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羽柴
外伝 9
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――――…
「なあなあ、名前どうする?」
「俺が決めていいのかな?」
「いいだろ。お母さんなんだから」
シキが決めるのもいいけど、ネーミングセンスないからなぁ。俺もいくつか候補を上げてみようか。
頭の中で男と女の名前をそれぞれ考えていると、滴が控えめに考えていることを口にした。
「……もし、なんだけど。この子がシキと同じ目の色をしていたら、『空』がいいなって」
「そら?」
「もしも、だけど」
遺伝的な優劣でいけば、確かに滴の目の色を引き継ぐ可能性の方が高いだろう。でも、この二人はそれを覆した。限りなくゼロだと言われていた新たな命を生み出した。だったら、その可能性もアリだろう?
「いいじゃん。空ちゃん。いや、空君か」
「男でも女でも、変じゃないでしょ?」
「変なもんか。空は海よか広いぜ。なあ、空~」
まだまだ小さな命に、俺はさっそく呼びかけた。腹を撫でてもまだまだ胎動はわからない。けれど、何かがトクトクと俺の手から伝わった。
「な、滴。体調が安定したらさ、水族館に行こうぜ。あの動物園の隣の。シャチが入ったんだってさ!」
「しゃち? あの、黒と白の大きい生き物?」
「でかいけど、顔はかわいーぞ。また弁当を持ってってさ!」
「うん。行きたい」
「おっしゃ。今度は弁当も豪勢にしなきゃな~」
「ヘビメタ、聴ける?」
「おう、流す流す!」
相変わらず、表情は変わらないけれど滴はワクワクした様子で俺に答えた。今度は計画を立てて、朝から支度して行けばいい。開館から閉館まで、ゆっくり楽しもう。
俺も今後の楽しみに胸を膨らませていると、滴が俺の名前を呼んだ。
「武虎」
「なに? ……おっ?」
滴が俺の首に腕を回して、ぎゅっと抱きついた。思わず腹から手を離し、滴の腰へ手を回した。倒れないように支える為だ。
まさか体調が? しかし俺の心配は外れた。滴は俺に、そっと囁いた。
「本当にありがとう」
「な、何だよ、改まって……」
「……ん。何だろう。でも、ずっとこうしてみたかったんだ」
チビだった頃の雫を抱っこしたことはたくさんある。でも、滴から抱き締められたのは初めてだ。
シキに見られたら少しどころでなくかなりマズいぞ、と内心慌てた俺は早口で捲し立てた。
「おいおい、シキが見たら妬いちゃうぜ、困ったな~。あ、それとも今から俺に乗り替える? 武虎ちゃんってば、罪な男だわ~。だからそろそろ俺から離れ……」
「ありがとう…………お兄ちゃん」
ああ。本当に夢みたいだ。神様……あんま信じてなかったけど、ありがとう。もしも夢なら覚めないでくれ。
目頭が熱くなる。駄目だ。ここでは堪えろ。嬉しいものは一滴も零すな。俺は自身に言い聞かせながら、滴の背中に腕を回すと、一回り以上も細い彼の背を優しく撫でた。
「……ああ、お兄ちゃんだからな」
だから、ずっとお前を守ってやる。今度こそは、違わない。シキと滴、お前達の傍で俺は生きるよ。
これから生まれてくる命も、きっと守ってみせるから。
滴と抱き合っていると、そこにゆらりと大きな黒い影が落ちてきた。何だ? と、視線だけを上にすると、見知った顔がニッコリと綺麗な笑みを浮かべていた。しかしその青い双眸は笑っていない。
「うっお!?」
「夫の居ぬ間に浮気とは、なかなかやるね。滴」
「……あ。おかえりなさい、シキ」
俺はパッと滴から手を離すも、当の滴は俺に抱きついたまま離れない。文字通りあたふたと慌てて焦る俺。滴には優しく微笑むも、俺に向かう視線が鋭く怖い。抉るような目つきだ。この視線で殺られた奴らがどれだけいたことか……それは俺しか知らない事実だけど。
しかし引き剥がすことはできない。滴は今、身重だ。でもその滴がさっきより俺に抱きついて、はたまた顔を俺の胸へ埋めてくる。俺が大好きなのはわかったから、シキの前でそんなに抱きつかないで、滴ー!
「滴っ、ちょっ、ごめん! こうしていたいのは山々なんだけど、は、離れて……」
「……武虎」
「なに!?」
「ごめん……吐き、そう……」
「え……え!? ちょっ、三秒! 三秒待って滴……シキ! 洗面器! てかこのタイミングで!?」
「うぶっ……」
「しっ……ぎゃー!!」
騒がしくって、賑やかしい。
でも静かで平穏な日々はつまらない。そうだろう?
