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生まれ変わったΩが起こしたキセキ
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――――…
何か温かいものが俺に触れる。これは何だろう。雲のようにふわふわしていて気持ちがいい。
「……ん」
それは僅かに動いていて、かつ弾力があり、なんだかとても美味そうだと感じた。
「ぱくっ」
自然と口が開き、本能のままそれを咥えた。ほんのり甘く感じられる、ふわふわした毛並みとゴムのような感触のそれは、俺が大好きなものだ。
「はもはも」
甘噛みしながら味わうと、それは口の中でパタパタと動いた。そして俺の下では、聞き慣れた優しい彼の声が、クスクスと笑っていた。
「こら、圭介。私の耳は食べ物ではないよ」
「ん……そう、すけ?」
瞼を開くと、光沢さえある綺麗な灰色の毛並みが目に飛び込んだ。同時に優しげなアンバーの瞳が俺を見つめていることに気づいた。
宗佑だ。そしてそれは俺のよく知る宗佑の……正臣の顔ではない。
今、目に前にいるのは俺が最も恐れていて、しかし最も求めていた、狼の彼だ。
「宗、佑……」
「大丈夫か? 圭介。身体の方は……」
夢ではない。本物だ。触れてわかる。身体も、心も、とても……あたたかい。
「宗佑っ……!」
俺は宗佑に抱きついた。宗佑は一瞬だけ目を見開いたものの、そんな俺をすぐに優しく抱き締め返した。
いい匂い。俺がずっと求めていた宗佑の匂いだ。甘美で蠱惑的な、それでいて優しさのある、彼にしかない香りだ。
唐突に下肢が熱くなった。宗佑に会ったからか、無性に彼が欲しくて堪らない。
「……ん、はぁ……」
俺は宗佑の口にキスをした。俺を丸飲みにしてしまいそうなほどの大きなそれが、なんて愛しいのだろう。
鋭く揃う白い牙も、長くてザラリとした触感の大きな舌も、ギロリと見つめるアンバーの瞳も。何もかもが愛しく感じる。
熱くなった股間を宗佑の身体に押しつけながら、俺は媚びるような猫なで声を出した。
「宗佑、欲しいよ……」
「圭介……」
浴衣のような服を纏う俺は、どうやら下着を身につけていないらしい。宗佑は合わせの部分から手を挿し込むと、昂る俺の陰茎をやんわりと包み込んだ。
「あ、ん……宗佑……」
人型だった彼よりも大きくて温かい手が、俺のそれを緩やかに扱く。ペロリと顔を舐められると、それだけで身体が震えて果ててしまった。
「宗佑……宗佑っ……」
ブルブルと身体を震わせる俺を、宗佑はフカフカのマットレスの上に寝かせると、大きく脚を割り開かせた。
秘部を露出させ、放ったばかりで濡れるそこを、宗佑はその大きくも長い舌で丹念に舐め取った。もう何度経験したかしれない行為のはずなのに、まるで今初めて受けるもののように感じられた。
「んんぅ……宗佑……」
「うん。綺麗になった」
満足そうに言われて、ハッと我に返る。
目覚めて早々、時間も、状況も、ここが何処かも、全てがわからないというのに俺は発情していた。なんと馬鹿なのだろう。宗佑が視界に入ってすぐに身体を求めてしまうなど、Ωといえど情けなさが過ぎる。
幸い、周囲に宗佑以外の人はいないようだ。すぐに脚を閉じると、俯きながら彼に対して謝った。
「俺っ……ごめんなさい……こんな……こんな駄目な、Ωだけどっ……ごめんっ……こんな……俺っ……!」
上手く言葉にできない。謝りたいのに、きちんと謝れない。肝心な言葉もろくに紡げない。
対して身体はいまだ、目の前の宗佑を求めようとしている。こんな時でさえも、理性は働かない。思う通りに動かない。
自分が本当に嫌になる。ひっく、ひっくと子供のように嗚咽を上げながら、俺は泣きじゃくった。ああ、泣きじゃくる自分にも腹が立つ。
