【完結】生まれ変わってもΩの俺は二度目の人生でキセキを起こす!

天白

文字の大きさ
上 下
31 / 49
俺だけだった?

しおりを挟む
「あら、糠漬け? いい具合に漬けてあるわね~。圭ちゃん、またお料理が上手になったのね」

「やっと俺好みの糠床ができたんだ。後で父さんにも食べさせてあげて」

 二月も終わりに近づき冬の寒さも和らいで来た頃、俺は実家に来ていた。

 新家であるウチはごくごく普通の戸建ての家だ。田井中本家と比べれば土地も小さく、その評価も低い。駅からも近くはないし、決して便利が良いとは言えない立地だが、それでも俺はこの家で十八年間を暮らしてきた。

 宗佑の下に行ってからも時々は帰ってきていた。年始には彼を連れて挨拶に来ている。俊介父さんは言わずもがなで、聡子母さんは初めて目にする宗佑に一瞬でファンになってしまい、俺の番であることを心から祝福してくれた。そして同時に、俺のことをよろしく頼むと頭を下げてくれた。

 いまだ結婚はしていないものの両親はすっかり宗佑を義理の息子として快く迎え入れてくれている。また、俺との関係も以前より良好に築けるようになっていた。

 畢竟するに、俺は幸せの日々を過ごしている。

 ただふらりと立ち寄るだけにしても、実家といえど手ぶらというわけにはいかない。自信作ともいえる俺の漬物を、母さんは喜んで受け取ってくれた。

「ありがとう。じゃあこちらからはこれ! 宗佑さんのお口にも合えばいいけれど」

「わ~、大福だぁ!」

 百貨店か何処かで買ってきただろう上質な包み紙を開いて、母さんは中身を差し出した。中には真っ白な大福が六つもひしめき合うように詰められている。

「この大福はねぇ、中にはっさくが入っているのよ。旬のものだから美味しいと思うわ」

「はっさく!? 美味そう!」

「良ければ今、一個食べていきなさい。お父さん達には内緒よ」

「うん!」

 母さんが淹れてくれたほうじ茶を横に、大きなそれを一つ手に取る。ズシリと重量感のあるそれを、俺はパクリと頬張った。すごい。大福の皮が極薄で、中にはっさくがこれでもかと詰められている。酸味を抑える為の生クリームがまた濃厚かつ甘みも少なく、調和が取れていて絶妙な味だ。つまり美味い。

「ん~美味いぃ……この酸っぱさ、癖になりそ~」

 どちらかというと、柑橘類はそこまで好きな果物ではない。それが最近、自ら進んで酸味のある果物を食べるようになった。あの耳のあたりがツンとなる感じがたまらないのだ。アンコの詰まった大福も好物ではあるが、今はこのはっさく大福の方がより嬉しく感じる。

 目を細めてもぐもぐと大福を堪能する俺を、母さんは向かい側でニコニコと微笑ましそうに見つめていた。

 そして俺が大福をペロリと平らげると、ある一つの質問を俺に向けた。

「ねえ、圭ちゃん。少し気になっていたんだけど……」

「うん?」

「もしかして、赤ちゃんができたんじゃない?」

「えっ!?」

 驚いて母さんを見つめると、彼女は「あら、違った?」と頬に手を当てて首を傾げた。

「じゃあ、充実しているのねぇ。なんだか圭ちゃん、一段と綺麗になったな~って思ったものだから」

 綺麗という単語に俺は首を傾げた。恵ならわかるが、圭介はそういった顔立ちではない。俺は自分の顔をペタペタと触った。自分の容貌の変化に実感はない。強いてあげるなら髪が肩まで伸びたことくらいだ。すっかり前髪も長くなり、家ではピンで留めるようになった。色っぽくていいとかなんとか、宗佑がふざけたことを言うから本心ではばっさりと切ってしまいたいのだが。

「そう、かなぁ……?」

「ええ。宗佑さんとラブラブなのねぇ」

「らっ……そ、そう、そうかなぁっ?」

 ラブラブという単語を母から言われると、とてつもなく恥ずかしい。カアッと赤くなる顔を隠すように、俺は膝に視線を落として俯いた。

 ラブラブ……ラブラブか。ラブラブというより、宗佑が俺を可愛がり過ぎるのだ。どうしてそこまで平凡な俺を可愛いがれるのかわからないくらい、彼は俺を溺愛する。ありがたい気持ちはもちろんある。しかしこうも溺愛されると、すぐに飽きられるのではないだろうか。これで捨てられでもしたら、精神的なダメージは半端なく大きいと思う。

 つい、そんな風に考えてしまうくらい、かくいう俺も宗佑にぞっこんなのだ。ぞっこんという言葉、今の時代は使わないか?

