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雫
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しおりを挟む馬野は目を皿のように見開いた。瞠若した様子でしばし俺を見つめるも、細い目をさらに細めて冷然と口を開く。
「……そうだね。人間だね。わかっているよ。だから慎重に取り扱っているんじゃないか」
「ひぅっ……」
馬野は俺の胸を撫でながら、両側にある突起に指を這わせて転がすように擽った。手首は自由になったというのに、痛みで痺れて動かせない俺を嘲笑うように愛撫する。そしてプツンと尖り始めるそこに口元を近づけると、ねっとりと唾液を含ませた舌先で舐めしゃぶった。
「や……ん、はあっ……や、だ……」
「その割には、大分仕込まれているようだね。これはあの中瀬が? それとも『雫』? いや、他の誰かかな?」
「あ、んっ……はあっ……う、ぐぅ……」
ちゅぱちゅぱとわざとらしく音を立てて、俺の反応を見てせせら笑う。こんな奴相手でもシキにされる時と同じ声を出してしまう自分が情けない。下唇を噛んで声を抑えようと堪えるももう遅い。馬野はところどころ皮膚を吸い上げては、自身の痕を残していった。
「うん。綺麗に色づいた。赤い花びらのようでさらに綺麗になったよ。くくっ……本当に嫌ならもう少し拒んでもいい筈だけれど、身体は悦んでいるよね。悪い子だなぁ」
「痛っ……!」
嗜めるように、俺の鎖骨上の肉をガブッと噛んだ。食い千切られるのではと思うくらいに強く噛まれたそこは、血こそ出なかったものの、くっきりと歯形が残っているだろう。
きっとこうやって痕を残していき、俺を屈服させようとしているんだ。でもこんな痕程度、すぐに消える。もし後にそれが残ったとしても、肉ごと削ぎ落とせばいいんだ。
今は耐えろ。
俺は指先を動かし、手の平を握り締め拳を作る。それに気づかない馬野は俺の股の間へ、その手を滑らせた。
「これだけ美しいんだ。手を出さない方が無理な話か。いいさ。許してあげる。私が作り替えてあげるからね。これからたっぷりと」
「え……や、嫌だっ……そこっ……」
「……え?」
きっと俺の後孔に触れようとしたんだろう。でも馬野はポカンと口を開け、俺の後孔の前にあるあの部分へと指を這わせた。
秘部の周りを確認するようにベタベタと触れ、そしてそれが何であるか気づいたのか、奴は開いた口から笑い声をあげた。
「は……ははっ、あははっ! これはっ……なるほど、そうか! だからこれほど美しいのか!」
そして俺の中に指を挿れた。シキにしか許していない、あの部分に。
ヌグ……。
「あっ……!?」
「これが半陰陽というやつか……専門ではないが、うん。やはり君は素晴らしいよ!」
はんいんよう? 何を言っている?
それよりも、その指を抜いて欲しい。そこは気持ち悪い。その後ろの孔ならまだいい。どれだけ犯されたとしてもそこよりは何倍もマシだ。
顔を歪める俺など気にも止めず、馬野はさらに奥へと指を埋めぐちゅぐちゅと音を立てた。痛い。気持ち悪い。痛い。気持ち悪いっ。
「チッ……処女でないことが悔やまれるが、仕方ない。これから私の女にしてあげよう」
今度はカチャカチャと音がする。何をしている? 俺が目を細めると、馬野は自身の腰のベルトを外していた。そして俺の膝を立てさせると、その脚を大きく割り開く。
サアッと顔から血の気が引いた。まさか、あそこに挿れる気なのか?
「や……いや、だ……いや…………シキっ……!」
「ははっ! 来ない、来ない。何の為に君を裸にしたと思っているの。案の定、君の身体にはごちゃごちゃと余計な物がついていたね。追跡されないよう多少の出費をしたが……残念だね。誰も追ってこなかったよ」
「そんなことないっ……シキは来る。俺はシキに助けを求めた。絶対に来てくれるっ」
捕まる直前に、シキへ打っていた携帯電話の返信メッセージ。その送信前に馬野が来た。俺は不穏を察して返信の文面の後に空白一行を作って送信ボタンを押した。指先が少し動くだけでそれは充分可能だった。
いくら「聴いて」いるとしても、シキは俺に能動を求める。だから俺は動いた。空白一行を入れればそれだけでSOSと取ってくれる。
シキは動いてくれている。俺を探して助けに来てくれる。
馬野にとって喚く俺は癪に障ったのだろう。奴は俺の口を乱暴に、手で掴みながらベッドへ押しつけた。
「んぐうっ」
「残念だよ。眠っている君は美しかったのに、こんなに騒がしいとはね。少し黙ろうか」
「んぅ……む、ぐ……」
「調整しているとはいえ、血液を抜いているんだ。これ以上、手荒なことはしたくない。あまり手間をかけさせないでくれるかな」
「んんっ!」
馬野は反対の手を再び股の間に差し込むと、俺の中に指を挿れてぐちゅぐちゅと掻き回した。こんなの愛撫でも何でもない。痛みと苦しさで頭がどうにかなりそうだ。
ぐったりする俺が大人しくなったと勘違いした馬野は指を引き抜き口元からも手を離すと、俺の両脚を持ち上げた。
「キスは君からねだった時のお楽しみにとっておくよ」
嫌だ……嫌だ……嫌だ……シキ……
助けて……!
「全く……祖父孫共に醜悪だ。まるで獣だな。穢らわしい」
その時、奥から聞き慣れた玲瓏な声が室内へと響き渡った。行動がピタリと止まった馬野が声の飛んだ方へと振り返る。
「え……うわっ!?」
そして声をあげて驚き、バッと俺から離れた。俺は辛うじて動く頭をそちらへ向けると、黒い影がぼんやりと視界に入った。
ああ、わかる。これは俺がよく知っているものだ。良かった……
信じてた。信じてたよ。
「シ、キ……」
部屋の奥、その扉の前で馬野を冷ややかな視線で見下ろしているだろうシキがいた。
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