【完結】生まれ変わってもΩの俺は二度目の人生でキセキを起こす!

天白

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生まれ変わったΩが起こしたキセキ

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 一ヶ月後――……



「まさか里中とやらが丹下の後継ぎだったとはっ……!」

「陸郎。もう覚悟を決めなさい。何度言っても事実は変わらん」

「だってなぁ、母ちゃん!」

「人様のお宅で母ちゃんと言うのを止めなさい!」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ俺と陸郎は現在、丹下本家に招待をされていた。

 本来ならもっと早くに一喜の墓参りへ行く予定だったが、それどころではない事件が起こったせいでこんなにも延びてしまっていた。

 その事件を起こした人物達――田井中本家の俺の従兄弟こと晋一と慎二は、事の次第を聞いた陸郎から案の定、こっぴどく叱られた。本家から出ていけと追い出されそうになるも、それを意地悪爺こと善治と歴史オタクの純平が必死に止めた。まだ寒い外へと放り出された二人は一日中、泣きながら庭で土下座をしていたらしいが、それまで黙っていた良子が中に入れたらしい。

 もちろん、陸郎は何を勝手にと憤慨したそうだが、物静かな良子が毅然とした態度でこの子に物申したそうだ。

『たとえ勘当をしても、血縁者がまた何処かで騒ぎを起こせばこちらに返ってくる。それならば、生涯本家の監視下に置くのが一番良い』と。

 そして被害を受けた俺に再び害が及ばぬようしっかりと躾けていくのが本家の役目だと提言したことで、陸郎も渋々受け入れたらしい。

 俺としては、今後あの二人が突っかかってこなければどうでもいいのだが、良子が言うことは最もだ。縁は切っても切れないものだしな。これから真人間になれるかどうかはわからないが、少しはあの天狗の鼻も小さくなってくれるといい。

 ちなみに、丹下本家に伺うことになったのは宗佑からのお願いだった。俺は嫁にもらわれる側だから、本来なら宗佑が田井中本家に伺うのが筋なのだろうが、一喜の墓参りにも行く予定だったので、それならば一度丹下本家に来て話をしたいと言われたのだ。

 俺は二つ返事で了承した。陸郎に話をすると、長い時間をかけて頷いた。仕方がない。俺の妊娠や宗佑の正体が一気に明かされたわけなのだから、すぐに受け入れろという方が無理な話だ。

 妊娠が判明し、俺は通常の妊婦よりもぷっくりと膨れた腹を抱えながら、陸郎の隣の椅子に腰かけていた。ちなみに、通されたのは客間ではなく、空き部屋のような洋室だ。本来の客間は和室らしく、それでは俺の身体に負担がかかると配慮してのことらしい。確かに妊娠中の正座は辛い。

 それにわかっていたことではあるが、丹下本家はもう正臣がいた頃の屋敷ではなくなっていた。立地だけは変わっていないらしく、屋敷自体は一から建て直したらしい。懐かしさは欠片もなく、それが逆にほっとした。

 田井中本家と比べても勝るとも劣らない和を中心とした建造物だが、実際に住んでいるのは宗佑の祖父母の二人だという。つまり、一喜の子供だ。

 いずれは宗佑がこの本家を継ぐのだが、それはまだまだ先のことだろう。もしかしたら、同じく養子になった耀太君が住むかもしれない。

 テーブルに乗ったみかんのゼリーをもぐもぐと食べながら宗佑を待っていると、陸郎が心配そうに俺へと声をかける。

「なあ、母ちゃん。悪阻は大丈夫か? 気分悪くはないか? 吐きそうならいつでも席を外していいんだぞ。ポリ袋もほれ、持ってきておる」

 がさごそと取り出したのは何処にでもあるポリ袋。しっかりとした和装に身を包んでいるというのに、外袋のまま持ってきているせいで、格好がつかないが、この気遣いはとてもありがたい。

