【完結】生まれ変わってもΩの俺は二度目の人生でキセキを起こす!

天白

文字の大きさ
上 下
36 / 49
だまらっしゃい!!

しおりを挟む
「……あ~、泣いたぁ」

 起きてからの開口一番。誰もいない寝室のベッドの上で、俺は重い瞼を擦りながらゆっくりと上体を起こした。

 全然目が開かない。何だこれは。瞼がパツパツに腫れ上がっているぞ。

 顔を洗えば少しはマシになるだろうか? 布擦れを立てながら、俺はベッドから床へと脚を下ろした。

 ……ああ、違った。誰もいないことはない。俺は薄い腹に手を添え、自分の家族に挨拶の言葉をかけた。

「おはよう、赤ちゃん」

 返事はもちろん返ってこない。これからどんどん大きくなるのだから、今は少し寂しくても仕方がない。

 本当はまだ眠っていたい。何も考えず、何もせず、ただただ寝転がっていたい。それでも、身体を動かさなくては。

 活動を放棄することは死を選ぶことと同じこと。それは駄目だ。俺は再び生を受けたのだから、何がなんでも生きなければならない。

 それに俺の中には新しい命がある。どれだけ自暴自棄になったとしても、身体は動かし食事も摂る。それがこの身に命を宿す者の責任だ。

 ふと、等身大の鏡が視界に入る。遠目からでもわかったのは、真っ赤に腫れた不細工な自分の顔だった。

「うわぁ、酷ぇ顔……」

 散々泣き喚いたのだから当然か。スマホ向こうの宗佑にも、酷い言葉を浴びせてしまった。

「宗佑に酷いこと、言っちゃったなぁ……」

 ちゃんとした検査もしていないのに、あんなに昂ってしまったのだ。その上、散々訳のわからないことを叫んでしまった。

 宗佑は正しい。不安定な俺に、ただ冷静に対応してくれていただけなのに。俺一人が巣作りをしただけで、勝手に舞い上がってしまった。

 一度、冷静になる必要がある。ひとしきり泣いたのだ。頭を切り替えよう。そして宗佑が帰ったら、もう一度彼と向き合って話し合おう。俺は静かに、頭の中で決心する。

「あ……番を解消されちゃってたら、どうしよう……」

 ふと思い出すのは、つい勢いで言ってしまった番の解消だ。宗佑と番になった時、別段実感はなかったものだが、解消をされた場合は何かしら感じるものがあるのだろうか?

 電話であれだけ酷いことを言ってしまったのだ。性格が温厚な宗佑でも、気分を害して怒ったかもしれない。番を解消しているかもしれない。

 そうなったら……まあ、そうなった時か。残念だけれど。

 ずっと発情期と共に歩む人生になるだけだ。それならもう、経験している。何も恐れることはない。

 そう言い聞かせる反面、俺はベッド上のある物を握り締めていた。

「着流し……?」

 ベッドを改めて見ると、皺くちゃになったシーツの上に宗佑の衣服をこれでもかと置いていた。最初の巣作りをした時に片付けたはずだから、再びこれらを出したことになる。

 覚えはない。しかしこんな時でも、俺は宗佑を求めて泣いていたのか。

「好き、なんだなぁ……」

 誰でもいいはずがない。俺はまだ、こんなにも宗佑を求めているのだから。それなのに、どうしてあんなことを思ってしまったのだろう。

 着流しを握ったまま、俺は布地に鼻先を擦りつけた。

「宗佑……」

 ああ、好きだ。俺が好きなのは宗佑なのに。誰にでも惚れるなんてそんなこと、あるはずがないのに。

「宗佑……うっ、宗佑ぇ……」

 会いたい。宗佑に会いたい。

 俺は彼の着流しを抱き締め、腫れた瞼からポロポロと涙を零した。

 再び泣き散らかした後、時刻は昼に差し掛かろうとしていた。俺は首にチョーカーをつけていることを確認すると、エコバッグと財布、それからスマホを入れたボディバッグを身につけて外に出た。

 顔を冷やしたので少しだけ腫れは引いたものの、細見されれば泣いた後の顔だとはっきりわかる。こういう時、前髪が長いのは便利だ。ヘアピンはしないで目元を髪で隠し、けれども帽子やマスクはつけずに外気に触れた。

 まだ冷たさのある風が今の俺には心地がいい。雲一つない晴天。まさに買い物日和だ。……とは言うものの、本当は家の冷蔵庫や収納庫にはまだまだ食材が入っている。気分的に何か酸っぱいものが食べたかった。これは冷蔵庫にも収納庫にも置いていない…………はい。ダウト。本当は検査薬を買う為だけに外へ出たかっただけだ。

