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俺の特技は子作りです
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「どうした? 圭介」
しかもこの声。顔も骨格も正臣に似ているからか、声まであの人とそっくりだ。低音で腰に響くようなバリトンにどうしてもときめいてしまう。
セックス時にピコピコと動く耳を何度か咥えてしまったけれど、性感帯なのか甘噛みする度に艶かしく漏らす吐息が扇情的で、それだけで何度か達してしまった。
『はあっ……ケイ……』
駄目だ。思い出すとまた発情しそうになる。二度目とはいえこの身体がもう嫌だ。
「だ、だいじょうぶ、です……」
プルプルと震えながら俺は里中さんの前に手を翳し、首を縦に振った。
ポケットから抑制剤を取り出して、一錠口に放り込む。それを目にして、里中さんも察してくれたらしい。それ以上は突っ込まず、逆に気遣ってくれた。
「これから君は定期的に発情するだろう。私のことが気になるだろうが、薬で治まらなければ好きに使ってくれて構わない」
「里中さん……」
「発情は君のせいじゃない。それが元で蔑視されてしまうのだろうが、それも含めて私は君を受け入れる。君さえ嫌でなければ、番になることも……」
番と聞いて、俺は首元に手を宛がった。発情の時、俺は里中さんに直接噛まれていない。つまりまだ、番の契りは結んでいないということだ。
それを果たしてしまえば、俺はこの人から逃れることはできなくなる。この人から番を解消し、俺を捨てることはできても俺の方からそれを成すことはできない。
いくら里中さんが良い人であっても、こればかりは慎重にならざるを得ない。
捨てられるΩの末路は悲惨だ。昔、目にしたことがある。恵の時に、何度もだ。
愛しい相手と番になることができれば、Ωにとってそれ以上に幸せなこともないのだろう。しかし、Ωがそんな相手と出会える確率はほぼ無いに等しい。
人権を無視され、無理やり番にさせられる場合なら多々あった。そしてそんなΩほど、老いていけばすぐに捨てられてしまう。あれほど惨めで辛いものはない。
里中さんはそれを知ってなのか、俺に選択権を与えてくれる。正直、この対応はとてもありがたかった。
ならば、これも受け入れてくれるだろうか? 俺は自分の下腹部に手を当てながら、里中さんを見つめた。
「それでは、もしも俺に子供ができたら……里中さんはそれも受け入れて、くれますか?」
たとえ番になることは受け入れてくれたとしても、妊娠はどうだろう? 捨てられるΩの最たる理由がそれなのだ。
β相手ならともかく、αとの性交はほぼ百パーセントの確率で妊娠する。何故なら、αには男性器の付け根にノットと呼ばれるコブがある。相手を確実に妊娠させる為、αだけに備わっているものだ。里中さんの性器にもそれはあったし、実際彼の射精が治まるまで俺から性器は全く抜けなかった。
もしかしたら、すでに妊娠しているのかもしれない。番になる前に致すことはちゃっかり致しておいて、今更確認するのも何だという話だけれども。
しかし俺のこの様子を見た里中さんは、カッと目を見開いて向かい側に座る俺の両手を取ると、前のめりになって尋ねた。
「まさか、腹に赤ん坊が!?」
「いえっ、まだです!!」
迫力に負けて俺は思わず大声で即答した。この身体に五日もかけて里中さんの精子が注がれたのだから、妊娠の可能性は高いけれど……でも、そんなに驚くことなのか?
飛び出さんばかりに鳴り出す心臓を抑えたくて里中さんから手を引き抜くと、彼もまた冷静になったのかあっさりと手を離し、浮いた尻をソファへと落ちつけた。
「ああ、すまない……早とちりをしてしまった」
「だ、大丈夫です」
びっくりしたぁ。これが狼バージョンだったら、心臓麻痺でポックリ死んでいたかもしれない。
俺は自身を落ちつかせようと少しだけ冷めたコーヒーカップを手に取り、勢いをつけて飲み干した。あ~、美味い。
コーヒーの美味さに幾分か落ちついた俺は再び里中さんを見ると、彼は頤に手を当てながら何かを考えているようだった。そして俺の視線に気がつくと、頬を桜色に染めながら今日一番の笑顔を浮かべてみせた。
「もしも父親になれるのだとしたら……この上なく嬉しいな」
ドクン、と俺の心臓が一層高鳴った。びっくりした。さっきから心臓が騒がしいけれど、今のは一段とびっくりしたぞ。
まだまだ死ぬには若すぎる。頼むから、もうちょいタフであってくれよ、俺の心臓!
