛くて、唇を噛み締めるだけしか出来ない。
(私は、この国の第一王子なんだ!)
体の小さな子供でないと通れそうにも無い、草で出来たトンネルへと引き込まれて、髪も服もボロボロだった。無理矢理押し込まれて身を潜めたのは、自然に出来た穴。
身分はこの国の第一王子である私の方が上なのに、どうしてこいつは平伏しない!?城の臣下達は私を目にすればいつでも機嫌を伺いにやってくるというのに!
(それも、これも…。あの無能冒険者の所為だ!)
出会いの時からこの少女は予想外だった。
本来なら、ウバロの街なんかに行く予定ではなく、王宮で辺境侯爵がこいつを連れてくるのを待っていればいいだけだったんだ。なのに辺境侯爵は領地の警備が忙しいと断るし、側妃の実家で親である宰相がならばフローライト領へ行ってみればと提案する。
国王陛下であるお父様は簡単に納得するし、正妃のお母様は側妃の実家に怯えていて何も言えない。
護衛として付けられたのは、王都で力を付けてきていると噂の勇者パーティだったが、自分達が一緒だから大丈夫だ!と言って向かったフローライト領は、獣だけじゃなく、魔獣が蔓延る危険な地域で、ボロボロになりながら、やっとウバロの街へとたどり着いたのだった。
「いやー、思ったより強いなぁ。CランクだけじゃなくBランクも出るとはな」
「回復薬と装備の補充をしないといけないわね、これって王宮からお金出るんでしょ?」
「武器も一新したらどうだ?王宮の金なら最高級のが買えるだろ」
「魔力回復のポーションもお願いしますぅ、もうドロドロでお風呂はいりたぁーい」
冒険者ギルドへと査定に出された獣の素材に、ギルドの受け付け嬢は溜息を吐いていたが、私の護衛の任務という事もあり、宿は元から決まっているので早々に宿へと入った。
「おい、ギルド長に伝えさせろ!フローライト侯爵の娘を此処に連れて来いと!」
「…は、あの…、フローライト侯爵令嬢ですか?」
「さっさとしろ!この無能が!」
「は、はいっ!」
理解の遅い受け付けに指示を出し、部屋で待つかと思ったが、宿に入った瞬間部屋に溢れる装備品や備品に衣服やアクセサリー、机の上には所狭しと並べられた貧相な料理。勇者達は豪華な装備や食事に喜んでいたが、私は街で待機していないどころかやってこない侯爵令嬢に苛立っていた。
「侯爵家って此処から直ぐなんだな、どうして此処で待たないといけないんだ?」
「山を登るが、それほどの高さとは聞いてないな。迷い込まないように気をつければいいだけと聞いた事がある」
「なぁんだ、じゃあ簡単ですねぇ~。今の装備ならお屋敷へ簡単に向かえちゃいますよぉ」
「なら、私をその屋敷へ案内しろ」
部屋で食事をむさぼっている勇者達にそう声を掛けると、ピタッと動きが止まる。引きつった笑顔と泣きそうな情けない顔は、私付きの侍女がよくする顔なので気にもしない。睨み付けるとダラダラと動き出したので、さっさと動け!と命令した。
(こんな使えない者達よりも、近衛騎士団を付けてくれれば…っ)
ウバロの街から侯爵の屋敷が見えているので、そんなに距離も無いだろうと冒険者ギルドに立ち寄る事無く、屋敷への道を突き進んでいく。一本道かと思われたが、森に出入りする為の道もあるようで、目に入る屋敷を目指せば大丈夫だろうと、勇者パーティが選んだ道を歩き出した。
今思えば、こんな無能を一応冒険者だからと信用したのが間違いだった。
迂闊にも入り進んだ森の道を間違えた事に気がつき、引き返そうとしたが気がつけば周りを取囲むのは危険ランクA指定とされている魔獣ばかり。
辺境にあるフローライト侯爵領は、森に囲まれていると聞いていたが、こんなに危険な場所だとは家庭教師達からも聞いていない。
「何だこの森は!?ランクAの魔獣ばっかりじゃねーか!」
「もう魔力回復ポーションないよぉ~!前衛ちゃんと戦ってよねぇ!」
「何をやっている!勇者パーティだというなら、さっさと殲滅してみせろ!」
「煩い!ガキは黙ってろ!」
「何だと!?貴様、私を誰だと思っている!」
「誰だよ、連れて行くだけの楽な護衛だっていったのは!」
「王族に恩が売れるってウソじゃない!騙されたのよ!!」
護衛のはずが全く役に立たない勇者パーティが騒ぎ出し、言い合いだけじゃなく私にまで歯向かって来る。
お父様から言われて了承した護衛だったが、使えないにも程がある。
「お前達は私を守る為に雇われたのだろう、命を懸けて私を守るのは当然だ!」
「何も出来ねーガキの癖に、口だけは偉そうなんだよ!」
ドンッ!と肩に衝撃が来て、背中を地面に打ちつけた。『何をする不敬罪だ!』と声を上げようとしたが、顔を上げたときには、勇者パーティはその場から逃げ去った後だった。
「な…っ」
護衛の癖に、私を置き去りにして逃げるなど、死罪確定だ!
獣の鳴き声や唸り声が、そこらかしこから聞こえて来る。今にも耳元で、生温い息が掛かりそうな錯覚と恐怖感で一杯になる。
身を守る防具は最低限あるが、武器は何も無い。魔法ですら本格的に学ぶのは王都にある学園に入ってからなので、初級の魔法しか教わっていない。私に出来るのは、その場に蹲り助けを待つだけだった。
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