 それに籠ってばかりなのも身体に良くないし、何より心が駄目になってしまう。負の感情が奥底の方から出てしまったせいだな。自我も揺らいでいる気がする。

 しっかりしなくては。まず、俺にできることを、俺がやるべきことを、きちんとやろう。

 改めて宗佑に連絡を取りたいが、スマホを壁に投げつけてしまったせいでディスプレイが壊れてしまった。操作を試みるも、うんともすんとも言わないので、店に行って直してもらわないといけない。ただ契約者が父さんから宗佑へと変わった為、俺が一人で店に行っても直してもらえるかがわからない。

 もし、店で直してもらえなかったら実家に帰って、電話を借りるとしよう。両親にも赤ちゃんの報告をしないといけないし……いや、駄目か。それこそ検査をしてからでないとだ。それに結婚に反対の陸郎にも何と言えばいいか。ああ、それよりもとっくに宗佑の方から番が解消されてるかもしれな……

「っあ~! 駄目だぁ、この頭ぁ……!」

 周囲の目も気にせず、両手でぐしゃぐしゃと頭を掻き回した。頭がグルグルと回ってしまい、全く冷静になれない。ぜんっぜん、働かない。

 どうして俺は宗佑に電話をしてしまったのだろう。彼が帰ってきてから話せば良かったのに。そうすれば、こんなことにならずに済んだのかもしれないのに。

 後悔してももう遅い。後から悔やむから後悔なのだから。

 ただ……

「喜んでもらえると……思ったんだけどな……」

 言いたかったのだ。喜んで欲しかったのだ。一緒に分かち合いたかったのだ。

 そんな経験、一度もしたことがなかったから。

「散歩するか……」

 不安が頭を渦巻くばかりだ。仕方がない。やるべきことを一旦、全て放棄しよう。

 青い空や緑豊かな自然を見ながら少しだけ長く歩いて、街並みや赤の他人、犬や猫など、家の中では見られないものを目にしてみよう。

「ごめんな、赤ちゃん。こんな母さんで……」

 着ているセーター越しに、そっと腹を撫でた。

 何か美味しいものでも買って食べよう。果物の入っているゼリーがいい。公園などの静かな場所でそれを食べて、気持ちをリセットしよう。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王の贄は黒い狐に愛される

コオリ
BL
転生したら、魔王の生贄でした――なんて、そんなの全然笑えない。 魔族が人間を支配する異世界に転生したアロイヴ。神から与えられた称号〈魔王の生贄〉は、アロイヴが世界から死を望まれている証だった。 何年も教会の離れに軟禁され、生贄として殺されるのを待つだけの日々。そんなある日、アロイヴの部屋に一匹の黒い小さな獣が飛び込んでくる。 アロイヴが〈紫紺〉と名付けた獣との出会いから、事態は思わぬほうへと転がっていって――。 魔王の生贄とはなんなのか。 アロイヴがこの世界に転生した理由とは。 教会はいったい何を企んでいるのか。 紫紺の正体とは。 さまざまな謎に振り回されながら、一人と一匹が幸せを掴むまでのお話です。 小さな黒狐(人化あり)×魔王の生贄。 《執着溺愛攻め》×《健気不憫受け》 攻めは最初小さい獣ですが、将来的に受けより大きくなります。 不憫な展開もありますが、最終的には溺愛執着ハッピーエンドです。

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う

hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。 それはビッチングによるものだった。 幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。 国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。 ※不定期更新になります。

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】《BL》溺愛しないで下さい!僕はあなたの弟殿下ではありません!

白雨 音
BL
早くに両親を亡くし、孤児院で育ったテオは、勉強が好きだった為、修道院に入った。 現在二十歳、修道士となり、修道院で静かに暮らしていたが、 ある時、強制的に、第三王子クリストフの影武者にされてしまう。 クリストフは、テオに全てを丸投げし、「世界を見て来る!」と旅に出てしまった。 正体がバレたら、処刑されるかもしれない…必死でクリストフを演じるテオ。 そんなテオに、何かと構って来る、兄殿下の王太子ランベール。 どうやら、兄殿下と弟殿下は、密な関係の様で…??  BL異世界恋愛:短編(全24話) ※魔法要素ありません。※一部18禁(☆印です) 《完結しました》

黒豹拾いました

おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。 大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが… 「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」 そう迫ってくる。おかしいな…? 育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

処理中です...