42 / 241
新婚生活スタートです
7
しおりを挟む
―――――…
教室へ戻ると、僕の机の前に、七~八人くらいの男女がそわそわしながら待っていた。
そしてその中の一人が、僕を見つけるなり。
「待ってたぞ、メガネ! 廻ちゃんにこれ、渡しておいてくれ」
「ねぇ、ねぇ。葉月くんにこのプレゼントと手紙、渡して。 返事はいいの! わかってるから……うっ、うぇ~ん」
「なぁ、牧村さんって赤と黄色、どっちが好きかなぁ?」
「放課後お腹空くでしょ? これ片岡くんに渡してくれる? 君の分もちゃんとあるから。あ、でもこっちはダメ! 片岡くんのなんだから!」
と、男子生徒を始めに、一気に僕へと押し寄せてきた。
うわ。最近欠席していたせいか、今回は多いな。
僕はちょっと待ってね、と皆に言うと、教室後ろに置いてある段ボール箱を二つ持ち、机の前にそれぞれ並べてから着席する。
さ、いつもの仕分けをしますか。
「はいはい~。こっちは葉月、そんでこっちは廻の受付です。手紙を用意している人は必ずプレゼントと一緒にしてくださ~い。用件のみでも縦に並んで順番にね」
と。
葉月、及び廻のファンたちは、ちゃっと動いて、順番に並び始めた。
なんとなくわかったかも知れないけど、これは葉月と廻が好きだという子達が、本人を前にはなかなか声をかけずらい(まぁ、二人は恋人設定だしね)、でも二人の傍にいるメガネなら声を掛けやすいし、物も頼みやすい、ってことから始まった、いわばパシり業務です。
そして、本人に直接渡そうとするより(なんか、ほとんど断られるらしい)、僕を介しての方が物が確実に渡る(ちゃんと受けとるのにな、二人とも)ということから、ここ一年くらいは続いてる僕のお仕事なんだ。
これがある前までは僕の机に人が集まるなんてことなかったのにね。
でも、そろそろ僕の名前、覚えて欲しいかな。旧姓でいいから。
そして三分後。
「ふぃ~。今日はこれで終わりかな」
「……、……くん」
「わっ、これアイス!? なま物と溶けるものはやめてって言ってるのに……」
「し……くん……、……りゅ、うくん」
「ん?」
いま、呼ばれた?
声がする方に顔をあげれば、一人の女子生徒がいた。大人しそうな女の子だ。
葉月のファンかな?
「あの……私、隣のクラスの宮本っていうんだけど。……名字、変わったんだよね?」
「うん、そう。紫瞠って言うんだ。こんにちは」
僕が答えると、彼女は旧姓と今の姓を交互に呼んでいたらしい。でも、僕が目先のことで気づかなかったとか。
うわ、ごめん。名字であんまり呼ばれなれてなくて。
「……あの」
「葉月か廻へのプレゼント? それだったらこっちが……」
「き、今日の!」
「え?」
「今日の放課後、空いてませんか?」
……。
「えっと……僕?」
自分に指を向けながら、彼女……宮本さんに尋ねてみる。
彼女はコクリと、深く頷いた。しかも、なんかすごく思いつめてるっぽい。
ほっぺ、真っ赤だ。
「時間、そんなに取らせないから……ダメ、かな……?」
加えて、ちょっぴり涙目で頼まれた僕はわたわたと慌ててしまった。
女の子の涙に、僕はめっぽう弱いんだ。
「今日は大事なお客さんが、マン……家にいらっしゃるから。六時までには帰らないといけないんだけど」
それまでだったら、放課後付き合うよ。だから、泣かないで? ね?
立ちあがった僕は宮本さんの両肩に手をかけて、顔を覗き込んだ。すると、彼女はさらに顔を真っ赤にさせて、「あ、ありがっ……とっ……」と、消え入りそうなほどか細く小さなお礼を言って俯いた。
えっ、ちょっと顔上げて? 泣かれちゃったら困るから! いろいろと!
