上 下
10 / 13
幕引きは迅速に

引き出せた言葉

しおりを挟む


「聞いているのか、クリスティアラ!」
「あら、長い演説は終わりましたの?」
「貴様っ!」

 話しかけられた事で意識を戻しましたが、ジュリアーナに視線を向けると、こそっと耳元で『いつもの
(キティ様への対応の文句)でした』と一言。其れならば、私も馬鹿正直に陛下の話を聞く必要など有りません。
 はぁ…。と溜息を零すと、陛下の腕にしがみ付いているキディング嬢が身を乗り出して私を睨んで、口元に手をやりか弱い演技を始めました。

(睨んでからですと、その演技は全く持って効果がありませんわね)

「その件は前々からわたくしからも、申し上げておりました。先触れも無く突然のご訪問、予定の無い愛妾様とは違い、わたくしは寝る間も無いほどに予定が詰まっています…と。此方の話を聞きもしないのに、どうして此方が一方的に聞かなければいけないのでしょう?」
「な!酷いっ、私はお暇な王妃様と仲良くしようとしているだけなのに!」
「先触れも無い突然の訪問など、迷惑でしかありません。貴女はどういう教育を受けてこられたのですか?宮に来るななど申していませんわ、礼儀を弁えなさいませとは言いましたが」
「年下のくせに、いちいち難しい言い方しかできないの!?」

 暇になれば後宮にある王妃の部屋に押しかけてきて、陛下に大事にして貰っている自慢をしていた愛妾キディング。せめて前触れを出してからと言っても聞きませんので、アシュリーとケイリオスが門前払いをしてくれています。
 まぁ、それでも乗り込んで来る時もありますが、其のときには政務を始めていますので、相手にしている暇などありません。

「態々夜会で…と思いましたが、今日は公爵であるお父様も宰相様もお仕事で不参加ですものねぇ?」
「…っ」
「急遽夜会を開催しておいて、このような三文芝居(おふざけ)をなさるなんて、器を知られてしまいますわよ?何をしたいのか知りませんけど、皆それぞれ政務があるのです」

 にっこりと微笑みを浮かべて弱点を突くと、途端に黙る辺り未だにヘタレです。こんなのが国王陛下でいいのかと思いますが、長子継続なので仕方有りません。其の分、私のように王妃として仕事が出来る人間を用意されるのです。

「わたくし、明日もお仕事がありますの。もう部屋に戻っても宜しいかしら?」
「夜会で臣下を労うのも王族の役目だ!」
「ですから、それは陛下のお好きになさってくださいな。わたくしを巻き込まないでくださいと何度もいいましたわよね?その頭の中は綺麗なお花しか咲いていないのかしら?」
「この…っ、王妃だからと言って無礼な!私はこの国の王だぞ!」
「まぁ…!わたくしに罪だと仰りながら、ご自分が権力をお使いになられますのね」

 扇子で口元を隠し、ジッと陛下を見つめるにも、うろたえるだけの陛下と其の腕にしがみ付いている愛妾は私を睨みつけるだけです。
 普段は面倒な話は、宰相様か公爵の父、若しくは宰相補佐をしている兄が反論をしていましたので、私が反論するなど考えてもいなかったのでしょう。陛下達の中では、私は未だ幼い小娘のようですから。

「う、うるさい!うるさい!クリスティアラ、貴様とは離縁だ!キティのような可愛さも無い貴様と、これ以上夫婦でいるなど、我慢の限界だ!」

 陛下の言葉に、其れまで空気の様にこの場を見守っていた貴族達がざわめき立ちました。
 今まで文句を言いつつも、外交の実績、国民からの評価、王家の借財を返済してきた政務力。などなどで言い出せなかった言葉をついに口にしたのですから当然かもしれません。
 言わせて頂けば、貴重な子供時代の時間を使ってまで遊ぶ暇も無いほどに、陛下を支えられるように勉強漬けになる事を強制されていた私こそ、我慢の限界というもの。

「その御言葉、本心で御座いますか?」
「当たり前だ!私の後宮から即刻出て行け!」
「ありがとうございますわ、陛下。喜んで承らせて頂きます」

 長年待ちわびていた陛下からの『離縁』の言葉に、私の顔には満面の笑みが浮かびます。今までで一番の笑顔だと断言できます。ゆっくりと優雅に淑女の礼を取り、陛下を見上げると、呆然と驚いた顔をしていました。
 陛下の言葉に傷ついた顔で泣き喚き、縋りつくのだと思われていたのでしょうか?

「ああ、それと陛下にお伝えしておきたいことが在りますの」
「…なんだ、泣き言でも…」

「陛下は昔から、幼女趣…いいえ、少女愛好者ですものね。女性として成長していく私を見て溜息を零していらしたのをとてもよく記憶しております」
「なっ、!?」
「年々陛下のお好みから外れる事は大変心苦しくありましたが、これでわたくしも安心ですわ。どうぞ気兼ねなくキディング様を愛されてくださいませ」

 最後に禁句を投下するのは、当然ですよ陛下。
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢はお断りです

あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。 この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。 その小説は王子と侍女との切ない恋物語。 そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。 侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。 このまま進めば断罪コースは確定。 寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。 何とかしないと。 でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。 そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。 剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が 女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。 そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。 ●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ●毎日21時更新(サクサク進みます) ●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)  (第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。

溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる

田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。 お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。 「あの、どちら様でしょうか?」 「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」 「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」 溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。 ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。

【完結】昨日までの愛は虚像でした

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
公爵令息レアンドロに体を暴かれてしまった侯爵令嬢ファティマは、純潔でなくなったことを理由に、レアンドロの双子の兄イグナシオとの婚約を解消されてしまう。その結果、元凶のレアンドロと結婚する羽目になったが、そこで知らされた元婚約者イグナシオの真の姿に慄然とする。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

たった一度の浮気ぐらいでガタガタ騒ぐな、と婚約破棄されそうな私は、馬オタクな隣国第二王子の溺愛対象らしいです。

弓はあと
恋愛
「たった一度の浮気ぐらいでガタガタ騒ぐな」婚約者から投げられた言葉。 浮気を許す事ができない心の狭い私とは婚約破棄だという。 婚約破棄を受け入れたいけれど、それを親に伝えたらきっと「この役立たず」と罵られ家を追い出されてしまう。 そんな私に手を差し伸べてくれたのは、皆から馬オタクで残念な美丈夫と噂されている隣国の第二王子だった―― ※物語の後半は視点変更が多いです。 ※浮気の表現があるので、念のためR15にしています。詳細な描写はありません。 ※短めのお話です。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません、ご注意ください。 ※設定ゆるめ、ご都合主義です。鉄道やオタクの歴史等は現実と異なっています。

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】

須木 水夏
恋愛
 大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。 メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。 (そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。) ※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。 ※ヒーローは変わってます。 ※主人公は無意識でざまぁする系です。 ※誤字脱字すみません。

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

処理中です...