それなのにこの人は、背中に腕を回して俺を抱き締めた。
「大丈夫。大丈夫だ、圭介」
「そうっ……ううっ、宗佑ぇ……」
「発情は君のせいじゃない。大丈夫だよ」
なんと優しいのだろう。あやすように背中を擦り、俺を許してくれる。
ポロポロと涙を零しながら、俺は彼の広い背中に手を回し抱きついた。
「俺っ……宗佑がいい。宗佑と一緒に生きたいんだ……これからも、ずっと、一緒に……! たとえっ……番じゃなくてもっ……俺っ……俺は……!」
「圭介……」
番を解消されたΩは、死ぬまで発情から逃れられない身体になってしまうという。周りにも迷惑をかける上、この先の冷遇は避けられない。きっと一生、憐れな目で見られることだろう。
それでも俺は宗佑と共にいたい。宗佑でなくては駄目なのだ。
俺の発情も、身体も、心も、何もかもを潤し満たしてくれるのは、宗佑しかいないのだから。
「……少し痛いだろうが、我慢してくれるか?」
その時、宗佑が俺の首にかかる後ろ髪を指で掬った。そしてチョーカーも何もしていない俺の首に、彼は食むように牙を宛がった。
「カプ」
「んんっ」
ピリッとした痛みと共に、俺は首……いや、正確には項を噛まれた。前置き通り確かに痛みは走ったものの、それよりも何よりも俺の身体の中に何かが流れ込むのを感じた。
変わらず発情は治まらない。けれどもそれは、宗佑を前にしているからこそ発症しているようだ。
ヤりたくてヤりたくて堪らない、誰でもいいから鎮めてくれ! ……といった、あの人間としての尊厳を忘れてしまうようなものとは異なる。
俺はポツリと呟いた。
「……番に、なった?」
「きっと、あの身体で番になろうとしてもちゃんと成立していなかったんだろうね。私も知らなかったよ」
だって番になったのはこれが初めてなのだから、と。宗佑は嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ……解消された、わけじゃなくて?」
「するわけがないだろう。何があろうとも、君は私の一生の番だよ」
そっと俺の前髪を撫でながら、宗佑は俺の痛くない方の頬に自分の鼻先を擦りつける。
「私のこの姿は、もう怖くない?」
そのままペロペロと舌先で舐められ、下肢の方からゾクゾクと震えが走った。それは決して恐怖からのものではない。宗佑に触れていると実感して、身体が喜んでいるのだ。
俺は綻ぶ口元を隠さず、宗佑に答えた。
「うん……怖くない。きっと、最初から怖くなかったんだ」
確かに出会った当初、俺は宗佑を前にして怖いと心の中で叫んだ。獣人は怖い。狼も怖い。昔と変わらず恐ろしい存在のままだ。しかし今にして思えば、耀太君を見て感じた怖さとも、俺を襲ったあの獣人を前にした時の怖さとも、違うものだった。
こうしている今、宗佑の顔は驚くほど近いのに、もっと近くで触れていたいと思う。頭の中で、正臣と同じあの顔の宗佑は不思議と浮かんでこない。
俺は宗佑の顔を両手で包み込むと、チュッと音を立てて鼻先にキスを落とした。
「運命の人に出会ったから、びっくりしちゃっただけなのかも」
「圭介……」
照れたように笑うと、宗佑は嬉しそうにパタパタと尻尾を動かした。
愛しいな。怖い顔なのに、とても愛しく感じる。
「ごめんなさい、宗佑。俺、宗佑の気持ちも知らずにあんなに怒って酷いことを言ってしまった……本当にごめんなさい」
俺は宗佑の顔に自分の頬を擦りつけながら、昨日のことを謝った。何をどう言ったのか、自分でもはっきりとは覚えていない。だが、とても酷い言葉を彼に投げつけてしまった。
宗佑は必死で俺を呼んでくれていたのに、俺は他の男達で大切な宗佑を掻き消してしまっていたのだ。