クラスメートの遠慮ない視線が痛い中、宮本さんはすごく小さな声で僕に言う。
「じゃあ、放課後すぐ……北校舎の裏で待ってるから……一人で、来てね」
「僕一人で?」
教室へ戻ると、僕の机の前に、七~八人くらいの男女がそわそわしながら待っていた。
そしてその中の一人が、僕を見つけるなり。
「待ってたぞ、メガネ! 廻ちゃんにこれ、渡しておいてくれ」
「ねぇ、ねぇ。葉月くんにこのプレゼントと手紙、渡して。 返事はいいの! わかってるから……うっ、うぇ~ん」
「なぁ、牧村さんって赤と黄色、どっちが好きかなぁ?」
「放課後お腹空くでしょ? これ片岡くんに渡してくれる? 君の分もちゃんとあるから。あ、でもこっちはダメ! 片岡くんのなんだから!」
と、男子生徒を始めに、一気に僕へと押し寄せてきた。
うわ。最近欠席していたせいか、今回は多いな。
僕はちょっと待ってね、と皆に言うと、教室後ろに置いてある段ボール箱を二つ持ち、机の前にそれぞれ並べてから着席する。
さ、いつもの仕分けをしますか。
「はいはい~。こっちは葉月、そんでこっちは廻の受付です。手紙を用意している人は必ずプレゼントと一緒にしてくださ~い。用件のみでも縦に並んで順番にね」
と。
葉月、及び廻のファンたちは、ちゃっと動いて、順番に並び始めた。
なんとなくわかったかも知れないけど、これは葉月と廻が好きだという子達が、本人を前にはなかなか声をかけずらい(まぁ、二人は恋人設定だしね)、でも二人の傍にいるメガネなら声を掛けやすいし、物も頼みやすい、ってことから始まった、いわばパシり業務です。
そして、本人に直接渡そうとするより(なんか、ほとんど断られるらしい)、僕を介しての方が物が確実に渡る(ちゃんと受けとるのにな、二人とも)ということから、ここ一年くらいは続いてる僕のお仕事なんだ。
これがある前までは僕の机に人が集まるなんてことなかったのにね。
でも、そろそろ僕の名前、覚えて欲しいかな。旧姓でいいから。
そして三分後。
「ふぃ~。今日はこれで終わりかな」
「……、……くん」
「わっ、これアイス!? なま物と溶けるものはやめてって言ってるのに……」
「し……くん……、……りゅ、うくん」
「ん?」
いま、呼ばれた?
声がする方に顔をあげれば、一人の女子生徒がいた。大人しそうな女の子だ。
葉月のファンかな?
「あの……私、隣のクラスの宮本っていうんだけど。……名字、変わったんだよね?」
「うん、そう。紫瞠って言うんだ。こんにちは」
僕が答えると、彼女は旧姓と今の姓を交互に呼んでいたらしい。でも、僕が目先のことで気づかなかったとか。
うわ、ごめん。名字であんまり呼ばれなれてなくて。
「……あの」
「葉月か廻へのプレゼント? それだったらこっちが……」
「き、今日の!」
「え?」
「今日の放課後、空いてませんか?」
……。
「えっと……僕?」
自分に指を向けながら、彼女……宮本さんに尋ねてみる。
彼女はコクリと、深く頷いた。しかも、なんかすごく思いつめてるっぽい。
ほっぺ、真っ赤だ。
「時間、そんなに取らせないから……ダメ、かな……?」
加えて、ちょっぴり涙目で頼まれた僕はわたわたと慌ててしまった。
女の子の涙に、僕はめっぽう弱いんだ。
「今日は大事なお客さんが、マン……家にいらっしゃるから。六時までには帰らないといけないんだけど」
それまでだったら、放課後付き合うよ。だから、泣かないで? ね?
立ちあがった僕は宮本さんの両肩に手をかけて、顔を覗き込んだ。すると、彼女はさらに顔を真っ赤にさせて、「あ、ありがっ……とっ……」と、消え入りそうなほどか細く小さなお礼を言って俯いた。
えっ、ちょっと顔上げて? 泣かれちゃったら困るから! いろいろと!
クラスメートの遠慮ない視線が痛い中、宮本さんはすごく小さな声で僕に言う。
「じゃあ、放課後すぐ……北校舎の裏で待ってるから……一人で、来てね」
「僕一人で?」
5
お気に入りに追加
597
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる