【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます

天白

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初夜です

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  ◇◇◇



 一通り、部屋の案内をしてもらった後、食事は何がいいか、と聞かれた。

 そこで僕は昨夜のメニューを思い出した。

 昨夜は僕の好きなピザをとってくれると、真城の若いお兄さんたちが言ってくれて、ワクワクしながら待っていた。しかし急に仕事のほうでトラブルがあったらしく、元々の強面が金剛力士像のように厳つくなって、何人かのお兄さんたちと出てってしまったため。

 結局のところ、僕は楽しみにしていたピザを食べられなかった……。

 そのため、龍一様に笑われながら、もそもそとおにぎりを食べたんだ。

 その事実を伝えると、海さんがおいしいマルゲリータをご馳走してくれると言ってくれた。

 僕はいい旦那さまと結婚した。

 で、夜のメニューも決まったため部屋から出ると、ここに来たときと同じように直通エレベーターに乗り、二人は地下駐車場へ。

 すると、今日と同じ運転手さんがそこで待っててくれました。

 え……。ずっと、そこにいたんですか?

 後部座席に乗せてもらうと、同じく後部座席に乗った海さんが行き先を運転手さんに告げ、運転手さんはただコクリと頷いて車を発進。そしてこの後、僕は初めてこのマンションの外観を見て……って、それはいいか。

 そんなわけで車は走るよ。マルゲリータまで、と。

「そういえば……」

 突如。

 今度はマルゲリータで頭がいっぱいになりつつある僕を横に、海さんが思い出したかのように……

「柳は視力が悪いのですか? 以前、真城で見かけたときには、眼鏡を掛けていなかったと思うのですが」

 僕が掛けている眼鏡について尋ねてきた。

 うん。実は僕、眼鏡を掛けているんです。といっても、漫画で出てくるような丸眼鏡でも、おしゃれ眼鏡でもないよ。普通の、フレーム有りのシンプルなやつ。

 ただ、これは矯正用じゃないんだ。

「伊達なんだ。視力は両目ともすごく良くて。……って、そういえば、海さんって僕のことどこまで聞いてるんですか?」

「どこまで、とは?」

「龍一様に聞いているんでしょ? 僕のこと」

 結婚する前に僕について龍一様から何もかもを聞いているのなら、こんなことくらい知っているはずなんだけど。眼鏡を掛け始めたの、一年くらい前だったし。

 ところがどっこい。僕の旦那さま。

「いえ、何も」

 と、横に首を振った。

「どういった経緯で貴方が真城にいたのかは聞かされましたが、それ以外は何も」

「ふわぁ」

 そういえば、この結婚は賭けだって言ってたなぁ。でもまさか、何も聞かずに数回会っただけの僕と結婚したなんて。

 いいの? 夜、寝るとき歯軋りひどいかもよ? いびきなんてすごいかもしれないよ? 夢遊病で部屋の中徘徊しちゃうかもしれないんだよ? 寝相だって……いや、寝相はいい、はず、だよな……僕。

 ……あれ?

 あれあれあれ? 

 ちょっと……待った。

 マルゲリータどころじゃなくなった……かも?

「真城にいた経緯を、聞いたんですよね?」

「ええ」

「じゃあ……」

 疑問が出た。

 それを聞いたのであれば、今の僕を見て違和を感じるはずなのに。

「僕を見て、どこか変だな~って思うとことか、あったりしませんか?」

「変、とは? 眼鏡のこと以外で、ですか?」

 もしかして、知らない?

 聞かされていない?

 あのことすらも!?

 海さんは不思議そうに尋ねてくる。

「あー、いや。なんでもない……です」

 視線を逸らすように、僕は首を横に振った。

「……」

「……」

 あきらかに不自然に映っただろうね!

 いやでもだって、これは知っていると思ってた。さすがに、知ってて旦那さまになったんだと思ってた。海さんと初めて出会ったときから、僕は今の僕でいたから、あのことについてはちゃんと聞かされてると思ってた。

 でも、でもあのことさえも知らないなんて。

 経緯といってもいったい、どこまで僕のことを聞いたの? 龍一様はなんて説明したの?

 え?

 実は旦那さま、僕より何も考えてなかったりする?

 結婚してまだ数十分。

 問題が。

 まず一つ、でてしまいました。

 龍一様。 

 もしかしたら、離婚になるかもしれません。
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