【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます

天白

文字の大きさ
上 下
91 / 241
ドキドキ? 学園生活♪ 【葉月 side】

しおりを挟む
 ――――…




 あっぶね~。登校初日で遅刻するところだった。

 門までが若干下り坂で助かったなぁ。滑り込み……いや、飛び込みセーフだわ。

 あ、でも飛び込む直前に後ろから腰をぎゅっとされたのは、ちょこっとラッキー……ん、いやいや。そうじゃなくて、大丈夫だったかな?

 俺は振り返ることなく、チャリを漕いだまま。後ろに乗せてる同級生に声をかけた。

「大丈夫~? 舌噛んでない? ケツは無事?」

 飛ばす直前に合図はしたけど、タイミングが合ってなかったらケツを痛めかねない。俺の愛しい人のケツは俺なんかより皮膚も薄くて柔いから、さっきの衝撃で叩きつけられたりなんかしたらすんげー痛いわ。もしそうだとしたらすんげー悪いことしたわ、俺。

 でも……。

「だいじょうぶだよっ! それにしても、すっごい飛んだね~。門番の人たち、葉月の飛び込みにびっくりしてたよ!」

 俺の飛び込みに感心している。若干、興奮気味に喋るところがすんげぇ可愛い。まじ天使。

 ま、俺の愛して止まない柳のことだから。こんな飛び込みくらい余裕っしょ。

「降りようか? もう校舎内みたいだし」

「い~よ。チャリ置き場まで漕いでく」

 もうちょっとぎゅっとされていたいし。

「ありがとう。……あ、ねぇねぇ葉月っ! あの天幕ってなんだろうっ!? 売店かなっ!」

「ん~? ん~……かもね」

 そっからはゆっくりと漕ぎながら駐輪場を目指していると、すでに校舎内だというのにその馬鹿広いグラウンドでは何やら売店のような天幕がいくつも設置してあって、同じ制服を着た野郎たちが群がっていた。

 おい。さっき予鈴って鳴ったよな?

 そんな疑問を抱えたのは俺だけなのか、後の柳はきょろきょろと辺りを見渡して、興奮気味に校舎内の感想を口にし出した。

「すっごいね、葉月っ! これが男子校なんだね!」

「そう? 野郎ばっかでむさいだけじゃない。柳は別だけど」

「本当に女の子がいないんだね。でも、あそこできゃーきゃー言ってる子たち、女の子の制服着ても違和感なさそうだね。きゃーきゃー言ってても可愛く感じるね」

「そう? きゃーきゃー言う野郎なんてなよなよしてて女々しいだけじゃない。柳は別だけど」

「わぁ! あそこでブロマイドも売ってるよ! たくさんの子たちが買ってるねぇ。あ、会長が一番人気みたいだよ」

「そう? ちょっとスタイルが良くて、ちょっと顔が整ってるってだけの写真で金取るの? 俺だったら絶対買わないわ。柳は別だけど」

 ホントに大丈夫かよこの学校……まぁ、柳が楽しそうだからいいけどさ。疑惑抱いたら負けなんだろうし。

「あ、葉月っ! 自転車置き場、あそこみたい」

「ん」

 ずらりとチャリが並んでる僅かな隙間に自分のチャリを捻じ込み、駐輪する。こんだけ広い敷地だから、寮生といえどチャリくらい持つわな。鍵を掛けると、隣のチャリが倒れそうになっていた。当然、その向こう側にもチャリが並んでいるわけなんだが。

 あ。これ、ドミノになるわ。

 この事態に気づかず、校舎側を見渡している柳を連れ、俺はその場からそそくさと立ち去ることにした。駐輪場に目が行かないよう、でかい俺の図体でカバーしながら、柳の両耳を塞いだ。

「どうして耳を塞ぐの?」

「ん~? 柳の耳があったかいから、かな」

「そっか。……? なんかすごい音、聞こえない?」

「気のせい。気のせい」

 背後から阿鼻叫喚のような叫びが聞こえてきたけど、まぁ大丈夫だろ。それよりも、柳の耳たぶってぷにぷにしてるな。ほんと、中学ん時から変わんねぇな。今度噛ませてもらえねぇかな。

 そうして校舎内に入ると、まずは下駄箱を捜した。前に学校側から二年生の下駄箱まで案内はしてもらったけど、その時はまだ俺と柳の下駄箱はなかったんだよな。一つ一つがロッカー形式になってるから、それぞれに個人の名前が割り振られている。え~と、確かAクラスだから……ああ、ここだな。

 ……ん? あ~。なるほどね。だから鍵付きなわけか。

 たかが下駄箱。なのに、俺らは鍵を渡されていた。その理由が、わからんでもない。ちゃっと学校指定の上靴に履き替えると、柳と二人で校舎内廊下を歩き、まずは職員室を目指した。

 本校舎とは別にある委員会用限定校舎、その中に職員室が併設されている。特に用件がない場合は入れないというそこは、本校舎から連絡通路があった。ただ一つの通路だが、その周りには不思議と生徒がいない。いや、紫の腕章をしている生徒が二人程いたけれど、それは委員会の関係者だろう。ふうん。委員会と教師しかそれを利用する者がいないから、余分な生徒はここで足止められるってわけね。要は検問か。

 俺と柳が連絡通路を渡ろうとすると、案の定、紫の腕章をした二人に呼び止められた。二人は俺を見てちょっとたじろいでたけど、転校生だって事を伝えて柳と二人で生徒手帳を見せると納得して通してくれた。去り際になんだか二人の頬が赤くなってたけど……え、やめてよね。俺、野郎は柳しか興味ないんだからさ。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

処理中です...