俺は静かに深呼吸をした。もちろん、心臓を落ちつかせるべくだ。
でも、里中さんが浮かべた笑顔の意味を知って、内心とても嬉しい。
この笑顔は過去に見たことがある。これは心から子供を望んでいる人の顔だ。道具目的でも後継ぎでもなく、ただただ新しい命を望む人の表情だ。
子供は可愛いからな。望む気持ちは大いにわかる。育児は大変ではあるが、それ以上に得るものがあるのも確かだ。前世で恵を逞しい母に育ててくれたのは他ならない我が子達だった。
そうか。里中さんは子供が欲しいのか。それは再びΩに生まれた俺が唯一、この人にしてあげられることだろう。他じゃ役に立たないかもしれないけれど、子供なら……
「だが、きっと無理だろう……」
「え?」
密かに意気込む俺を他所に、里中さんはポツリと呟いた。
思わず聞き返す俺に、里中さんはどこか物憂げに苦笑した。
「私は……子を望めない身体なんだ」
「子を……望めない?」
何故? どうして? αなのに? あんなに俺とパコパコヤったのに?
言っている意味がわからない。そんな疑問が顔に出ていたのだろう。里中さんは落ち着いた声音で言葉を続けた。
「私はαだけど、子を成しにくいとされている。もしかしたら奇跡が起きるかもしれないが、おそらくは……」
「そんな……」
二の句が継げなかった。そんなことがあるのか? 子供を望みもしないαはポコポコと相手を孕ますというのに、子供を心から望んでいる人にはそれが成せないなんて……
まだ出会って間もないこの人のことを、俺は全て知っているわけじゃない。でも、彼が見せた笑顔の理由だけは知っている。
里中さんは心から、新しい命を望んでいる。いつか恵との子供が欲しいと願ってくれた、あの正臣が浮かべた笑顔と同じなのだから。
「……っ、……わ……」
「わ?」
「わかりましたっ! 俺、頑張ります!」
今度は俺が里中さんの手を取り握りしめた。尻を浮かせて前のめりになる俺に、里中さんはきょとんと目を丸くさせた。
「俺も発情期を迎えたばかりです! この身体が妊娠しやすいのかどうかはわかりません! ですが、俺はΩとして生を受けました。貴方と出会い、ここにいることには何らかの意味がきっとあるはずです!」
「け、圭介?」
「俺の特技は子作りです!」
俺は田井中圭介。Ω。そして前世では六人の子供を授かった男だ。
妊娠と出産は任せておけ!
しかもこの声。顔も骨格も正臣に似ているからか、声まであの人とそっくりだ。低音で腰に響くようなバリトンにどうしてもときめいてしまう。
セックス時にピコピコと動く耳を何度か咥えてしまったけれど、性感帯なのか甘噛みする度に艶かしく漏らす吐息が扇情的で、それだけで何度か達してしまった。
『はあっ……ケイ……』
駄目だ。思い出すとまた発情しそうになる。二度目とはいえこの身体がもう嫌だ。
「だ、だいじょうぶ、です……」
プルプルと震えながら俺は里中さんの前に手を翳し、首を縦に振った。
ポケットから抑制剤を取り出して、一錠口に放り込む。それを目にして、里中さんも察してくれたらしい。それ以上は突っ込まず、逆に気遣ってくれた。
「これから君は定期的に発情するだろう。私のことが気になるだろうが、薬で治まらなければ好きに使ってくれて構わない」
「里中さん……」
「発情は君のせいじゃない。それが元で蔑視されてしまうのだろうが、それも含めて私は君を受け入れる。君さえ嫌でなければ、番になることも……」
番と聞いて、俺は首元に手を宛がった。発情の時、俺は里中さんに直接噛まれていない。つまりまだ、番の契りは結んでいないということだ。
それを果たしてしまえば、俺はこの人から逃れることはできなくなる。この人から番を解消し、俺を捨てることはできても俺の方からそれを成すことはできない。
いくら里中さんが良い人であっても、こればかりは慎重にならざるを得ない。
捨てられるΩの末路は悲惨だ。昔、目にしたことがある。恵の時に、何度もだ。
愛しい相手と番になることができれば、Ωにとってそれ以上に幸せなこともないのだろう。しかし、Ωがそんな相手と出会える確率はほぼ無いに等しい。
人権を無視され、無理やり番にさせられる場合なら多々あった。そしてそんなΩほど、老いていけばすぐに捨てられてしまう。あれほど惨めで辛いものはない。
里中さんはそれを知ってなのか、俺に選択権を与えてくれる。正直、この対応はとてもありがたかった。
ならば、これも受け入れてくれるだろうか? 俺は自分の下腹部に手を当てながら、里中さんを見つめた。
「それでは、もしも俺に子供ができたら……里中さんはそれも受け入れて、くれますか?」
たとえ番になることは受け入れてくれたとしても、妊娠はどうだろう? 捨てられるΩの最たる理由がそれなのだ。
β相手ならともかく、αとの性交はほぼ百パーセントの確率で妊娠する。何故なら、αには男性器の付け根にノットと呼ばれるコブがある。相手を確実に妊娠させる為、αだけに備わっているものだ。里中さんの性器にもそれはあったし、実際彼の射精が治まるまで俺から性器は全く抜けなかった。
もしかしたら、すでに妊娠しているのかもしれない。番になる前に致すことはちゃっかり致しておいて、今更確認するのも何だという話だけれども。
しかし俺のこの様子を見た里中さんは、カッと目を見開いて向かい側に座る俺の両手を取ると、前のめりになって尋ねた。
「まさか、腹に赤ん坊が!?」
「いえっ、まだです!!」
迫力に負けて俺は思わず大声で即答した。この身体に五日もかけて里中さんの精子が注がれたのだから、妊娠の可能性は高いけれど……でも、そんなに驚くことなのか?
