【完結】生まれ変わってもΩの俺は二度目の人生でキセキを起こす!

天白

文字の大きさ
上 下
5 / 49
狼の里中宗佑さん

しおりを挟む
 それにしてもこの部屋、とてもいい匂いがする。爽やかさがありつつも、仄かに甘みを帯びるそれは里中さんが身体につけていた香水と同じ香りだ。顔は怖いと感じるのに、この匂いは緊張で張り詰めた俺の気持ちを幾分も和らげた。何という香りなのだろう。香水やコロンの類に明るくないから説明しようにも抽象的な表現しかできない。加えて人の温かみも感じられる。きっと里中さん自身の匂いとも、相性がいいのだろう。

 今、座っているソファのクッションからも香りがより強く感じられる。なるほど。人が住んでいれば家具にもそれが染みつくのか。里中さんの家なのだから、クッションの一つや二つに匂いがついていてもおかしくはない。

 俺はおもむろにクッションを手に取ると、ごく自然にそれを自身の鼻先へ擦りつけた。人様のお宅に上がり込んで真っ先にやることがこれとは……俺は見境ない匂いフェチだったらしい。里中さんへの非礼を反省するつもりが、本人がいない隙にこの甘美な香りにうつつを抜かすなど、人としてあるまじき行為だ。

 しかし何故だろう。この行為を止められない。俺はこの馥郁とした男の残り香に骨抜きにされてしまっている。

「ん、はぁ……好、き……」

 漏れた声が自分のものだと気がつかないまま、俺はクッションを抱きかかえてうっとりとそれを見つめる。好き? このクッションが? 形が特別良いというわけでも、抱き心地が格別だというわけでもなく、どこにでも目にするようなしかし質の良いそれに、どうして俺は見惚れてしまっているのだろう?

 だんだんと思考が蕩けていくような感覚に陥る。何だろう、これは。久々ですっかり忘れてしまっているが、昔これと似たような感覚にずっと苛まれてきた気がする。

 途端にズクン、と下肢が熱くなった。下肢、というよりは身体の中心。臍の下の股間とその奥が、じんわりと熱を帯び始めたのだ。

「はあっ……」

 人様の匂いを嗅いで身体が発熱するなど、どうかしている。しかし右手は自然とボトムのベルトを解いていき、前を開けて露出させた自身の陰茎をこの手に包みこんだ。嫌だな。硬くなっているじゃないか…………え? 硬く、なっている?

「はあ……ん、はあっ……あ……」

 熱を帯びてから苦しさが増していく俺の身体。モゾモゾと動いて自分の楽な体勢を探すも、それが何かわからない。

 落ち着け。落ち着くんだ、俺。これは以前にも経験している。いや、この身体では初めてのことだが、俺はこの感覚を知っている。懐かしくも、あまり思い出したくはない、この感覚を。

 そうだ。これは病気ではない。人目を憚ることなく他人の匂いを嗅ぎ、身体が勝手に欲情してしまうこれは、まさしくあれだ。いや、あれしかない。

 発情期だ。

「はあっ……う、うぅ……」

 おいおい、嘘だろう? αの家に来て早々、このような状態になってしまうなど。そろそろ来るとは思っていたが、まさかこのタイミングで? 粗相がないように、あらかじめ抑制剤を飲んできたというのに、この時代の薬も効かないのか?

 いくら俺がΩだと知られているとはいえ、あんまりだ。ことごとく人としての尊厳を踏みにじる己の性に腹が立つ。

 それも里中さんを怒らせておきながら、謝りもせずに勝手に発情するΩなど、最悪もいいところ。これでは田井中へ戻るのも時間の問題だ。あれだけの啖呵を切って家を出たというのに、喜ぶ陸郎の顔が容易に浮かぶぞ。

 ……なんて、頭の片隅で思っていても、発情した身体は治まらない。俺は反り立つ陰茎をぎこちなくも上下に扱き始めた。

「んぁ……ふ、ぅ……」

 ああ、もう。身に着けている服が邪魔だ。後ろも弄りたい。すでに秘部から粘液が溢れ始めて、下着が湿ってしまっている。気持ちが悪い。身体が火照って堪らない。目の前が霞んで、頭は脳が蕩けるようだ。

 何も考えられない。ただぐちゃぐちゃに、俺の身体を犯して欲しい。

「はあ……はあっ……まさ、おみ……」

 この口はかつての男の名前を呼んでいた。もう正臣はいないというのに、無性に会いたくて会いたくて堪らない。急に思い出したからだろうか。こんなのじゃ足りない。気が狂いそうだ。

 正臣の感触を確かめたい。正臣の体温を感じたい。正臣の匂いを楽しみたい。

 正臣……どうして俺を置いていっちゃったんだよ、正臣いっ……!