「大丈夫だ。恵の時も悪阻は割りと軽かったし、この身体はそれ以上に強いみたいだ」

 とはいっても、何かを食べている方が気分もいくらか落ち着いた。このみかんのゼリーも悪阻を知っている宗佑がお手伝いさんに用意させてくれたものだ。家主のいない状況で先に食べるのは失礼に当たるだろうが、気にせず食べて良いと言われているので遠慮なくそうさせて頂いている。

「ならいいんだが……」

 陸郎はポリ袋を引っ込めると苛立ちを顔に乗せ、腕を組んで貧乏ゆすりを始めた。

「全く! 儂の許可も待たずに母ちゃんを孕ませるとはっ……しかも結婚前に! つくづくいけ好かん男だ! それに何だ! まだ顔すら出さんとは!」

「まあまあ、落ち着きなさい。ここまで来て逃げたり隠れたりはしないんだから」

 そう。本家に伺ったのはいいものの、まだ宗佑は陸郎と会っていない。姿を目にしたのはお手伝いさんだけで、この部屋には人がいない。

 角には物が置かれていて、何やらシーツに被った大きな箱が一つと、それから絵画だろうか、イーゼルに乗ったそれがこれまたシーツを被っていた。他にもキャンバスがあるのか、横に並んで一つ一つにシーツが被せられてあった。空き部屋を急遽、応接間にしたという印象だ。

 その時、コンコンと控えめのノックが部屋の中に響いた。

「あの……コーヒーとハーブティーを持ってきたんだけど……です」

「耀太君!」

 黒い狼の耀太君が丸いトレーにコーヒーとハーブティーの入ったカップを持ってきてくれた。珍しくスーツを着た彼はやや緊張しているのか、大きな背を少しだけ丸めて静かに入室する。

 そんな彼に、この陸郎は……

「お前か! 儂の母ちゃんに手を出した上、孕ませたという番はっ!?」

「ぴ!?」

「こらっ、陸郎!」

 いきなり立ち上がったかと思えば、とても九十九歳とは思えないほどの剣幕で彼を怒鳴りつけた。陸郎より何倍も大きな身体の耀太君が、尻尾をピン! と立ててしまうほど驚いている。

 慌てて諌めるも、その後に続く落ち着きの乗った珠のような「彼」の声音で、部屋の中は静けさを取り戻した。

「圭介君の番は私ですよ。長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません」

「宗佑」

 耀太君と同じく、スーツを身に纏った宗佑が陸郎に向かって頭を下げた。もちろん、本来の狼の姿で。陸郎の怒りを前にしても落ち着き払ったその態度は、彼の怒りをひとまず鎮火させたようだ。

 陸郎と対面するようにテーブル前に立つ宗佑は、彼に座るよう促した。陸郎は不機嫌さを露にしたままドスンと大袈裟に座ると、宗佑もまた静かに席に着いた。耀太君は陸郎の前にコーヒー、それから俺の前にハーブティーを置くと、ペコリと小さく頭を下げてから宗佑の隣に腰を下ろした。

 こうして四人が揃ったところで、宗佑が陸郎へと挨拶を口にする。

「丹下宗佑と申します」

「田井中陸郎だ」

 ふん! と鼻息荒くなってしまうのは歳のせいだろうか? 俺はビクビクと緊張する耀太君に見えるように、ごめんねと手を合わせた。

 対して気にした様子のない宗佑は、さっそく話を切り出した。

「この度は、私の曾祖父である丹下一喜の墓に手を合わせて下さるとのこと。幸甚に存じます」

「無論だ。この儂のにーちゃんだからな」

「知らなかったとはいえ、ご挨拶が遅れてしまったこと、深くお詫び致します。申し訳ありませんでした」

 いえ、それはこちらもです。と、俺は陸郎の代わりにペコペコと頭を下げる。そして何故か、耀太君も同じくペコペコと頭を下げた。

 それなのに、この爺は……

「それで? 詫びはその態度だけか? 何かしらの誠意はないのか? ん?」

 どうしてこうも偏屈になってしまったのか。ふんぞり返る陸郎の隣で俺は頭を抱えた。ようするに詫びの品を持ってこい、ということだ。

 では、どのような品なら満足するのか。きっと何を持ってこようが、この子は突っぱねるに違いない。


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