飛び出さんばかりに鳴り出す心臓を抑えたくて里中さんから手を引き抜くと、彼もまた冷静になったのかあっさりと手を離し、浮いた尻をソファへと落ちつけた。
「ああ、すまない……早とちりをしてしまった」
「だ、大丈夫です」
びっくりしたぁ。これが狼バージョンだったら、心臓麻痺でポックリ死んでいたかもしれない。
俺は自身を落ちつかせようと少しだけ冷めたコーヒーカップを手に取り、勢いをつけて飲み干した。あ~、美味い。
コーヒーの美味さに幾分か落ちついた俺は再び里中さんを見ると、彼は頤に手を当てながら何かを考えているようだった。そして俺の視線に気がつくと、頬を桜色に染めながら今日一番の笑顔を浮かべてみせた。
「もしも父親になれるのだとしたら……この上なく嬉しいな」
ドクン、と俺の心臓が一層高鳴った。びっくりした。さっきから心臓が騒がしいけれど、今のは一段とびっくりしたぞ。
まだまだ死ぬには若すぎる。頼むから、もうちょいタフであってくれよ、俺の心臓!
俺は静かに深呼吸をした。もちろん、心臓を落ちつかせるべくだ。
でも、里中さんが浮かべた笑顔の意味を知って、内心とても嬉しい。
この笑顔は過去に見たことがある。これは心から子供を望んでいる人の顔だ。道具目的でも後継ぎでもなく、ただただ新しい命を望む人の表情だ。
子供は可愛いからな。望む気持ちは大いにわかる。育児は大変ではあるが、それ以上に得るものがあるのも確かだ。前世で恵を逞しい母に育ててくれたのは他ならない我が子達だった。
そうか。里中さんは子供が欲しいのか。それは再びΩに生まれた俺が唯一、この人にしてあげられることだろう。他じゃ役に立たないかもしれないけれど、子供なら……
「だが、きっと無理だろう……」
「え?」
密かに意気込む俺を他所に、里中さんはポツリと呟いた。
思わず聞き返す俺に、里中さんはどこか物憂げに苦笑した。
「私は……子を望めない身体なんだ」
「子を……望めない?」
何故? どうして? αなのに? あんなに俺とパコパコヤったのに?
言っている意味がわからない。そんな疑問が顔に出ていたのだろう。里中さんは落ち着いた声音で言葉を続けた。
「私はαだけど、子を成しにくいとされている。もしかしたら奇跡が起きるかもしれないが、おそらくは……」
「そんな……」
二の句が継げなかった。そんなことがあるのか? 子供を望みもしないαはポコポコと相手を孕ますというのに、子供を心から望んでいる人にはそれが成せないなんて……
まだ出会って間もないこの人のことを、俺は全て知っているわけじゃない。でも、彼が見せた笑顔の理由だけは知っている。
里中さんは心から、新しい命を望んでいる。いつか恵との子供が欲しいと願ってくれた、あの正臣が浮かべた笑顔と同じなのだから。
「……っ、……わ……」
「わ?」
「わかりましたっ! 俺、頑張ります!」
今度は俺が里中さんの手を取り握りしめた。尻を浮かせて前のめりになる俺に、里中さんはきょとんと目を丸くさせた。
「俺も発情期を迎えたばかりです! この身体が妊娠しやすいのかどうかはわかりません! ですが、俺はΩとして生を受けました。貴方と出会い、ここにいることには何らかの意味がきっとあるはずです!」
「け、圭介?」
「俺の特技は子作りです!」
俺は田井中圭介。Ω。そして前世では六人の子供を授かった男だ。
妊娠と出産は任せておけ!
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