「んっ、ぅ……んんっ!?」

 ソファの上で、苦しみながら喘ぐ俺に突然大きな何かが被さった。何だ? と見上げようにも、溢れる涙で前が見えない。

 混乱する中、俺の唇に柔らかい何かが触れた。これまた何だ? と思うのと同時に、温かいそれは擽るように俺の唇を蹂躙する。

「ん……んん、ぅ……」

 何だろう、この感触は。初めて受けるものなのに、俺はこれを知っている気がする。

 湿ったものが口の中へと侵入し、蛇のように俺の舌へと絡みついた。同時にザラリとした感触が柔らかく吸いつくからか、とても気持ちがいい。

「んぁ……あ、ん……」

 ちゅくちゅくと唇を吸われつつ、まるで舌を食べるように何かに貪られる。僅かに開く唇の隙間から酸素を取り込み呼吸をするも、絶え絶えなこの苦しい感じが気持ちいい。

 ああ、俺をもっと食べて……。

 目の前にある何かに腕を伸ばすと、それはいいよと俺を受け入れる。指の先がそれに触れると、滑らかな人の肌を感じた。

 俺は今、キスをされているのか。

 ようやくその行為の内容がわかると、俺は本能のままその人を引き寄せ、深い深いキスを繰り返した。覆い被さるその人は拒むことなく俺の我が儘に付き合ってくれた。

 新たに目に浮かんだ涙が瞬きと共にポロポロと零れた。まだなお、潤み霞む視界だが、俺とキスをする相手の顔が少しだけ鮮明になった。

「ん……まさ……おみ……?」

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

金色の恋と愛とが降ってくる

鳩かなこ
BL
もう18歳になるオメガなのに、鶯原あゆたはまだ発情期の来ていない。 引き取られた富豪のアルファ家系の梅渓家で オメガらしくないあゆたは厄介者扱いされている。 二学期の初めのある日、委員長を務める美化委員会に 転校生だというアルファの一年生・八月一日宮が参加してくれることに。 初のアルファの後輩は初日に遅刻。 やっと顔を出した八月一日宮と出会い頭にぶつかって、あゆたは足に怪我をしてしまう。 転校してきた訳アリ? 一年生のアルファ×幸薄い自覚のない未成熟のオメガのマイペース初恋物語。 オメガバースの世界観ですが、オメガへの差別が社会からなくなりつつある現代が舞台です。 途中主人公がちょっと不憫です。 性描写のあるお話にはタイトルに「*」がついてます。

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

【完結】魔王の贄は黒い狐に愛される

コオリ
BL
転生したら、魔王の生贄でした――なんて、そんなの全然笑えない。 魔族が人間を支配する異世界に転生したアロイヴ。神から与えられた称号〈魔王の生贄〉は、アロイヴが世界から死を望まれている証だった。 何年も教会の離れに軟禁され、生贄として殺されるのを待つだけの日々。そんなある日、アロイヴの部屋に一匹の黒い小さな獣が飛び込んでくる。 アロイヴが〈紫紺〉と名付けた獣との出会いから、事態は思わぬほうへと転がっていって――。 魔王の生贄とはなんなのか。 アロイヴがこの世界に転生した理由とは。 教会はいったい何を企んでいるのか。 紫紺の正体とは。 さまざまな謎に振り回されながら、一人と一匹が幸せを掴むまでのお話です。 小さな黒狐(人化あり)×魔王の生贄。 《執着溺愛攻め》×《健気不憫受け》 攻めは最初小さい獣ですが、将来的に受けより大きくなります。 不憫な展開もありますが、最終的には溺愛執着ハッピーエンドです。

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

黒豹拾いました

おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。 大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが… 「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」 そう迫ってくる。おかしいな…? 育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

【完結】乙女ゲーの悪役モブに転生しました〜処刑は嫌なので真面目に生きてたら何故か公爵令息様に溺愛されてます〜

百日紅
BL
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でしたーー。 最後は処刑される運命の悪役モブ“サミール”に転生した主人公。 死亡ルートを回避するため学園の隅で日陰者ライフを送っていたのに、何故か攻略キャラの一人“ギルバート”に好意を寄せられる。 ※毎日18:30投稿予定

【完結】それでも僕は貴方だけを愛してる 〜大手企業副社長秘書α×不憫訳あり美人子持ちΩの純愛ー

葉月
BL
 オメガバース。  成瀬瑞稀《みずき》は、他の人とは違う容姿に、幼い頃からいじめられていた。  そんな瑞稀を助けてくれたのは、瑞稀の母親が住み込みで働いていたお屋敷の息子、晴人《はると》  瑞稀と晴人との出会いは、瑞稀が5歳、晴人が13歳の頃。  瑞稀は晴人に憧れと恋心をいただいていたが、女手一人、瑞稀を育てていた母親の再婚で晴人と離れ離れになってしまう。 そんな二人は運命のように再会を果たすも、再び別れが訪れ…。 お互いがお互いを想い、すれ違う二人。 二人の気持ちは一つになるのか…。一緒にいられる時間を大切にしていたが、晴人との別れの時が訪れ…。  運命の出会いと別れ、愛する人の幸せを願うがあまりにすれ違いを繰り返し、お互いを愛する気持ちが大きくなっていく。    瑞稀と晴人の出会いから、二人が愛を育み、すれ違いながらもお互いを想い合い…。 イケメン副社長秘書α×健気美人訳あり子連れ清掃派遣社員Ω  20年越しの愛を貫く、一途な純愛です。  二人の幸せを見守っていただけますと、嬉しいです。 そして皆様人気、あの人のスピンオフも書きました😊 よければあの人の幸せも見守ってやってくだい🥹❤️ また、こちらの作品は第11回BL小説大賞コンテストに応募しております。 もし少しでも興味を持っていただけましたら嬉しいです。 よろしくお願いいたします。  

処理中です...