そんな俺に宗佑は、「違うよ」と目を合わせた。
「本当のことを明かさなかった私が悪いんだ。最初から妊娠しにくい身体と言えば、子ができずとも気にしないでもらえると勝手に思っていた。だけど君は、あんなに私のことを考えて子を成そうとしてくれていた。そんな君を前にして、薬の副作用のことは言えなかった。かといって、あの薬を止めることも怖かった。騙すようなことをしてしまってすまない。でも私は、いつか見る子供の顔よりも、君と共に歩む道の方を選んでしまったんだ。本当に……ごめん」
「宗佑……」
それが嬉しいと言ったら、腹の中にいる赤ちゃんに申し訳ないな。
けれども今だけは……今この瞬間だけは、俺のことを第一に想ってくれていたこの人に、心から感謝したい。
「赤ん坊、できたんだな」
宗佑がそっと、俺の腹に手を置いてしみじみと呟いた。
「……あ、けど……まだ、検査していなくて……」
結局、俺は検査薬を買っただけで何もしていない。今ここで宗佑に証明するものを持っていないから断言もできないのだ。感情に任せてあんなに怒ったというのに、これでもしも腹の中にいなかったら……
「ううん。ここにいるよ。わかるよ」
眉を下げる俺に、宗佑は即座に首を横に振った。そしてトンと、自分の鼻に指を添える。
「狼は鼻が利くんだ」
そして再度抱き締めると、ずっとずっと欲しかった言葉で俺を包み込んでくれた。
「ありがとう、圭介。ありがとう……よく、やった!」
「宗佑……」
望んだのは俺の身体じゃなかった。この人はずっと、俺自身を望んでくれていた。
そして俺の目は間違っていなかった。この人は本当に子供を……俺達の子を待ち望んでくれていたのだ。
「うん…………うんっ、うん!」
ボロボロと真珠のように零れるこの大粒の涙は、この先もずっと流していたい。
俺はようやく……生まれ変わってからようやく。欲しかった言葉をもらうことができたのだ。
「俺達の赤ちゃんだよ!」
何か温かいものが俺に触れる。これは何だろう。雲のようにふわふわしていて気持ちがいい。
「……ん」
それは僅かに動いていて、かつ弾力があり、なんだかとても美味そうだと感じた。
「ぱくっ」
自然と口が開き、本能のままそれを咥えた。ほんのり甘く感じられる、ふわふわした毛並みとゴムのような感触のそれは、俺が大好きなものだ。
「はもはも」
甘噛みしながら味わうと、それは口の中でパタパタと動いた。そして俺の下では、聞き慣れた優しい彼の声が、クスクスと笑っていた。
「こら、圭介。私の耳は食べ物ではないよ」
「ん……そう、すけ?」
瞼を開くと、光沢さえある綺麗な灰色の毛並みが目に飛び込んだ。同時に優しげなアンバーの瞳が俺を見つめていることに気づいた。
宗佑だ。そしてそれは俺のよく知る宗佑の……正臣の顔ではない。
今、目に前にいるのは俺が最も恐れていて、しかし最も求めていた、狼の彼だ。
「宗、佑……」
「大丈夫か? 圭介。身体の方は……」
夢ではない。本物だ。触れてわかる。身体も、心も、とても……あたたかい。
「宗佑っ……!」
俺は宗佑に抱きついた。宗佑は一瞬だけ目を見開いたものの、そんな俺をすぐに優しく抱き締め返した。
いい匂い。俺がずっと求めていた宗佑の匂いだ。甘美で蠱惑的な、それでいて優しさのある、彼にしかない香りだ。
唐突に下肢が熱くなった。宗佑に会ったからか、無性に彼が欲しくて堪らない。
「……ん、はぁ……」
俺は宗佑の口にキスをした。俺を丸飲みにしてしまいそうなほどの大きなそれが、なんて愛しいのだろう。
鋭く揃う白い牙も、長くてザラリとした触感の大きな舌も、ギロリと見つめるアンバーの瞳も。何もかもが愛しく感じる。
熱くなった股間を宗佑の身体に押しつけながら、俺は媚びるような猫なで声を出した。
