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初夜です
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一通り、部屋の案内をしてもらった後、食事は何がいいか、と聞かれた。
そこで僕は昨夜のメニューを思い出した。
昨夜は僕の好きなピザをとってくれると、真城の若いお兄さんたちが言ってくれて、ワクワクしながら待っていた。しかし急に仕事のほうでトラブルがあったらしく、元々の強面が金剛力士像のように厳つくなって、何人かのお兄さんたちと出てってしまったため。
結局のところ、僕は楽しみにしていたピザを食べられなかった……。
そのため、龍一様に笑われながら、もそもそとおにぎりを食べたんだ。
その事実を伝えると、海さんがおいしいマルゲリータをご馳走してくれると言ってくれた。
僕はいい旦那さまと結婚した。
で、夜のメニューも決まったため部屋から出ると、ここに来たときと同じように直通エレベーターに乗り、二人は地下駐車場へ。
すると、今日と同じ運転手さんがそこで待っててくれました。
え……。ずっと、そこにいたんですか?
後部座席に乗せてもらうと、同じく後部座席に乗った海さんが行き先を運転手さんに告げ、運転手さんはただコクリと頷いて車を発進。そしてこの後、僕は初めてこのマンションの外観を見て……って、それはいいか。
そんなわけで車は走るよ。マルゲリータまで、と。
「そういえば……」
突如。
今度はマルゲリータで頭がいっぱいになりつつある僕を横に、海さんが思い出したかのように……
「柳は視力が悪いのですか? 以前、真城で見かけたときには、眼鏡を掛けていなかったと思うのですが」
僕が掛けている眼鏡について尋ねてきた。
うん。実は僕、眼鏡を掛けているんです。といっても、漫画で出てくるような丸眼鏡でも、おしゃれ眼鏡でもないよ。普通の、フレーム有りのシンプルなやつ。
ただ、これは矯正用じゃないんだ。
「伊達なんだ。視力は両目ともすごく良くて。……って、そういえば、海さんって僕のことどこまで聞いてるんですか?」
「どこまで、とは?」
「龍一様に聞いているんでしょ? 僕のこと」
結婚する前に僕について龍一様から何もかもを聞いているのなら、こんなことくらい知っているはずなんだけど。眼鏡を掛け始めたの、一年くらい前だったし。
ところがどっこい。僕の旦那さま。
「いえ、何も」
と、横に首を振った。
「どういった経緯で貴方が真城にいたのかは聞かされましたが、それ以外は何も」
「ふわぁ」
そういえば、この結婚は賭けだって言ってたなぁ。でもまさか、何も聞かずに数回会っただけの僕と結婚したなんて。
いいの? 夜、寝るとき歯軋りひどいかもよ? いびきなんてすごいかもしれないよ? 夢遊病で部屋の中徘徊しちゃうかもしれないんだよ? 寝相だって……いや、寝相はいい、はず、だよな……僕。
……あれ?
あれあれあれ?
ちょっと……待った。
マルゲリータどころじゃなくなった……かも?
「真城にいた経緯を、聞いたんですよね?」
「ええ」
「じゃあ……」
疑問が出た。
それを聞いたのであれば、今の僕を見て違和を感じるはずなのに。
「僕を見て、どこか変だな~って思うとことか、あったりしませんか?」
「変、とは? 眼鏡のこと以外で、ですか?」
もしかして、知らない?
聞かされていない?
あのことすらも!?
海さんは不思議そうに尋ねてくる。
「あー、いや。なんでもない……です」
視線を逸らすように、僕は首を横に振った。
「……」
「……」
あきらかに不自然に映っただろうね!
いやでもだって、これは知っていると思ってた。さすがに、知ってて旦那さまになったんだと思ってた。海さんと初めて出会ったときから、僕は今の僕でいたから、あのことについてはちゃんと聞かされてると思ってた。
でも、でもあのことさえも知らないなんて。
経緯といってもいったい、どこまで僕のことを聞いたの? 龍一様はなんて説明したの?
え?
実は旦那さま、僕より何も考えてなかったりする?
結婚してまだ数十分。
問題が。
まず一つ、でてしまいました。
龍一様。
もしかしたら、離婚になるかもしれません。
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