最恐の精霊姫様は婚活を希望します

梛桜

文字の大きさ
上 下
1 / 25
プロローグ

生まれました、初めまして。

しおりを挟む



 バタバタと忙しなく走り回る侍女達の足音が、ある一室へ消えていく。部屋の前では熊のように大柄の男性がウロウロと、それこそ熊が餌でも探しているような動作で落ち着かない。まぁ、熊ではなく僕の父上グリンディア・キャスト=フローライト辺境侯爵なのですが。
 そんな挙動不審の父上に、一番下の弟のルシアンは僕の服にしがみ付いてプルプル震えている。母上そっくりな弟がやってるから可愛いが、父上そっくりな上の弟だと似合わないなーと、少し笑ってしまいそうになった。

「父上、ルシアンが怖がっていますよ。もう少し落ち着いてください」
「椅子もありますよ! お座りになってください」
「ん? あ、ああ…。すまない、どうにも落ち着かなくてな」

 自分にそっくりな八歳になったばかりの長男と六歳の二男に窘められ、苦笑を浮かべつつも視線は閉じられた扉へと向けられている。何度目かの溜息を零したその時、固く閉じられた扉が開き、笑顔を浮かべた母上の侍女が顔を出した。

「御生まれになりました、とても可愛らしいお嬢様です!」
「ほ、本当か!?妻は、ティファーナは無事なのか?」
「はい、母子共にお元気です」

 掴み掛からん勢いで侍女を問い詰めていたが、長年屋敷に勤めている侍女は慣れたもので、屋敷の主人の行動には怯えたりしない。それよりも、今にも泣き出してしまいそうな情け無い顔に、笑いを堪えるだけでも精一杯だったようで口元が引きつっている。

「父上、母上にお逢いしたいです」
「父上、早く!僕も会いたいです!」
「ははうえー」

 左右後方から服を掴まれ、引っ張られして我に返った父上は、呼吸を整えどうしてもニヤついてしまう顔に気合を入れて部屋へと足を踏み出した。
 いつもなら天蓋が掛けられた柔らかなベッドには、まだ数人の侍女が片づけをしている。ふわりと消毒液の匂いが鼻を擽るが、直ぐに甘い香りに包まれる。

「母上!」
「ははうえー!」

 フォルスとルシアンは二人揃って母上に走りより、微笑みかけられて嬉しそうに笑っている。後ろにいる僕と父上に気付いたけど、穏やかな顔をしていたのに、我慢出来ないと笑い出した。

「なんて、顔をしていらっしゃるの?旦那様」
「ティ、ティファーナーぁ」
「部屋に入って直ぐだなんて、最短記録じゃないですか?」
「いいえ、一番はカーネリアン貴方が生まれた時よ。産声を聞いて泣きだしたそうだもの」

 クスクスと可愛らしく笑う母上は、これで四人の子供の母なのに、妖精の様にとても可愛らしい女性だ。今は男泣きしている父上だが、見ている方は結構怖いが、家族大好きな方なのでそんな姿も微笑ましいのだろう。メイド達は皆笑顔で見守っている。

「兄上、小さいですよ」
「あかちゃんー」

 弟二人に呼ばれて母上の隣を見ると、温かそうなおくるみに包まれた赤ん坊が眠っている。頼りなげな小さなその身体を見る度に、僕が守るんだという思いが沸き起こる。それは、妹をみている弟達も同じ様で、妹が産まれたのがよく分からないかも?と思っていたルシアンでさえ、頬を紅く染めて嬉しそうに妹を見つめている。

「お前たちの妹だ、名はセラフィナ。セラフィナ・コーディエ=フローライトだ」
「セラフィナ!」
「せらふぃ?」
「セラフィナだよ、ルシアン。僕達皆で、妹を大事に守っていこうね」
「はい!」
「勿論です!」

 つるりとして柔らかな頬を撫でていると、薄っすらと瞳が開きじっと見つめられる。ぎゅっと握りしめていた手が伸ばされ、小さな掌が開いたその瞬間、コロンっと床に何かが転がり落ちた。小さな白黒が混じった石と、綺麗な赤い石。

「何だ? もしかして…魔術石か?」
「あら…。どうして魔術石がセラフィナの手に?」
「いいえ、これは精霊石ですよ」
「母上…?」
「お義母様、精霊石とは?」
「このフローライト侯爵家に代々伝わる話でね、私の祖父もそうでした。そう、この子が精霊使いの血を受け継いだのね…」
 
 お産の手伝いをしていた祖母が其の石を見つめて、懐かしいような嬉しいような顔をしていた。まだ子供の僕には精霊使いと言うものが何なのかを教えては貰っていませんでしたが、成長すれば分かるようになるのでしょうか?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

滅びた国の姫は元婚約者の幸せを願う

咲宮
恋愛
 世界で唯一魔法が使える国エルフィールドは他国の侵略により滅ぼされた。魔法使いをこの世から消そうと残党狩りを行った結果、国のほとんどが命を落としてしまう。  そんな中生き残ってしまった王女ロゼルヴィア。  数年の葛藤を経てシュイナ・アトリスタとして第二の人生を送ることを決意する。  平穏な日々に慣れていく中、自分以外にも生き残りがいることを知る。だが、どうやらもう一人の生き残りである女性は、元婚約者の新たな恋路を邪魔しているようで───。  これは、お世話になった上に恩がある元婚約者の幸せを叶えるために、シュイナが魔法を駆使して尽力する話。  本編完結。番外編更新中。 ※溺愛までがかなり長いです。 ※誤字脱字のご指摘や感想をよろしければお願いします。  

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...