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契約決裂
今更ですね
しおりを挟む「王妃!いや、クリスティアラ・オルコット=バーティン!貴様を断罪する!」
其れが始まったのは、華々しく賑やかな夜会の真っ只中でした。
突然叫ばれたのは、私の婚姻前の名前でした。婚姻して既に五年ともなりますのに、わざわざ婚姻前の名前を呼ぶなど芸が細かいですわね。しかも、本来なら正統な王妃である私が陛下の手を取っているはずなのですが、王妃の席に座る私の目の前に、寵愛している愛妾の腰を抱いた陛下のお姿が何故かあります。
夜会へのエスコートは珍しくして頂きましたが、ファーストダンスは私ではなく愛妾を真っ先に呼び手を取って踊ってましたわよね?そのまま二曲目も三曲目も、いったい何時までくるくるやっているのでしょう?と思って眺めていたものです。
まぁ、同じ様に臣下から見つめられる視線も大層冷ややかなものでしたが、自分に注目しているという点のみ考えれば其の通りなので、深くは考えていらっしゃらないようです。考え無しともいいますわね。
(たとえ夫婦生活も何もない冷え切っている『白い結婚』の間柄でも、ダンスのマナーも分からないなら夜会は開くだけ恥ですわよ陛下)
流石に他人がダンスを踊っているのを只眺めているにも飽き、私の背後に控えていた女官や侍女達の苛立ちも限界でしたので、早々に退出しようかと思っていた矢先に三曲目の音楽が終わり、私付きの女官へと声を掛けた途端の出来事。
(そして、困った事に陛下が私を不機嫌な顔でお見つめになる時は……)
私の脳裏を一瞬にして、過ぎ去ったのは十中八九、碌でもない時ばかりでした。
陛下に擦り寄るように寄りかかり、うるうると瞳に涙を浮かべて弱々しくしていますが、口元が勝ち誇った笑みになってますわよ?歪にゆがむ口元は、何に対しての優越感なのでしょうか。
陛下が寵愛なさって愛妾とされているのは、キディング・ベル=バルベルデ男爵令嬢。女官長のジュリアーナからの情報では、私より三つ上の二十一歳らしいです。陛下との仲は私が早めの社交界デビューをするよりも前。バルベルデ男爵令嬢が社交界デビューを果たした夜会からだそうです。
思えば、陛下が笑顔を私に向けてくださったのも、婚約者として始めにお目見えした時だけでした。
その時の私は十歳の少女で、前女王陛下も王配殿下も見守る中での一時でした。
(前陛下の崩御の後久し振りにお逢いした時、王太子殿下だった陛下の顔に不快感が表れたのですわね。懐かしい思い出ですわ)
其れまでは気付かなかった、陛下の不快感。婚約前に其れを知っていたら、お父様もお母様もこのまま婚約からの結婚をお断りしていたと思うのです。
何もしていないのに睨まれているのか、何もしていないからこそ睨まれているのか。少女の頃から勉強していた王妃教育を振り返っても分かりません。
私は現実逃避したい気分になり、昔の出来事へと思いを馳せていました。
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