「宗佑、欲しいよ……」
「圭介……」
浴衣のような服を纏う俺は、どうやら下着を身につけていないらしい。宗佑は合わせの部分から手を挿し込むと、昂る俺の陰茎をやんわりと包み込んだ。
「あ、ん……宗佑……」
人型だった彼よりも大きくて温かい手が、俺のそれを緩やかに扱く。ペロリと顔を舐められると、それだけで身体が震えて果ててしまった。
「宗佑……宗佑っ……」
ブルブルと身体を震わせる俺を、宗佑はフカフカのマットレスの上に寝かせると、大きく脚を割り開かせた。
秘部を露出させ、放ったばかりで濡れるそこを、宗佑はその大きくも長い舌で丹念に舐め取った。もう何度経験したかしれない行為のはずなのに、まるで今初めて受けるもののように感じられた。
「んんぅ……宗佑……」
「うん。綺麗になった」
満足そうに言われて、ハッと我に返る。
目覚めて早々、時間も、状況も、ここが何処かも、全てがわからないというのに俺は発情していた。なんと馬鹿なのだろう。宗佑が視界に入ってすぐに身体を求めてしまうなど、Ωといえど情けなさが過ぎる。
幸い、周囲に宗佑以外の人はいないようだ。すぐに脚を閉じると、俯きながら彼に対して謝った。
「俺っ……ごめんなさい……こんな……こんな駄目な、Ωだけどっ……ごめんっ……こんな……俺っ……!」
上手く言葉にできない。謝りたいのに、きちんと謝れない。肝心な言葉もろくに紡げない。
対して身体はいまだ、目の前の宗佑を求めようとしている。こんな時でさえも、理性は働かない。思う通りに動かない。
自分が本当に嫌になる。ひっく、ひっくと子供のように嗚咽を上げながら、俺は泣きじゃくった。ああ、泣きじゃくる自分にも腹が立つ。
それなのにこの人は、背中に腕を回して俺を抱き締めた。
「大丈夫。大丈夫だ、圭介」
「そうっ……ううっ、宗佑ぇ……」
「発情は君のせいじゃない。大丈夫だよ」
なんと優しいのだろう。あやすように背中を擦り、俺を許してくれる。
ポロポロと涙を零しながら、俺は彼の広い背中に手を回し抱きついた。
「俺っ……宗佑がいい。宗佑と一緒に生きたいんだ……これからも、ずっと、一緒に……! たとえっ……番じゃなくてもっ……俺っ……俺は……!」
「圭介……」
番を解消されたΩは、死ぬまで発情から逃れられない身体になってしまうという。周りにも迷惑をかける上、この先の冷遇は避けられない。きっと一生、憐れな目で見られることだろう。
それでも俺は宗佑と共にいたい。宗佑でなくては駄目なのだ。
俺の発情も、身体も、心も、何もかもを潤し満たしてくれるのは、宗佑しかいないのだから。
「……少し痛いだろうが、我慢してくれるか?」
その時、宗佑が俺の首にかかる後ろ髪を指で掬った。そしてチョーカーも何もしていない俺の首に、彼は食むように牙を宛がった。
「カプ」
「んんっ」
ピリッとした痛みと共に、俺は首……いや、正確には項を噛まれた。前置き通り確かに痛みは走ったものの、それよりも何よりも俺の身体の中に何かが流れ込むのを感じた。
変わらず発情は治まらない。けれどもそれは、宗佑を前にしているからこそ発症しているようだ。
ヤりたくてヤりたくて堪らない、誰でもいいから鎮めてくれ! ……といった、あの人間としての尊厳を忘れてしまうようなものとは異なる。
俺はポツリと呟いた。
「……番に、なった?」
「きっと、あの身体で番になろうとしてもちゃんと成立していなかったんだろうね。私も知らなかったよ」
だって番になったのはこれが初めてなのだから、と。宗佑は嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ……解消された、わけじゃなくて?」
