【完結】生まれ変わってもΩの俺は二度目の人生でキセキを起こす!

天白

文字の大きさ
上 下
17 / 49
生まれて初めての…

しおりを挟む
 宗佑は「すぐに慣れるよ」と何でもないように言った。それは宗佑だからでは? と突っ込みたいのを俺は口に出さずに辺りを見渡した。

 チラチラとこちらへ集まる数多の視線。やはり宗佑は周りの人間から注目を浴びる。誰がどう見ても格好いいのだ。そしてその隣にいる俺を見て、「アイツ、Ωかよ」といういかにもな顔をされる。いくら俺が着飾ったところで、首にあるチョーカーが襟元から覗く限り、そのレッテルは外れない。

 昔、正臣と並んで街を歩いた時も皆遠慮がなかった。戦前だったし、Ωに対する風当たりは今よりもキツくて、彼はそんな俺からおちおち離れることもできなかったと思う。以後、必要時以外は彼と出歩かなくなった。元々、俺はインドア派だ。外より中で本を読んでいる方が何倍も好きだった。

 正直なところ、今も外ではなく屋内に入りたい。宗佑と二人きりならともかく、見せ物にはなりたくない。

 何より宗佑を、Ωの俺と一緒にさせたくなかった。

「圭介。ちょうどそこの百貨店でアクアリウムがあるみたいだから、一緒に観てみないか?」

「アクアリウム? ……って、魚とかクラゲとかがいる、あのアクアリウムだよね?」

「そう。時期外れだけれど、金魚が見られるらしいよ」

 ふいにかけられた宗佑の提案に、俺は頷いた。

 信号交差点を渡ってしばらく歩いた先に、有名百貨店が堂々と佇んでおり、俺達はその中の南館催会場へと向かった。

 ワンフロアを貸し切って開いている大型アクアリウムらしく、入ってすぐの受付でチケットを購入した。スーツ同様、これもまた宗佑が支払ってくれた。そしてこの時、スタッフさんが宗佑に何かを耳打ちするも、彼が一つ頷いたことでそれは終わった。何だろう?

 気になりつつも宗佑と一緒に入場すると、そこはまるで異空間。暗澹とした室内で宝石のように光輝く水槽の世界が広がっていた。

「うわぁ……!」

 思わず漏れる自身の声にも気づかず、俺は宗佑と共に一歩、また一歩と吸い込まれていく。

 泳いでいるのは名前も知らない金魚達。様々な種類の色鮮やかな彼らに、水槽のイルミネーションが合わさってまさに幻想的な空間だった。

 思わず、俺は子供のようにはしゃぎ、宗佑の手を引っ張った。

「宗佑っ、あれ見て! すごく綺麗だよ!」

「ああ。クスッ……本当だ」

 そんな俺を見て、宗佑は小さく笑った。しまった! マナーが悪かったかも……。

 俺は周りを見つつ、宗佑から手を離し口元を抑えた。

「ご、ごめん。子供みたいで……」

「ふふっ。ゆっくり観ようか」

 謝ると、宗佑は俺の手を取って互いの指を絡めるように繋いでくれた。

 初めての繋ぎ方に俺はドキッとする。親ともこんな風に繋いだことはないし、正臣とだってしたことがない。

 こんな風に手を繋げるのか……。

 それは少しだけ恥ずかしくて、でも少しだけ特別感を味わえて。

「えへへ」

 生まれて初めてのデートは、楽しくて楽しくて堪らなかった。

 エリア毎で宗佑と話しながらゆっくり鑑賞していると、あっという間に一時間が経っていた。

 メインの水槽前にある長椅子に並んで座ると、お腹が空いたねと宗佑が言った。もちろん、手は繋いだままで。

「圭介は何が食べたい?」

「うーん……洋食かなぁ」

 家で作るものは何かと和食が多い。パスタとか食べたいかも、と伝えると宗佑が近くのおすすめのお店に連れていってくれると言った。

 今からだと店内が混み合ってないだろうか? という心配もあったが、それよりもこのスーツで店に入ることに戸惑いがある。一応、宗佑に確認した。

「この格好で?」

「もちろん」

「浮かないかな、俺……」

「どうして?」

 不思議そうに尋ねる宗佑に、俺は自分の襟元に指を引っかけると、チョーカーを見せながら不安を口にした。

「今更だけど、こんな一等地……Ωが気安く入れる場所じゃないよ。俺を好まない人も多いだろうし、着飾っても俺の性別は変えられない。抑制剤は飲んでいるけれど、もしかしたら周りに迷惑をかけるかもしれない。それに……」

