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幕引きは迅速に
引き出せた言葉
しおりを挟む「聞いているのか、クリスティアラ!」
「あら、長い演説は終わりましたの?」
「貴様っ!」
話しかけられた事で意識を戻しましたが、ジュリアーナに視線を向けると、こそっと耳元で『いつもの
(キティ様への対応の文句)でした』と一言。其れならば、私も馬鹿正直に陛下の話を聞く必要など有りません。
はぁ…。と溜息を零すと、陛下の腕にしがみ付いているキディング嬢が身を乗り出して私を睨んで、口元に手をやりか弱い演技を始めました。
(睨んでからですと、その演技は全く持って効果がありませんわね)
「その件は前々からわたくしからも、申し上げておりました。先触れも無く突然のご訪問、予定の無い愛妾様とは違い、わたくしは寝る間も無いほどに予定が詰まっています…と。此方の話を聞きもしないのに、どうして此方が一方的に聞かなければいけないのでしょう?」
「な!酷いっ、私はお暇な王妃様と仲良くしようとしているだけなのに!」
「先触れも無い突然の訪問など、迷惑でしかありません。貴女はどういう教育を受けてこられたのですか?宮に来るななど申していませんわ、礼儀を弁えなさいませとは言いましたが」
「年下のくせに、いちいち難しい言い方しかできないの!?」
暇になれば後宮にある王妃の部屋に押しかけてきて、陛下に大事にして貰っている自慢をしていた愛妾キディング。せめて前触れを出してからと言っても聞きませんので、アシュリーとケイリオスが門前払いをしてくれています。
まぁ、それでも乗り込んで来る時もありますが、其のときには政務を始めていますので、相手にしている暇などありません。
「態々夜会で…と思いましたが、今日は公爵であるお父様も宰相様もお仕事で不参加ですものねぇ?」
「…っ」
「急遽夜会を開催しておいて、このような三文芝居(おふざけ)をなさるなんて、器を知られてしまいますわよ?何をしたいのか知りませんけど、皆それぞれ政務があるのです」
にっこりと微笑みを浮かべて弱点を突くと、途端に黙る辺り未だにヘタレです。こんなのが国王陛下でいいのかと思いますが、長子継続なので仕方有りません。其の分、私のように王妃として仕事が出来る人間を用意されるのです。
「わたくし、明日もお仕事がありますの。もう部屋に戻っても宜しいかしら?」
「夜会で臣下を労うのも王族の役目だ!」
「ですから、それは陛下のお好きになさってくださいな。わたくしを巻き込まないでくださいと何度もいいましたわよね?その頭の中は綺麗なお花しか咲いていないのかしら?」
「この…っ、王妃だからと言って無礼な!私はこの国の王だぞ!」
「まぁ…!わたくしに罪だと仰りながら、ご自分が権力をお使いになられますのね」
扇子で口元を隠し、ジッと陛下を見つめるにも、うろたえるだけの陛下と其の腕にしがみ付いている愛妾は私を睨みつけるだけです。
普段は面倒な話は、宰相様か公爵の父、若しくは宰相補佐をしている兄が反論をしていましたので、私が反論するなど考えてもいなかったのでしょう。陛下達の中では、私は未だ幼い小娘のようですから。
「う、うるさい!うるさい!クリスティアラ、貴様とは離縁だ!キティのような可愛さも無い貴様と、これ以上夫婦でいるなど、我慢の限界だ!」
陛下の言葉に、其れまで空気の様にこの場を見守っていた貴族達がざわめき立ちました。
今まで文句を言いつつも、外交の実績、国民からの評価、王家の借財を返済してきた政務力。などなどで言い出せなかった言葉をついに口にしたのですから当然かもしれません。
言わせて頂けば、貴重な子供時代の時間を使ってまで遊ぶ暇も無いほどに、陛下を支えられるように勉強漬けになる事を強制されていた私こそ、我慢の限界というもの。
「その御言葉、本心で御座いますか?」
「当たり前だ!私の後宮から即刻出て行け!」
「ありがとうございますわ、陛下。喜んで承らせて頂きます」
長年待ちわびていた陛下からの『離縁』の言葉に、私の顔には満面の笑みが浮かびます。今までで一番の笑顔だと断言できます。ゆっくりと優雅に淑女の礼を取り、陛下を見上げると、呆然と驚いた顔をしていました。
陛下の言葉に傷ついた顔で泣き喚き、縋りつくのだと思われていたのでしょうか?
「ああ、それと陛下にお伝えしておきたいことが在りますの」
「…なんだ、泣き言でも…」
「陛下は昔から、幼女趣…いいえ、少女愛好者ですものね。女性として成長していく私を見て溜息を零していらしたのをとてもよく記憶しております」
「なっ、!?」
「年々陛下のお好みから外れる事は大変心苦しくありましたが、これでわたくしも安心ですわ。どうぞ気兼ねなくキディング様を愛されてくださいませ」
最後に禁句を投下するのは、当然ですよ陛下。
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