これからの毎日は、きっとめまぐるしくて楽しい日々だよ。
なあ? 俺の大切な家族。
終
「なあなあ、名前どうする?」
「俺が決めていいのかな?」
「いいだろ。お母さんなんだから」
シキが決めるのもいいけど、ネーミングセンスないからなぁ。俺もいくつか候補を上げてみようか。
頭の中で男と女の名前をそれぞれ考えていると、滴が控えめに考えていることを口にした。
「……もし、なんだけど。この子がシキと同じ目の色をしていたら、『空』がいいなって」
「そら?」
「もしも、だけど」
遺伝的な優劣でいけば、確かに滴の目の色を引き継ぐ可能性の方が高いだろう。でも、この二人はそれを覆した。限りなくゼロだと言われていた新たな命を生み出した。だったら、その可能性もアリだろう?
「いいじゃん。空ちゃん。いや、空君か」
「男でも女でも、変じゃないでしょ?」
「変なもんか。空は海よか広いぜ。なあ、空~」
まだまだ小さな命に、俺はさっそく呼びかけた。腹を撫でてもまだまだ胎動はわからない。けれど、何かがトクトクと俺の手から伝わった。
「な、滴。体調が安定したらさ、水族館に行こうぜ。あの動物園の隣の。シャチが入ったんだってさ!」
「しゃち? あの、黒と白の大きい生き物?」
「でかいけど、顔はかわいーぞ。また弁当を持ってってさ!」
「うん。行きたい」
「おっしゃ。今度は弁当も豪勢にしなきゃな~」
「ヘビメタ、聴ける?」
「おう、流す流す!」
相変わらず、表情は変わらないけれど滴はワクワクした様子で俺に答えた。今度は計画を立てて、朝から支度して行けばいい。開館から閉館まで、ゆっくり楽しもう。
俺も今後の楽しみに胸を膨らませていると、滴が俺の名前を呼んだ。
「武虎」
「なに? ……おっ?」
滴が俺の首に腕を回して、ぎゅっと抱きついた。思わず腹から手を離し、滴の腰へ手を回した。倒れないように支える為だ。
まさか体調が? しかし俺の心配は外れた。滴は俺に、そっと囁いた。
「本当にありがとう」
「な、何だよ、改まって……」
「……ん。何だろう。でも、ずっとこうしてみたかったんだ」
チビだった頃の雫を抱っこしたことはたくさんある。でも、滴から抱き締められたのは初めてだ。
シキに見られたら少しどころでなくかなりマズいぞ、と内心慌てた俺は早口で捲し立てた。
「おいおい、シキが見たら妬いちゃうぜ、困ったな~。あ、それとも今から俺に乗り替える? 武虎ちゃんってば、罪な男だわ~。だからそろそろ俺から離れ……」
「ありがとう…………お兄ちゃん」
ああ。本当に夢みたいだ。神様……あんま信じてなかったけど、ありがとう。もしも夢なら覚めないでくれ。
目頭が熱くなる。駄目だ。ここでは堪えろ。嬉しいものは一滴も零すな。俺は自身に言い聞かせながら、滴の背中に腕を回すと、一回り以上も細い彼の背を優しく撫でた。
「……ああ、お兄ちゃんだからな」
だから、ずっとお前を守ってやる。今度こそは、違わない。シキと滴、お前達の傍で俺は生きるよ。
これから生まれてくる命も、きっと守ってみせるから。
滴と抱き合っていると、そこにゆらりと大きな黒い影が落ちてきた。何だ? と、視線だけを上にすると、見知った顔がニッコリと綺麗な笑みを浮かべていた。しかしその青い双眸は笑っていない。
「うっお!?」
「夫の居ぬ間に浮気とは、なかなかやるね。滴」
「……あ。おかえりなさい、シキ」
俺はパッと滴から手を離すも、当の滴は俺に抱きついたまま離れない。文字通りあたふたと慌てて焦る俺。滴には優しく微笑むも、俺に向かう視線が鋭く怖い。抉るような目つきだ。この視線で殺られた奴らがどれだけいたことか……それは俺しか知らない事実だけど。
しかし引き剥がすことはできない。滴は今、身重だ。でもその滴がさっきより俺に抱きついて、はたまた顔を俺の胸へ埋めてくる。俺が大好きなのはわかったから、シキの前でそんなに抱きつかないで、滴ー!
「滴っ、ちょっ、ごめん! こうしていたいのは山々なんだけど、は、離れて……」
「……武虎」
「なに!?」
「ごめん……吐き、そう……」
「え……え!? ちょっ、三秒! 三秒待って滴……シキ! 洗面器! てかこのタイミングで!?」
「うぶっ……」
「しっ……ぎゃー!!」
騒がしくって、賑やかしい。
でも静かで平穏な日々はつまらない。そうだろう?
これからの毎日は、きっとめまぐるしくて楽しい日々だよ。
なあ? 俺の大切な家族。
終
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