「するわけがないだろう。何があろうとも、君は私の一生の番だよ」
そっと俺の前髪を撫でながら、宗佑は俺の痛くない方の頬に自分の鼻先を擦りつける。
「私のこの姿は、もう怖くない?」
そのままペロペロと舌先で舐められ、下肢の方からゾクゾクと震えが走った。それは決して恐怖からのものではない。宗佑に触れていると実感して、身体が喜んでいるのだ。
俺は綻ぶ口元を隠さず、宗佑に答えた。
「うん……怖くない。きっと、最初から怖くなかったんだ」
確かに出会った当初、俺は宗佑を前にして怖いと心の中で叫んだ。獣人は怖い。狼も怖い。昔と変わらず恐ろしい存在のままだ。しかし今にして思えば、耀太君を見て感じた怖さとも、俺を襲ったあの獣人を前にした時の怖さとも、違うものだった。
こうしている今、宗佑の顔は驚くほど近いのに、もっと近くで触れていたいと思う。頭の中で、正臣と同じあの顔の宗佑は不思議と浮かんでこない。
俺は宗佑の顔を両手で包み込むと、チュッと音を立てて鼻先にキスを落とした。
「運命の人に出会ったから、びっくりしちゃっただけなのかも」
「圭介……」
照れたように笑うと、宗佑は嬉しそうにパタパタと尻尾を動かした。
愛しいな。怖い顔なのに、とても愛しく感じる。
「ごめんなさい、宗佑。俺、宗佑の気持ちも知らずにあんなに怒って酷いことを言ってしまった……本当にごめんなさい」
俺は宗佑の顔に自分の頬を擦りつけながら、昨日のことを謝った。何をどう言ったのか、自分でもはっきりとは覚えていない。だが、とても酷い言葉を彼に投げつけてしまった。
宗佑は必死で俺を呼んでくれていたのに、俺は他の男達で大切な宗佑を掻き消してしまっていたのだ。
そんな俺に宗佑は、「違うよ」と目を合わせた。
「本当のことを明かさなかった私が悪いんだ。最初から妊娠しにくい身体と言えば、子ができずとも気にしないでもらえると勝手に思っていた。だけど君は、あんなに私のことを考えて子を成そうとしてくれていた。そんな君を前にして、薬の副作用のことは言えなかった。かといって、あの薬を止めることも怖かった。騙すようなことをしてしまってすまない。でも私は、いつか見る子供の顔よりも、君と共に歩む道の方を選んでしまったんだ。本当に……ごめん」
「宗佑……」
それが嬉しいと言ったら、腹の中にいる赤ちゃんに申し訳ないな。
けれども今だけは……今この瞬間だけは、俺のことを第一に想ってくれていたこの人に、心から感謝したい。
「赤ん坊、できたんだな」
宗佑がそっと、俺の腹に手を置いてしみじみと呟いた。
「……あ、けど……まだ、検査していなくて……」
結局、俺は検査薬を買っただけで何もしていない。今ここで宗佑に証明するものを持っていないから断言もできないのだ。感情に任せてあんなに怒ったというのに、これでもしも腹の中にいなかったら……
「ううん。ここにいるよ。わかるよ」
眉を下げる俺に、宗佑は即座に首を横に振った。そしてトンと、自分の鼻に指を添える。
「狼は鼻が利くんだ」
そして再度抱き締めると、ずっとずっと欲しかった言葉で俺を包み込んでくれた。
「ありがとう、圭介。ありがとう……よく、やった!」
「宗佑……」
望んだのは俺の身体じゃなかった。この人はずっと、俺自身を望んでくれていた。
そして俺の目は間違っていなかった。この人は本当に子供を……俺達の子を待ち望んでくれていたのだ。
「うん…………うんっ、うん!」
ボロボロと真珠のように零れるこの大粒の涙は、この先もずっと流していたい。
俺はようやく……生まれ変わってからようやく。欲しかった言葉をもらうことができたのだ。
「俺達の赤ちゃんだよ!」
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