 ぎゅっと、繋いだままの手に力がこもる。

 平日だからなのか、人混みは少ないアクアリウム内でも、宗佑は注目を浴びていた。彼がαであることも大きいだろうけど、その隣にいるのが平凡なΩだ。

『もっとマシなのがいるだろうに……』

 そんな言葉が実際に聞こえたのだから、当然宗佑の耳にも入ったことだろう。

 俺のことはいい。恵の時から慣れているし、卑下されて今さら怒ることも悲しむこともない。しかし、そのせいで宗佑を悪く言われたくはない。嫌な思いもして欲しくない。

 宗佑は本当に、素晴らしい人なのだから。

「優しいんだな、圭介は」

「優、しい?」

 宗佑の口から出た意外な言葉に、俺は彼を見上げる。すると、宗佑は照れたように告白した。

「正直に言うと、私は今の君を見せびらかしたくて堪らないんだよ」

「俺を? どうして?」

 尋ねると、宗佑はお世辞でも何でもなく、俺を見つめたまま当然のように言った。

「こんなに素敵な人が傍にいるんだ。自慢するなという方が無理な話だよ」

 それを聞いて、ボッと顔が赤くなった。慌てて空いている方の手でその顔を隠すももう遅い。

 なんてことを言うのだ。宗佑のその言葉は俺にとって……

「……っ、宗佑。そ、それは言い過ぎ……だと、思う……」

 やっぱり身内の贔屓目だ。俺が素敵だなどと、そんな嬉しい言葉をかけてくれるなど……。

 二度目のΩ人生、精一杯楽しんで生きてやろうと思っていた。

 でも、そんな意気込みがなくとも、今の俺はあの頃よりも断然に恵まれているのだ。

「圭介」

「……っ、ん……」

 握っている手を持ち上げられ、その甲に触れるだけのキスを落とされた。

 ああ、なんて幸せなのだろう。

 正臣に抱いていたものとは異なるもの。宗佑へと抱く気持ちが、だんだんと膨らんでいった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王の贄は黒い狐に愛される

コオリ
BL
転生したら、魔王の生贄でした――なんて、そんなの全然笑えない。 魔族が人間を支配する異世界に転生したアロイヴ。神から与えられた称号〈魔王の生贄〉は、アロイヴが世界から死を望まれている証だった。 何年も教会の離れに軟禁され、生贄として殺されるのを待つだけの日々。そんなある日、アロイヴの部屋に一匹の黒い小さな獣が飛び込んでくる。 アロイヴが〈紫紺〉と名付けた獣との出会いから、事態は思わぬほうへと転がっていって――。 魔王の生贄とはなんなのか。 アロイヴがこの世界に転生した理由とは。 教会はいったい何を企んでいるのか。 紫紺の正体とは。 さまざまな謎に振り回されながら、一人と一匹が幸せを掴むまでのお話です。 小さな黒狐(人化あり)×魔王の生贄。 《執着溺愛攻め》×《健気不憫受け》 攻めは最初小さい獣ですが、将来的に受けより大きくなります。 不憫な展開もありますが、最終的には溺愛執着ハッピーエンドです。

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う

hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。 それはビッチングによるものだった。 幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。 国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。 ※不定期更新になります。

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】《BL》溺愛しないで下さい!僕はあなたの弟殿下ではありません!

白雨 音
BL
早くに両親を亡くし、孤児院で育ったテオは、勉強が好きだった為、修道院に入った。 現在二十歳、修道士となり、修道院で静かに暮らしていたが、 ある時、強制的に、第三王子クリストフの影武者にされてしまう。 クリストフは、テオに全てを丸投げし、「世界を見て来る!」と旅に出てしまった。 正体がバレたら、処刑されるかもしれない…必死でクリストフを演じるテオ。 そんなテオに、何かと構って来る、兄殿下の王太子ランベール。 どうやら、兄殿下と弟殿下は、密な関係の様で…??  BL異世界恋愛:短編(全24話) ※魔法要素ありません。※一部18禁(☆印です) 《完結しました》

黒豹拾いました

おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。 大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが… 「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」 そう迫ってくる。おかしいな…? 育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

処理中です...