 こんな俺を見て、母さんはきゃっ! と両頬に手を当てた。

「あらやだ。照れちゃって、可愛いわぁ。これなら孫の顔が見られるのも時間の問題ね。もう。陸郎おじーちゃんったら、早く二人の結婚を認めてくれればいいのにねぇ」

 そこである。

 宗佑側はいつでも顔合わせができるし、結婚もばっちこい! という状況らしいのだが、かの陸郎がいまだ首を縦に振ってくれない。あの子曰く、俺のことを好きだという宗佑が信用ならないとのことだ。

 なら、尚更会って彼を見てみればいいじゃないかと話を振るも、それはそれで嫌なようだ。それに結婚したら宗佑が義理の父だとかなんとかブツブツ言っていたから、一番嫌なのはそこだろうな。

 でも、母さんの言う孫に関しては……

「孫は……まだ、少し先かもしれない」

「あら、そうなの?」

「欲しいとは思ってるんだけど、なかなか……」

 そう言って自分の腹に手を当てると、何かを察してくれたのかそれ以上は母さんも突っ込まなかった。

「そうよね。相性もあるだろうし、こればかりは絶対と言えないわよね。ごめんなさいね、急かすようなこと言っちゃって」

 αと交わればほぼ間違いなく、子ができるものと思っていた。でも、宗佑はそれが難しい身体だという。

 理由はいまだはっきりと聞かされていない。言いたくないのだろう。俺も無理に聞きたいわけじゃない。

 今は宗佑と二人きりのこの生活が楽しい。幸せだ。

 そしてここに子ができたらもっともっと幸せになる。ただそれだけのことなのだ。

「俺も宗佑も、すごく望んでいるから。子供ができたら、母さんも抱っこしてあげてね」

「もちろんよ!」

 まだ出会ってから一年と経っていないのだ。諦めるにはとても早い。

 俺の特技は妊娠と出産。それは圭介になった今でも、きっと変わらないはずだ。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

金色の恋と愛とが降ってくる

鳩かなこ
BL
もう18歳になるオメガなのに、鶯原あゆたはまだ発情期の来ていない。 引き取られた富豪のアルファ家系の梅渓家で オメガらしくないあゆたは厄介者扱いされている。 二学期の初めのある日、委員長を務める美化委員会に 転校生だというアルファの一年生・八月一日宮が参加してくれることに。 初のアルファの後輩は初日に遅刻。 やっと顔を出した八月一日宮と出会い頭にぶつかって、あゆたは足に怪我をしてしまう。 転校してきた訳アリ? 一年生のアルファ×幸薄い自覚のない未成熟のオメガのマイペース初恋物語。 オメガバースの世界観ですが、オメガへの差別が社会からなくなりつつある現代が舞台です。 途中主人公がちょっと不憫です。 性描写のあるお話にはタイトルに「*」がついてます。

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

【完結】魔王の贄は黒い狐に愛される

コオリ
BL
転生したら、魔王の生贄でした――なんて、そんなの全然笑えない。 魔族が人間を支配する異世界に転生したアロイヴ。神から与えられた称号〈魔王の生贄〉は、アロイヴが世界から死を望まれている証だった。 何年も教会の離れに軟禁され、生贄として殺されるのを待つだけの日々。そんなある日、アロイヴの部屋に一匹の黒い小さな獣が飛び込んでくる。 アロイヴが〈紫紺〉と名付けた獣との出会いから、事態は思わぬほうへと転がっていって――。 魔王の生贄とはなんなのか。 アロイヴがこの世界に転生した理由とは。 教会はいったい何を企んでいるのか。 紫紺の正体とは。 さまざまな謎に振り回されながら、一人と一匹が幸せを掴むまでのお話です。 小さな黒狐(人化あり)×魔王の生贄。 《執着溺愛攻め》×《健気不憫受け》 攻めは最初小さい獣ですが、将来的に受けより大きくなります。 不憫な展開もありますが、最終的には溺愛執着ハッピーエンドです。

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

黒豹拾いました

おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。 大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが… 「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」 そう迫ってくる。おかしいな…? 育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

【完結】乙女ゲーの悪役モブに転生しました〜処刑は嫌なので真面目に生きてたら何故か公爵令息様に溺愛されてます〜

百日紅
BL
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でしたーー。 最後は処刑される運命の悪役モブ“サミール”に転生した主人公。 死亡ルートを回避するため学園の隅で日陰者ライフを送っていたのに、何故か攻略キャラの一人“ギルバート”に好意を寄せられる。 ※毎日18:30投稿予定

【完結】それでも僕は貴方だけを愛してる 〜大手企業副社長秘書α×不憫訳あり美人子持ちΩの純愛ー

葉月
BL
 オメガバース。  成瀬瑞稀《みずき》は、他の人とは違う容姿に、幼い頃からいじめられていた。  そんな瑞稀を助けてくれたのは、瑞稀の母親が住み込みで働いていたお屋敷の息子、晴人《はると》  瑞稀と晴人との出会いは、瑞稀が5歳、晴人が13歳の頃。  瑞稀は晴人に憧れと恋心をいただいていたが、女手一人、瑞稀を育てていた母親の再婚で晴人と離れ離れになってしまう。 そんな二人は運命のように再会を果たすも、再び別れが訪れ…。 お互いがお互いを想い、すれ違う二人。 二人の気持ちは一つになるのか…。一緒にいられる時間を大切にしていたが、晴人との別れの時が訪れ…。  運命の出会いと別れ、愛する人の幸せを願うがあまりにすれ違いを繰り返し、お互いを愛する気持ちが大きくなっていく。    瑞稀と晴人の出会いから、二人が愛を育み、すれ違いながらもお互いを想い合い…。 イケメン副社長秘書α×健気美人訳あり子連れ清掃派遣社員Ω  20年越しの愛を貫く、一途な純愛です。  二人の幸せを見守っていただけますと、嬉しいです。 そして皆様人気、あの人のスピンオフも書きました😊 よければあの人の幸せも見守ってやってくだい🥹❤️ また、こちらの作品は第11回BL小説大賞コンテストに応募しております。 もし少しでも興味を持っていただけましたら嬉しいです。 よろしくお願いいたします。  

処理中です...